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雲上楼閣 砂造宮殿

気ままに自分勝手なブログ。徒然に書いたり、暇潰してみたり、創作してみたり・・・

さくらんぼ

2011-07-04 00:57:50 | 宮LiP
その日、夕食のデザートに出たのは紅く綺麗なさくらんぼだった。
『宝石』とさえ称されるそれは、日本の山形県から届いた物だった。
「今日のデザートは陛下からいただいたの」
ニコニコしながらそう言うチェギョンは、先ほどからプチンプチンと唇で実を食んで行く。
艶やかな実が艶やかな唇にくわえられる様は、本人の意識しない所でシンの欲を刺激する。
シンは無意識に唾液を飲み込んでいた。
「陛下から?」
シンは何事もないかのようにさくらんぼを一つ摘むと、チェギョンの真似をして口にした。
一度噛んだだけで程好い酸味とすっきりとした甘味が口内に広がる。
肉厚な果肉を丁寧に歯で剥けば、新たな果汁が口中に溢れた。
「陛下が各国を回られていた時に、アフリカで知り合った日本の方のご実家が作られているんですって」
チェギョンの前にあったデザートグラスはあっという間に空になった。
シンは「へ~」と頷きながら、然り気無くチェギョンのグラスと自分のグラスを交換した。
「…シン君、食べないの?」
美味しいのにと言外に滲ませた言葉に、シンは口角を上げる。
「チェギョン、まだ食べたいんじゃないのか?」
「そうなんだけどぉ…」
チェギョンは否定もせず、豊かな光沢のさくらんぼとシンの顔を数度見比べると、ニコッと笑って言った。
「えへへ、シン君ありがとう」
その言葉にシンの顔も綻んだ。
「どういたしまして」
チェギョンは躊躇う事なく一つ摘むと、同じように口に運ぶ。
笑顔で食べるチェギョンにつられるようにシンの笑顔も深くなるのだった。
そして、もう一つとさくらんぼに手を伸ばしたチェギョンは「あ」と小さく声を上げると、おもむろに椅子から立ち上がったのだった。
「お行儀悪いけど許してね」
そう言いながらパタパタとテーブルを回り込むチェギョンをシンは何事かと目で追った。
すると、彼女はシンの隣の椅子をシンと足が触れあうほどの距離に近付けてから、グラスを引き寄せて腰掛けた。
首を傾げるシンに構う事なくチェギョンはさくらんぼを摘むと、シンの顔の高さまで掲げたのだった。
「シン君、あ~ん」
満面の笑みでそう言うチェギョンに、シンは目を瞬かせる。
少しの沈黙の後、チェギョンが言った。
「美味しい物は二人で食べた方がより美味しいもの」
食べさせてもらうなんて、儀式の時以外、ついぞ記憶に無いシンは、ゆっくりとさくらんぼに顔を近付けた。
慣れないシンには、食べやすい場所にチェギョンの手を移動させるなんて考えつかず、顔を少し横に倒した様に、チェギョンは少し頬を赤らめるのだった。
「美味しい?」
上目遣いで訪ねるチェギョンに、シンは頷いて答える。
チェギョンは「良かった」と呟くと、今度は自分でさくらんぼを頬張ったのだった。

未送信メール

2011-07-01 23:51:32 | 宮LiP
「会いたい」と書いたメールを作っては、ボックスに溜まっていく

たった一言が伝えられなくて、今日も送信ボタンを押せずに迷う

「伝えても良いのだろうか?」

答えは分かりきっているのに、いつも考えてしまう


君の温もりに溺れて眠れる日を、つい願ってしまうんだ

星空

2011-06-24 23:59:21 | 宮LiP
その日、シンは地方公務で、離宮に泊まることになっていた。
ヘミョンが女帝として采配を振るうようになって数ヵ月。
シンは、彼女の力になれるよう、再びチェギョンと暮らせるよう頑張っていた。
6月の最高気温を更新したその日、シンは夜風に当たりながら本を読んでいた。
田舎の夜は思うより早い。
21時を回ったばかりにも関わらず、辺りは静まり返り、己の耳に届くのはページを繰るときの紙音のみだ。
その時、不意に窓の向こうを光が走った気がした。
「?」
シンはいぶかしがりながら、外へ繋がる大窓を押し開けた。
用意された履き物に足を下すと、光の向かったであろう方へ歩を進めた。
『シン君、なんだろうね?』
聞こえるはずの無い声に、苦笑を浮かべた。
以前のシンならば追いかけることはおろか、興味も持たなかったであろう。
シンは鬱蒼とした緑の中に足を踏み入れた。
枝をかき分け、濃い緑の匂いがシンの鼻をくすぐる。
思わず眉根を寄せた時、目の前の風景が一気に開けた。
「わぁ」
シンが思わず子どものような声を漏らした。
その瞳に映ったのは、吸い込まれそうなほど近くに見える満天の星空だった。
「チェギョンに見せたいなぁ」
何気無く発した自分の一言に、どれぼど己が彼女を欲しているか分かる。
吸い込まれそうな満天の星空も、一人では味気無い。
「隣にいればこそ、か」
ふと浮かんだ彼女の笑い顔に、シンもつられるように笑っていた。

遠雷Sver

2011-06-05 08:34:07 | 宮LiP

ゴロゴロとどこか遠くで雷の音がした。暗く垂れ込めた空から雨粒の落ちてくる気配はしない。
シンは東宮殿のバルコニーから空を見上げると、まるで己の心のようだと思った。
今日、ヘミョンに、チェギョンの帰国はしばらく難しいだろうと聞かされた。 度重なるスキャンダルを沈静化させるための妃宮の国外行き、そして無罪が証明されたものの、皇太子への疑惑に、大君の罪の告白。
権威が失墜したその理由を、民間から迎えた妃宮に求める王族会に、シンは心底馬鹿らしいて思った。
(たった一つ、小石を投じただけで揺らぐようならば、所詮それだけだったと言うことだろう)
長い歴史のある皇族にとって、己たちなど、もしかしたら砂粒でしかないかもしれないと思う。
「…フゥ」
軽く吐息が漏れた時、シンの目端に一閃の光が映った。
「空雷、か…」
珍しい物だと思った。
シンはベンチから立ち上がると、部屋からデジタルカメラを持ち出した。
2度目の稲光を見てから3度目の稲光までのタイミングを計る。
今度はシャッターを切るために、光の見えた方角の空にレンズを向けた。
ファインダー越しに見る空は、何だか明るかった。
今と思うより先に、シンは連写でシャッターを切っていた。
その日、シンからチェギョンに送られたメールには、雨が降らずに雷が鳴っていた事を伝える内容が記されていた。添付された写真には、東宮殿で撮ったと分かる横に走る稲妻が写っていた。

遠雷Cver

2011-06-05 08:32:34 | 宮LiP
どこか遠くで雷の音がした。
チェギョンは窓辺に立つと、空を見上げた。
朝とは違い、低く灰色の雲が、空一面を覆っている。ガラス窓をそっとなぞると、遥か向こうの空に、稲光が見えた。
「雷…」
チェギョンはポツリと呟いた。
シンと離れ、澳門に来て1ヶ月。
時差と、時間の読めないシンの暮らしも関係して、二人の連絡手段はメールだけだった。
「向こうは、晴れてるのかな…?」
雨の降らない雷に、チェギョンはそんな事を思った。
ついこの間まで、同じ空を見ていたはずなのに、今は互いの見ているの空の色さえ分からない。
チェギョンにはそれがひどく切なかった。
その時不意に、ノックの音が室内に響いた。
「どうぞ」
声を掛ければ、律儀者のチェ尚宮が扉を開けて腰を折った。
「妃宮様、買い物に行って参ります。何か御入り用の物はございますか?」
そう言ったチェ尚宮の格好は宮にいる頃と変わりなく、チェギョンはホッとするとともに澳門では何だか不自然な感じがした。
「そぉね~」
チェギョンはもう一度窓の外を見ると、チェ尚宮に向き直った。
「チェ尚宮お姉さん、私も一緒に行くわ。傘も忘れずに、ね」
「傘でございますか?」
まだ空を見ていないチェ尚宮が不自然そうな顔をした。
「そう、向こうの空が暗いから」
そう言うとチェギョンは、チェ尚宮と一緒に外へ向かったのだった。

朧-おぼろ-

2011-05-10 02:40:52 | 宮LiP
誰も居ないはずの部屋で、幻を見た。

長い黒髪の、明るい笑顔の…チェギョン…

満面の笑みに、自然と僕の口元も緩む。

そこには居ないのに。
そう…分かっているのに。

その長い髪に触れると、肩から、指からサラサラと流れ落ちる。


それだけで、いい気がしてくる。
それだけで、幸せになれる。


チェギョン…今も笑っているのか、泣いているのか。


笑顔より、泣き顔の記憶が多い気がして、少しだけ胸が軋んだ。

空に伸ばされた指に、温もりだけは感じられない…。

唯一無二

2011-04-22 23:38:24 | 宮LiP
僕の仕事は諦めることだった。
普通の家族。
子どもらしい夢。
可能性ばかりの未来。
年相応のワガママに体験。
友人。
初恋。
そして、愛する人と歩む人生。

僕は、全てを諦めて、欲しくもない、人が羨むモノを持っていた。
その名は『皇太子』。

そして『皇太子』だからこそ手にした初恋。
初めて気付いた友人。
衝突に苦悩、胸の痛み。
そして、大切な人と歩む未来。
大切な大切なシン・チェギョンと言う存在。
『皇太子』の許嫁である彼女。
そして、僕の最も大切な愛する人となった彼女。
『皇太子』だから添える恋人そして妻。

僕の運命に巻き込んだつもりが、『皇太子妃』という彼女の運命に巻き込まれた僕。

僕たちは、少しの意地とプライドとタイミングの悪さが災いして、掴んだはずの未来を手放してしまった。

そして、僕の仕事は諦めないことになった。

「シン君が一番皇太子に相応しい人だから」
そんなチェギョンの言葉を胸に、僕も今日は歩き出す。
チェギョンを、いつか迎えに行く日のために。

大切な人とずっと一緒にいるために。
僕はやっと、イ・シンという一人の人間として歩き出したんだ。


午睡

2011-04-11 23:03:24 | 宮LiP
麗らかな、春の日差し穏やかな午後のひととき。
チェギョンはパビリオンのソファで睡魔と戦っていた。
久しぶりの休日。手には今日こそはと始めた刺繍が握られている。
「やらなくちゃ…」
そう思うものの、一針も進まない。
ユラユラと船を漕いでは、ハッとしたのも束の間、また船を漕いでしまう。
その繰り返しだった。
「し…しゅう…」
そんな、音とも言葉とも判別できないものを口にしながら、チェギョンは心地好い微睡みの中へと沈んで行ったのだった。


「!」
チェギョンは安心出来る温もりに目を覚ました。
ぼんやりとした視界のなか、チェギョンは右頬に手を伸ばし、心地好い温もりの正体に指を絡めた。
「チェギョン、起きたのか?」
声の方向に顔を向ければ、思ったより近くにシンの顔があった。
「わぁ!」
小さな叫びを上げたチェギョンに、シンの眉根が寄る。
「うるさい。第一、夫の顔を見て驚くとは何事だ?」
笑いを含んだ声にチェギョンは頬を膨らませた。
「仕様が無いじゃない。びっくりしたんだもん」
チェギョンの右頬にあったシンの手が、今度は髪を撫で始める。
「シン君、いつ帰って来たの?」
「1時間位前かな?刺繍を抱えてソファで横になってるから、びっくりしたよ」
そう言いながら、シンはチェギョンの髪をくしけずる。
「そう。出迎えられなくてごめんね。…ところで、この態勢はいつから…?」
チェギョンはソファに寝転ぶ形で、シンに膝枕をされているのだった。
「ん?僕が帰ってきてからだ」
「1時間も?!」
驚きながら起きようとしたチェギョンの肩を、事も無げに答えたシンが押し戻す。
「良いんだよ、僕がこうして居たかったんだから」
シンの言葉にチェギョンの頬が赤く染まる。
「…シン君…ありがとう」
満面の笑みで答えたチェギョンに、シンも笑顔で返す。
そうして二人の休日は、穏やかな春の日差しのような時間の中で過ぎて行くのだった。

『君の顔』

2011-03-19 21:06:18 | 宮LiP
「最期の時、会いたいのは誰か?」

そんな質問に誰も浮かばず絶望的になる。
こんなにも自分は変わっていないのか、と。
こんなにも自分は独りでいる事に執着するのかと。


「ずっと一緒に生きたいのは誰か?」

君の笑顔を思い出す。
優しく微笑む君の顔。
なんだ…
こんなにも自分は変わったのかと思い知る。


共に堕ちるで無く、歩む人。

共犯者
運命共同体
赤い糸


さぁ、手を繋ごう
共に歩もう

お互いの息の根が止まるその時まで
死が二人を別つまで


二人が人生に飽きるその日まで


後書き「煙草とチョコレート」

2011-03-05 15:04:32 | 宮LiP
結構前から煙草が吸いたくて…
禁煙している積もりも無いが、喫煙者の自覚も無いし、たった一本の為に買うのも嫌で、イライラするのを昇華(消化?)したらこうなりました、という話。


正直、本編にシンが煙草を吸いそうな気配も無いし「皇太子らしくない」と吸わないだろうと思うけれど、代わりに吸っていただきました。

それにしても、夜のテラスというか、夜の屋外で煙草を吸うのは、まま己の喫煙スタイルなので「物書きは己のプライベートを切り売りするに等しい」という誰かの言葉を思い出してみたりした。

まぁ、他に知らないしな。


さて、次は「暇潰し」の更新かな。
少しずつ昔の勘を取り戻し、正直、先週辺りは意識が混濁しているに等しくて、真っ当な社会生活を営めなかった。

代わりに、書き方を思い出したから、こちらとしてはありがたい。

社会的には評価を下げたろうな…


次の話に取り掛かりたいが「暇潰し」は果たしてどちらがキーパーソンか書いている己にも分からず、ちょっと困っていたりする。


「作者」のはずなんだけど(笑)