今週の火曜日、北朝鮮が韓国・延坪島に砲撃を加えたことで、
極東情勢が一気に緊迫化している。
韓国政府は、兵士2名、民間人2名、合わせて4名の死者が出たことに加えて、
20名近くが重軽傷を負ったと発表しており、
今後、六者協議や国連安保理の場などを通じて、何らかの制裁措置が採られるものと推察される。
今回の砲撃に関して、明らかに非があるのは北朝鮮の側である。
そもそも、韓国と北朝鮮の間に引かれた軍事境界線とその延長にある北方限界線は、
1991年に結ばれた南北合意においても問題にされなかったという過去がある。
この境界線は、朝鮮戦争停戦時、国連軍と共産軍の前線に沿った形で定められており、
海上戦では国連軍が圧倒的優位を占めていたこともあって、
朝鮮半島西部の島々に関しては、韓国側が実効支配を確保していた。
そのため、北方限界線もまた、軍事境界線をそのまま直線的に延長するのではなく、
そうした状況を踏まえて、若干、北方に押し上げたラインを採用しており、
北朝鮮側もそれを認めていたのである。
ところが、ここ数年来、北朝鮮は北方限界線への不満を主張するようになっていた。
その理由の一つとして挙げられるのが、黄海で獲れるカニである。
これまでのところ、北朝鮮は軍事境界線をそのまま延長したラインを停戦ラインとしているようだが、
このラインと北方限界線の間は、豊富なカニの漁場として有名で、
すでに何度も北朝鮮の漁船が違法な漁業活動を行なっているという実態があった。
たかがカニといっても、外貨獲得の機会に乏しい北朝鮮にとって、
カニは外貨獲得が見込まれる数少ない輸出品の一つである。
折しも、最高指導者が金正日から金正恩に代替わりした時期に相当しており、
日頃から韓国の領海内でのカニ漁を望む北朝鮮国民の要望に応えて、
新しい首領様の恩恵を目に見える形で浴させ、その権威を大いに高めたい時期でもある。
そこで、韓国が黄海の北方限界線付近で行なう軍事演習を利用して、
敵の侵攻に立ち向かう偉大なる首領様というイメージ・キャンペーンを張る一方で、
実質的にカニ漁を仕切っている軍部の意向を汲むことで、
国内の権力基盤を安定化させる思惑があったものと推測される。
金正恩が表舞台に出てくるようになってから、北朝鮮は再び強硬路線に転じたように見える。
今回の件だけでなく、ウラン濃縮施設を公開して、核開発拡大の意思を示すなど、
具体的な成果を得ることに焦っている。
これは何の実績も経験も持ち合わせていない金正恩の政治的権威が、
想像以上に国内で浸透していないことに由来しているのだろう。
専門家の観測では、北朝鮮にしても韓国にしても、全面戦争に発展することは望んでおらず、
口先はともかく、自制的な態度を覆しているわけではない。
だが、今後も目立った成果が上がらないと判断された場合、
北朝鮮は同じような行動を繰り返す可能性が高く、
そのたびごとに死傷者を生むようになれば、
韓国の国内世論も穏当のままでいられるはずはないであろう。
米中が全面開戦に及び腰となっている現状において、
韓国の出方が状況推移の上で決定的な要因となる。
翻って、日本に関しては、せめて韓国や米国の足手まといにならないように、
各方面に十分、配慮して行動することくらいしかすることがない。
菅首相が第一報を報道で聞いたと記者会見で答えたことから、
政府の危機管理はどうなっているのかと、またぞろ野党が騒ぎ出しているが、
多分、政府の方も、第一報は報道で知ったというのが真相だと思う。
下手に情報を持っていると、余計なことを仕出かす可能性が高いので、
むしろ、ツンボ桟敷に置かれている方が、色々と迷惑をかけなくて好都合である。
元来、集団的自衛権も認めていない国が、他国の紛争に首を突っ込む資格はないわけであって、
それよりも、つい先日、尖閣諸島沖で航行していた中国の漁船監視船への対応について、
日本政府はもっと力を入れるべきであろう。
海上保安庁の巡視船からの警告に対して、
「我々は正統な任務にあたっている」と宣っている漁船監視船の行動は、
着々とその海域を中国の施政権下に置こうという野心の表れである。
いつまでもビデオ映像問題で騒いでいる場合ではない。