それを見たリュウキはすかさず
「ケイゴー、美術室よってたんじゃないのか」と問う。
ダイキが同調する。
「絵の具の匂いすんぞ」
マコも畳み掛ける。
「あー、お前、彼女に会いに行ってたな」
え、彼女、なにそれ?何で美術部?ええ!?
「いやいやいや。とんだ名探偵やな。稽古場取ってたんだって」
だよなー。爽やかな笑顔。
あ、でもこいつあの一色さんと仲が良いはず。
俺の前の席で高一の時、優しく漢字ドリルを貸してくれたあの一色陽子ちゃんと。
俺の発案でシェイクスピアの「オセロー」を、一年の時はやったんだ。それも、みんなで「シェイクスピア物語」っていうラム作の子供向けのお話から取り出してきて。
俺は主人公オセローの副官キャシオー役で脇役だったんだけど、みんながノリでラブシーンを作りやがった。ビアンカっていうサブサブヒロイン的なのとので、結構長いシーンだった。
結局それで個人演技賞をゲットしたってわけだけど、まあ俺が演劇にのめり込むきっかけといえばきっかけ。
一色ちゃんは高一のとき、音響係を熱心に務めてくれた。彼女は美術部で、取り立てて美人というわけじゃないけど、えくぼの可愛い優しい子だ。
だからケイゴが隣のクラスの合唱の舞台監督をやってくれっていう頼みは二つ返事で引き受けた。彼女がいたからだ。
でも、そこには裏があった?あいつは、ひょっとして彼女のために・・・?
少し不健全になってきた俺の思考に、マコの言葉が割って入ってきた。
「あー、そういえば追加の稽古場所大丈夫?」
「あ、うん大丈夫。『ここ』は無理やけど。屋根あるとこ確保した。」
ケイゴが答えた『ここ』とは、この野外劇場だ。
校舎の裏手にあって俺も三年になるまで知らなかった。裏門がすぐ近くにあり、結構業者の車が出入りする。
演出のマコが兼任でやっているキャラ、ペプシコークの好きなコカコーラ社員っていう役柄も、ここから出てきた。彼女の役はおかしくなった自販機を修理しにくる、しがない作業員だ。が、この学校の出身でひょんなことからマッドサイエンティスト大友(アカリ)の悪巧みを知る。
マコは大友(アカリ)の後輩で、現役時代、文芸部の機関紙に書いた世界高校生化計画を知っていたのだ。面白そうだろ?
「そりゃ、本番の場所でやれるのはいいんやけど、結局屋根ないと。」
マコがこの素敵な野外劇場の唯一の弱点を突く。雨が降ると・・・。
マコとケイゴのシバシバコンビがくっちゃべっている間に、ダイキ・リュウキのキキコンビが帰って行く・・・。危機だ。
スマホの待ち受け画面を見せびらかすリュウキだが、愛しの彼女ではなくシスターズ(双子の妹たち)だ。
どっちがどっちだか、岩田姉妹と同じくこれも俺に見分けがつかない。
このシスコンめ~!!
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