僕は小学校1年生の数ヶ月間をイタリアで過ごしていた。なんだか自慢しているような感じがイヤなので、あまり知り合いには話していないのだが事実である。
父の仕事の都合で向こうに渡ったのが僕が小学校に入ってすぐだった。ようやく新しい友達もでき、小学校のクラスというものに馴染み始めた矢先の出来事だ。しかしこればかりは仕方ないと子供心に思ったのか、あまり悲しみに耽った記憶はない。クラスのみんなが開いてくれたお別れ会の翌日、僕は家族共々イタリアへと渡った。
僕はローマの日本人学校へ通うことになった。しかし、僕はまだ遠い日本の事を思い出す日々が続き、とてもローマで友人を作る気にはなれなかった。
そんなある日、授業が終わり家に帰ろうとすると校門の前に一人の少女が立っていた。イタリア人の少女である。そしてその青い瞳は僕を見つめている。その時は特に気にも留めずに通り過ぎたのだが、その少女は翌日もさらにまた次の日にも門の前に立っていた。
そしてそんな日々が約1ヶ月程続き、ついに僕は彼女に声をかけた。
「何でいつもここに立ってるの?」
僕はイタリア語が話せなかったので日本語で彼女に語りかけた。すると彼女は小さな声でつぶやいた。
「トモダチ・・・」
彼女はカタコトの日本語でたしかにこう言った。他の日本人学校の生徒に教えてもらったのだろう。彼女はどうやら僕と友達になりたかったようだ。
それから僕らは学校が終わると一緒に遊ぶようになった。遊びといっても小学生の遊びだ。公園でブランコやシーソーに乗るといった程度である。
相変わらず日本人学校で友達ができなかった僕にしてみればイタリアでできた最初の友達だった。お互いに話す言葉は分からないのだが楽しかった。彼女といるとすべてのイヤなことを忘れられた。まるで時間が止まっているようだった。
僕は彼女に恋をした。
しかしそんな楽しい日々も長くは続かない。イタリアへ渡って約半年、ついに別れの日がやってきた。日本に帰ることになったのだ。あれほど帰りたかった日本のはずなのに何故か僕は複雑な心境だった。そして僕は一生懸命に覚えたイタリア語で彼女に伝えた。
「明日日本に帰るんだ」
彼女は表情を変えずに僕を見つめていた。初めて出会ったときのように美しい青い瞳で。
ついに帰国する日はやって来てしまった。僕は彼女の事を思い出しながらローマの空港で飛行機の出発時刻を待っていた。すると後ろから僕の名を呼ぶ少女の声がした。
振り返るとそこには彼女が立っていた。そして僕に駆け寄るとそっとこう言った。
「私の名前はクラウディアって言うの」
ここで僕は気づいた。今まで僕は彼女の名前すら知らなかったのだ。名前も知らぬまま僕は彼女とローマの日々を過ごしていたのだった。
さまざまな想いが僕の心を打つ。しかし僕は適当な言葉が見つからず、何も言えずに黙っていた。そして一言
「さよなら」
と言うと、脇目も触れずに搭乗口へと向かった。もうこれ以上彼女の姿を見ているのは辛かったのだ。彼女は僕が搭乗口に姿を消す最後まで手を振っていた。
僕は動き出す前の飛行機の中で
「大人になったらクラウディアに会いにまたイタリアに来よう」
そう思った。そして僕を乗せた飛行機は日本へ向けて飛び立っていった。
なんと感動的な話だろうか。なのでこれがまったくの作り話だということは黙っておく。
父の仕事の都合で向こうに渡ったのが僕が小学校に入ってすぐだった。ようやく新しい友達もでき、小学校のクラスというものに馴染み始めた矢先の出来事だ。しかしこればかりは仕方ないと子供心に思ったのか、あまり悲しみに耽った記憶はない。クラスのみんなが開いてくれたお別れ会の翌日、僕は家族共々イタリアへと渡った。
僕はローマの日本人学校へ通うことになった。しかし、僕はまだ遠い日本の事を思い出す日々が続き、とてもローマで友人を作る気にはなれなかった。
そんなある日、授業が終わり家に帰ろうとすると校門の前に一人の少女が立っていた。イタリア人の少女である。そしてその青い瞳は僕を見つめている。その時は特に気にも留めずに通り過ぎたのだが、その少女は翌日もさらにまた次の日にも門の前に立っていた。
そしてそんな日々が約1ヶ月程続き、ついに僕は彼女に声をかけた。
「何でいつもここに立ってるの?」
僕はイタリア語が話せなかったので日本語で彼女に語りかけた。すると彼女は小さな声でつぶやいた。
「トモダチ・・・」
彼女はカタコトの日本語でたしかにこう言った。他の日本人学校の生徒に教えてもらったのだろう。彼女はどうやら僕と友達になりたかったようだ。
それから僕らは学校が終わると一緒に遊ぶようになった。遊びといっても小学生の遊びだ。公園でブランコやシーソーに乗るといった程度である。
相変わらず日本人学校で友達ができなかった僕にしてみればイタリアでできた最初の友達だった。お互いに話す言葉は分からないのだが楽しかった。彼女といるとすべてのイヤなことを忘れられた。まるで時間が止まっているようだった。
僕は彼女に恋をした。
しかしそんな楽しい日々も長くは続かない。イタリアへ渡って約半年、ついに別れの日がやってきた。日本に帰ることになったのだ。あれほど帰りたかった日本のはずなのに何故か僕は複雑な心境だった。そして僕は一生懸命に覚えたイタリア語で彼女に伝えた。
「明日日本に帰るんだ」
彼女は表情を変えずに僕を見つめていた。初めて出会ったときのように美しい青い瞳で。
ついに帰国する日はやって来てしまった。僕は彼女の事を思い出しながらローマの空港で飛行機の出発時刻を待っていた。すると後ろから僕の名を呼ぶ少女の声がした。
振り返るとそこには彼女が立っていた。そして僕に駆け寄るとそっとこう言った。
「私の名前はクラウディアって言うの」
ここで僕は気づいた。今まで僕は彼女の名前すら知らなかったのだ。名前も知らぬまま僕は彼女とローマの日々を過ごしていたのだった。
さまざまな想いが僕の心を打つ。しかし僕は適当な言葉が見つからず、何も言えずに黙っていた。そして一言
「さよなら」
と言うと、脇目も触れずに搭乗口へと向かった。もうこれ以上彼女の姿を見ているのは辛かったのだ。彼女は僕が搭乗口に姿を消す最後まで手を振っていた。
僕は動き出す前の飛行機の中で
「大人になったらクラウディアに会いにまたイタリアに来よう」
そう思った。そして僕を乗せた飛行機は日本へ向けて飛び立っていった。
なんと感動的な話だろうか。なのでこれがまったくの作り話だということは黙っておく。