「経営管理と経営計画」の体系
企業経営理論(戦略論・組織論)…経営管理の基本事項を
①経営管理とは何か→経営管理、つまり「マネジメントの基本構造」
②その大切な要素である「経営計画」について
■ポイント
1.マネジメント・サイクル
2.経営計画の意義、分類について
「経営管理と経営計画」…「マネジメント・サイクル」と「経営計画の意義および分類」について
1.マネジメントの基本構造
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●マネジメントの目的:目標達成に向けて企業活動を有効に遂行
●マネジメントの遂行プロセス=マネジメント・サイクル
:計画設定→組織編制→動機づけ→経営統制
「マネジメントの目的」と「遂行プロセス」について
経営管理、つまり、経営活動をマネジメントする目的は、企業活動を目標達成に向けて有効に遂行させていくこと
マネジメントの遂行プロセスにおける職能
マネジメントの遂行プロセスに着目し、体系化をしていく理論を「管理過程論」と呼び、フランスのファヨールによりその基礎が築かれた
現在、マネジメントの遂行プロセスは、「マネジメント・サイクル」として、一般化されている
■マネジメント・サイクル
計画設定とは、将来進むべきコースを決定する活動
まず、経営活動の全般にわたる基本方針を決め、それに基づいて経営目標を設定
そして、その目標を具体化するための計画を策定
組織編成とは、計画設定において決まった目標や活動を現実のものにするために、経営組織を合理的に形成し、協働関係を維持するための活動
具体的には、「仕事を各構成員に適切に配分する」、「責任・権限を明確にする」、「仕事と仕事の関係を適切に結び付ける」といった活動から、企業全体として効率的な行動ができるような組織を編成
動機づけとは、組織構成員に職務遂行の意欲を持続的に喚起して、経営活動を目標達成の方向へ導くと同時に、組織構成員に満足をもたらしていくこと
動機づけでは、「動機づけ要因への配慮」、「働く環境の整備」、また、「管理者の効果的なリーダーシップ」などが大切
経営統制とは、実行結果が当初の計画通り進んでいるかを検討し、必要な場合は軌道修正をする活動
経営統制の主な内容は、なぜ計画どおり実行できなかったのかを分析・検討し、その原因を明らかにして、是正行動をとること
2.経営計画
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(1)経営計画の役割
(2)経営計画の分類
(3)長期経営計画の対応手法
(4)経営計画の前提
経営計画については、その意義、分類方法を把握することが大切
特に予測の難しい長期経営計画については、不確実性を考慮した経営計画手法が必要
(1)経営計画の役割
●整合性ある統一的活動
●環境変化への経営資源の適合
●モラールの高揚
経営計画の1つ目の役割として、将来の経営諸活動全体を、整合性ある統一的な活動として方向づけているという点
2つ目として、激しい環境変化に経営資源を適合させ、その対応方向を明確にしているという点
3つ目には、業務執行を方向づけることによる、モラールの高揚などを果たしている点
(2)経営計画の種類
●対象範囲を基準→総合計画と部門計画
●対象内容を基準→期間計画と個別計画
●質的相違を基準→戦略計画と戦術計画
経営計画は一般的には、次のようなタイプに分類
●総合計画と部門計画
これらは、「経営計画の対象範囲」を基準とした分類
総合計画は企業全体の活動を対象とし、部門計画は特定部門の活動を対象
●期間計画と個別計画
これらは、「経営計画の対象内容」を基準とした分類
期間計画は計画の期間の長短により長期経営計画、中期経営計画、短期経営計画に分類
個別計画は、OA化推進計画、新製品開発計画、工場建設計画などのような特定のプロジェクトに関する計画のこと
●戦略計画と戦術計画
これらは「経営計画の質的な相違」を基準とした分類
戦略計画は、経営環境の変化に企業の経営資源を適合させるため、方向づけを行う計画で、製品・事業構成、技術特性、財務構造などの経営構造の変革計画
戦術計画は、一定の条件のもとに経営資源を有効に活用し、日常業務を効率的に遂行するための業務実行計画
(3)長期経営計画の対応手法
●コンティンジェンシー・プラン
●ローリング・プラン
企業を取り巻く環境変化を予測することは非常に困難ですので、長期計画では修正を余儀なくされるケースが生じます。こうした不確実性を考慮した計画の進め方に、コンティンジェンシー・プランとローリング・プランがある
●コンティンジェンシー・プラン
コンティンジェンシー・プランは、「不測事象対応計画」とも呼ばれる
■コンティンジェンシー・プランのイメージ
発生可能性のある問題ごとに、あらかじめ複数の対応する計画を立案しておき、その問題が発生した時に、すぐに別の経営計画に切り換えられるように準備しておく手法
コンティンジェンシー・プランは、急激な環境変化に対して、柔軟かつ迅速に対応できるという長所がありますが、環境予測や計画作成のためのコストがかかるという短所もある
●ローリング・プラン
ローリング・プランとは、定期的に計画の見直しを行い、その時点における経営環境の変化による計画と実際のズレを埋めるために軌道修正を加え、引き継いでいく手法
■ローリング・プランのイメージ
例えば、5年間の計画を毎期見直し、各期における環境変化とのズレを修正するという方法
ローリング・プランはあくまでも元の計画の一部修正、手直しであるという点で、コンティンジェンシー・プランとは異なる
3.経営計画の前提
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(1)企業目的
(2)使命
(3)企業目標
(4)方針
「経営計画」には、企業目的、企業の使命、企業目標、方針という前提がある
(1)企業目的(purposes)
企業は財・サービスの生産と配給という経済活動を通じて、利潤を獲得することを社会的に認められた組織体であるため、その企業目的は、利潤追求であることには間違いない
しかし経営計画でいう企業目的は、社会的に認められた企業目的を、個々の企業の立場でどのように捉えるか(解釈)を示す
それは、「健全な成長を維持するに足る利益の獲得」といったように経済目的であったり、「すぐれた製品を生産し、文化の向上に貢献する」というように、経済目的を通じて達成しようとするより高次の目的を掲げる場合もある
(2)使命(mission)
使命とは、企業が社会においてどのような役割を果たすかの表明
それは企業が基本目的達成のために従事する事業およびその事業の性格づけを明確にすることで示される
事業は、企業が提供する製品やサービスに関連して定義されますが、近年のように技術の発達、市場のニーズの変化が激しい時代には、製品・サービスの効用や意味に変化が生じ、従来の事業の視点では機会を見逃したり脅威に遭遇する危険があるため、絶えず自己の事業を再確認することが戦略上重要
(3)目標(objectives)
使命が抽象的、理念的であるのに対して、目標は将来の特定期間に達成すべき望ましい成果であり、それは測定可能な数値あるいは具体的状態によって表わされる
経営計画目標は、経済目標と社会目標(非経済的目標)に分けて設定される
経済目標は経済活動に関連して設定される目標で、利益率、売上成長率、市場占有率、流動比率、原価低減額というように、数量、金額を用いた定量的指標で示される
社会目標は、主に内外の利害者集団の期待に応えるための目標であり、定性的だが、例えば社会貢献(利益に対する拠出比率)、従業員の福祉向上(年間労働時間、有給休暇)などのように、達成水準を具体的に示すことによって、目標としての機能をもたせることができる
これらの企業の設定する目標は、単一ではなく多元的
しかし、それらを同時並行して達成できるものではない
複数の目標は、諸前提を考慮しながらウエイトづけされ、優先順位、達成水準が決定される
(4)方針(policies)
方針は、目標達成に向けて行動する場合に適用すべき規準
それは、個々の具体的状況における対応を示す手続(procedures)とは区別され、一般的な行動規準ないしは心構えを示すもの
それは、目標に対する組織成員の共通した価値観と統一した行動を導き出すことに寄与する
■学習のポイント
1.意思決定のプロセスを把握する。
2.意思決定の前提を把握する。
3.意思決定の基準を把握する。
4.意思決定の分類を捉える。
「意思決定」…「意思決定のプロセス」、「意思決定の前提と基準」、「意思決定の分類」について
1.意思決定のプロセス
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● 意思決定=行動に先立って、どのような行動をとるか選ぶ過程
意思決定とは、行動に先立って、どのような行動をとるかを選ぶ過程(プロセス)のこと
つまり、特定の行動をとる決断を下す瞬間をいうのではなく、そこに至るまでの段階を含めた一連の過程(プロセス)のことを意思決定と呼ぶ
意思決定について研究をしたサイモン(H.A.Simon)は、意思決定過程を、次の4段階に分けた
■意思決定プロセス
情報活動とは、意思決定を必要とする問題を見極め、環境を探索する活動
設計活動とは、可能な行動の代替案を発見し、作成・分析する活動
選択活動とは、利用可能な代替案のうちから特定の案を選択する活動
検討活動とは、選択した代替案を実行した場合の結果を検討する活動
2.意思決定の前提
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●価値前提:意思決定により達成しようとする「目的」に対応
●事実前提:目的を達成するための「手段」に対応
意思決定を行う際には、問題解決のための前提が必要
サイモンは、意思決定の前提、すなわち、意思決定に有用な情報には、次の2つがあることを示した
●価値前提
価値前提とは、意思決定により達成しようとする目的に対応するもので、価値的・倫理的与件のこと
つまり、意思決定者の持つ価値観で主観的なものであり、それが正しいかどうかは科学的には検証することができない
●事実前提
事実前提とは、目的を達成するための手段・行動の適否を判断するために必要となる客観的な事実に関する情報のこと
観察できる環境などが作用するあり方についての事実的判断に基づいた提示であるため、それが真実であるか間違っているかは経験的に、あるいは科学的に検証することができる
サイモンは、意思決定について科学的分析の対象となりうるのは、このうちの事実前提に限られるとした
3.意思決定の基準
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●最適化原理:全知的合理性に基づく経済人モデル
●満足化原理:制約された合理性に基づく経営人モデル
サイモンは、意思決定を行うための基準を2つ示した
●最適化原理
最適化原理とは、「全知的合理性」に基づいた意思決定が行われること、つまり、客観的な完全情報に基づいた合理的な意思決定を行うこと
最適化原理に基づいた場合、他のいかなる代替案よりも高い成果を得られる意思決定が可能
この基準により意思決定を行う人間観(人間に対する見方、仮説)を「経済人モデル」という
しかし、実際の人間には、「全知的合理性」に基づく意思決定、つまり、ありとあらゆる情報や代替案を検討することはできない
●満足化原理
満足化原理とは、満足できる水準により目標を設定し、それを達成できそうな案を選択していくという意思決定基準
サイモンは、現実の意思決定においては、「全知的合理性」(経済人モデル)に基づく最適化原理によるのではなく、「制約された合理性」に基づく満足化原理に従って行われていると考えるべきであることを示した
このような「制約された合理性」に基づき満足化原理に従って意思決定を行う人間観を「経営人モデル」と呼ぶ
4.意思決定の分類
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(1)サイモンの分類
→視点:意思決定の構造の複雑さの程度
●定型的意思決定
●非定型的意思決定
(2)アンゾフの分類
→視点:経営資源の変換過程
●戦略的意思決定
●管理的意思決定
●業務的意思決定
(1)サイモンの意思決定の分類
●定型的意思決定
●非定型的意思決定
サイモンは意思決定を、「その構造の複雑さの程度」によって、「定型的意思決定」と「非定型的意思決定」の2つのタイプに分類した
●定型的意思決定
定型的意思決定とは、プログラム化できる意思決定
つまり、解決すべき問題が常時反復して発生するため、あらかじめ解決策や決定ルールが設定されている意思決定のこと
●非定型的意思決定
一方、非定型的意思決定とは、プログラム化できない意思決定
つまり、解決すべき問題が企業にとっていまだ経験のない問題についての意思決定で、複雑な意思決定過程を経て、最終的な解決案を求めなければならないもの
(2)アンゾフの意思決定の分類
●戦略的意思決定
●管理的意思決定
●業務的意思決定
アメリカの経営学者アンゾフ(H.I.Ansoff)は、企業の意思決定を、経営資源の変換過程の異なった側面に関連させて、3つに分類した
●戦略的意思決定
戦略的意思決定とは、企業が現在どのような事業に従事し、将来どのような事業に進出すべきかに関する意思決定
したがって、企業総資源を環境との関連において経営活動にどのように割り当てるか、多角化を目指すべきか、現在の製品・市場の地位をどう向上させるべきかなどの問題に対する意思決定といえる
なお、アンゾフは、外部環境の変化に対して、企業の保有する内部経営資源を適合させることに関する意思決定の代替的な戦略モデルとして成長ベクトルや多角化戦略などを提示した
●管理的意思決定
管理的意思決定とは、企業の持つ資源を組織化することに関する意思決定
決定事項の1つは、組織構造に関する権限と責任の関係、仕事の流れ、流通経路など
もう1つは、経営資源の調達と開発に関しての原材料の供給源の開発、人事の訓練と啓発、資金の調達、諸施設・設備の調達などの問題に対する意思決定
●業務的意思決定
業務的意思決定とは、日常業務の効率的遂行を通じて収益性を最大にするための意思決定
主な決定領域は、各職能部門および製品ラインへの資源の配分、業務の日程計画、業績の監視、是正措置があげられる
具体的には、価格決定、マーケティング戦略の設定、生産の日程計画、適正在庫量の設定などが該当する
意思決定は戦略的意思決定が上位にあり、その枠内において業務的意思決定が行われ、管理的意思決定はこれを補完するという関係にある