調査会社の社員が告発!「事実が隠蔽された」
山形・米沢市の栗子山で進む風力発電計画で、事業を進める企業がまとめた環境影響評価準備書が、実際の調査内容とは異なる、改ざんされたデータを基に作成されていた疑いがあることがわかった。
「イヌワシの巣は設置予定地から10km以上離れている」としていたが・・・
報道によれば、事業者の計画は、米沢市の栗子山(※)に発電用風車を最大10基建設し、2028年度の稼働を目指している。
予定地周辺で国の天然記念物・イヌワシの生息が確認されたが、事業者は、巣は予定地から10km以上離れているとして「猛禽類などが風車に衝突する確率は20年に1羽に満たない」とする準備書を、県と米沢市に提出していた。
※栗子山:米沢市と福島市の境、奥羽山脈に位置する。南方の吾妻連峰と北方の蔵王連峰にはさまれた山々を栗子山系・連山と呼ぶ。その中で最も標高が高い(1217m)。
「事実が違う。中身を改ざんしたとしか思えない」と、希少猛禽類研究家・写真家の男性
事業者から専門家としての意見を求められている写真家の男性は、イヌワシの巣が予定地から約3㎞の場所で見つかったにもかかわらず、その事実を隠し続けているということがわかったという。「 “私がその巣を見つけた” “私が調査に入った” という人から聞いた。データを改ざんするなんてとんでもない話。」
告発したのは、事業者から委託された調査会社社員。そのうちの2人が事実が隠蔽(いんぺい)されたことに憤り、2021年に会社を辞めたという。
写真家の男性はこの事実を県に報告した。また、イヌワシ研究会など複数の環境保護団体も「審査に値しない準備書だ」として、事業者と県に意見書を提出する方針だ。
<続報>
不正疑われ、再調査中に事業者が準備書提出・県に説明なし....日本イヌワシ研究会「計画中断」求める!
不正を疑われた事業者側が、2023年7月から調査をやり直していることが新たにわかった。しかし、それを県には伝えず、月1回のペースで行われている。10月も3日間行われたが、事業者はこの事実を隠して、県に準備書を提出。「改ざんや隠ぺいはない」との主張を繰り返していた。
日本イヌワシ研究会は、計画の中断を求める意見書を事業者に提出した。意見書では、事業者側が確認した営巣地が1つにとどまっている点について、「精度に問題がある」と指摘。さらに「他県では18km離れた場所でも衝突死が確認されている。寿命が長いイヌワシが生涯に一度、衝突しうると認めたようなものだ」と断じた。また、日本野鳥の会も計画の見直しを求める意見書を提出している。事業者は、現時点で計画の中止や見直しは考えていないようだ。
◆風力発電に衝突しやすい猛禽類 引用:浦 達也(日本野鳥の会自然保護室)日本野鳥の会「野鳥」2023年11・12月号より
『日本で風車に鳥が衝突死するバードストライク発生は、当会調べでは2023年3月末時点で、のべ604羽が死亡しています。そのうち、フクロウ科を除く猛禽類が208羽(トビ95、オジロワシ75、ノスリ21、ミサゴ9など)と、それに次ぐカモメ類68羽、カラス類43羽などと比べても多いことがわかります。なぜ眼が良いはずの猛禽類で、多くの鳥衝突が発生しているのか。その理由としては、①ブレードの回転速度が一定以上になると網膜が高速運動を処理できなくなる「モーションスミア現象」が、猛禽類では遅い速度でも発生すること。②眼の上でひさしの役割をする眼窩(風や塵から眼を保護し、日光のまぶしさから防ぐ役割)により上方視界が悪く、風車周辺で餌を探すのに下を向いていると正面が見えていない状態となることが指摘されています。また、猛禽類は上空から天敵に襲われることが少ないため、上方向が見えることは重要ではない。』
<続報>
「再調査継続中に工事を強行するのか!」風況ポール設置工事始まる....住民から事業見直し求める声
報道によれば、イヌワシ調査の信ぴょう性が疑われている事業者が、「準備書」の次の段階となる「評価書」を2024年秋に提出する考えであることがわかった。
一方、栗子山では、風の状況を調べる「風況ポール」を建設する工事が進んでいる。地元・板谷地区の住民からは「計画に反対の声が上がる中、強行するのか」「取付工事の土砂が川に流出している」などの苦情が県に寄せられている。環境影響評価法では、事業者は自治体の同意がなくても計画を進められるが、日本イヌワシ研究会は「イヌワシにとってこの時期は交尾や産卵に備えて巣作りする求愛造巣期。ポールの設置はイヌワシの餌場でもあり、工事の強行は容認できない」としている。
11月28日夜、地元住民を対象にした説明会が開かれ、参加した住民から健康被害への不安や事業見直しを求める声が上がった。事業者側は専門家に求められた再調査を7月から行っていて「今のところ準備書で示した地点より近い場所で営巣地は確認されていない」と説明したとのこと。
<続報>
「事業強行阻止のため、今回の調査に大きな意味を持つ」環境省が調査先行・県も営巣地特定に調査団派遣へ
報道によると、環境省が12月5日午後、栗子山で現地調査を行った。環境省は調査の目的を「準備書の審査のため」としている。県は「知事意見をまとめる上で「営巣地の特定が必要」と判断し、早ければ12月8日から調査団を現地に派遣することを決めた。調査団に加わる専門家は、「事業の強行を阻止するという点で、今回の国と県の調査は非常に大きな意味を持つだろう」と話している。
【ブログ作成者から】疑いの目を持って見てきましたが・・・
これまで筆者が関わってきた事業者の環境アセス調査データについては、ある程度受け入れざるを得ないところもありますが、調査回数の少なさや、適切でない調査範囲と調査時期等をその都度指摘してきました。しかし、事業者は決してそれを受け入れることはありませんでした。環境審査会における委員からの意見であったとしても、「検討します」「意見として聞いておきます」と、はぐらかしてばかりでした。そこには面倒で費用のかかる環境アセスを早く終えて、建設工事にかかりたいとの思惑があるからでしょう。市民からの意見はもちろん、識者委員からの意見も、軽視されてきたと言えます。
今回の栗子山の事例では、希少な野鳥に影響が及ぶと、計画を進める上で障害となることを懸念してのデータ改ざんの疑いがあります。委託された調査会社社員の告発でばれたということでしょうが、よくぞ告発してくれたと、その勇気に感謝です。
北九州市若松沖洋上風力発電事業の調査で、「オオミズナギドリは設置予定地以外で多く飛んでいる」と、事業者にとって都合のいい報告ではないか?と疑っても、それをくつがえす根拠を持っていないと、指摘できないことも経験してきました。私たちにとって海上の野鳥生息調査などは、費用や人材の面でかなり困難であることから、ある程度事業者の調査データを受け入れざるを得ないという弱点があります。事業者に対抗できる調査を実施する必要性を突き付けられています。