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ハレ時々オンデマンドTV

オンデマンドTVの感想やら日々の見聞録

加藤訓子 サウンドスペースエクスペリメント

2009-03-28 23:58:29 | 音楽
サウンドスペース・エクスペリメント
Vol.01 Steel Drum Works

2009年3月26日(木) 27日(金) 28日(土)
アサヒアートスクエア・スーパードライホール4F
加藤訓子/ソロパーカッション



久しぶりに加藤訓子を聴く。
今日の主役はドラム缶。4年ほど前さいたま芸術劇場で使用して以来、研究を重ねてつくられたという、オリジナルのドラム缶楽器が10種類近くあった。

会場はアサヒビール本社横の、金色のシュールなオブジェが乗っかった、あの建物だ。

4階の小さなホールで、観客は100人くらいだろうか。真っ黒なホール内に、ツヤ消しのシルバーで塗装されたドラム缶楽器群が並べられ、天井に向かって何本もスプリングが伸び、いくつかは天井から吊り下げられて先端にキッチンボールや正体不明の玉がつけられている。会場内のあちこちに細い円柱型のスピーカーが並んでいるのは、川と同様のスタイル。

オープニングはいつもと違って、テープで女性のおしゃべりが流れ、やがて歌になって切れたところで下手から彼女が登場。そのまま「アンビル・コーラス」が始まった。複雑なポリリズムを何なくこなしているのはいつも通りだが、今日は楽譜を見ないでやっていたようだ。



続いて彼女のオリジナルの「プラネット・アース」。内部に剣山のようにボルト(金属棒?)を固定し、水を張ったドラム缶(ボニョ~ンと不思議な音がする)から始まって、ピアノ線を張ってツィターのように鳴らすもの、同様にギターの弦を張ったもの、金属棒を縁に立ててコズミックな響きを発するものなど、個性的な音世界を順々に聴かせてくれる。
一旦、間をおいて、上手のステージへ。やはり、テープのアフリカ的なコーラスにあわせて素手でドラム缶を叩くところから後半が始まり、やはりオリジナルの縦半分にカットしたドラム缶に中空の鉄柱を並べた手製の鉄琴、ティンパニの上に置いた大きなおリンから再び弦に戻る、という流れ。

宇宙というテーマは前回から引き継いでいるものとも言えるし、ドラム缶の金属的な音世界がコズミックな雰囲気をかもし出すところからも来ているのだろう。ただし曲の展開はむしろ「ルーツ・オブ・マリンバ」に近く、中近東的なツィター風のエキゾチックなフレーズやアフリカンリズムなど地球の旅も楽しめる。

そしてまったく切れ目なく、ライヒの「エレクトリック・カウンターポイント」へ以降。ライヒのテープに加藤訓子のスチールドラム、ビブラフォン、マリンバのソロがからんで、濃密な音空間をつくっていく。
ドラム缶楽器のソロが繊細な音の響きのニュアンスの世界とすれば、こちらはミニマルなリズムが重なり合いながら増幅していくダイナミックな世界。なかなかドラマチックな展開であり、非日常的な音空間へどんどん引き込まれていく。

アンコールの1曲目は多分「ルーツ・オブ・マリンバ」の曲でマリンバのソロ。鳴り止まない拍手に応えて2曲目は「カンズ・クラブ・ミックス」というテープとのミックス。そして本日最も楽しかった会場全員でのボレロの演奏。(このときなんと私が彼女のドラム缶を叩かせていただくという幸運に与る!)

デジタル音源で音楽を創ることが当たり前の現在、手づくりの楽器で生の音の繊細さを追求する加藤訓子の音楽表現は実に人間的で、心の底に響くものがある。
元来打楽器はプリミティブで文字通り人の感情のルーツを表現するものだと思うが、今日の演奏はいつにも増して純真で楽しく、彼女自身も聴いているオーディエンスも、まさに子どものように心を遊ばせていた。

音の実験というと堅苦しいけれど、ここ数年聴いた印象をたどってみると、技術的にはますます研ぎ澄まされていながら、その分、一層やさしくなっているように思う。
初めて聴いた武満はまるで神のようで、そのあと巫女になり、そして今日はあどけない子どものようだった。

この純粋さががある限り、いつまでも彼女は私たちを心のルーツに連れて行ってくれるだろう。

<演奏曲目>

地球  「アンビル・コーラス」/デビッド・ラング
宇宙  「プラネット・アース」/加藤訓子
共存  「エレクトリック・カウンターポイント」/スティーブ・ライヒ
     ※パーカッションバージョン世界初演
アンコール
「ルーツ・オブ・マリンバ」(多分)より/加藤訓子ほか
「カンズ・クラブ・ミックス」/加藤訓子
「ボレロ」/モーリス・ラベル