禅のことばに「大用現前軌則を存せず」ということがある。「現前」というのは大
機を備えた人の大用が発揮されることをいったものである。この大機大用の人
は、少しも訓練や約束ごとにこだわらない。これを「軌則を存せず」という。軌
則とは、訓練、約束、規則のことである。すべての道には訓練、約束ごと、規則
といったことがあるが、その極致をきわめた人は、それらをさらりと捨て去り、
自由自在の働きをするものなのである。
規則を離れて自由自在の働きをするのを
大機大用の人というのだ。機というのは、心のうちで油断なく何事かを準備して
いることをいう。そこで、心のうちの機が定着し、固定してしまっては、かえっ
て心が機に束縛されて不自由になる。これはまだ機が完成されていないからだ。
十分な修行をつめば、機が完成し、全身に伸び、ひろがって自由な働きをするよ
うになる。これを大用と呼ぶのである。