遊行吟遊

短詩型作品等

世捨て人

2010-11-02 11:37:04 | 詩・短詩
本堂の濡れ縁に
長い時間 
平伏している修行僧の姿があった

修行僧は
一体何を捨てようとして
ここに 身動きもせず
ひたすら 平伏しているのだろうか

踝を返そうとしたとき
わたしは
突然 暗黙裡に 了得した

残りの人生を
生きゆくに 去りゆくに
要るものは 何か

十歳の少年でしかなかったけれど
新緑に包まれた鎌倉の
檜皮葺の深い境内の中を
忘れものを探すように 歩いていた
                      (1966)


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