「お願いだから誰か何とかしてーっっ。じゃないとおれイカイヨウとかになっちゃうよう。でなきゃ部活拒否になっちゃうよう」
涙目で立石に訴えられ、新田高野球部の面々目は一様に重い息をついた。
部活帰りのマックである。
立石に無言で引きずられ、着替えもそこそこに、東谷と沢口、それに新3年の二人が立石のお悩み相談に付き合わされることになった。
払いは立石が全面的に受けもつという。金銭的に余裕のない一高校生にとって、これだけの人数のマック出費はたいへんな痛手のはずだが、それすら厭わないほどに立石の現状は切羽詰っているらしい。
豪が立石と、巧が中本と組んで投球練習を始めて2日が過ぎていた。早や2日で立石が音をあげた。
「とにかくもう。空気が痛いんだって。なんか、ツンドラとかブリザードの世界。しかもあれダイヤモンドダストが空気中を飛び交ってるね。もしくは火花。うっかり間に挟まったら絶対焦げる。または満身創痍になる。ああああもうおれやだーっっ」
机に伏してしまった立石に、彼の現状を神妙に聞いていた面々は、それぞれ顔を見合わせ、もう一度重い息をついた。
「まあ、予測はしてたけどなぁ」
東谷のぼやきに、普段は立石に辛口の沢口すらも、うんうんと同情的にうなずいた。
端から見ていれば、豪も中本も至極穏やかに理性的に部活に取り組んでいる。特に巧と引き離され、大いに荒れるだろうと危ぶまれていた豪だが、立石とだけの投球練習にも不平を言わず、淡々とキャッチングに精を出していた。状況にビビり、普段の調子が出せていない立石に、根気強く温かい言葉をかけてくれる気遣いすらみせる。
「けどそれが尚更怖いんだっての! いっそ不貞腐れて荒れてくれたほうがなんぼかマシ。あっち一切無視して、投球練習打ち込んでるんだろうけど、空気がトゲトゲしいのよ。気にしてるのまるわかりなのよ。しかも中本ったら聞こえよがしに原田の球について、いちいちイチイチ、いっちいちラブユー的なコメントするし! デカい声で! 猛獣刺激すんなーっっ」
両の手をぐぐっと握り締めて、店内を慮ってか小声で立石が吠える。
「まあまあ、立石」
3年の一人、温厚が服来て歩いていると評される吉川が宥めにかかる。
「まだ2日じゃろ。原田の球久しぶりに捕って、興奮しとる中本も、そろそろ落ち着くて。そしたら永倉かてトゲトゲしまうかもよ」
「甘いです吉川さん」
ばっさりと沢口が先輩の楽観を切り捨てた。
「豪は一見穏やかで無欲に見えますけど、こと原田に関してだけはものすごく、ものっ――すごくワガママです。そんでもって執念深いです」
「幼馴染に対して、えらい言い様じゃなあ、沢口」
「つーか普段立石以外に毒吐かない沢口が、そうまで言う永倉の原田の球へのこだわりも、どんだけすごいんじゃ」
沢口の力説に、少々呆れ気味に3年生たちはコメントする。その沢口を押しのけて、唯一この場で理性を保っている2年であることを自負している東谷が弁明した。
「サワの豪への評価も、おもいっきり私怨入ってますから、話8割くらいに聞いといてください先輩方。ですが、第三者的に見ても立石がもういっぱいイッパイじゃいうのには、おれも賛成です」
あうおうと、泣きべそをかきかきすがりついてくる立石を、片手で払いのけながら、なおも東谷は言葉を続けた。
「一触即発なんですよ。今は豪がかろうじて抑えとりますけど、中本は明らかに豪の向こうをはる気満々です。あいつが何で中学時代部活やらんとシニア行ったか理由聞いてますか?」
「いや」
「原田と対戦しとうなかったからじゃそうです。そして、高校ですぐにプレイできるように硬球扱うのに慣れようと、シニアで3年間がんばったんじゃそうですよ。普通入ればそのチームでがんばろうって思うもんじゃのに。けど中本にとってシニアのそのチームは、あくまで通過点に過ぎなかったちゅうことらしいです」
「……そりゃまた」
「ヤな中学生じゃなぁ、それ」
思春期も青春もなんのその。ひたすらにただ一人の投手を思って過ごした3年間。聞くだに中本の巧への執心を思い知って、その場の皆が慄いた。
「なんつーか、モテモテじゃのう、原田」
腕を組み、吉川が重々しく嘆じる。
「あんま羨ましくないモテ方なのはおれの気のせいでしょうか」
東谷の言葉に、まあまあ、と今度は野球部主将、工藤がメガネを外し、レンズを拭きふき答える。
「一触即発なのはそうじゃけど、起こってもいない事、どーにかはできん。静観するしかないじゃろ」
「おれは見殺しですかぁ」
「精神修養と思ってガンバレ立石。しかしな、ほんとにヤバくなったら、おれらが何とかする前に、あの腹黒が動くじゃろ」
工藤は自分のとこの監督を、公然と腹黒呼ばわりしてはばからない。東谷たちが入学する以前に何があったかは憶測しかできないが、二人しかいなかった新入部員が、野球への考えを根本から変えさせられたことは確かなようである。
「まがりなりにも教育者じゃ。専門職の監督と違って、そこら辺りも考えとるとみていいじゃろ。これみよがしに中本と原田組ませたのも、企みの気配がプンプンじゃし。春の大会までには、何とかなっとるんじゃないか」
「……」
否定することができず、新2年たちは一様に押し黙った。
かの烈女の周到さは、この1年で身に沁みた。一見小学生でも中身はやはり三十路。部内の人間関係に無頓着なようにみえて、まったく違った。精神的苦境に陥れ、ぎりぎりのところまで忍耐させ、絶妙なところですくい上げるようなマネを幾度もされて試された。基本底意地が悪いが、本当に自分たちの害になるような企みはしない。
「そうなると、ほんと、いいです。……何とかしてやりたいんじゃけど、結局何もできんのは、つらいです」
ぽつりともらした沢口の願うような言葉だったが、しかしその場の誰もが同じ思いを抱えていた。
中本が練習に加わって、数日が何事もなく過ぎていた。
「どう思う? アレ」
「どう、って。見たまんまじゃろ」
「甘いぞサワ。ならお前あいつらの周囲1メートルに近寄って来い。間違いなくヘンな電波くらうぞ」
グラウンドを整備しながら、立石と沢口と東谷は、戦々恐々の思いで、ホーム辺りをならしている長身二人をうかがっていた。
豪には及ばないものの、中本も上背があり、体つきもしっかりしていた。理想的な捕手体型といえるだろう。高校1年でここまで体ができていることは、彼にとって大きなプラス要因となる。今まで副捕手を務めていた吉貞より、縦も横も大きい。しかも中学時代はシニアリーグに所属していたということで硬球を扱いなれており、即戦力になることは間違いなかった。
「永倉、さらっと流してたけどさ。そんなカンタンにもう一人の、しかも吉貞なんかメじゃない捕手候補歓迎できるもんなの?」
「んなワケあるかい。お前だって去年の春の原田ファーストコンバート覚えとるじゃろ?」
沢口の指摘に当時を思い起こしたのか、立石はみるみる顔を強張らせて、大げさなほど小刻みに首を縦に振った。
立石ばかりではない。豪の巧への執着をイヤと言うほど知っている面々は、だからこそこれから起きるであろう修羅場に恐れおののいているのである。
「確かに、豪の言うとおり、ヨシをサードや打撃に専念させるためにも、捕手はもう一人欲しい思っとったとこじゃ。しかも原田の球を捕ったことがあるいう前歴は大きい。普通に考えれば、もう一人の捕手候補としては、申し分ないんじゃけどな」
今春、沢口から引継ぎ、新2年の連絡役に抜擢された東谷は、部自体の苦しい野球事情を鑑みて苦々しい顔になる。
「けど、ヒガシ。それでまた豪と原田がぎくしゃくしたりしたら、本末転倒いうやつじゃないか?」
「だよね」
沢口の危惧に、立石も大きく頷く。つまりは、野球部面々が心配しているのは、その一点に尽きるといっていい。
豪と巧がモめるのはよくあることだったが、それが野球にまで及んでしまうのは、何としても避けたい。部員がようやく9人に達し、念願の春の大会参加が目前に迫っているのである。
「言うたんじゃろ。ヒガシ」
新2年の面々からせっつかれて(せっつかれるまでもなく)、東谷は部上層部へ新入部員のもつ危険因子を注進に及んだのだが、新3年二人はまだしも、くだんの烈女は、にこやかに新2年の憂慮を一蹴して見せた。
『そーんなん考え過ぎだっちゅーの。案ずるより生むが易し、てもんよ。ショーガクセーじゃあるまいし。杞憂、きゆー』
いえ、ショーガクセーなら頭ごなしに押さえつけられる分、よっぽど始末がいいんです、こちとらキれたら手に負えないガタイとアタマもってる分、よほど危険なんです、と東谷は食い下がったが、沢村にはいっこうに危機感は伝わらなかったらしい。
大きく息をついて首をめぐらすと、視界からくだんの二人を追い出し、東谷は事務的に告げた。
「てことでサワ、お前には原田のほう頼む。豪はおれと立石で何とかするから」
「えーっっ。おれも、おれも、おれもー。おれも原田の方がいいー。何でー」
「あほう。おれ一人であのデカイの抑えられるか。ヨシが面白がってひっかき回す危険もあるが、ほんとにヤバくなりゃさすがに手を貸すじゃろ。ヨシの方はアテにしといていいぞ、サワ」
ごねる立石を横に押しやって、東谷が嵐に備えての布陣をする。慣れたくはないが、この4年あまりにさすがに慣れてしまった策士は、着々と波乱への準備を進めている。
しかし巧へのケアを一任されて、意気揚々であるはずの沢口は、固い表情で東谷を見上げて念を押した。
「それは構わんけど。ヒガシ、マジでヤバくなったら、原田おれの手に負えんぞ。わかっとるじゃろ」
沢口の言葉に、東谷はわずかに瞠目し、それから仕方ないというふうに肩をすくめてみせた。そして整備を終えたのを機に、沢口と立石から離れて一人部室に戻っていく。
「あのさぁ」
二人でとり残されて、立石が不思議そうに沢口に尋ねた。
「こーいうのすごい癪なんだけど、沢口ですらが手に負えなくなったら、原田どうするの?」
「知らん」
「知らんてね、沢口」
自分もトンボの土を払い、部室へと向かいながら、沢口は振り返りざま素っ気なく告げた。
「原田のこと、ほんとにどうにかできんのは、おれじゃない。豪次第じゃ」
そしてその日の練習はじめに、監督から本日の内容を告げられた面々は、誰もが息を飲んだ。
「今日から原田くんも投球練習してみようか。無論、あくまで控えとしての扱いじゃけど。んじゃ、立石くんと永倉くんね。あと、中本くん、原田くんのキャッチつきあってくれる?」
春です。春ですね。冬のお話がすっぱり抜けてしまいました。……せっかくクラスメイトにしたのに。
待ちに待った新入部員が入ってきたのは、春まだ浅い3月だった。
といっても、もともと在学していた者ではない。早々と新田高合格を決めていた推薦組で一人、春休み突入と同時に野球部に顔を出した者がいたのである。
その日の朝は、穏やかに晴れあがっていた。桜は、開花こそまだであるものの、蕾は十分に膨らんできていたし、校庭では水仙やクロッカスが、やさしい色の花を咲かせ、春の訪れを告げていた。
うららかな陽気に、春休み開始もあいまって、野球部の面々はシーズンの始まりを実感し、心を弾ませていた。屋外での練習がまったく不可能というわけではないが、冬季はやはり屋内での地道な練習や筋力トレーニングが主体となる。
春分を目前に、昼の時間が延び、グラウンド使用可能な日が増えることで、必然的にシートノック、フリーバッティングなど実践的な練習もまた増える傾向にあった。
そうとなれば、やはり自然と心も弾む。少数精鋭を旨とする野球部の面々は、いそいそと部室で着替え、部活開始を心待ちにしていた。
「原田早いねー。もう着替えたの? ひょっとして家からアンダーとか着てきた?」
部室の戸に向かいながら、巧が声をかけた立石に素っ気なく返す。
「お前みたいに無駄口たたいてないだけだ」
「そうじゃ。ヨシとお前は無駄口多すぎ。行こうや原田」
「ああっ、また沢口ばっかそうやってー。ヒイキだー」
さっさと練習着に着替えた巧たちが戸に手をかけようとしたところで、外から戸が開いた。見ると、見慣れない黒っぽいジャージを着た少年が一人、戸口に佇んでいた。
「……あんた、誰じゃ?」
至極もっともな問いを沢口が投げかける。と、相手は少し苦笑気味に沢口に会釈した。それから、真っ直ぐ巧を見据え、深々と頭を下げ、顔をあげた。
巧は、その顔を見てしばし押し黙る。
豪や立石らは及ばないものの、自分よりは幾分高めの上背のてっぺんにのっているのは、見知った顔だった。
「お久しぶりです。原田さん」
闊達な笑顔にあの頃の面影はありありと残っている。別れ際、涙目で自分を見上げた幼い顔は、今はだが相応の落ち着きを帯びていた。
「中本か……」
ようやく搾り出した声に、しかし中本は落胆をちらとも見せず、逆にいよいよ相好を崩して、こくりと力強く頷いた。
「はい。おれ、新田受けたんです。春から、ってか今日からよろしくお願いします」
再び押し黙った巧に、周囲でやはり戸惑って固まっていたうちの一人が、ようやく復帰してにじり寄る。言わずとしれた強心臓の吉貞である。
「なんじゃ、なんじゃ、なんじゃーあ? タクちゃんの知り合いか」
吉貞に背中からへばりつかれても、いつものように振り払いも押しのけもしないで固まっている巧に代わり、当の中本がにこやかに答えた。
「少年野球のときに、同じチームでプレイしてました。で、おれ、もう一度原田さんと野球したくて、一緒に甲子園を目指したくて、新田受験したんです」
「ちなみに、ポジションは?」
おそるおそると言った風情で、こちらもようやく当初の驚愕から脱したらしい立石が、吉貞のさらに背後から首をのばすようにして尋ねる。
「はい。キャッチャーです」
明るくさわやかに告げられた返答に、一斉に周囲の目が、部室の一番奥で防具の準備をしていた、新田野球部の正捕手へと集められた。衆目を一身に集めた正捕手は、しかし動揺などおくびにも出さず、何気ない調子でそうかと穏やかにうなずいた。
「そりゃ頼もしいな。吉貞が今まで副捕手やっとったけど、そろそろサードに専念させたい思っとったし。捕手大歓迎じゃ」
にこやかに返した豪に、中本も力強く頷き返す。
「はい。一日も早く皆さんに追いつきたくて、監督に無理言って春休みから練習参加させてもらったんです。永倉さんですよね。中本です。今日からよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
周囲の思惑などよそに、春の大嵐の前触れは至極穏やかに新田を到来したのだった。
「痛っ」
側頭部に鋭い痛みを覚えて、豪は目を覚ました。
どうやら前後不覚に陥っていたらしい。かろうじて車内に乗り込んだことは覚えているが、その瞬間からすっぱりと記憶が抜け落ちている。
身体は泥が詰まったように重く、このまま再び目を閉じてしまいたかったが、どうにか気力を奮い起こして豪は上半身を起こすことに成功した。
見ると、周囲も同様の状況だった。うちあげられた魚のように車内に累々とメンバーが横たわっている。豪のすぐ横にいたのは吉貞で、どうやら吉貞がこちらに寝返った拍子に、どこかぶつけてきたらしい。寝相までもにぎやかである。
「目、覚めたん?」
不意に声をかけられて前を見やると、ほぼ自分たちと同じ練習をこなしておきながら、涼しい顔でハンドルを握っている沢村がいた。どういうスタミナをしているのか。
「もうじき着くよ。起きたんならそのまま起きときなさい」
「はい」
確かに車外の景色は、新田のそれだった。見慣れた風景だ。あと十数分もすれば学校が見えてくるだろう。
「他の子達は着いてから起こそうか」
幾分苦笑まじりのその言葉に、豪はしみじみと今回の合宿の過酷振りを認識した。中学でも相当の練習をした。戸村はその点では決して妥協をしなかったし、全国を狙うのであれば、それは当然のことでもあった。部員は確かに巧をはじめとして傑出した才能をもっていたが、相応の練習がなければ結果はついてこない。
しかし今回の合宿は、それらの経験をすべて凌駕する合宿だった。いろいろな意味で、だが。
「カントク、山歩きから全部計算ですか」
笑む気配が伝わってくる。肯定も否定もしない。つまりは肯定か。だんだんこのカントクの腹黒さというか周到さというかが分かってきた。
山歩きも料理もすべて人となりを見、そして能力を見極めるためのもの。またそれだけでなく、傾斜のついた地でのトレーニングは歩くだけでも負荷がかかる。下半身の強化が今回の合宿の主課題だと事前に言われていたことを豪は思い出した。それに。
「まあ、やっとうちのエースのお披露目できたしね」
そう。それが。豪はつと目を伏せ、思い起こす。毎朝向き合っている。欠かさず捕っている。その球。
今まで決して皆の前で投げさせられなかった、立石を新田まで引きずり込んだ、巧の投げるストレート。
それが、ようやくマウンドで。
周囲の息を飲む気配が伝わってきた。2年生だけではない。かつて巧の投球を存分に見てきた沢口たちですらが。
事実、毎日受けている豪ですら、軽く戦慄を覚えた。マウンドに、バッターを立たせて投げさせた。それでこうも違うものかと。
重さもキレも通常の比ではなかった。そして今更ながらに思い出した。巧は、投げる場面に応じてその能力が引き出される。練習であれなら、果たして試合で本気で立ち向かう相手が前にいたとき、巧の投げる球は一体――。
「早く夏にならんかね」
豪の言葉を代弁するように、沢村がぽつりともらす。豪はうなずきも返す言葉もなかったが、思いはまったく同じだった。
早く。早く、あの球を夏空の下、受けてみたい。
マウンドの真上から襲い掛かってくる、稀有の白い獣。あれを。
「……」
吉貞とは反対側の、ドアのすぐ隣で意外に行儀よくコンパクトにおさまって眠っている自分の投手を見やる。相変わらず眠りは深い。安らかな寝顔に少し目を細める。
行くたては見ない。果てを見通してなどいられない。そんな悠長なことを言って巧の球は捕れない。
だから、今はただ。
「また明日から境内じゃね」
「そうですね。でも、いいです」
それでもいい。それでいい。巧はまだ豪に投げてくれている。
ゆっくりと新田高校が近づいてくる。
古めいた校舎が、懐かしい気がした。
なんだかトンデモな内容ですみません。虚構ですので。ここんとこ春から尋常じゃなかった仕事のつまり具合に拍車がかかっていますよ。家に帰って1時間以内にもうベッドにいる自分がちと怖いです。本を読むどころか手に取ることすらできてません。本屋なんざいつ以来……呪われろOO!
「で、最後は何でおれらだけなんだよ」
鮭から出たおびただしい血や臓物やらで戦意喪失状態の面々を無情に外に打ち棄てて、巧は豪と二人調理室にいた。不恰好ながらも切り身になったそれらを、きのこと一緒にホイル焼きにしたり、取り出したイクラを醤油で味付けしていくら丼にしたりという最終工程は、不本意ながら燃え尽きなかった二人がやるしかなかった。
ちなみに東谷と沢口は采配をふるった疲れからか、調理室の隅でぐったりどころか爆睡中である。
「そうは言うてもな。ここまでで既に2時間弱じゃろ。これでさっさと調理して食わんかったら、日が暮れてキャッチボールすらできんぞ」
「……」
豪の冷静な指摘に、むすくれながらも巧は野菜を刻む作業に戻った。
ホイル焼きはキノコと鮭がメインであるが、やはりたまねぎくらいは欲しいと思ったところ、部屋の隅にいつのまにかニンジンやらたまねぎやらがぎっしりつまった段ボール箱が鎮座していた。わざとらしいにもほどがある。
何を考えて沢村はこんな野球とはまるきり関係ない作業を強要するのか。腹立たしい限りだが、実際空腹は容赦なく巧を苛むし、調理を請け負うしかなかった。
「相変わらず手際がいいのー」
いくらを醤油とみりんで味付けしている豪がのんきに巧の手元を見て評す。
以前夕食を手伝わせた腹いせか、豪は巧と二人だけだと遠慮なく巧に面倒な方を押し付ける。文句を言えば「おまえのほうが上手い」の一点張りで、結局それで何回かまんまと豪にいいようにされている。巧だとて空腹には勝てないのだ。
むかっ腹を立てながらも、切り身を野菜やキノコたちと一緒にホイルで包んでいく。こんなときばかりは、真紀子の作業やテレビの放映を、見ていただけで覚えてしまう自分が恨めしい。
バターとみそと、後は最後にからしを少しだけ入れる。
豪が並べたフライパンの中に次々放り込んで、それから二人できのこ汁にとりかかった。
やがて、フライパンもなべもくつくつと小気味よい音を立て始めた。
「で、あとはどうするなだよ」
使えそうなきのこやイモ類は分けて新聞紙にくるみ、保管したが、まだまだ山の幸は残っていた。
「ああ。栗は後で焼くかゆでるかするんじゃろ。保存もきくしな。柿は……焼酎なんかあんのか?」
「豪、あれは?」
紫色の、握りこぶしぐらいの果実をさして巧が問う。
「あけびか。巧初めてか?」
巧がうなずくと豪が手にとって皮を裂き、中を見せてくれた。
中は白く、その白い果肉に挟まれるようにして、ゼリー状の乳白色のものが種を包んでいる。
「この種が甘いんじゃ。秋の山果実の代表じゃな」
「実じゃなくて種食うの?」
「食わん。種を口の中でころがす、いう感じかな」
ほれ、と豪が白いゼリーのようなものに包まれた種を半分手のひらに乗せて差し出す。巧は興味半分で口に入れてみた。
「たっ――」
「へぇ。ほんとだ甘い」
口の中でゼリーが溶けていく。やわらかで上品な甘味が広がった。初めて味わう甘味だった。
巧は無心に言われたとおり舌の上で種を転がしているたが、ふとものすごく動揺した様子で、豪が固まっているのに気づいた。
「豪?」
「……いや、ええ。何でもない。ちょっと、すこしばかり、何というか、びっくりしただけじゃ」
巧に差し出された形のまま、固まっていた手のひらをひっこめて、豪はのろのろと拳をつくり、口元をおおった。
「何おまえ赤面してんの」
「しとらん。部屋が暑いだけじゃ」
耳まで赤くしておいて、しかし頑強に豪が否定するので、巧はとりあえず追及をやめた。また確かにナベやフライパンやらの発する熱で、室内は次第に暖まってきた。
「換気扇増やそうか」
至近の換気扇だけは最初から回しているのだが、鮭の解体が終わった時点で止めていた、残りの二つの換気扇も動かそうと巧は窓際に寄る。
「なんだ、起きたのか?」
行ってみると、そこで仲良くオヤスミ中だった沢口と東谷の二人が、ぎこちない笑顔で巧を迎えた。たった今起きたとこじゃ、というわりには二人とも動作が機敏で、せわしなく起き上がる。
そしてわざとらしいくらい大きな声でうまそうじゃなぁ、などときのこ汁をのぞいてまわった。
「……?」
なぜか沢口が豪の頭を思い切りゲンコツで殴った。豪は甘受している。
――ここに吉貞がいなくてほんとヨカッタ、という東谷のつぶやきは誰にも聞き取られなかった。
てのひらから直接口に入れた巧の天然っぷりを、目にしたのが理解ある三人だったため、この件については後々まで語られることはなかった。
秋晴れの日の些細なハプニングで済んだのは、果たして僥倖か、それとも。
アケビはワタクシあんまり好きではありませぬ。ザクロも同様。やはりぱくついてなんぼ。リンゴや梨ばんざい。
1時間後。
「ほーれ、見ろぃ」
どっさり採れたキノコやあけび、栗など、山の幸がずらりとならんだ様に、満足げに沢口は腕組みしてうなずいた。
「おれらにかかればこんなもんじゃ。キノコはきのこ汁な。あと、自然薯は――」
「はいハイはいーっ、たいちょお、たんぱく質がありませーんっ」
沢口の声を遮って吉貞が大声で喚く。
「秋の味覚だけじゃ筋肉つきませーん。プロテインだけなんかもってのほかーっっ。沢口おれは肉食いたいんじゃー」
「安心していいよー」
背後から聞こえたのんきな声に一斉に振り向くと、外見小学生の烈女がたいそう大きな発泡スチロールの箱を抱えていた。
「さすがに動物性たんぱく質は自給自足とはいかんからね。ちゃんと外部に頼んどいたよ。ほら」
「……」
「いっとくけど『コレ』もわたしはダメだから。まあ、鮎みたいに丸焼き?」
「しませんっ」
即答したものがいた。誰あろう、東谷である。
「見よう見まねですが、おれが何とかします。カントク、調理器具はどこにあるんですか」
「校舎のイチバン奥。調理室になっとるよ」
短い返答の後、巨大な白い箱をひきとって、ついてこいとばかりに東谷が早足で歩き出す。自然後を追うことになった面々だが、山の幸をそれぞれ抱え、調理室へ赴く。
外観は廃墟同然の校舎だったが、中は意外にきれいで新しかった。おそろしいことにセンサーか何かで自動的に照明がついたり消えたりする造りだ。完全にイロイロナモノを裏切っている。
内装に口を半開きにしたまま、しかしずかずかと突き進む東谷を放っておくこともできず、残りの七人は驚きながら歩を進める。
そんな中、隣の沢口がひそりとつぶやいた。
「あーあ。ヒガシが今度はキレた」
「東谷が?」
「寿司屋の息子には息子なりの矜持があるんじゃろ」
巧の問いに、沢口はしみじみとした口調でつぶやいた。確かに、いくらなんでも丸焼きは乱暴だ。しかし。
「八匹全部一人でさばけるもんなのか」
沢口はただ遠い眼をした。
この後、巧の素朴な疑問は最悪の形で答えられることになる。
「うまいもの食いたかったら死ぬ気でさばけ!」
もはやセンパイ後輩などという仕切りは存在しなかった。二人一組体勢で部員たちは、全部で八匹の、まるまると太った鮭と格闘することになった。
いくらもしないうちに、包丁と巨大な鮭を片手に、調理室のそこかしこから世にも悲壮な阿鼻叫喚が響きわたったのである。
お寿司屋さんは普通お魚ざくざくとさばかないと思うのですが、サクを切るのはつまんないのでまるっと一匹にさせてもらいました。東谷ならできるって(無責任)。そして生サケ解体はものすごい力作業のはず。ぴったりだこいつらに。(どこまでもヒドイ)
数十分後。
「結局、信じる者は救われる、ってか?」
「それ違う。原田は信じとったわけじゃなかろ。諦めがついとったんじゃろ」
立つのもやっとなくらいの車酔いをひきずった面々を後に、乗った途端熟睡モードに入った巧は、一人元気に運転者の先導について車では入れない細い山道を登っていく。
「どっちにしたってアイツが得したことに変わりないわ。ちくしょう、帰りのバスで思い知れ」
最後尾、地を這うような声で、呪いの言葉を吐いているのは、驚異の車酔いで四回も吐き戻すハメになった吉貞である。足元が怪しいらしく、途中で落ちていた中ぶりの枝を杖代わりにすがりついている。
「おれはもう金輪際絶叫系には乗らん。どんなにカワイイ子がねだってもゴメンじゃ」
その前をいく、吐き戻し2回の東谷だとて吉貞と現状は似たり寄ったりだった。こちらはコメントする元気もないらしい。
他の面々は、かろうじてリバースまではこらえたものの、吉貞の言葉に大いに賛成というところだった。
荒っぽい運転もさることながら、途中から入ったおろち峠も真っ青の山道走行は、部員たちをたいそう消耗させた。遠心分離機の中に入ったらこんな感じかと虫の息でつぶやいたのは豪だったか。
「おい、着いたみたいだぜ」
「……」
前を行く巧が顎で示す前方を見やって、野球部の面々は言葉と顔色を失った。それならガッコでよかったじゃん、という悲痛なつぶやきは誰のものだったか。目の前に広がるのは、山に侵食されるのを待つしかないような、荒れ果てた廃校と思しきそれは見事な木造校舎だったのである。
「って、それは、つまり、自給自足というヤツですか」
「そう。スローライフ、スローフード、もいっちょおまけにスピーディ野球! 幸いこの辺りの山みぃんなその縁者の私有地じゃから、秋の山の幸どっさりとっておいで」
ずだぼろになった部員たちの恨み節などものともせず、沢村はさっさと練習を始めた。しかし移動で時間をとられたので、時間は1時間半。柔軟とキャッチボールをやったところで昼食となった。
そして今の発言となる。
「って、カントク。おれら野球三昧するために合宿に来たはずですけど」
「もちろんじゃよー。けど食事も大事。幸い、お米と炊飯器と調味料だけはあるから、なんなら塩おにぎりでもええよ?」
「……」
「ちなみにワタシは料理できませーん」
「……」
ミソジぃ! と擦り切れそうな低いつぶやきは誰のものだったか。
「わかりました」
と、すいと立ち上がったのは沢口だった。普段はくるくると豊かに変わる表情が、怖いくらいになくなっている。完全に目が据わっている。
「豪、ヒガシ、とりあえずみんな連れて山はいれ。先輩方、豪とヒガシとおれの三つのグループに分けて山入りましょう」
「じゃ、お願いね。お米とぐくらいはやっといたるわ」
にこやかに一人沢村だけが校舎に入っていく。あの廃墟に最初に足を踏み入れるのはゴメンだと思っていた部員たちだが、烈女の強心臓ぶりにさすがに頭が下がった。
「とりあえずキノコは色の鮮やかなものは避けて。あと、栗とかアケビとか、木の実系もあるんで頭上も注意して」
てきぱきと普段からは考えられないくらい迅速に、沢口が指示を出していく。そのあまりの迫力に先輩達ですら、無言でこくこくとうなずくばかりである。
「やばい……ちょっと沢口がかっこよく見える」
失礼な立石の暴言に、すかさず拳をお見舞いしておいて、憤然と沢口は握りこぶしで言い放った。
「ここまでコケにされて黙ってられるかい。あっちがその気なら、受けてたったるわい。意地でも野球しちゃる。山のことならおれたちに任せろや。多角経営農家の息子ナめんなよぅ!」
吠えた沢口を先頭に、三つのグループに分かれた野球部面々は、のんきな秋空の広がる下、一斉に食料確保に乗り出した。
学校お泊り計画は、結局部の短期合宿に落ち着きました。うむむむ無念。クラスメイトな二人を書きたかったのに。
しかしまだはっきりともしないので、果たしてこれからどうなることやら。つか、続きはいつ書けるのやら(遠い目)。……遠くに行きたい。
連休なので、今週末に短期合宿をします、と新田高校野球部監督が宣言したのは、世間で言うところのシルバーウィークとやらが始まる2日ほど前だった。
このカントクの傍若無人さには、この半年近くですっかり慣れたらしく(またその突拍子もない提案が割合に深謀遠慮だったりするので)、1・2年の部員の面々は、さして動揺することもなく、それならと家族にことわりをいれた。無論、高校球児たるもの、連休なんぞあってなきがごとしということを、この春からどの家の面々も思い知らされていたので、突然の提案だったにもかかわらず、波風はちっとも立たずに野球部は秋の大型連休期間を迎えた。
そしてことは起きた。
「か、かんとく……?」
「さーあ連休。さーあ合宿。うんと楽しもうねぇー」
5日分の手荷物を持って、集合場所となっていた新田高校に赴いた面々を待っていたのはなんでかスモークの張ってある小型バスである。しかも運転席は空だ。
「学校で合宿するんじゃないんですか?」
一同を代表して、新部長となった二人いる2年生のうちの一人、メガネが似合う一見インテリの工藤が尋ねれば、満面の笑みで沢村はさっくりと否定した。
「そんなやっすい合宿なんかせんよー。せっかく五日も休みなんじゃもの。有効に使わんと。なに、小一時間もあれば着くところじゃから、心配せんでもどーんと大船に乗った気持ちで車に揺られてなさいな」
「……」
とびきり上機嫌の沢村の言に、吉貞ですらがツッコミを入れられない。ものすごく期待させるような発言しかしていないが、この外見小学生、中身強面のオッサンな烈女に、そんな淡い期待を抱いてはいけないことを、部員は知悉していた。
「あの、運転席にだれもいないんですけど、もしかしなくても監督が運転するんですか?」
豪は勇気を奮い起こして最悪の予想をあえて切り出した。すると天真爛漫な答えが返ってきた。
「もちろんじゃよー。経費削減。ちなみに、合宿施設はワタシの縁者の厚意で貸してもらったとこじゃから、費用は心配なし。食費もいらんよー。ほーら、なんって楽しい秋合宿」
「……今すぐまわれ右をしたいのはオレだけじゃろうか」
「安心せい東谷。ここにいるモン、みんな思っとる」
血の気の失せたような顔面で、かろうじて笑顔のまま東谷と吉貞が低くやりとりをする。しかし烈女はいっこうにそんな部員のつぶやきに頓着することなく、乗車を促す。
「ほらほら。さっさと乗った乗った。車酔いする子はおらんー? おったら運転席のすぐ後ろの席に乗りなさいねー」
言い様、自分はさっさと運転席に乗り込んでしまう。
「……」
「早く乗ろうぜ」
「は、はらだァ」
一瞬その場でかたまった面々を尻目に、一番先に動いたのは、鉄の心臓の持ち主、原田巧だった。
「巧、おまえ怖くないんか」
「怖い云々よりおれは切実に眠いんだよ」
あっさりコメントすると、巧は一番奥の座席に陣取り、とっとと帽子で顔をガードして、寝る体勢に入った。
「おれ原田のとーなり」「ああっ、卑怯じゃぞ立石!」
すかさず好機を狙った立石と、憤慨した沢口が乗り込む。
「……とりあえず、乗ろうや」
「……」
もう一人の2年、新生新田の4番、普段は温厚が服来て歩いているような吉川が促す。それを機に、ようやく諦めのついた残りの面々は、しおしおと市場にひかれていく子牛さながらに、小型バスに乗りこんだ。
数分後。
「★◎#%☆◇――っっっっ!!!!!!」
もはや人語として成立していない叫びの数々を切れ切れに残して、新田高野球部の面々を乗せた小型バスは、とんでもない速度で急発進して走り出した。
ええと、すみません。間に合いませんでまた遅刻。しかも見切り発車で分母が定かではアリマセン。なんつーか、生温かい目というよりも捨て置いてくださると嬉しいです。……そっとしといてください。
意外だったなあ、とグラウンド整備の傍らでつぶやかれ、豪は声の主を見やった。
晩夏の残照はまだ十分に辺りを照らし出しているが、ややもすれば暗闇が支配する時間になる。秋分までの、そんな曖昧な時期だった。
「何がじゃ、立石」
同じくすぐそばで、トンボで休むことなく土をならしていた沢口が声をかける。この新顔は、饒舌ながらもあまり無駄なことはしゃべらない。吉貞とはまた違ったタイプのおしゃべり屋だ。
「原田。随分淡々としてる」
ああ、と何か憎まれ口をきこうとした沢口をさえぎって、豪はうなずいた。そして先ほどの一幕に思いを馳せる。
部活終了間際に、それは沢村の口から正式に通達された。新田高校野球部は、部員数の不足を理由に、秋季大会、ならびに新人戦への不参加を決定した。絶望的な状況を、部員一堂自覚していたし、覚悟もしていたが、やはり走った動揺は大きかった。
「東谷の方が、ちょっとびっくりするくらい、へこんでるよね」
「ヒガシは、いろいろ画策しとったからな」
彼が知己の江藤を獲得するため奔走しているのを、豪は知っていただけに、東谷の必死の尽力が実らなかった無念を思うとやるせない気持ちになった。詳しくは聞けなかったが、東谷の憔悴ぶりからみるに、おそらく今後も江藤の翻意は望めないだろう。
惜しくも準々決勝で敗れたものの、今夏新田高野球部はベスト8という久しぶりの快挙を成し遂げた。井岡が率いて以来の野球部の躍進に、当初は小ばかにしていた他の部の面々も、女性監督に率いられる弱小部と侮る面々も、なりをひそめた。だが、それだけだった。
やはり進学校。急に野球部に惹かれて、または珍しいもの見たさに、とひやかし半分の入部希望者は集まったものの、ものの見事に一週間もたたないうちにそれらは去っていってしまった。
している自分たちに自覚はないが、沢村の立てた「勝つため」の練習メニューは、興味本位で訪れたものには過酷に映ったらしい。
「もう少し、まともに集まるかと、思ってたんだけどな。甘く見てたか」
立石のぼやきは、しかし豪や沢口の心情そのものだった。どこかで甘く考えていた。結果さえ出せば、周囲が動くだろうと。それがおそろしく楽観だったのを、こうして身を持って思い知らされた。
野球は、やはり野球する環境に大きく左右される。
豪は吟味してここだと思い選んだ。しかし。
質だけではだめなのだろうか。
「サワ、ここに来たこと、後悔しとるか?」
ふと沢口に訊いてみたくなって豪は沢口を見やった。そもそも沢口は巧と高校でも野球をしたくて新田を受けた。巧が新田を希望したからで、沢口自身にはまったくといっていいほど新田を志望する理由がなかった。けれど彼は死に物狂いでがんばって追いかけてきた。
それが徒労に終わったとしたら――。
「まさか」
しかし沢口はそんな豪の小暗い懸念を一蹴してみせた。
「部員が揃わんくらいで思うもんか。豪、どっちか言うとおれは日々ここ来てよかったて思いを強くしとるぞ。なんてったってここには筋金入りの野球好きしかおらんからな」
沢口は自慢げにいいきる。
「確かに名門校にも野球好きはいっぱいおるじゃろうけど、そこのどこと比べてもうちは負けん。新田高校野球部は少数精鋭でいいんじゃ」
「それにさー、どっかの名門みたいなとこに行ったら、おれらこんなに好きなことさせてもらえないし。何より、原田と遠くなっちゃうー」
そりゃ困るー、ねー、と妙なとこで気が合う、普段はいがみあってばかりいる二人に、ようやく豪は表情をゆるめる。沢口のこの前向きな思考に、これまでもどれだけ救われたことか。
それに、確かに、部員数が三桁を超える私立の全寮制の野球部だったとしたら、巧はまだしも自分たちは底辺からの出発だ。道程は険しいものになっただろう。
『おれたちにしかできない野球で、今度こそ勝ちたい』
具体的な言葉で聞いたことはない。しかし、それは明確な望みだった。
巧は、試合を取り上げられ、あまつさえエースピッチャーとしての場所まで立石に譲っておいて、実に淡々としたものだった。
3年生が引退し、新体制の中で始動しはじめた今でも、巧の扱いは正投手ではない。あくまで立石の控えとしてだ。ようやくバッティングピッチャーとして投げることはできるようになったものの、それすらもわずかな時間だ。いまだメインは早朝の境内だ。
「……」
思いやって目を細める。
巧の気性は知っている。彼の激しさも、誇り高さも。よく。
それらすべてを押し込めている。ああして、甘んじている。それがどれほどの覚悟のもとでなのか、豪だけは知っている。
意外、などという言葉で片付けられていいものではない。巧が野球にかける思いと同じほどに――。
「永倉?」
「ああ、すまん」
止まってしまった手を再び動かし、各々グラウンド整備に戻りながら豪はひっそり息をつく。
知っている。いや、身をもって解っている。
深夜。
声を殺して、誰にも見せられず流されたもの。
誰より何よりあの優勝旗獲得に貢献したのに、確定した瞬間を巧はベンチで迎えねばならなかった。
だからこそ人一倍彼が望んでいることも理解できた。もともと、それほどまでに甲子園という場所に憧れを持つような初心な性格ではない。
今度こそ自分の手で最後まで投げぬくために。
そして。自分は。
「――」
初秋の暮れなずむ空を見上げる。
他の何を擲ってもいい。
最後までそれを捕るために。
自分は、ここに、巧の傍らに。
居続ける。
「探したで」
馴染みのない、他所のクラスの出入り口一つを陣取って、東谷は低くつぶやく。しかし無駄に広い高校だ。中学と違い、学年にクラスが12ある。一つ一つをしらみつぶしに調べていくのは、結構な手間だった。
8月下旬。
新田高校は夏休みが終わり、夏の気だるい暑さをひきずりながらも、通常の授業が始まった。公立とはいえ進学校だ。早速、小テストの波状攻撃が続き、沢口などは日々苦行にあえいでいる。吉貞は相変わらずのマイペースっぷりだが。
そんな中、東谷だけは他のことに集中していた。これまではかってがつかめなかったのと、そう緊急の課題でもなかったので、忙しさにかまけてなおざりにしていたが、とうとうそうもいかなくなった。
ということで、東谷は夏休みが終わる早々、様々なクラスの教室に顔を出しては、人探しに精を出していたのである。
目的の人物は11組、同じ学年でも校舎の都合で棟が違うクラスにいた。
「江藤」
こちらを見やる、わずかに懐かしい面影を残す顔を見やる。
白っぽい、細面の、神経質そうな顔立ち。ひとえのやや切れ長の目は、冷たい印象を与える。今その双眸はフレームレスの華奢なつくりのレンズごしにこちらを見ていた。以前からそうだったが、やはり豪とは違う印象を受ける「坊ちゃん」だった。
あの頃の面影はわずかに残る。しかし、印象がやや変わってしまった観はどうしても否めない。
「今は江藤やなくて斉藤や」
静かな訂正にわずかに瞠目する。
「ウチ離婚したんじゃ。で、母親の姓の方名乗っとる」
「そうか」
見つからなかったはずだった。結局しらみつぶしになってしまった。
「何で声かけてくれなかったん。サワも豪も、みんなおまえいると分かったら喜ぶぞ」
「は。何歳児じゃヒガシ」
皮肉な物言いは相変わらずだ。が、そこにどうしようもなく荒んだ匂いがして、東谷はわずかに眉をひそめる。
「……そういう顔すんなや。相変わらず身内には甘いなおまえ。別に、どっちでもええよ。けど、おまえらが中学でいろいろあったように、おれにも中学での三年間がある。昔のまんまいうのは、きついじゃろ」
「……」
江藤――斉藤は、広島の全寮制の進学校を受験した。そして新田東には進まず、そのまま広島の地に赴いた。
「いつ、帰ってきたんじゃ」
「今年の春からじゃ。新田受けた。まさか、おまえらまで新田とは思ってなかった」
「……」
そこで言葉が途切れた。いや――訊きたいことは山ほどあった。けれど、どれも立ち入った話だ。踏み込むのは躊躇われた。何故、その学校の高等部に進学しなかったのか、なぜ、新田に戻ったのに連絡をくれなかったのか、何故――。
どうして、こんなにも距離を感じるのか。
押し黙ってしまった東谷に、江藤――斉藤は少しだけ唇を吊り上げた。諦めきったような、哀れむような、寂しい笑みだ。
「おまえの訊きたいことは分かるで。なんで広島にいないのか。答え――離婚した母親だけじゃ、莫大な授業料その他、いっくら養育費受け取ってても、無理があるから。なんで、連絡をいれなかったか――答え、負け犬姿を見られたくなかったから」
「江藤……」
「斉藤じゃ。間違えんでくれ。江藤なんぞと呼ばれるの、けったくそ悪い」
「なんでじゃ。なんで――」
「全中野球で優勝したようなおまえらに、日陰モンになったおれの何が分かる?」
冷ややかな問いは、ざくりと東谷を切り裂いた。
「おまえの言いたいことは、おおよそわかっとる。うん十年ぶりに、県でベスト8の快挙成し遂げた野球部が、いま存続の危機にさらされとるのも有名じゃ。けど、断る」
「何でじゃ。ブランクなんか気にならん。これからじっくり取り組めば――」
言い募ろうとした東谷に、不意に斉藤はズボンをまくってみせた。そしてそのさらけ出された惨い傷跡に東谷は言葉を失った。
「事故でな。……普通に歩く分には支障ないけど、走るのはようせん。当然、文武両道をモットーにしとったあの学校も、追い出されるわけじゃ」
「江藤……」
「斉藤。もう一度言うたる。三年、経ったんじゃ。昔のままを夢見るのはやめい。迷惑じゃし、はっきり言えばムカつく」
「……」
つと、斉藤が時計を見る。
「ああ、ほらもう時間じゃ。おまえも、さっさと部活行け。おれも部活あるんじゃ」
「何部、なんじゃ?」
教室にいったん戻り、荷物をとってきざま、斉藤は何事もなかったかのように東谷を素通りする。
さあな、と聞こえたのが、最後の会話だった。
『地区新人戦ならびに秋季大会 県立新田高校野球部 人数不足のため不参加』
前々から匂わせといた江藤くんとうじょー。……ごめんなさいごめんなさいヒドイ扱いしてゴメンナサイ。今更ですがわかりきったことですが捏造ですモウソウですほらです。許して。
しかしまだまだ暑いです。秋のお話ができませんよう。
「巧?」
ふと気がつくと、先ほどまで東谷に数学を教えていたはずの巧が、席をはずしていた。
沢口はもちろん巧の指導を望んだが、情に負けると東谷が判断し、結局東谷を巧が、沢口を立石が、そしてああだこうだと言を左右し楽をしようとする吉貞に、豪が張り付いて指導することになった。
「原田なら休憩中。おれもうほとんど終わったし」
意気揚々と計算問題を消化しつつ、東谷が答える。以前吉貞を受け持ち、巧が限界まで疲れ果てた前科があるので、今回巧は吉貞だけはいやだと言い張った。ということで、結局豪が見ているのだが。
「あれ、豪?」
「おれも休憩。トイレ行ってくる。ヨシのカテキョしとると賽の河原の石積みの気分じゃ。ヨシ、分からんかったらおれが戻るまでヒガシに見てもらえ」
「ええー。何じゃ何じゃ。原田と逢引か」
「……ふざける余裕があるなら、おれはこのまま巧とキャッチしに行くが」
「あっウソウソ。嘘よう。豪ちゃん早く帰ってきてね。ノブコ首をながーくして待ってるわん」
投げキッスまでお見舞いされて、げんなりと豪は部屋を後にする。
午後に入ってすぐに始まった勉強会は、佳境を迎えている。午後の日差しは早や夕暮れめいた色に移ろおうとしていて、気の早いひぐらしがかすかに遠くで鳴いているのが聞こえた。
「……」
何とはなしに、縁側から細く長い廊下を通って、沢口家の居間に続く一間に足を向ける。以前で言うところの豪農にあたる沢口の家は、一般家屋と比べて圧倒的に部屋数が多い。しかも一間一間をふすまや障子で仕切り、奥行きがあるため、子どもの頃は絶好のかくれんぼ場所だった。
「……巧?」
沢口家の家人の個人スペースを侵さないよう、細心の注意を払って心当たりの部屋を開けてみる。と、ほどなくして裏庭に面した障子戸を開け放ち、涼やかな風が通る一室で、眠りこけている巧を見つけた。
「……」
そろりと近寄ってみると、巧の足元に、イタチのような生きものがうずくまって同じく眠っている。沢口から聞いていたが、これが新しく沢口家に参入したフェレットという生きものなのだろう。沢口父の珍獣好きは相変わらずのようである。
そろそろとそばまで寄って膝をつき、巧と足元のフェレットを見比べる。まったくの無警戒で眠る沢口家のペットに、巧が沢口家をしばしば訪れている様子が伺えて複雑な心境になる。同級になったとて、相変わらず野球三昧で、ろくに個人的な情報のやりとりなぞない自分たちを思い知らされて、少々落ち込んだ。
と、侵入者の気配を察したのか、くだんのフェレットが目を覚まし、むくりと首をもたげて豪を見た。
「しぃ」
見慣れない侵入者に、威嚇しようとしたフェレットを宥めようと、手を伸ばそうとしたその瞬間、不意に巧の腕が足元に伸びてきた。
「ほら」
そうつぶやいて、あっさりフェレットを抱き込むと、宥めるように背をなでて、やがて巧は再び眠りへと落ちていった。
「……」
フェレットは、なおも豪を気にしていたが、巧に撫でられているうちに気が鎮まったのか、巧の腕の中で気持ちよさそうにまたうずくまった。そのそばで膝をついたまま、しばし茫然と豪は息を呑んで固まる。
が、巧の寝息が規則正しく聞こえ出すと、ゆるゆると息を吐いて全身の力を抜いた。そして、そっといざって巧の枕元に座りなおすと、フェレットを抱えたまま再び眠りについた自分の投手をしみじみ見つめた。
こんなところも、巧は変わったのだろう。以前だったら生き物全般を厭い、避けてきた巧なのに、こうしてちいさいものすら懐に取り込んでしまえる。それは、紛れもなく、自分たちが共にしてきた年月の重なりを表しているようで。
「……」
それを喜ぶ自分と、ほんの少し惜しむ自分が存在する。
花がほころぶように、樹が実をつけるように、ゆるやかに豊かに変わっていく巧が鮮やかで嬉しい。新田に馴染み、自分たちと馴染む確かな証に思えて、幸せな気分になる。そして。
ほんの少し、寂しい。
孤高のマウンドのエースは、初めて会ったときから、豪にとって絶対的な憧れの対象だった。揺るぎなく強く、焦がれてやまない、手が届かない遠い存在。
どちらも巧だ。分かっている。
吉貞あたりには、絶対視が過ぎると顔をしかめ呆れられるが、初めて目にしたときの、一目ぼれに近い衝撃は、なかなか豪を解放してくれない。
ただ。
「……どっちも、おまえじゃものな」
かすかな吐息だけで、ごちる。
どちらも呑むと、約束した。
青波と、野々村と。そして、他ならぬ自分自身と。そうでなければ、向かいには立てない。絶対視し、崇めるだけでは、あの稀有の球は捕れないのだ。
野球をする巧と、していない巧。
少しずつ、巧の変化と同じくらい少しずつ、重ねていけたらと思う。自分の中で。できるだけ穏やかに。
巧の涙は、正直だれのそれより応えた。去年のあの秋の夜、豪の拒絶の言葉に、ずっと傷ついていた巧を知ってものすごく驚いたのと同時に、ひどい罪悪感に打ちのめされた。巧があんなにも傷ついているとは、思ってもみなかったのだ。そしてようやく、野球をしていない巧と向き合うことを考えるようになった。
だから。
たくさん、時間を重ねていきたい。
もっともっと、巧を知りたい。巧のすべてを知りたい。知っていきたい。
「……」
豪は微風にかすかにそよぐ、巧の人より色素の薄い髪をそっとなでつける。巧の眠りは深い。目を覚まさない。
だから。
もう少し、このまま。
豪は、午後の遅い日差しを映す、裏庭の池に目をやる。それから。
祈るように、静かに瞑目した。
完全遅刻です。面目ない。……だって、秋の話を用意してるのに、ちっとも涼しくならないのだもの! なんつー暑さだ気象庁! ということで、ほんとは秋の学校お泊り行事を企画していたのですが、あえなく潰えました。急遽流用してこしらえた夏休み編です。ヘンなところはご容赦。
夏休みの終盤、わずかにもらえた午後の休みを使って、新田高校野球部員1年生の面々は、そろって宿題を片付けることにした。
「へー。ここが沢口ん家かぁ」
感心したように周囲を見回しながらつぶやく新参者は言わずと知れた立石で、あとの面々は勝手知ったる沢口宅である。広さと涼しさという観点から、集合場所が沢口宅に決まったのは自然の成り行きだった。
初めて訪れる立石を駅前で吉貞がひろい、途中で東谷が合流し、最後に巧と豪が加わって、総勢5名での訪問となった。
成人男性なみの体格をもつ豪や立石を含め、高校生男児が何人も押しかけるかたちになったが、さすがはスケール規格外の多角経営農家の沢口宅。ふすまを取っ払い、茶の間と座敷の二間を開放すれば、そこは6人でも広々とした自習空間となった。
「まったく。おれは原田と勉強しようと思ったのに」
あからさまな巧びいきを標榜する沢口は、全員分の麦茶とよく冷えたスイカを盆にのせて運んできて不平をもらした。
「まあサワ。そう言うなや。実際のところ豪や立石がおらんとお手上げなのが現状じゃ」
「はいはーい。おれほぼ全教科得意でーす。総合点では永倉に負けるけど何でも教えられるよ?」
東谷のとりなしに、すかさず立石が自分を売り込む。素性がばれておとなしくなるかと思いきや、相変わらず強かだ。
「で、今回はおれとヨシとサワが、マンツーマンで数学教えてもらえるちゅーわけだ。ならサワの当初の望みとそう変わらんじゃろ」
「そっか。ヒガシ賢いなぁ」
単純に言いくるめられ、沢口はあっさりと不平をしまいこんだが、高校でも策士っぷりを遺憾なく発揮しつつある東谷は、実際誰が誰に教えるのかは言及していない。東谷の思惑を読み取った豪は、ますます磨きのかかる東谷の腹黒さに、つかの間遠い目をした。
「そんなことよりも英語じゃ英語! 読解も文法もまるでお手上げじゃ! 数学は後回しで英語頼む」
一人危機的状況なのは吉貞で、英語・数学が白紙状態という強心臓に、一瞬他の全員が息を呑んだ。
「――じ、じゃあまずそれぞれ終わってない科目から洗い出そうや。数学――と、なんじゃ巧もか」
「最後のページだけだ。すぐ終わる」
豪が音頭をとって進行指針を定めていく。最初は日本史ということでみなの意見が一致した。一番みなの進捗状況に差がなく、簡単に終わるとみられるものから始めていく。
予定通り日本史は30分ほどで終わり、次に理科Ⅰが開かれる。
「メンデル、ヘンデル?」
「ヘンデルは音楽家じゃ」
たまに地味な会話がなされ、意外にもさくさくと課題は消化されていく。
県でもそこそこの進学校だ。中学時代のような無茶はきかない。となれば、重い体をひきずり、眠い目をこすっても最低限の課題の消化は必須だったのである。
「次、古典は?」
「あ、おれまだ」
東谷だけが豪の家庭教師の下、課題を消化していく。他のものは一足早く次の現代国語に移行する。と。
そこで少々の波乱があった。
「ええ? 原田、現国終わっとるんか」
隣に陣取った沢口が頓狂な声を上げる。これが吉貞あたりなら、罵詈雑言の十や二十、簡単に付録してくるのだが、沢口にとことん甘い巧は、肩をすくめただけだった。
「ほう。巧、がんばったなぁ」
東谷の古典を見ながら、豪が素直な賞賛をもらす。現代国語だけを入学当時から毛嫌いし、赤点スレスレの低空飛行を維持している巧の現国の成績を、同級として知っているだけに、現国の課題をすべて終えているという快挙に、本当に驚いていた。
「実力だ」
対する巧の返答はにべもない。しかし、斜向かいで吉貞が低い笑いをもらした。
「ふふん。何が実力じゃ。おれさまはちゃーんとおまえの不正を見抜いとるぞ。原田」
紙面から顔を上げ、不敵な笑いを浮かべて吉貞は涼しい顔をしている巧をびしりと指さす。
「原田弟の最近の読書の中に、この『舞姫』が入っとった調べはついとるんじゃ。さてはおまえ弟に課題やらせたじゃろ」
相変わらず吉貞青波間のホットラインは健在のようである。しかし巧は冷笑した。
「あほか。これが青波の字に見えるかよ」
そう言って広げられた紙面には、確かに巧の字とおぼしき、少々固めの整った字で答えが記入されている。解答も、かつてのような採点者泣かせの素っ気ない一行解答ではなく、しっかりとていねいな解答がなされている。
「……そんなはずはない。おかしいじゃろ。普段ほぼ白紙のおまえが、何でこんなにできるようになったんじゃ」
「だから言ったろ。実力だ」
「んなわけあるかい! つーか、じゃ何でおまえの弟がチューガクセーのくせに舞姫なんつー小難しい話を読んどるんじゃ」
「さあな。読みたかったんだろ。けど、確かに青波が読んでて得したな。主人公の医者のおっさんの気持ちなんか分からないってぼやいたら、青波が分かりやすく解説してくれた」
つかの間、沈黙がおとずれる。そして、しみじみと立石がつぶやいた。
「……原田の弟、単身ドイツに医学留学した妻子もちの孤独を理解しちゃうんだ」
「うん。あいつの説明、現国の教師よりよっぽど分かりやすくていいぜ」
読書量が尋常ではないとはいえ、おそるべき中学1年生である。
「これはあれじゃな。豪」
「ああ……」
こっそり机の反対側で、新田高校次期正捕手と遊撃手の間で確認がなされた。すなわち。
原田家の次男は、あいも変わらずお兄ちゃん大好きっ子であるらしい。
おまけです。……ごめんよ、高校野球見てたら少しだけ試合風景入れたくなったのさ。野球の知識云々に関しては、今更ですが不問に。やっとスライダーとフォークの握りの区別がついたようなヤツなんで。とほほ。
試合は、海音寺の目論見どおりに進んだ。
1回表をしっかり押さえ、1回裏、相手得意のスライダーをカットし、ストレートにしぼって塁に出ることを優先した。得点は1点止まりだったものの、球数を稼ぎ、守備面のほころびを見るには十分な結果だった。
「サードが穴だ。サード方向に転がせ」
相手の弱点は速やかに全員に伝えられる。
2回裏、またも新田高校はランナーを出した。ノーアウト1・2塁。
ベンチは穏やかなものだった。様子見、と宣言したとおり、沢村は特にサインを出すこともせず、静かに試合の行く末を見守っている。
ただ、ベンチに残る1年生部員にちょっかいをかけることだけはやめなかった。
「さて、ここで問題。ノーアウト1・2塁。下位打線に入ってる。次は当然パントじゃよね。一体何球目でバント?」
「えーと、初球?」
「はずれ。ヒント出とるじゃろ」
ええー、だの成功すれば何球目でもいいじゃろカントクーだの沢口や吉貞はにぎやかなものだが、豪はスコアをつけながら、自分だったらどうするかと考えてみた。
初球は振らない。
どうせアウトカウント一つやるなら、せめて球数を放らせて相手投手の疲労を稼ぐ。
「……」
視線を感じてスコアブックから顔をあげると、沢村がしたり顔でうなずいていた。お見通しか。
「バント一つだって無駄にはできんよ。ウチは。こんだけの人数しかおらん。効率よくやってかないかん。だとしたら?」
分かった! と元気のいい東谷の答えが返る。
和やかなやりとりの中にも、強かな先を見据える目の強さに、豪は軽く感動を覚える。
望むなら、もう少し野球の強い高校だってあった。はじめから巧を主力投手陣の一人に加えてもいいとまで言った学校だってあったのだ。
だが、間違っていなかった。多分、ここで捕まえられる。自分たちがずっとずっと追い求めてきた「野球」を。
巧が望む、本当の意味での自分たちの野球を。
「やったー、1点追加じゃ追加!」
バントはしっかり決まり、次に難なくスクイズを決めて新田は下位打線でも追加点をもぎとった。なおもランナー3塁。
ツーアウトながら1番にまわる。好機だ。
「じゃ、ここは?」
エンドランじゃろ、と強気に吉貞が断言すれば、いやもいっかいスクイズで決まりじゃ、と沢口もひかない。
「原田くんはどう?」
別に、と言いかけて沢村の投げるだけでいいんかいと言わんばかりの視線に、巧は軽く唇をひき結んでしばし考えた後、答える。
「バスター、かな」
「なんじゃタクちゃんせこいぞぉ」
「吉貞くんうるさい。うん。それもあるね」
沢村が肯定しざま、スクイズの構えから一転、1番の3年生村松がバットを振りぬいた。
低いあたりながらショートの頭上を越え、センター手前へと転がった。
「よっしゃあ!」
注意されたことなど忘れて、吉貞は歓声をあげる。追加点とヒットへのかけ声をかけ、それからくるりと沢村に向き直った。
「で、ホントの答えは何ですかカントク」
「どれも正解じゃよ」
穏やかに沢村は告げる。
「エンドランでも、スクイズでも、次の一手を間違わなければ有効じゃよ。今はバスターじゃったけど、流れいかんではそうできない場合もある。打者や投手がだれかによってもね。大事なのはいろいろな手を考えついて、できればそれぞれの利点を考え合わせて打席に臨むこと。あんたらにはそれができるようになってもらわんと」
沢村の言葉に沢口が顔を引きつらせた。
「そんなん考えながらじゃ、ロクなもん打てません」
「あほなこと言わんの。打ってもらわないかんのよ。じゃから、練習のときあれこれいちいち細かく指定入れるんじゃろ。何のためかよく考えて今度から打ちなさい」
何か数学なみに面倒じゃー、という吉貞の地を這うようなつぶやきは聞き流して、沢村は打席でカットを繰り返す2番打者を見やる。
「かけひきかて覚えてもらうよ。高校の投手相手になれば、球種も増えてその投球は中学とは段違いに多彩になる。苦手な球も出てくるじゃろ。好き嫌いなく打てればいちばんいいけど、シンカーなんかはそうもいかん。そしたら、シンカー投げさせられないようなバッティングすればいいんじゃ」
「はあ」
その瞬間、やはり金属音が痛烈に響いて、打球がライト方向へと飛んだ。
「ち、スチールせんかったね」
渋い顔で沢村がうなる。それを見て東谷が、打つだけでなくて走るほうも考えんといかんのかあ、と感慨深くつぶやいた。
「こんなオオアジなチーム、盗塁し放題じゃもの。やれることは全部やらんと。特にウチは大して飛ばせる子はいないんじゃし」
沢村の言葉に1年生は顔を見合わせた。確かに2・3年生の中で長打を放てるメンバーは限られている。
「それもか」
いつの間にか豪の傍らに腰を下ろした巧がちいさくつぶやく。目顔で尋ねると海音寺さんが、と言葉を続けた。
「足で稼ぐ、って言ったのは、自分のチームの長所を緒戦でしっかり生かしたかったからなんだろうな、って思ったんだよ」
「そうじゃな」
海音寺ならば今日の作戦にいくつものねらいを含ませることなど朝飯前だろう。策士はますます策士のようだ。
「おれたちの代はそんなの心配しなくていいからね、原田」
離れたところから立石が会話に割って入る。わざわざ身を乗り出して巧ににじり寄った。
「おれが打つからだいじょーぶ。小技も長打もなんでもござれの4番になるからね」
「待て待てぃ。何で原田に言うんじゃ。しかもそんな原田に顔くっつけんな。おまえはヨシの隣で応援しとれ」
ひきはがすように沢口が立石を押しのける。そのままつかみあいに発展していく二人を見て、沢村がしみじみとつぶやいた。
「野球学習の前に、まず『みんななかよく』なんつー保育園児並の説教かまさないといかんとしたら、道は遠そうじゃねぇ」
らしくもない慨嘆に、豪と巧は顔を見合わせて、巧は肩をすくめ、豪はひっそり笑うにとどめた。
「今日の相手緑ヶ丘高校は部員数20そこそこ。春の大会は3回戦までいっとる。注意しないかんのは、3、4番。4番はぶんぶん振り回すタイプじゃから、コントロール気をつけて。けどここは、足はないよ」
「3と4で分断すればいいわけですね」
「そ。コントロールさえ失わなければそう怖いことない。緑川くん、失点2までね。いい?」
沢村の言葉に先発の緑川が言葉少なに了承を返す。そして向き直ると今度は全員に向けて沢村は告げた。
「エースは右腕の変化球投げ。スライダーがいいよ。打たせて捕るタイプじゃね。さあ、どう料理する?」
「てことは守備がいいんですよね。なら、足で崩します」
海音寺の強気な言葉に、女子小学生なみの童顔監督は不敵に笑う。
「わざわざあっちの得意分野で勝負するてこと? 強気じゃね、キャプテン」
「緒戦です。勢いつけたい。地力が明らかに劣っているわけじゃないし、できないでしょうか、監督」
海音寺の問いに、ますます笑みを深めて沢村はうなずいた。
「緒戦じゃもの。慎重にいきたいとこじゃけど、勢いつけるのは肝心じゃね。なら、3回まではいろいろしかけてごらん。それで崩せたらよし、だめなら策を変えよう」
はい、と全員そろった返事をして打ち合わせは解散となる。レギュラー陣はグラウンドへ散って行った。1年の他の面々も、グラウンドの見える位置までダッグアウト前方へ乗り出す。沢村は、最後まで奥に残っていた豪を見て、いたずらめいた表情を浮かべた。
「不服そうじゃね」
「まさか。ただ、今までとの違いに驚いているだけです」
中学では、監督の指示が絶対だった。それでも戸村は随分自分たちに任せてくれるようになったが、大切な試合はやはり彼が采配を握っていた。
「春の大会、何で2回戦どまりじゃったと思う?」
「……6回裏の強攻が、決まっていれば勝てました」
くすん、と鼻を鳴らすようにして沢村が笑った。
「そうじゃね。強気にいってタッチアウトされた。残念じゃった。でも、あれはあれでよかった」
――明らかにあれは3塁コーチャーの失策だった。当人自身も随分落ち込んだが、ようやく新田高校として出ることのできた初めての大会、周囲も随分落胆した。
それを、沢村は是とするという。
「負けてよかった、いうのは語弊があるけれど、でも、あれがあって、レギュラーたちは甘さを拭えた。この夏は、ああアッサリとは負けんよ」
自分に都合いいことばかり考えたらいかんのよ、と。
野球が楽しいだけではいけない、もっとうまくなりたいだけではだめなのだと。
楽しむために、うまくなるために、自分たちに必要なものを考え始めようと。
「ちゃんと、やることやってたら、力はつく。うまくはなる。けど、それを生かすための勝負強さだけは、試合でしか身につかない」
相手のことを考えて考えて、一歩も譲らない気迫。それこそが。
「試合は水モノて言うけれど、そんなん世迷いごとじゃ。甲子園決勝あたりまでいけば伯仲したもの同士、水モノになるかもしれんけど、地方の予選辺りで番狂わせが起こるのは、単なるあほ。潮目を読めん愚かモンの負け惜しみじゃ」
「はい……」
辛辣だが、沢村の言いたいことは何となく分かった。
軟式ではあるが、2度、全国まで勝ち上がった。経験の中で、試合の流れを鋭敏に感じ取り、流れを変える予兆のようなものの気配を、確かに感じ取ったこともあった。そのときは、不確かなものでしかなく、感じる程度のものであったけれど。
「永倉くんにスコアつけてもらうのは、その練習も兼ねとる」
そこで沢村は声を低め、ほとんど唇の動きだけで語った。
「次期は、守備あんたに任せるつもりじゃ。原田くんの球があれば、データ次第でいろいろしかけられるじゃろ」
無言でうなずく。と、不意に表情をひきしめ、沢村は早口で告げた。
「わたしはきっと攻撃で手一杯になる。おそらく、中学時代のあんたらのデータあたり、強豪校なら朝飯前で手に入れてくる。がらりと変えることなんか不可能じゃし、マークされとるの承知での打撃覚えてもらわんといかん」
全国レベルいうのんも、嬉しいけど困ったもんじゃね、と最後に苦笑をこぼして沢村もダッグアウト前方に向かって行った。
それを見やり、視界に映った数メートル先で白く輝くグラウンドに、豪は目を細める。
巧の球を捕る。ただ、それだけが願いだった。
いや、今でもその究極の願いは変わらない。だが。そのために、やらなければならないことが、どれほどに多いか。
あの頃は、考えもしなかった。ただ、ただ、あの白い球に焦がれ、求めた。それだけでよかった。
上を目指せ、と。
春浅い3月、去る方なのに豪に餞をくれた人がいた。捕手として、今でも尊敬する一人だ。
彼の言葉が今の自分を生かす。
巧が、彼の投手が、最高の環境で最高の球を投げるために。それを受けるために。
求められるのは捕手としての力量。試合を組み立て、守備面での流れを作る。相手側の思惑を読み、それを裏切り、ときに利用し、試合の主導権を握る。
上等だった。望んだ修羅だ。巧の球を捕り続けるという、自らの技量の限界を試す、はるけく険しい断崖の道程にいかにも似つかわしい。
「そんなとこで何暗く考え込んでんだ」
不意に声をかけられ、我に返った。巧が少し唇を引き結んで豪のいる奥をうかがっている。
「何もありゃせん。今日の試合の流れを予想しとったんじゃ」
言い様、彼の傍らに立つように前へと向かう。グラウンドでは、海音寺たちがボール回しをしていた。こちらが後攻。果たして吉と出るか凶と出るか。
試合前のやりとりでは、相手はずいぶんと大らかな印象だった。転じて辛口に評せば、何も考えていない感じの。
なら、派手にいけばいい。表を無失点に押さえ、裏でせいぜいひっかきまわす。
豪も海音寺の策に賛成だ。油断と強攻は違う。今日はしかけてみるべきだった。
「さあ、始まるよ」
ベンチの柵に乗り上げるように、ちいさな身体を思い切り乗り出し、腕組みして沢村が告げる。声音の中に隠しようのない高揚がにじみ出ている。
これからだ。
豪もベンチに腰掛け、書きかけてあったスコアブックを広げる。
始まりの夏は、変わらず暑く、まぶしく、そして心躍る夏だった。
夏が来た。
グラウンドで思い切り夏の日差しを浴び、新田高校1年、野球部員の吉貞伸弘は腰に手を当てふんぞりかえった。
「くーっっっ。いよいよこのヨシ様のでびゅうじゃ! 待っとれ甲子園」
いや誰も待ってないから、ソイツはほっとけそれより荷物、と新田高校ベンチ側は吉貞ただ一人を除いて慌しい。
いよいよ、待ちに待った夏の大会の緒戦が間もなく始まろうとしているのだ。
マネージャーなどというご大層なものが、人数ぎりぎりの部に存在するはずもなく、仕方なく部員全員でのやりくりである。
「ヨシ! さっさと手伝わんか」
とうとう業を煮やして1年の代表である沢口が喝を入れた。大量の氷が入った袋を片手に、普段は愛嬌のあるくりくりとしたどんぐり目を三角に吊り上げて怒る。
「沢口」
「ん。原田頼む」
傍らでペットボトルのスポーツドリンクを注いでいた巧が促す。
あうんの呼吸でもたらされたのは硬球。
巧が手首をきかせ、馬耳東風の吉貞の後頭部めがけて放とうとしたその瞬間、大きな手がかすめとって同じく絶妙のコントロールで吉貞の後頭部に投げつけた。
「ぁだっ――」
大きく前に倒れこんだ吉貞には目もくれず、あっけにとられる巧と沢口を見やって、にこやかに告げたのは誰あろう今年の控えを任された立石である。
「だめだよ原田。こんなとこで迂闊に投げたら。どんな些細な情報漏えいもイノチとりになるからね」
「……あれくらい」
「だめなのものはだーめ。て、カントクも言うよー。何よりほら、奥サンが怖い目してこっち見てる」
ダッグアウトの奥で、本日のスコアつけを任された豪が、立石の言葉通り渋い顔をしてこちらを見ていた。巧と沢口が見やったのに気づくと、小刻みに首を振ってちいさく指でバツを作った。
「……ほんま、徹底しとるのう」
あからさまな秘匿に、言葉では理解していたものの、実際に目にする機会の少なかった沢口が感嘆とも嘆息ともつかぬつぶやきをもらす。
とうとう、夏の大会が始まっても巧は校内で一度も投げることをしなかった。
監督の沢村から、既に宣告されていたこととはいえ、これまでずっと巧の投げる球を見てきた沢口や東谷などの面々においては、なかなかに信じがたいことらしかった。
「確かに今の段階でも原田ならそこそこいいとこいくだろうね」
苦笑気味に加担している一味の立石がとりなす。
「けど、ホンバンまでとっとこう、そしてどうせなら徹底的に、っていうカントクの言葉も、おれは分かるしどっちかというとそれに賛成」
高校野球は、中学までのそれとはケタ違いの情報戦になる。強豪校はもちろん、注目選手には早い段階からマークがつき、徹底した分析がなされる。
球種、球速、球威はもちろん、配球ペース、くせ、まるで解剖学か何かのように事細かに分析されてつまびらかにされる。それを沢村は嫌った。
中学時代全国まで勝ち上がった本格派の投手だ。無論、県内で巧は有名選手だった。その巧をあたかも故障もちか何かのように扱い、沢村は一度も投げさせなかった。極力、人の目を避けた。
姑息と言われようと秋までできる限り巧に関する情報を集めさせないつもりらしかった。
「原田は? それでええんか?」
沢口の気がかりげな視線に軽くうなずく。それを承知で入った学校だ。中学1年の夏とは違う。何より。
「――」
奥で自分たちを静かに見つめる自分の捕手に視線を返す。
豪の焦燥すら呑んで貫いた我儘だ。決して中途で投げ出したりしない。
「ちょーっと。シンセイな球場で何いちゃついとんじゃそこのばかバッテリーは」
立石のケンセイから復活したらしい吉貞が、あらゆるものをふみしだく勢いで、ようやくダッグアウトの中に戻ってきた。
「……吉貞の、こういうとこ、ほんとオレ尊敬する」
「言いたくないけど同じくじゃ」
ぼそぼそと傍らで立石と沢口が憮然とした表情で何事かを言い合っていたが、巧はそれには頓着せず、相変わらずうるさい吉貞を邪険に追い払う。
「戻ってきたんならさっさと働け。東谷のとこ行ってもっと氷もらってこい」
「誰かサンたちがアチチですぐ溶けるんじゃろ。あー、やだやだただでさえ暑苦しい夏だっちゅーに」
そこへちょうど東谷が氷の袋をぶら下げてやってきた。
「氷もってきたぞー。残りは後半な。そろそろ集まれてカントクからのお達しだ」
ベンチの準備はあらかた終わった。東谷の声に1年生は全員そろって立ち上がる。
「さあ、いよいよじゃな」
沢口が興奮を隠しきれないようにガッツポーズを作る。その肩をなだめるように叩いて、巧はダッグアウト奥、控え室のさらに奥を目指した。
いつものような試合前の静かな興奮は満ちてこない。代わりに、密やかな熱気をまとった期待感が身体を押しつつむ。
出掛けに祖父に言われた言葉。
『たんと味わってこい』
何を、とは問わなかった。ただ、答えはこれから出ることを確信していた。
果たして、どれほどに違うというのか。存分に自分に知らしめてみるがいい。
試合は、もう間もなく始まろうとしていた。
ということで、いよいよ1年目の夏です。巧さんがベンチ。なんつー恐れ多いことを。でもウチのはそうなんです。ごめんなさい。
さて、ホンモノも始まりましたね。今年はどこが勝つのかな。がんばれ高校球児!