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言葉の仕組みを暴きだす。ふるい言葉を葬り去り、あたらしい言葉を発見し、構成する。生涯の願いだ。

『華麗なる一族』/感想

2010-04-17 19:29:29 | 読書
山崎豊子氏の『華麗なる一族』(新潮文庫、上・中・下)を読みました。日銀とか銀行の姿が書かれていると聞き、ブックオフで探しました。銀行って、チケットとかメガネみたいなものですよね。この経済システムという舞台を見るためには、欠かすことができません。ですが、役割となると、サラ金みたいな金貸し業者くらいにしか理解していない人が多いのでは。貯金もできない、おれだけ?


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万俵(まんぴょう)一族を率いる当主であり、阪神銀行の頭取でもある「万俵大介」を中心とした群像小説。直接には、万俵一族が「華麗なる一族」でしょうが、この小説を、明治維新以来の日本に形成された華麗なる一族たちの競演、と読むこともできなくありません。

さし迫った金融自由化のため、大蔵省の監督下にあった日本の金融界に、吸収・合併の嵐が吹き荒れようとします。時代は違いますけど、小泉・竹中両氏が「構造改革」と叫んだ政治路線です。市中銀行の第9位に甘んじる阪神銀行も、この流れから例外ではなく、大蔵省が考える合併案のコマとして使われることが、万俵大介の耳に漏れ伝わってきます。

これが直接の動機になって、万俵の胸に巨大な欲望が渦巻いていきます。対等の合併ではなく、小が大に喰われる吸収・合併でもなく、まさに小が大を呑みこむ、壮絶な野望が。ですから小説は、万俵大介が中心というより、万俵大介の欲望を中心に展開していきます。

ターゲットにした大同銀行を罠にはめ、その頭取だった三雲氏を落としいれるのですが、野望実現のために、なんと自分の長男、万俵鉄平が経営する鉄鋼会社すらも倒産に追い込んでいくのでした。しかし、万俵大介の欲望も、また。


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地球上のどこであれ、語りすぎはタブー。ですが、鉄平を追い込んでいく山崎氏のタッチは絶妙でした。サテンで読んでいた読者は、歯を食いしばって、流れ落ちてくる無念の涙に耐えていました。失恋したところと思われるのが嫌で。

これを山崎豊子氏が執筆された意図までは、わかりません。いろんな読み方が可能だし、そのうち幾つかは想像できます。とはいっても、戦後、自民党政権下で行なわれてきた政・官・業の癒着システムが、くっきり浮き彫りにされていたのは驚きでした。





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