會津八一が初めて上梓した歌集『南京新唱』。
『なんきょうしんしょう』と読む。南京は中国の都市南京(ナンキン)ではなく、南京=奈良を詠った新時代の和歌という意味が込められていよう。南都北嶺という言葉も思い出す。
拙宅の南京新唱の奥付には、三版とある。
また作者は秋草道人とある。艸の活字が無かったようだ。本来ならば「秋艸道人」(しゅうそうどうじん)としたかったはず。
初版と二版は存在しないので、はなから三版を発行したという。そんなおかしなことをする程、八一は無名だったのか…
しかし坪内逍遥、櫻井天壇、吉江孤雁など錚々たる文士が序文を連ねており、また作品も八一の代表的な歌ばかりなので、作者の自信も伺えるというもの。
大正13年のクリスマスに発行された本書は和歌史に残る不朽の名著だろう。
僅か800部しか刷られなかった本書を眺めていると、当時の雰囲気が伝わってくる。巨匠が絶大な自信を持って密かに作品を世に敷くといった趣だ。
『南京新唱』の全文は、早稲田大学古典籍総合データベースでご覧になれる。
『南京新唱』