061:奴 船底で死んだ奴隷を夜の海に投げるみたいに辞表を出した 074:あとがき かみあとがきれいに残った首筋を宮下ならばどうしただろう 071:褪 窓際にいつづけたんだ 三木さんの社員証だけ褪色してる 014:接 泣きそうなときは倉庫の片隅で接着剤を嗅いだりします 003:公園 夕焼けの公園で営業二課の加藤が鳩になっていました |
出される辞表として最も適切なすがた。
死んだ奴隷を夜の海に投げるみたいに。
生命をなくした乗員は投棄するしかない。
荷物になるからだ。衛生上もよろしくない。
なによりクサっていく同乗者を見るのは、忍びない。
仲間は、だらりと海を漂って見えなくなり二度と回収できない。
関わりを無くした仲間は仲間でなくなり、事態は自分の手には負えなくなる。
放り出した辞表は、奴隷であったかつての自分自身の身代わりだ。
ひとつの社会的な死。そして解放。
死体は暗い海の底を目指すが、魂は海上の遥か上方を漂っている。
それまでの奴隷という身分と、乗っていた船を同時に自ら捨てるのだ。
受理されるかどうか、それにすらもう関心は無い。
怒りと悲しみが伴うのは、その船に未練があるときのみ。
遺体は捨てられたと同時に忘れられ、船もまた同じなのだ。
積載に適した船荷かいつもいつも試され試されして私たち 理阿弥