逆張りして何を書きたかったのかよく分からなかった。
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歳の離れたいとこはまだ中学生だった。たまたま遊びに来ていて、国語の宿題をやっている。自分の美しいと思った景色について作文を書けというような内容だった。別に俺の課題ではないのだし、真面目に考える必要はないけれど、ふとそのテーマを聞いて脳裏に閃いた光景があった。景色とは違うけれど。
俺のタバコを吸おうとして、咽せ返った恋人の不慣れな仕草だ。
ぎこちない指が、ただタバコを摘み、未知の味に警戒して、徐々に迫る火に怯える。咥えた途端に咳き込み、まぬけなツラを晒す。
どこからどう見ても、美しさには縁遠かった。洗練されているとも思えなかった。
何故あれを美しいと思ったのか。もっとあるはずだ。ベタに、溢れんばかりの笑顔だとか。日焼けした肌に汗の滴る姿だとか。他に"それらしい"場面はたくさん目にしたはずだった。
何故だろう?何故、彼はあんな真似をした?彼はタバコが嫌いなのに。
何故、俺はあの姿を美しく思った……?
俺はほんのりとサディストなのだろうか、とも考えてみた。だから苦しがる様に惹かれた?
ふと我に帰った。いとこの作文は進んでいた。登山の話をしていた。父親と登った、少し難易度の高い山から見た風景のこと。
新たな閃きが起こる。俺は山登りはしない。ただ苦労したから得た景色が美しく見えたという文面に何かが引っ掛かった。
俺はタバコをやめていた。
あのぎこちない手付きを見てしまったときに、何か強烈な印象があった。もう吸えないと思った。吸わなくていいと思った。身体に未練は遺れども、目蓋の裏にはあの光景が張りついて。
『さっきコンビニで、同じ匂いがしてさ、呼んだら人違いで、すっげぇ恥ずかしかった』
【没】
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タバコの匂いがその人の代名詞になっちゃうよな~という話にしたかったけど繋がらなかった。