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没【m】お題「脱皮」【えちぅど】

お題「脱皮」

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 ヘビの脱皮は、脱いだほうに実体がある。けれど俺の場合は?
 俺の実体はすでに焼かれて灰と化した。物質的なものがあるとしたら、骨だけ遺して墓の下。

 いいところだけ見せていたかったのに、そんな、身体の中、骨まで見られてしまうなんて。俺は気障(きざ)だから。好きな人の前ではかっこよくありたい。いいや、好きな人の前でだけじゃない。好きな人ができたときから、俺は俺の中に俺という審査員を飼っていた。彼に相応しい男か、俺は、と。常に問いかける。


 もう遺灰も見られて、骨も見られて、あとは、何を見られて戸惑うのだろ?

 彼に霊感というものがあれば、感動の再会といえたのだろう。けれど生憎、彼にそんなものはない。
 声を聞かせてやることも、肩を叩いてやることもできない。やれたとしても気付かない。

 墓場で泣いているわけだ。彼は。俺という存在はそんな大きなものだったのか、と喜ぶべき局面か?彼の胸に大きな穴を空けておいて?そういうふうには考えられなかった。
 柵(しがらみ)を作ってしまったと思った。結果論でしかないけれど。俺だって、こんな早くに死ぬものとは思っていなかったんだから。
 
 泣かせて怖がらせて不安にする。そんな恋愛に何の意味があるのだろう?そんなならやめちまえ。
 傍に居て、泣き止ませてやれないなら。
 後悔がある。彼を遺して死んだことに?彼と付き合ったことにだ。

 
【没】
 見切り発車で着地点が見えなかった。



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