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黄道十二無用の用

学会員お断り

千恵子抄

2016-12-31 18:29:19 | 千恵子抄















私達の最後が餓死であらうといふ予言は、
しとしとと雪の上に降る霙まじりの夜の雨の言つた事です。
千恵子は人並はづれた覚悟のよい女だけれど
まだ餓死よりは火あぶりの方をのぞむ中世期の夢を持つてゐます。
私達はすつかり黙つてもう一度雨をきかうと耳をすましました。
少し風が出たと見えて薔薇の枝が窓硝子に爪を立てます。


検索用・片山千恵子


まりこ様とかいうのが消えてなくなったのがしあわせニュースですね
来年にこの番組程度の番組に出られなくなる人たちがいるというのがしあわせニュースです

千恵子抄

2016-12-25 10:35:17 | 千恵子抄


















冬の朝なれば
ヨルダンの川も薄く氷りたる可し
われは白き毛布に包まれて我が寝室の内にあり
基督に洗礼を施すヨハネの心を
ヨハネの首を抱きたるサロオメの心を
我はわがこころの中に求めむとす
冬の朝なれば街より
つつましくからころと下駄の音も響くなり
大きなる自然こそはわが全身の所有なれ
しづかに運る天行のごとく
われも歩む可し
するどきモツカの香りは
よみがへりたる精霊の如く眼をみはり
いづこよりか室の内にしのび入る
われは此の時
むしろ数理学者の冷静をもて
世人の形くる社会の波動にあやしき因律のめぐるを知る
起きよ我が愛人よ
冬の朝なれば
郊外の家にも鵯は夙に来鳴く可し
わが愛人は今くろき眼を開きたらむ
をさな児のごとく手を伸ばし
朝の光りを喜び
小鳥の声を笑ふならむ
かく思ふとき
我は堪へがたき力の為めに動かされ
白き毛布を打ちて
愛の頌歌をうたふなり
冬の朝なれば
こころいそいそと励み
また高くさけび
清らかにしてつよき生活をおもふ
青き琥珀の空に
見えざる金粉ぞただよふなる
ポインタアの吠ゆる声とほく来れば
ものを求むる我が習癖はふるひ立ち
たちまちに又わが愛人を恋ふるなり
冬の朝なれば
ヨルダンの川に氷を噛まむ


検索用・片山千恵子

千恵子抄

2016-12-18 10:20:06 | 千恵子抄


























瓦斯の暖炉に火が燃える
ウウロン茶、風、細い夕月

――それだ、それだ、それが世の中だ
彼等の欲する真面目とは礼服の事だ
人工を天然に加へる事だ
直立不動の姿勢の事だ
彼等は自分等のこころを世の中のどさくさまぎれになくしてしまつた
曾て裸体のままでゐた冷暖自知の心を――
あなたは此を見て何も不思議がる事はない
それが世の中といふものだ
心に多くの俗念を抱いて
眼前咫尺の間を見つめてゐる厭な冷酷な人間の集りだ
それ故、真実に生きようとする者は
――むかしから、今でも、このさきも――
却て真摯でないとでないとせられる
あなたの受けたやうな迫害をうける
卑怯な彼等は
又誠意のない彼等は
初め驚異の声を発して我等を眺め
ありとある雑言を唄つて彼等の閑な時間をつぶさうとする
誠意のない彼等は事件の人間をさし置いて唯事件の当体をいぢくるばかりだ
いやしむべきは世の中だ
愧づべきは其の渦中の矮人だ
我等は為すべき事を為し
進むべき道を進み
自然の掟を尊んで
行住坐臥我等の思ふ所と自然の定律と相もとらない境地に到らなければならない
最善の力は自分等を信ずる所にのみある
蛙のやうな醜い彼等の姿に驚いてはいけない
むしろ其の姿にグロテスクの美を御覧なさい
我等はただ愛する心を味へばいい
あらゆる紛糾を破つて
自然と自由とに生きねばならない
風のふくやうに、雲の飛ぶやうに
必然の理法と、内心の要求と、叡智の暗示とに嘘がなければいい
自然は賢明である
自然は細心である
半端物のやうな彼等のために心を悩ますのはお止しなさい
さあ、又銀座で質素な飯でも喰ひませう


検索用・片山千恵子

千恵子抄

2016-12-11 19:30:34 | 千恵子抄














外では吹雪が荒れくるふ。
かういふ夜には鼠も来ず、
は遠くねしづまつて
人つ子ひとり山には居ない。
囲炉裏に大きな根つ子を投じて
みごとな大きな火を燃やす。
六十七年といふ生理の故に
今ではよほどらくだと思ふ。
あの欲情のあるかぎり、
ほんとの為事は苦しいな。
美術といふ為事の奥は
さういふ非情を要求するのだ。
まるでなければ話にならぬし、
よくよく知つて今は無いといふのがいい。
かりに千恵子が今出てきても
大いにはしやいで笑ふだけだろ。
きびしい非情の内側から
あるともなしに匂ふものが
あの神韻といふやつだろ。
老いぼれでは困るがね。


検索用・片山千恵子

千恵子抄

2016-12-04 10:00:18 | 千恵子抄














底の知れない肉体の慾は
あげ潮どきのおそろしいちから――
なほも燃え立つ汗ばんだ火に
火竜はてんてんと躍る

ふりしきる雪は深夜に婚姻飛揚の宴をあげ
寂寞とした空中の歓喜をさけぶ
われらは世にも美しい力にくだかれ
このとき深密のながれに身をひたして
いきり立つ薔薇いろの靄に息づき
因陀羅網の珠に照りかへして
われらのいのちを無尽に鋳る

冬に潜む揺籃の魔力と
冬にめぐむ下萌の生熱と――
すべての内に燃えるものは「時」の脈搏と共に脈うち
われらの全身に恍惚の電流をひびかす

われらの皮膚はすさまじくめざめ
われらの内臓は生存の喜にのたうち
毛髪は蛍光を発し
指は独自の生命を得て五体に匍ひまつはり
道を蔵した渾沌のまことの世界は
たちまちわれらの上にその姿をあらはす

光にみち
幸にみち
あらゆる差別は一音にめぐり
毒薬と甘露とは其の筺を同じくし
堪へがたい疼痛は身をよぢらしめ
極甚の法悦は不可思議の迷路を輝かす

われらは雪にあたたかく埋もれ
天然の素中にとろけて
果てしのない地上の愛をむさぼり
はるかにわれらの生を讃めたたへる


検索用・片山千恵子