悪魔の囁き

少年時代の友達と楽しかった遊び。青春時代の苦い思い出。社会人になっての挫折。現代のどん底からはいあがる波乱万丈物語です。

【悪魔の囁き】

2018-05-15 09:54:51 | 日記
第二話 【黒い血】

注文住宅を9月3日に入居して、一週間経った。
家の中の生活用品やガラクタも片付き、少しは時間に余裕か出て来た。
二間のガラス戸に洗濯物が干せて庭いじりに疲れた時に休む濡れ縁を付けてもらい、東側に出窓のついた6畳のリビングに入り、キッチンの使い具合を確認した。
時代の流れに逆こうして、和風の家(垂木づくり)しか建てられない和田大工には、サービスカウンター側に流し台を付ける事が出来なかった。
その為に頼んでおいたダイニングテーブルを対面に作ることが出来なかった。
また、サービスカウンターの上から吊るし棚も出来なかった。
「あのおやじ。何も出来にぇじゃねぇか。だらしがねぇなぁ~」
「オメェ~ の気に入った家建てやるからよ――」
「宜しくお願いします」
「大法螺吹きやがって。自分で作るしかねぇかぁ」
車で20分かけて北関東のマンモスホームセンタージョイフル本田に行き、高さ45cm長さ60cm幅45cmのチーク色の食器棚を3台買って来た。     
カー用品アイテム部品のブラックのストレート金具で三連結させてL型金具で吊り、常時使う小中の白皿・茶碗・小鉢・丼ぶり・コップなどの食器入れた。
手先の不器用な私には両側から食器を取出し出来るように作るほど、上手くはではなかった。
なので、部屋の壁に似たシルバー模様のカッティングシートを貼り終わらせた。
「俺のやることじゃぁ~ こんなもんか」と納得した。
「庭はどうするか」と家の周りを歩き考えた。
――閃いた――
ジグソウパズルを作る時と同じく、最初は外枠からと思った。
“杉 楓 欅 ”
「どれも玄関を彩るには華がないなぁ~」
「そうだ。入口は桜だな」
「咲いたら花見酒で乾杯だ」
庭の壁面周囲から玄関門左側に1本、右側に2本、植えることにした。
埼玉県の得意先サンライフホームセンターで桜の鉢植70cmほどの高さの苗を、
1本980円で買ってきて、 即 植えた。
毎週栃木県の得意先に行く途中にある鹿沼市の花木センターにより、1本ずつ買ってきていた。
左サイドから裏側に山茶花を3本、梅の木を一本、モックリの木を一本、市道側の角まで植えていった。
今度は右サイドから市道側に山茶花を二本植えた。

「庭が広いから自分で食べる家庭菜園の種を蒔いたらどうだ」
と実家に寄った時に、かぁちゃんに言われた。
かぁちゃんは建前が終わってから現場を見に来ていたので庭の広さは分かっていた。
「この度はこんな立派な家を建て貰い有難うございます」と大工に挨拶した。
「息子さんが誠実な人だからこちらもいい家を建てないと申し訳ないと思ったんですよ」
「この子の祖父も左官屋の棟梁をやっていましたからねぇ~」
「そうですか」
「よろしくお願いします」
「奥さん。裏の竹やぶに細竹の子だけが出てきているから、お土産に持って行きなよ」
「筍が終って今度は細竹の子も出てくるんですね」
「中くん。採ってあげな」
「はい――」
「これですか」と分からないので聞いた。
「違うよ」
「こっちですか」
「それじゃぁ~ねぇよ」
「これですかね」
「そうだ」

「それもいいかもしれないなぁ~ やってみるよ」
栃木県宇都宮市の得意先の途中にあるカンセキホームセンターに寄り、石灰と肥料と簡単に出来そうな野菜の種を買った。
休日土曜日の朝から2メートル四方で枠を作り、土を掘り返し石灰を混ぜてコネ回し、一週間寝かせておいた。
肥料を混ぜ込み、なす・ミニトマト・ししとぅ・きゅうり・などを植え、水をたっぷりかけた。
そのままにしていると、3~4日で小さな芽が出てきた。
それでも気にかけずにいると、一週間ほどで小さな実が成りだした。
「もうじきに食えるな」と楽しみにしていた。

朝8時半から月曜日から金曜日まで、往復400キロは走っていた。
可也疲労が激しく家に帰ると、がっくりしてしまい畑を見なかった。
土日祭日見ると、ミニトマトは鈴なりになっていた。
「すごいなぁ~ 一人じゃ食い切らない」
収穫しても、収穫しても、収穫しても、朝見ると次から次へと出てきた。
日曜日に収穫していると、近所のベージュの野球帽をかぶった農家の土焼けした50代のオヤジさんが、表通りのフェンスの隙間から覗いていた。
「よくそんな簡単な作りで野菜ができるね」と私の顔見て笑っていた。
「種の台紙に書いてある能書き通りやったんですかどねぇ~」
「今は素人でも出来るようになっているんですね」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
と言って自分の田んぼに行った。
自分でも食べてはいたが、飽きが来て食いきれなくなった。
それども、もったいなくて捨てるわけにも行かなかった。
月曜日にかぁちゃんのところに朝飯を食いに行った序に持っていった。
「こんなに採れたの」と驚いていた。
ししとうも、採っても、とっても、葉の影などいたるところから出て来た。
昼食や夕食で肉や野菜をゴッチャまぜにして炒めて食べると辛くて食えなかった。
きゅうりも30cm近く曲がって長くなった。
ナスも、30cmほどに太ったお化けナスになっていた。
「まいったなぁ~ どうするかぁ~ 」
「かぁちゃん。俺1人じゃ食いきれないから、兄ちゃんところにも持っていってよ」
「あらぁ~ こんなにあるんじゃぁ~ 日出男のところでも食べきれないねぇ~
近所の人にもわけてやるかねぇ」
呆れるほど、かぁちゃんところに持っていったが、同処理したかはわからない。
余りにも出来すぎた――。
「収穫してから一年間は畑の土を栄養補充の為に寝かせておいたのがいいよ」
とホームセンターマイライフ、カー用品担当の杉山忠さん28歳に言われた。
が、面倒くさくなり一年で止めた。

元に戻し、季節ごとに咲かせる草花を植えた。
その、左横に桃の木一本植えた。
また、市道側左から隣の家との境の全面にアジサイ4本を中央まで植えた。
右側にマキの木を一本とソテツを一本、並べて植えた。
中央に隣の空き地から土を持ってきて山を作り、前に小さな池を堀、富士山のミニチュアをイメージさせた。
「こんなものかなぁ~ うぅん~ 11時か。休憩するかなぁ」
一段落着いた所でキリンラガー500㎖の缶ビールを飲み一休みした。
「次は中庭に四季感を持たせよう」
と炎天下の下、軽く酔いが回ると目の前に映る庭からアイデアが閃いた。
冬は枝だけで春になると芽を吹きだし、夏に掛け青い葉を広げ、秋には燃える様な赤に変わる、カエデ モミジ 山もみじ しだれもみじのイメージだった。
1週間の仕事が終わる、金曜日に鹿沼の花木センターに行き買ってきた。
土曜日に山を囲むように3本植えた。 
「こんなところかなぁ~」と自分なりに納得した。
***◆◆◆***

星空を見上げると驚く程のド田舎では長い秋の夜中は、三日月も名刀を光に当てたような青光りした鋭い冴えを見せていた。
「素晴らし」と思わず緊張感が走り背筋を伸ばしてしまった。
雨上がりの夜は目を眩ませる星屑を観て大ジョッキで飲む生ビールは、想像しただけで片道3時間掛かる得意先回りを終えて、家に帰る楽しみを倍増させた。
家の中に入ると1番最初に風呂の点火をした。
湧き騰がりの音声が流れると、汗で汚れた服を洗濯機に放り込んだ。
ステンレスの深い風呂桶に真冬は43℃のお湯を張り、1時間浸かりながら汗を絞り出した。
これで1日の疲れとストレスが解消した。
パジャマに着替え冷蔵庫でビンビンに冷えた缶ビールを飲むと締め付ける喉越が仕事から解放されて、自由感を満喫させてくれた。
また、休日の解放感も紅葉を見ながら飲む剣菱は、明日からの仕事への緊張感も忘れて、
「四季と共に美しく変わるものだ」と詩人になった気で飲んでいた。

人一人が通れるコンクリートを流した家側の通路に、豆ツゲ三本と角から駐車場にツゲの木を二本植えた。
鹿沼の花木センターから買って来たときは丸だった。
成長していく度に、髪の毛が寝癖で立つように枝が飛び出してきた。
――あっ こりゃ ダメだ――
自宅から15分の150坪のディスカウントショップで剪定ハサミを買ってきた。
飛び出した部分を1本1本刈った。
しかし――
素人ではエビツになってしまった。
・・・あれぇ~ まぁ~・・・
それでもあちらこちらと出っ張りを刈ると、楕円形になり丸く刈る事はできなかった。
「あれ あれぇ~ 上手くいかないなぁ~ もういいか」と丸くするのを諦めた。
伸び放題になって楕円形、三角、四角になったままにしていた。

表門からコンクリート通路を玄関まで、アスファルトの両サイドに、赤・黄色・ピンク・白・紫のチュウリップを30センチ間隔で10本植えた。
まだ まだ 余裕のある庭を見まわした。
何か華やかさを彩る飾りが無いのに気が付いた。
マンモスホームセンタージョイフル本田に行き、黄色と赤のバラの球根を2個買ってきた。
リビングと和室側の通路に沿って、豆ツゲの左横に植えた。
時期が来て、花が咲くのを楽しみにしていた。 

赤いバラが小さな芽が出だしてから何日か経った。
すると・・・
夢の中で見た事のない真夏の太陽に映える艶のある小麦色の肌をした、健康美に満ち溢れた17歳~22歳位で美しい丸顔の、多部未華子やグラビアアイドルとしてトップクラスの、中村静香・篠﨑愛等、薬師丸ひろこ系に近い岸田劉生の麗子像似た、年を重ねても老けない顔立ちだが胸の奥には強い意志を秘めた、童顔の美少女が出て来た。
そして――
私の手を取り“ニコリ”と笑い、海の中に引き込んでいった。
息が止まっていても苦しみもなく恍惚のまま海底深く沈んで行く夢を、3夜つづけて見た。
このころはまだ色ボケも納まっていなかった。
得意先の接待で先頭に立ち、飲む・買う・を繰り返していた。

毎晩のように宇都宮から千葉まで飲酒運転で帰ってきた。
次の朝目が覚めると寝ている布団の中で――  
「俺どうやって帰ってきたんだろう。人を跳ねていないだろうな」
と昨日のことが思い出せず考え込んだ。
朝テレビを付けてニースを観ていても、ひき逃げ事故の話はしていなかった。
念の為に家を出る前に車のボディーを見回した。
・・・どこにも凹みや部品割れなどの傷がなかった。
「よかった。事故は起こしていないようだ」と安心した。
酒は抜けているので、強度の自己嫌悪に落ちた。
「今日は飲むのは止めて早く帰ろう」と固い意志で得意先に向かった。
納品を終わらせ桃山話をしていると、話の流れで飲みに行く事になった。
「まいど」
「いらしゃ」
「昨日野田所長たちと飲んだんだって」と金田所長に聞かれた。
「そうなんですよ」
「彼も酒好きだからしつこいだろう」
「なんでしょねぇぇ~ 夜中の12時まで飲んでいましたよ」
「何軒はしごしての」
「最後の方は酔っていたので覚えていないのですが、5軒はしたような気がしますよ」
「あいつ、ゲイバーが嫌いだから、今度から行こうと言えば、はしごしなくなるよ」
「そう言えば米田事務員さんが、ゲイバーに行きたいと言ったら嫌がりましたよ」

「所長。この近くにゲイバーがあるから行きましょうよ」
「やだよ」
「どうして。面白そうじゃない」
「俺はなぁ。女以外は相手にしないし、変態的な遊びはしないんだよ」
「トニーは行くでしょう」と私に聞いた。
「うん・・・」
「ほら。行くみたいじゃない」
「ゲイバーに行くなら俺は帰るよ」
「わがままなんだからぁ」
“ブゥ~”
「地方にもあるんですね」
「佐野にあるのよ」
「話のタネに行ってみたいですねぇ~」
「ねぇ~ トニーも行きたって言っているじゃない」
「それでも俺はいやなの」
「本当の遊びを知らないんだから」

「ママさん。あの女の子面白そうだから呼んでよ」
と隣のボックスに座って見ていた50代の客が言った。
「あの娘は、お客さんなのですよ」
「そうなの」

米田直子事務員さんは中途採用の38歳、身長は160cm、スレンダーで髪をシートカットにして額には3本の浅いシワを刻んでいた。
顔を細面で浅黒く、一重瞼で切れ長の目をしていた。
鼻が細くて高く、眉間には2本の縦シワを深く刻んでいた。
鼻の下が長く、上下の唇が整い赤いルージュを引いていた。
首に手足が長く、声が低く、ハスキーで男心を引き寄せていた。
バツイチで、5歳の男の子が1人いた。
――野田明所長とは、セットだった。
東商事に就職する前は、宇都宮市内でホステスをしいた。
色ボケした酔っ払いオヤジを上手くあしらうのは、お手の物だった。
飲みに連れて行くと細かいところに気が効き、とても便利だった。
「トニー。チュハイ作ろうか」
「あまり濃くしないで」
「えぇ~ そんなに飲んでいないじゃない」
「黙って飲んでいると結構効くんだよ」
「カラオケでも歌って、アルコールを発散する」
「そうするか」
「何入れる」
「ロンリーチャプリンがいいかな」
「ドゥエットだから、私も歌うね」
♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦
「遠くを・・・( )´0`』」o¶~~♪」
♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪
「愛され私・・・゚(*´○`)o¶~~♪」
・・・パチパチ・・・
拍手!! ――喝采!!
「氷がなくなったな」
「ママ< 氷をお願いします」
「はい~」

「そうすると2軒ぐらいで止まるよ」
「今度から、そうしますよ」
「これからどこに行くの」
「今日はここで終わりです」
「家に帰るの」
「明日は足利方面に行きますので、今日は上三川のビジネスホテルに泊まりますよ」
「なら、飲みに行こうか」
「そうですね。吉原所長も誘いましょうよ」
「そうだなぁ。たまには飲ませてやるかぁ~」
「喜びいますよ」
「あとで電話しておくよ」
「そうですねぇ。今月所長に昇格したばかりですものねぇ~」
「昇格祝いで“パット”行くか」
「宇都宮の駅前なら面白いとこらがありますいからね」
「それじゃ~ 居酒屋からタイ人パブの、お決まりのコースで行くか」
「所長たちも泊まりますか」
「そうするよ」
「それなら2人分部屋を予約しておきましょうか」
「そうしてよ」
「2人で寝るにはシングルしゃ狭いから、ダブルベットの方がいいですよね」
「当たり前じゃねぇ」
「相変わらず、お互い好きですねぇ~」
「ホント――」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「6時にはホテルに戻っていますよ」
「それなら、6時半頃までには行くよ」
「1階のフロントロビーで待っています」
***◆◆◆***

引き込まれ沈んで行く苦しさが快感となり絡み合う事に、恍惚とした喜びを感じていた。
「気持ち・・・いいなぁ~」
「アレッ。息が止まったな」と夢の中で思った時に、死への苦しみより思いを遂げる快感が・・・
「このような女性と結婚できたら幸せだなぁ~」と死ぬことに満足していた。
甘い思いも空しく夢の中に、森口瑤子・相田翔子・羽田美智子等の顏のネジが一捻り緩んだ、おっとりとした優しい顔立ちの美女では無くなった。
夢に中で突然画面が切り替わった。
鉄仮面の様に顔の皮を引き伸ばして、ネジをギュウギュウに締め付けた目が二重に奥に窪み、頬骨が飛び出しほほがそげ落ち、蒼白い顔の無表情の見知らぬ女が出て来た時は、恐怖で身震いがした。
この夢が呪いを掛けられて憎しみ怨まれた、奇怪な現象が起きる舞ブレで有ることに気が付いたのは――
東京に逃げ帰って来てからの事だった。 

得意先のサービステーションは24時間営業だった。
なので、いつでも訪問することができた。
話が長引いた時等は、家に帰る時も夜中の12時過ぎる事も度々あった。
「毎度< 」
「いらしゃい」
「いゃぁ~ 遅くなりましたよ」
「鹿沼店に寄ってきたの」と私と同年代、村野明子所長38歳に聞かれた。
「そうです」
「売れている」
「鹿沼インターチェンジに近いから 客足はいいですね」
「オープンして半年だったねぇ」
「それに新製品が入っていますからね」
「うちは定番も一巡したし新製品もエンドのワンゴンドラだけだから、売上が落ちてきたよ」
「今度。改装はいつごろでしたっけ」
「まだ半年ぐらい先よ」
「そうですか」
「このあとどこへ行くの」
「上三川に行きますよ」
「宇都宮店からなら30分弱だねぇ」
「そうですね」
「トニー。まだ時間ある」
「ありますよ」
「それじゃぁ~ 店内がマンネリ化したから商品棚の模様替えしたいのよ」
「いいですよ。どこを変えますか」
「入口のエンドからレジに向かっている連結棚を変えて欲しいのよ」
「それなら関連性を崩さないように、裏表ひっくり返しますよ」
「何時間ぐらいで出来る」
「そうですねぇ。2時間もあれば大丈夫ですよ」
「そうなると上三川へ行くのが遅くなるわね」
「なに、24時間営業だから、急ぎでなければ何時でもいいんですよ」
「うちも同じだからねぇ」
「それと売価も打ち替えておきますね」
「下げるの」
「そうですねぇ~ 他店の平均から行くと、2割は高く付いていますからね」
「それなら合せていいですよ」
「売れなくなった流行遅れの商品は、平台に置いて捨て値で売りますね」
「返品できないかしら」
「タカベ商会から入っているのは古いから返したほうがいいですね」
「あそこは返品を取らないのよ」
「しょうがねぇなぁ」
「本当に困るのよ」
「本部の片山部長に言って返してもらったらどうですか」
「部長に言っても、何も言わないのよ」
「もしかしたら、飲まされているかもしれませんね」
「かもねぇ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「どのみち改装の時に引き上げになると思うので、出来るだけ売り切りるよぅにしますよ」
「トニーのところも、返品は取りたくないですものね」
「そうなんですよ。死んでいる商品なんで他に持って行っても売れないですからね」
「損をしないようにしてくださいねぇ」
「分かりました」
「それと香水を増やしたいので、棚の高差調整もしてください」
「それならソフト商品から前面に持っていきますよ」
「そうしてください」

プチ改装を始めてから2時間経った。
「店長。終わりました」
「そう。ありがとう」
「どう致しまして」
「見てみますねぇ~」
「どうですか。こんなもんでしょ」
「ガラリと変わりましたねぇ~ これなら売れそうですよ」
「ハード商品は減らしましたから」
「売れなければ、それでいいですよ」
「それと、化粧パックの派手なのを目の位置に並べ直してありますから」
「それの方が目につきやすいですものね」
「そうなんですよ。アクセサリーを中心にすれば、若いお客の目も引きますよ」
「それでホームセンターカンセキとのプライスはどうなの」
「店長のところの利益は減りますが、同じにしてあります」
「アクセサリー用品の利益の薄いのは、片山本部長の指示だからそれでいいですよ」
「壁面の食品は移動しませんでしたので、お菓子屋にやらせてください」
「スナック菓子は回転率が早いからそのままでいいですよ」
「ゴンドラの本数が多い割には利益が薄いですからね」
「客寄せだから、それでいでいのよ」
ナショナルブランドからノーブランドまで、各メーカーの香水のオンパレードにして、
ミニレイアウト変更した。
「んじゃ、明後日また来ます」
「お願いします。その時は泊まりにして」
「久しぶりに行きますか」
「そのつもりですよ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
・・・ニャハハハハハハ!!!!・・・
「分かりました」
***◆◆◆***
そんな・・・ 
ある夜――
帰り道はいつも通る・・・
ド田舎の1本道だった。
何度か高台の短い街中を抜け山裾を走っていると周りが田んぼと畑で、家など殆ど無くなっていた。
夜中など対向車も無くサイドミーラーやルームミラーで後ろを見ても、餌を探して歩き回る狸ぐらいで、車も人も殆どと言っていいほど通る事はなかった。

茨城県鹿島市に1店舗あるホームセンターカワイと取引が決まった。
家から近いので、私の担当となった。
商品搬入は私と手伝いに来た相川営業マンと2人で行った。
「中。35本ゴンドラだけど、2人で出来るか」と大村店長に聞かれた。
「切られた問屋が入れた商品は残っているの」
「いや、返品したって店長がっていたよ」
「それなら早いわ」
「ただ、35本のゴンドラ分の商品だけでレイアウト用紙はないから」
「平面図も無しなの」
「そう。だからアドリブでやってよ」
「それは大丈夫だけど――」
「商品は昨日着いていると思うから、従来のゴンドラに並べるだけよ」
「何個口で送っているの」
「20個口だよ」
「いつもの通り、ダンボールの上には商品名が書いてあるんでしょ」
「新規オープンと同じく、用途別に書いてあるよ」
「それなら直ぐ終わるわ」
「いつも事だからなぁ」
「それでも陳列してから手直しして検品すると、一日かかるなぁ~」
「終わらなかったら、完成するまで泊まってこいよ」
「そぅもいかないよ。本庄で改装があるじゃない」
「大丈夫だよ。向こうには精鋭が3人行っているから」
「でも、俺がいないと始まらないじゃねぇ」
「各メーカーも何人は手伝いに来るって言ってたいたからな」
「ド素人のメーカーじゃ~ 戦力にならないよ」
「いないよりましどろう」
「それで、真打が行って始まるんですよ」
「バカ< お前は飲みに行くだけだろう」
「そりゃそうだけどさぁ」
「あと一人必要なら、相川を連れて行けよ」
「相川くんなら搬入慣れして応用が効くから早く終わるな」
「役に立つなら二人で行けよ」
「うん。そうする」
「相川に連絡しておくから、先に現場に行っていて」
「それで、車で来るの」
「いや、電車で行くよ」
「駅まで迎えに行かなくても大丈夫かな」
「駅からタクシーで行くから大丈夫だよ」
――なるほどぉ. ――
「それで、何時に行っている」
「9時には入っていますよ」
「なら、それまでに行かせるわ」
「お願いします」

「おはようございます。シンワ産業です」と事務所に行った。
「ご苦労様です」と鹿島田和歌子24歳事務員さんが言った。
「若松店長さんはいますか」
「店内にいるので呼びますね」
「お願いします」
「店長< 事務所にお客様です」
「おはようございます」
「忙しいところ悪いねぇ」
「いいえ~ シンワの中です」と名刺を出した。
「店長の若松です」と名刺を交換した。
「前の問屋がいい加減で営業マンも顔出さないし、欠品ばかりしているから取引停止にしたんですよ」
「無名の問屋だと、ナショナルブランドが入りませんからね」
「そうなんだすよ。だから売れない商品ばかり残って、売れる商品が入ってこないんですよ」
「で、しょうねぇ」
「中さんのところはどこのホームセンターにも入っていて、売れ筋も豊富に持っているから、期待しているんですよ」
「任せてください。今までより5割アップの品揃えにしますよ」
「よろしくお願いします」
「早速商品陳列します」
「こちらも人手が足りないので、お手伝いできませんが分からない事が有ったら、私に聞いてください」
「分かりました」
「あっ、そうだ。商品は裏のバックヤードに着いています」
「そうですか。行って確認してみます」
「宜しく」

「おはようございます」と相川が挨拶した。
「ご苦労さんです。直ぐ分かった」
「電車は1本線でしたから間違えることはなかですね」
「車だと、いつ着くか分んないものなぁ~」
「首都高速抜けるだけでも2時間はかかりますからね」
「まあ、時間通りに来てもらって助かったよ」
「早く帰りたいものですものね」
「ここが終わったら、次に行くよ」
「本庄ですか」
「そう。泊まりの用意はしてきたよね」
「取り敢えず――」
「よし。二人だけでやるから3時までに終われせるよ」
「話は聞いています」
「店は営業しているから邪魔にならないようにバックヤードの荷物は、ワン梱包ずつ出して並べて」
――OK――

「12時だな。飯でも食いに行こうか」
「そうですね」
「取り敢えずお客が通れるように、荷物は端に寄せて置いて」
・・・オーライ・・・
「店長。食事してきます」
「そう。ごゆっくり」
「1時には戻ってきます」
「どこに行く」
「うなぎ屋がいいですねぇ~」
「今晩の為にスタミナ付けるか」

「いらしゃませ」
「生大2つお願いします」
「いいんですか。昼間から飲んで」
「構わないよ」
「あと、鰻重の松二つねぇ」
「わかりました」
「お姉さん。生 先にお願いね」
「はい<」
「若松店長に怒られないですか」
「大丈夫だよ。一杯ぐらいじゃ酔わないよ」
「それもそうですねぇ~」
「あと、何時間ぐらいで終わりそう」
「三時間あれば、手直しまで出来ますよ」
「それなら同時に検品してもらうわ」
「それがいいですね」

「店長。終わりましたので検品お願いします」
「早かったですね」
「午後からガソリン入れて、ブッ飛ばしましたから」
――なるほど~――
「燃えやすいアルコールですねぇ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \

“ワンダフル”
「これなら売れますよ」と大喜びだった。
「各メーカーの新製品は、オンパレードにしてありますから」
「さすが。ボリュウム感があって見栄えがいいですねぇ~」
「車内・外装用品の関連性も待たせてありますから、お客もわかりやすいと思います」
「以前の問屋とは、大違いですよ」
「アクセサリーは売れ筋と見せる商品の割合を、7:3にしてあります」
「それなら回転率がいいか」
「はい。後は欠品しないように細かく発注していただけば、売上は上がると思います」
「担当者が決まりましたら、よく言っておきます」
「誰が担当になりますか」
「インテリア担当の倉橋にやらせます」
「そうですか。今日は来ていますか」
「休みなので、今度来た時に紹介します」
「分かりました。その時にカタログも持ってきましよ」
「有難いです。カー用品は初めてなので、よく教えてあげてください」
「アクセサリー用品・ケミカル・保安の違いが、分かるように説明しますよ」
「大きく分けるとそんなところですか」
「そうです。分かりやすければ、覚えるのも早いでしょう」
「若いから興味があると思うので、任せますよ」
「お幾つぐらいの方ですか」
「22歳ですか」
「なら、大丈夫ですね」
「まぁ、よろしくお願いしますよ」
「それでは店長検品お願いします」と納品伝票を渡した。
「結構ありますね・・・」
「アイテを増やして、個数を減らしていますから」
「大手の問屋さんは、やることが違いますね」
「まだ商品の流れが分からないので、薄めに納品するのですよ」
――なるほどねぇ~――
「よく、わかりました」と 
若松店長は “ペラペラペラ”と伝票を捲った。
「間違えないでしょう」
「はい< コンピーター伝票なので計算違いはありません」
「品違いも無いですね」
「大丈夫です」
事務所に帰って盲判で検品が終わった。
高さ1800×幅1200の35本ゴンドラに商品陳列して夕方5時で終わらせた。
***◆◆◆***

北関東グループの営業マンも埼玉県のケントムホームセンター本庄店オープン2年目の改装で本庄に集合して、宴会をやる事になっていた。
「明日からケントムホームセンター本庄店の改装が有るので、皆集まって飲んでいるから搬入が終ったら来てください」と朝1番で小山くんから連絡が来ていた。
「場所は何処なの」
「ビジネスホテルホンジョのフロントで聞けば分かるようにしておきますよ」
「何人来るの」
「僕と西原さんとエロあべとケミカルメーカーの森本さんですよ」
「そう。こっちは俺と相川くんと行くよ」
「相川さんも一緒なの」
「そうだよ。一人では終わりそうもないから大村店長に援軍を頼んだんだよ」
「それなら早く終わりますね」
「おそらく4時には終わると思うから、終わったらすぐ行くよ」
「そんじゃ、期待して待っています」
「よろしく――」

何しろ早く飲みたい一心で終わらせて・・・
「完了しました」と若松店長に報告した。
「さすがですねぇ~ 取引を中止した、今までのいい加減な業者と大違いだ<
これなら売れますよ。ありがと」と喜ばれた。
「俺、プロですから」
――なるほどぉ. ――
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「来週に朝一番に訪問します」と言い置きして大至急出発した。 
本庄までの距離と時間を見た。
「相川くん。どっちで行く」
「この時間だと錦糸町の料金所で可也渋滞しますよ」
「そうだなぁ~ 下道で行くか」
「そうしましょう」
高速道路に乗るとこの時間だと首都高速で渋滞に巻き込まれるので、かったるいが下道を走る事にした。
売り物のミリオンマップを見ると、鹿島から国道51号線で香取入り356号線から、
柏で16号線に出て春日部で4号線バイパスに入り、栗橋で125線に出て熊谷で17号線に入り、深谷を抜けて本庄に行くのが一番早そうだった。
この頃は夜10時を過ぎると国道の舗道には外灯が無く、人は歩いていなかった。
光るものと言えば信号とたまにすれ違う、対向車のヘッライトの明かりでだけだった。
ノンストップで走り適当なところで時計を見ると、鹿島を出発から5時間過ぎていた。
メーターボックスのガソリン燃料計を見るとEND近くで、針が上下にふら付いていた。
「運転交代しますか」
「もう少し先に行ったら交代しようか」
「鹿島を出発してから休憩もしていませんよ」
「いつも5~6時間は運転しているから大丈夫だよ」とメーターを見た。
「これでは本所まで燃料が持たないな」
「どれ どれ どれ」と助手席からメーターを見た。
「かなりヤバイですねぇ~」
「ガソリンスタンドがあったら入ろう」
「そうですね」
10分ほどして左側に24時間営業のガソリンスタンドの看板が見えてきた。
「あそこに入ろうか」
一人で頑張っている20代の男性が夜間勤務しているガソリンスタンドに入った。
矢印に従い一番給油機の前に横付けにして止めた。
「もう止まらないから、トイレに行っておいた方がいいよ」と相川くんに言った。
「そうですね」
「よし。俺も行っておくかなぁ」
「いらしゃいませ」
「レギュラー満タンでお願いします」
「カードはお持ちですか」
「持っているよ」
「それなら、お預かりします」
「はいよ」
「すいません。燃料タンクの蓋を開けてください」
“パカッ”
「はい~ オ~ライです」
「何時ですか」と相川くんに聞いた。
「10時ですね」
「11時までには着くかな」
「初めてだから分らないなぁ」
「灰皿は大丈夫ですか」
「いいよ」
「ガラスは拭いてもよろしいでしょうか」
「ノーサンキュー」
「店員さんに聞いてみようか」
「そうですね」
「本庄まで、後何時間ぐらいかかりますか」
「ここからだと、1時間有れば着きますよ」
「ありがとう」
「35リッター入りました。カードと伝票です」
「サンキュー」

いち早く着いて飲みたい一心だった。
深夜近く成ると信号待ちしている人もなく、他に車も走っていなかった。
いちいち赤信号で停車するのも面倒だし、悪い事と知りながら赤でも黄色でも止まらず
に無視して、ッ走しった。
「止まらなくても大丈夫ですか」と相川くんが怯えた声で聞いた。
「この時間だとネズミ捕りもしてはいないし、誰も散歩してはいやしねぇから大丈夫 大丈夫」
と自信を持って言った。
・・・!?・・・
スピード違反あり、信号無視あり、事故無しで11時ごろに6時間かけて本庄に着いた。
ビジネスホテル・ホンジヨ敷地内の駐車場に止めた。
「くたびれたなぁ~」
「ご苦労様でした」
「目がチカチカするよ」
「結局一人で運転しましたね」
「一休みすれば体力も戻るよ」
「タフですね」
「これから飲む目的があるからね。しょぼくれてはいられないよ」
――なぁ~る ほどぉ~―― と感心した。

着替えの荷物を持って車を降りた。
チェックインすると黒いスーツを着た50代のオヤジが蝶ネクタイを締めて立いた。
「今晩は」
「いらしゃいませ」とフロントの中から頭を下げた。
「小山様からのメッセージをお預かりしています」
「ありがとうございます」
「何処だろう」
「ここのスナックは、どこにありますか」
「ここの角を曲がった、左奥にありますよ」
「分かりました」
鍵をもらい部屋に荷物を置き、その足で同僚のいるスナックにすっ飛んで行った。
「おっ ここだ ここだ」とドアーを開けると、1番奥のボックスで殆ど全員が出来上がっていた。
♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦
“ワンチュゥ”
「星の降る夜は・・・(*´○`)o¶♪」
♪゜・*:.。. .。.:*・♪
「あなたと二人で・・・(  ̄0 ̄)o¶~~♪」
♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪
「おっ おっ おっ 踊ろぅよ・・・゚(*´○`)o¶~~♪」
「よく女なしのカラオケで盛り上がれるなぁ~」と感心した。
「ご苦労さん」
「やっと来たか」と西原が待ちくたびれて言った。
「いゃぁ~ 遠かったよ」
「鹿島から何時間できました」と小山くんに聞かれた。
「途中ガソリンを入れただけで、後はノンストップで6時間だったよ」
「しかし かかったね」と西原が言った。
「まだ地方に向かっていたから、この時間で着いたんだよ」
「そうだよな。東京方面だったら、いつ着くかわからないよな」と西原が言った。
「ホント。逆で良かったよ」
「後30分で閉店するから急いで飲みなよ」と西原さんに煽られ、あわてて飲んだ。
宴会の席では先に来ていた方が自分のペースで飲め、悪酔いはしなかった。
後から参加すると早くみんなに追いつこうと、ガブ飲みするために酔いの回りが早く、
只二日酔いに成るだけで、何しに来たのか解からなかった。
ママさんも私達に同情してくれて・・・
「30分延長しますよ」と言いてくれた。
「ありがとうございます」
「落ち着いた所で、俺も1曲歌うか♪」とマイクを持った。
「カラオケを唄っている時間が無いから飲むのが先だよ」と小山くんに言われ、
その為に――
今までみんなに聞かせてきた十八番を出すことができなかった。
***◆◆◆***


以前はこんな事もあった。
PM11時は過ぎていたが、今回は無理をせず信号が有っても無い様なものだが真面目に
交通ルールは守らなければ違反になり、こちらのTの字の信号が青になるまで停まって待つことにした。
すると――
数秒で車の後部座席からドアーをガタガタ引っ張るような物音がした。
つづいて ガラスを“ドン< ドン< ドン<”と激しく叩く音が聞こえて来た。
「なに・・・」とルームミラーで後ろを見た。
「あれぇれぇ・・・」
左側のリヤーウインドーガラスに、割腹の良い人の胴体部分が映っていた。
「こんな夜中に人などいるはずが無いのに」と不思議に思いながら・・・
今度は・・・
ドアーミラーで見ると、厚手のコート着た男が車のドアーの取手に手を掛け開けて内の中に入ろうとしていた。
「あっ 」驚き、後ろを振り返った。
しかし――
暗くて良く解からなかった。
禿げ上がった頭に顔面が潰れるほど、リヤーガラスの窓に顔を押し付けていた。
「誰だ・・・」
中を覗いたのは一度も会った事の無い50代ぐらいの黒っぽいコートを着た、あんこ型の
力士のような大男だった。
声は出さず大きく見開いた恐ろしい目玉で、私を睨みつけていた。
ビックリして怖くなり、信号が赤の事も忘れてあわてて急発車した。
「まだいるのかなぁ~」
50mほど走ってからバックミラーで後ろを見たが、周りには信号の明かりしか見えなかった。
暗くて良く解からなかったが、今いたはずの大男の姿は消えていた。
それでも恐ろしさのあまり胸が “ドキドキ”して脈拍が早くなっていた。
高目の血厚が血管を津波の如く逆流する音が聞こえて来た。

この辺りは回りに家もなく田んぼと畑だし、時間も夜中の12時過を過ぎていた。
それに近所の人が気軽に飲みに来る“赤ちょうちん”もなく不思議に思った。
その夜は余り深く考えると、また“あの時の大男が夢の中に出て来て怖い思いをする”
と寒さと震えで眠れなくなるので、掛け布団をもう一枚出して暖かくして眠る事にした。
次の朝テレビを見てもひき逃げ事故の、ニュースも放送していなかった。
「あの時は何だったのだろう」
朝晩毎日通る道は今でも首を捻り、不思議に思っている。
いい年をして意気地の無い話だが、それからはこの場所を通る時は信号が赤の時は、
青に変わるまでゆっくりと走り青の時はスピードを上げて黄色に変わっても走り抜けた。 

この頃は夢と現実がごっちゃ混ぜなっていた。
何が本当に有った事か、夢なのか解らなくなっていた。
思い出しても背筋が寒くなるリヤーウインドゥー、一杯に映し出された大男――
大口を開けて何か叫んでいたような、恐ろしい顔をした化け物を見た。
そんな不思議な出来事があってから、3日目の朝から右下の奥歯が痛みだした。
口を開けると歯茎が赤く腫れていた。
「あれ。歯槽膿漏にでも成ったのかな。まぁ、其の内に直るだろぅ」
と気にしないでいた。

得意先に行くのに家を出てから、12月の道路工事が始まる悪路でガタガタ揺られるたび
に、右下の奥歯が起きた時よりも “ズキンズキンズキン”と激しく痛みだして来た。
長距離運転や仕事にも集中出来ず、午前中は得意先訪問しても話もせず、黙々と納品と欠
品拾いだけして終わらせた。
昼ごろには顎が動かなくなり、口を開けにくくなり食事をするにも困難になった。
それでも腹は減るので山田うどんチェーン店に入った。
定番のうどん+カレーライスセット680円は止めて、380円のうどんだけすすり飲
み込む事にした。
右側で噛んでいると痛みが来たので、たまに左側だけで軽く噛んでみた。
だが、上下の歯がかみ合うたびに痛みが激しくなった。
得意先で話をするにも舌がもつれて噛んでしまい、涎まで出て来た。
ルームミラーで見ると、朝よりもだいぶ歯茎の腫れの膨らみが広くなった。
腫れに押されて下唇がめくり上がっていて、閉じる事が出来ず痛みが激しくなった。
仕事に出る時は事故などに合った時の為に、いつも健康保険を持ち歩いていた。
行き帰りの途中にある成田市の歯医者に寄った。
午後4時過ぎだったので時間帯が良かった。
「予約していませんが治療できますか」と恐る恐る聞いた。
「緊急ですか」と受付にいた20代の看護婦さんに聞かれた。
「痛くて、痛くて、我慢できません」と泣きツラで訴えた。
「でしたら先生に聞いてきます」と診察室に入っていった。
「中にどうぞ」と診察室に通された。
すると、空いている治療器具が4台並んでいた。
「どうしました」40代の男の先生に聞かれた。
「先生。口の中が痛くてたまりません」と子供に帰ってしまった。
「それなら診てみましょぅ」と優しく言った。
治療後に、痛み止めをもらい飲んだが効き目などなかった。
通いだすと抜かなくても良い歯を抜かれた。
「この歯は いいだろう なんで なの」
しなくても良い歯を治療されただけだった。
***◆◆◆***

いつもの事だが奇怪なことが起こり始めると酒の酔で1分も経たないうちに、眠りについた。
夜中の12時ごろに成ると布団が急に氷のように冷めたくなり、目に見えない何者かが
体の中に “スゥ~ ”と 入って来た。
首から背筋を冷たい風が通り背中が“ゾクゾク”とすると、今までの痛みに加え
“ドスン・ドスン・ドスン”
と、ハンマーで叩かれるような激し痛みに変わった。
麻酔の注射針は細くて痛さは一瞬で済んだ。
恨みと 憎しみに 呪いをかけて 祟られた痛さは―― 
歯の奥底の神経に届くほどの痛さだった。
頭の中に浮かんでくる魔物は、四角い青い顔で髪が逆立ちになり、額には5本の深いシ
ワを刻んでいた。
眉は太く、二重瞼に目玉が大きく二重に巻き、眉間には3本の深い縦シワを刻んでいた。
鼻筋が太くて高く、鋭い鷲鼻だった。
両耳が内側に立ち、鼻の下が短く、上下の唇が紫で、厚く耳まで裂けていた。
口を開けると頑丈そうな大きい歯が剥き出しになった。
噛み締めたエラが横に張り出した。
ヒゲが濃く、剃り跡が青々と喉仏まで続いていた。
首が太く、青筋を立てていた。
振り上げたハンマーは、両腕の筋肉が盛り上がり、太い血管が飛び出していた。
褌一本の厚い胸板に、太い胴回りに腹筋がレンガを積んだように三段に深く波打たせていた。
“ガッシリ”とした腰を落とし脚を広い肩幅まで開き、太ももの筋肉を盛り上げていた。
鬼の形相で腰を落とし力強く打ち下ろすハンマーは、5寸釘を右奥歯に打ち込んでいた。
“ズッキン~ ズッキン~ ズッキン~”と 口の中で地響きを起こされた。
痛さが倍増して行き最高潮に達すると、左回りで目が回り出し眠る事ができなかった。
虚ろな中――
「ようやく痛みが止まった」
3時頃になっていた。
「今の奴は誰だろう」
夢の中で考えていた。
「どうやら終わったよぅだなぁ~」
うとうとしだすと、また5分もしないうちに激しく痛みだした。
これが1時間置きに始まった。
頭を動かすと、また目が回り出した。
痛みが激しくなり、寝返りを打つこともできなかった。
「どうだ。これでもか。これでもか。参ったか」
脳天に突き刺す激痛が、朝の8時頃までつづいた。
その為にろくに眠る事ができなかった。

1晩中激痛の波調を聞き拷問に耐えていた。
秒針が一秒動くのと同じ速さで痛みが来た。
やるせない気持ちで薄暗い壁に掛けてある、丸い時計を見つめていた。
「外が明るくなるまで後何時間なぁ~ 冬至が過ぎれば明るくなるのも早いのになぁ~」
長針の回転と、短い針の動きを “遅いなぁ~”と 眺めていた。
「この痛みはいつまで続くのかなぁ~」と瞬きを忘れて、睨め付けていた。
この状態が1週間つづいた。
最高潮の痛みのピークは、今まで馬鹿な事をして呪われた時と同じく、
3日後には和で来た。
完全に納まらなければ、頭が“ふらふら”したりした。
晩酌を冷で飲んでいても、辛口の酒なのに味に苦みが有った。
舌に乗せると、痺れるような違和感が出て来た。
飲み込と、熱い “チクチク”したものが喉仏に絡んで来た。
金平糖の塊となって、すんなりと胃に納まらなかった。
食事をしていると、左側の舌を噛んでしまった。
口を開けて鏡で見ると深い歯型の傷が3つ入っていて、口の中で溜まった血が流れ出してきた。
消化不良で胃がむかつき出し、吐き気がして来た。
「いつ また 遣られるのかなぁ~」
・・・恐怖で気落ちしていた。
寝不足に加えて――
「痛みが始まったらどうしよう」
心配で体調が悪くなった。
朝7時頃目を覚ました。
気分が“モヤモヤ”して目覚めが良くなかった。
「どうにでも好きなようにしろ」と やけくそになった。
「何でこんな事になるのだろう」と 考えても見当がつかなかった.
時間と共に,自然に痛みが納まるのを我慢して待つしかなかった。
――1週間過ぎた。
やっと痛みから解放された。

どう考えても原因が解らなかった。
通勤途中にある行きつけの病院に行った。
主治医の久我先生に診てもらった。
「先生。魔物に祟られてできました<」
先端医療科学で食べている医者に言っても信用しないだろうし、
返って気違い扱いされてしまい・・・
「精神病院でも紹介します」と言われそうだった。
原因が解らず、手の施しようの無い状態だった。
***◆◆◆***

一週間の疲れが溜まっていた。
土曜日の朝9時に、眠気まなこでラジオのスイッチを入れて “ドカン~”
の放送を聞いていた。
・・・何か忘れているような気がしだした。
“あっ――” 
この前庭に植えて事を忘れていた、赤と黄色のバラの球根を思い出した。
閃いて起き出した。
寝直すつもりでパジャマのまま、芽がどのくらい伸びたか確認しに行った。
思いすごしだったのか、赤いバラは順調に蔓を伸ばしていた。
しかし――
芽が出ていない黄色いバラは枯れていた。
気まぐれで空きスペースの庭に植えただけだった。
その為に愛情を持って面倒を見る事もなかった。
肥料もやらなければ、マメに水やりもしなかった。
そんな無責任な仕打ちに怒り、夢の中に薔薇の妖精が出て来たのではないかと思った。
また――
私が海に引き込まれて海底に沈んで行く夢を見たのは・・・
「水が欲しい 水をくれ 水 
水 水 】と 苦しみを訴えていたのではないのか、とも考えた。
呪いと憎しみを込めて、痛い思いをさせる事で、恨みを晴らしたのではないと確信した。

赤い薔薇は蔓が120cmほどに伸びて順調に成長した。
蕾を持ち、直径5cmほどの花を咲かせた。
しかし――
私の愛情と恋心が無かった為に、情熱的な燃えるような赤でなかった。
皴だらけに成った花弁が散り落ちると、殺人の後のアスファルトに染みついたドドメ色に
腐り、こびりついた黒い血の色だった。
もう少し深く言うと、四谷怪談を思わせる痣を混ぜた赤黒い花だった。
毎年、花を咲かせるが鮮やかな赤にはならなかった。
醜く、どす黒い血の色を花弁に浮かび上がっている。
もし、生き物を大切にする人が育てていたならば、枯れる事もなかった。
愛を育てる綺麗な花を咲かせていたかもしれない――

街を歩いていると、庭にバラを咲かせている家を良く見る。
たまに私の庭の様にドドメ色の花を咲かせているのを見る事もある。
外から見ても庭は荒れ放題で日差しが乏しかった。
部屋の中も薄暗い感じがした。
家自体に家族が生活をしている温もりを感じられなかった。
それが生き物に申し訳ない思いが、自分の心境を映しているみたいで寂しくなった。
恐らく、疫病神 死神 貧乏神 三神の魔物に憑つかれているのでは無いかと・・・
不気味さを感じる――