悪魔の囁き

少年時代の友達と楽しかった遊び。青春時代の苦い思い出。社会人になっての挫折。現代のどん底からはいあがる波乱万丈物語です。

第二部【悪魔の囁き】

2018-05-04 10:03:51 | 日記
第一話 【渇き】

母親と私の勤めているラリック㈱会社の中井社長に大反対された。
禁断の恋と同じで小意地になり、ド田舎に無理やり家を建てた。
「かぁちゃん。俺、芝山に家を建てることにしたよ」
「なんでそんな遠くに行くの――」
「得意先の紹介で手頃な、土地があったから決めようと思っているんだ」
「建売なのかい」
「違う。注文住宅だよ」
「いくらぐらいで建つの」
「70坪の土地に建坪38で3千万円だよ」
「土地は自分の物かい」
「そう。土地付きだよ」
「建物だけだと後でもめるからね」
「そんな事あったの」
「川崎の叔父さんの家が土地は大家で建物だけがお爺さんが建てたから、地主の代が変わって土地も買ってくれって言っているんだよ」
「そうなの」
「だから、今娘と婿さんで買うことになったんだよ」
「面倒だったんだなぁ」
「後からもめないように土地と上モノで買わないと、後で損をする事になるんだよ」
「それは大丈夫だから」
「ならいいけど。でも遠いよ」
「仕事も地方が多いから、田舎暮らしでも差し支えがないんだよ」
「そんな無理しなくても、兄ちゃんの前の志村さん家のローンが払えなくなり、売りに出ているから、そこを買えばいいじゃない」
「建坪20坪弱の築5年で、3千5百万じゃ高いよ」
「東京ではそのくらいが相場だよ」
「それに、ここは葛西の駅まで歩いて30分かかるから不便なんだよな」
「お前は車通勤で電車に乗らないだろう」
「それは、そうだけど」
兄ちゃんの家は周りの家に囲まれて日当たりが悪いし、創価学会が多いから・・・
【南無妙法蓮華経――南無妙法蓮華経――南無妙法蓮華経――南無妙法蓮華経――】
「うるさくてしょうがねぇんだもん」
「江戸川区は創価学会が多いからね」
「毎晩裏の家から窓を開けて念仏唱えるから、うるさくて寝られなくてたまんねぇよ」
「そうだね。うちの並びも6軒中3軒が創価学会からね」
「それに裏の建売も6軒中3軒が創価学会だよ」
「その創価学会の気違いバァ~さんが『隣がうるさいって』怒鳴っているんだよ」
「何が何だかさっぱり解んないよ」
「そうだね。近所の生まれたての子が、泣いていると ・・・
「うるさぁ~ぃ~――」
「家の中でヒステリーをおこしているからね」
「こっちが嫌気を指すよ」
「お前一人だから何かあったら困るよ」
「引っ越したら、その内現地で嫁さんを探すよ」
「東京に女性はいるじゃないか」
「何言ってんのよ。俺が気にった娘がいたのに反対したじゃないか」
「涼子ちゃんは離婚して実家に帰ってきたんだよ」
「どうして――」
「旦那が浮気をして別に女がいて、毎晩家にくるんで離婚したんだよ」
「子供はいなかったんだろう」
「3ヶ月ぐらいで別れたからね」
「ふぅん~」
「お前は初婚だから、出戻りはダメだよ」
「知らなかったなぁ」
「会社に適齢期の娘はいないのかい」
「今の会社は男三人だから無理だよ」
「それに銀行から金を借りるのには面倒だよ」
「俺の預金は三菱にいくらあるの」
「通帳を見てみないと分からないけど、二千5百万だと思うよ」
「結構あるんだなぁ~」
「お前が車道楽しなければ五千万円は貯まっていたよ」
「しょうがないよ。あの頃は車がステータスだったから、新車が出ると乗り換えるのが当たり前だったからなぁ」
「おそらく金利は安いけど、三菱では貸してくれないかもしれないよ」
「どうして」
「あそこは大企業には貸すけど、零細企業や個人には貸さないんだよ」
「預金があるじゃない」
「それでもだめなんだよ」
「ふざけたところだなぁ~」
「私が兄ちゃんの家を買うときにも、言われたとおり資料を揃えて持っていったけど、貸してくれなかったんだよ。それで金利は高いけど、江戸川区の信用金庫で借りたんだよ」
――なるほどぉ. ――
「今度息子さんが家を買うときは、お貸ししますよ。と言っていたけどね」
「それなら大丈夫じゃない」
「本当かどうか分からないけど、宛にしないほうがいいよ」
「ふぅん~」
「社長はいいって言っているのか」
「まだ話しをしていない」
「会社でいいと言うなら仕方なないけどね」
「今日行ったら話そうと思っている」
「社長が駄目だと言ったら、諦めなよ。ロクな事ないからね」
******

得意先周りを終えて午後6時に会社に帰ると、社長も得意先周りを終えて一人で日計を出していた。
「おっ。社長の車があるな。丁度いいや。ただいま」
「ご苦労さん」
「あれっ。社長。今日は帰りが早いですね」ととぼけてみた。
「仕入れの末締めの支払いがあるから、昼に帰って来たんだよ」
「松島専務は相変わらず遅いですね」
「しなくていいことばかりやっているから帰れないんだよ」
「確かに組織で仕事をしたことがないから、自分勝手になるんだなぁ」
「得意先に行っても従業員がやればいいゴミ捨てや便所掃除をしているから、所長にいいように使われているんだよ」
「それで帰ってきて俺に八つ当たりされたらたまったもんじゃないですよ」
「中が営業に出る前にイースト㈱会社をクビになって、一ヶ月ぐらいしか得意先回りしていないからな」
「俺見たいに長い間組織で育った人間には、ストレスが溜まってしょうがないですよ」
「専務じゃ文句も言えないから我慢するんだな」

「ところで社長。相談があるんだけど」
「金なら・・・判っているな――」
「違いますよ」
「それならなんだよ」
「マイライフの杉山専務に、いい土地があるから家を建てないか。と言われたんですけど・・・
ここは杉山社長の反対で家が建てられなかったんだけど、従業員の成田さんが別の土地を探してくれたんですよ」
「何処の」
「千葉県山武郡だね」
「成田飛行場の近くか」
「そう」
「うるさいだろう」
「滑走路の北側になるから、風の向きで夏場は窓を開けていてもうるさくないらしいんですよ」
「それで決めたのかい」
「考えているんですよ」
「もし引越ししたら、会社までの通勤はどうするんだ」
「朝早めに出るようにしますよ」
「でも高速代が掛かるだろう」
「大丈夫です。朝は一般道を通って得意先周りをしてから、会社に帰るから高速代はかけずに済みますよ」
「帰りはどうすんだ」
「東京ディズニーランドの近くに有る得意先に寄って、習志野インターから乗るから可也経費は節約できますよ」
「しかし得意先に行くにも東京から出るより時間がかかるだろ」
「それは大丈夫です。富里と九十九里にも得意先があるし茨木・栃木・東京と、無駄な走りをしないで帰ってきますから」
「それで一日何店舗回れるんだ」
「10店舗は回るつもりです」
「それで売上は経つのかい」
「売れる得意先を中心に回りますから」
「もし引越ししたら高速道路で会社まで何時間かかる」
「2時間ぐらいですね」
「時間の無駄だな」
「朝4時に出れば1時間で来られます」
「何も田舎に家を建てることないだろう」
「それもそうなんですけど。家が欲しくなると我慢が出来なくなるんですよ」
「俺も多摩に家を建てから言うんだけど、東京まで通うのは大変だぞ。若い時は体も無理がきくけど、40歳過ぎるとガックっと落ちるぞ」
「わかっています」
「ここまで来るのに3時間以上かかるからな」
「今から帰ると何時間ぐらいで家に着きますか」
「毎日高速渋滞がなくても、12時時過ぎているよ」
「かかるなぁ~」
「俺は賛成しないけど松島専務が帰ってきて、いいと言ったら行ってもいいよ」
千葉県内房方面の得意先から7時半に専務が帰ってきた。
「マイホームならいいんじゃない」
鶴の一声で決まった。
******
朝9時にかぁちゃんと二人で江戸川区松江の三菱銀行に融資を受けに行った。
「次の方どうぞ」
「はい」とかぁちゃんと二人で椅子に座った。
「住宅融資係の北山です」と30代の男性が名刺を出した。
「中です」と名刺を渡した。
「住宅ローンご融資の件ですね」
「そうです」
「お買いになる家は建売ですか」
「いえっ。注文住宅です」
「東京で注文住宅を、お建てになるとは、珍しいですね」
「はい。建売だと自分の気に入った家が出来ないので、思い切って注文住宅にしました」
と自慢げに言った。
「お建てになる場所は何処ですか」と東京都の地図を出した。
「芝山です」
「えぇ。芝山ですか」
「そうです」
「坪単価、幾らですか」
「一坪14万円です」
「あれぇ。ぜいぶんと、安いですねぇ~」と驚いた。
「芝山でも千葉県ですよ」
「港区の芝ではないのですね」
「よくみんな勘違いするんですよ」
「そうでしょうねぇ」と納得した。
「それでご融資をお受けされる金額はおいくらですか」
「出来れば2千5百万円、お願いしたいんですけど」
「そうですかぁ~」
「はいぃ~」
「それで三菱銀行には預金は、ご座しますか」
「ありますよ」とかぁちゃんが私の通帳を出した。
「風通預金が500百万円で、定期預金が2千万円ですね」
「はい< 20年以上積立ていますから――」
「うぅん~」
 ・・・なるほど~・・・
「わかりました」
「お借りできますか」
「それでは中様。審査に掛けますので、こちらに書かれている資料を揃えて、ご来店ください」
「それとご融資が決まった場合は、定期預金を普通預金に戻してください」
「どうしてですか」
「注文住宅ですと建てている途中で資材の高騰などで見積の変更があると思いますから、
資金不足にならないように準備しておく必要があります」
――なるほどぉねぇ~. ――
「わかりました」
「それでは揃い次第、また来ます」
「お願い致します」

「キミオ。書類は揃いそう」
「大工に聞けば分かると思うんで大丈夫だよ」
「それならいいけど。しかし、面倒臭ねぇ~」
「まぁ、注文住宅だからしょうがないよ」
「それにしても、遠いねぇ~」
「東京じゃぁ~ あんなに広家に住めないからなぁ」
「それもそうだけどね。一人では不便でしょうがないだろう」
「住んでみれば、その内にどうにかなるよ」
「お客さんのところには、いい人がいないのかい」
「仕事柄若い子ばかりだから、年齢的に釣り合う子がいないよ」
「しょうがないねぇ~」
「それと融資が決まったら、定期預金崩してきてよ」
「わかったよ」
・・・野の花は野に咲いて美しいものだよ・・・?

一週間後――
書類を揃えて三菱銀行に行った。
「どうですか」
「大丈夫のようですねぇ」
「二千五百万。出せますか」
「これから審査にかけますので、場合によっては500万円ぐらい削られるかもしれません」
「そうですか」
予定通りなので驚かなった。
「アレッ。構図がありませんね」
「構図てなんですか」
「敷地内に家が建っている構図です」
「設計図や間取りとは違うんですか」
「違います。大工さんなら分かると思いますよ」
「まだ建てていないのに、そんなものあるわけないじゃないですか」
「想像図です」
・・・!?・・・
「それなら後で聞いてみます」
「そうしてください」
「その他の書類は、それでいいわけですね」
「不備はありませんから大丈夫ですよ」
「それなら大工に確認してから、また来ます」
「よろしくお願いします」
******

午後2時に、和田大工の携帯に電話した。
“もしもし”
「中です」
「どうだった。借りられたか」
「構図がないと貸してくれないのですよ」
「やはり、思った通りだ――」
「構図て、なんですかねぇ~」
「俺だって分からないよ」
「あのヤロー、面倒臭い事ばかり言いやがるよ」
「もし、中止にするなら手付金は返さないからな」
「わかってますよ」
「どうしても借りられないなら俺のところの信用金庫を紹介するから、そこで借りたらどうだ」
「信用金庫じゃ金利が高いでしょう」
「何言っているんだ。金利が安くても、借りられなければ何にもならないだろう」
と同じことを言われた。
「それじゃ~ 来週行きますのでよろしくお願いします」
「俺も一緒に行ってやるから、そうしろよ」
「それと住宅ローン控除の手続きもしておいた方がいいよ」
「そんなのあるんですか」
「そうだよ。結構戻ってくるから、3ヶ月分は支払いが助かるよ」
――なるほどぉ. ――
「そうします」

一週間後、再度書類を揃えて大工と二人で信用金庫に行った。
「住宅融資係の大竹です」と40代の男性が名刺を出した。
「中です」と名刺を渡した。
「俺の時は金利が高くて苦しんだから中くんは安月給のサラリーマンだから、利を安くしてられよ」と助言をしてくれた。
書類を見てボールペンを走らせているだけで、反応はなかった。
「中様の場合は保証人がいませんので、別に30万円保証金として頂きますが、よろしいですか」
「しょうがないですものね。いいですよ」
「ご融資金額はおいくらですか」
「一千八百万お願いします」
三菱銀行の時は多めに言ったが、返済負担を考えたら出来るだけ借金はしないようにと考え直した。
「ローンは何年で組みますか」
「20年でお願いします」
「短いですね。35年までありますよ」
「35年間払えるかどうかわからないので、それでいいです」
「月々の返済も少なくなりますけどね」
「ローン地獄で苦しむのは同じなので、無理をしてでも早く終わらせたのがいいですからね」
「ボーナはありますよね」
「いぇ。ありません」
「それでは均等割になりますね」
「ボーナスなしでも、年収が720万円あれば大丈夫でしょう」
「十分ですよ」

「融資が受けられそうだから材料は加工しておくぞ」と帰りに言われた。
「お願いします」
近所の人に自慢にて吹いてしまい、どうにか現実になってホッとした。
家が建つまで戦前から建っている4軒長屋のボロアパートの北側に仮住まいしていた。
“トン トン トン”
「こんにちわ」と60代の見たことのないオヤジが来た。
「なんですか」
「土地を買いませんか」と挨拶もなくいきなり聞かれた。
「土地ですか」
「房総半島に50坪の宅地があるんですよ」
「芝山に70坪の土地に家を建てることが決まっているんですよ」
「そうですか。いいところ買いましたね」とおとなしく帰った。
「土地詐欺だろうな」

「こんばんは」と70代のNHK集金人が来た。
「今度 豪邸を建てるそうで――」と馬鹿にした態度で言った。
「そうだよ」
「たいしたものですねぇ~ 私なんかこの歳で借家ですよ」とイヤミたらしく言った。
「独り身だから建てられるんだよ」
「それでも注文住宅を建てるんだから、ご立派ですよ」と完全に馬鹿にしていた。
「ド田舎だからなぁ」
「御引越しは、いつですか」と鼻で笑って聞いた。
「9月だよ」
「そうですか」
「どこから聞きつけてくるんだろう」

9月になり引っ越す一日前に集金に来た。
「一ヶ月早いんじゃない」
「豪邸にご引越しになられるので集金に来ました」
「今払ったら、一ヶ月分多くなるだろ」
「豪邸に引っ越して、集金人が来たら言ってください」
“カッチン~”
******
引っ越して住所を移すときには、気がつかなかった。
休日に東京から持ってきたガラクタの片付けを途中で止めて一息入れた。
500ml缶のラガービールの蓋を開けて、一杯で飲み干しテレビをつけた。
画面が“ザァーザァーザァー”言っているだけで画像は出てこなかった。
「あれぇ~ なんだこれぇ~ 映らないじゃねぇかぁ~」
・・・!?・・・
「大工のヤロ~ 手抜きしやがった――」

「社長。テレビが映らないんだけど」と大工に電話した。
「役場に行ってテレビアンテナの設置を申請しなければだめだよ」
「えぇ。そうなんですか」
「最初に言えよ」と腹の中で怒った。
「住所を移すのに役場に行ったけど、そんなのと言っていなかったよ」
「何も言わなければ、役場はやってくれないよ」
「そうかぁ~ じゃぁ~ 明日役場に電話してみますよ」
「早いほうがいいからな」
「仕事に行く前に電話しますよ」

“もぉし もぉし~”
「芝山区役所です」と男性が出た。
「一昨日引っ越して来た中と言いますが、アンテナが付いていなくてテレビが映らないのですが・・・」
「そうですか。住所は移されているのですね」
「一昨日やりましたよ」
「場所は何処ですか」
「芝山です」
「分かりました」
「お願いしますね」
「中様。今日申請されるのですね」
「電話でいいのですか」
「いいですよ」
「いつごろ付きますか」
「申請が多いので3ヶ月ほど掛かると思います」
「えぇッ そんなにかかるの」
「はい。芝山も方面も宅地が増えてきて建売の予定が決まると、先に申請されるんですよ」
――なるほどぉねぇ~――
「設置の順番が来たら電話で連絡します」
「待っていますので、よろしくお願いします」
「それでテレビアンテナの設置は有料ですか」
「いぃえ。無料です」
「そうですか。出来るだけ早くお願いします」
「分かりました」
PM10時に帰ってきて風呂に入り11時から夕食を食べ1杯飲みながら、6インチの車用のテレビをアンテナの角度を変えながら相撲ダイジェストを観ていた。
――!?――
声は聞こえるけど画面に波線が入り、カラーが飛んで白黒になっていた。
一ヵ月後一人で手続きに行った。
「こんちわ」
「いらしゃませ」
「どうでした」
「審査が通りましたよ」
「有難うございます」
「通帳はお持ちですか」
「はい」
「拝借します」
通帳に1千8万円が書き込まれていた。
「これで  よし と――」
長い返済スケジュール表を渡された。
「20年かぁ~ 終わる時は58歳だなぁ~」
「来月から14万8千円が引き落とされるのかぁ~」
「本当に長いやぁ。まぁ いいか」
「払い終われば自分のものになるんだし、収入さえあれば返すことが出来るのだから身を粉にして働くか」

「かぁちゃん。地元の信用金庫で借りることにしたよ」
「銀行の方が金利は安いんだけどねぇ」と残念がった。
「いくら安くても借りられなければ、絵に書いた餅だよ」
「それで金利は何パーセントなの」
「0、85%だよ」
「やはり高いね。兄ちゃんの時は25年でローンを組んで初年度から半分近くは払っても、払っても、元金が減らず苦労したからね」
「三菱は0、55%だから、たいして変わらないよ」
「何年でローンを組んだんだい」
「長く払うのも面倒だから、20年ぐらいにしようと思っている」
「まぁ、毎月の返済は大変だけど短い越したことはないねぇ」
「無駄遣いしなければ、貯金も出来るよ」
「田舎だから物価もやすいだろう」
「そうでもないよ。東京近県だからそれ程変わらないよ」
「自炊はできるのか」
「近所のスーパーで惣菜を買って食うるから、大丈夫だよ」
「出来るだけ煮炊きは自分でやりなよ」
「そうする――」
「それで金を下ろすから一緒に来てくれるか」
「三菱銀行には預金はしないのだね」
「東京には帰らないから、もう預金しても無駄だよ」
「そうだね」
18歳か25年間継続して預金した通帳残高0にして、房総信用金庫で預金通帳を作った。

家を建て始めてから三ヶ月後に三菱銀行から、午前10時に会社に電話が来た。
☎♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦
「はい。ラリックです」と松島専務が出た。
“もしもし”
「三菱銀行ですが。中様いらっしゃいますか」
“チョット待って”
「三菱銀行から電話」
「そう」
「もしもし。代わりました」
「ご融資の件なのですが、中様は申請されていますよね」
「北山さんはどうしたの」
「転勤になりましたので、わたくし小出が担当する事になりました」
「ふぅん~」
「どういたしましょうか」
「何言っているんだよ。貸す気もないくせに、あれ持って来い、これ持って来い、
と 言って 何度も無駄足運ばせやがって」
「残りの構図さえあれば、ご融資が出来るのですが」
「分からないものを、持っていけるか」
「そうですか」
「他かの銀行から借りたから、もう いいよ」
「それならキャンセルと言う事でいいですね」
「そうだ――」
「わかりました。それでは失礼いたします」と電話を切った。
「まったく 頭来るなぁ」
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