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支流からの眺め

武漢ウイルスで見直す国々 (3) ロシア連邦

 最後の覇権国としてロシアを考えてみる。

 ロシアの地には多数の民族が生活し諸侯が対立していた。9世紀にキエフ大公国が建国されキリスト教を受け入れた(この点で中国と大きく異なる、ロシア正教の公認は16世紀)。13世紀にはモンゴル帝国(キプチャク・ハン国)が支配し、15世紀からはモスクワ大公国が治めた。大公国は、シベリア進出などの領土拡大を進めたが、その後の内乱とポーランドからの侵攻で滅びた。続くロマノフ朝ロシアは軍事的拡大を行い、北欧諸国との北方戦争に勝利した。1721年に国王が皇帝を名乗りロシア帝国となり、ここに東欧の盟主として欧州の舞台に登場した。

 ロシア帝国は野心的に領土を拡大した。西は東欧・北欧諸国、南はトルコ、ウクライナ、イラン、東は中央アジア、中国に及んだ。沿海州を清から獲得しウラジオストクを建設し、日本とも接触した。1812年には無敵のナポレオンを撃退しウィーン体制で地位を築き、近代化を図り産業振興を進めた。しかし、クリミア戦争での敗北、バルカン半島での苦戦、日露戦争の敗北などが続き、第一次世界大戦には勝利したものの、共産革命で1917年にロマノフ王朝は滅んだ。そして1922年、レーニンがソ連共産党の一党独裁によるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)を建国した。首都も約200年ぶりにモスクワにもどった。

 建国後のソ連は、世界恐慌で資本主義国が不況に苦しむ中、スターリン独裁下で高い経済成長を達成した。第二次世界大戦では戦勝国となり、バルト三国、ポーランド、ドイツ、ルーマニア、フィンランド、チェコスロバキアの一部または全部を併合し、西に大きく領土を広げた。日本からは南樺太と千島列島を収奪した。更に軍事力を拡張し、東欧諸国を衛星国とするワルシャワ条約機構(WTO)を結成して、米国との覇権を争った。しかし、東欧諸国などでの動乱、過大な軍事費、チェルノブイリ原発事故などから、1991年にソ連は崩壊した。ソ連の国際的な権利は、衛星国を切り離したロシア共和国(後にロシア連邦、露国)が継承した。

 ソ連時代は、社会保障は充実していたが、独裁政治の恐怖・閉塞感、無競争による停滞などが国を覆った。露国は開放政策を取ったが、経済恐慌や内乱に苦しみ弱体化した。2000年に大統領となったプーチンは、内乱を鎮圧し、経済基盤たる石油・ガスなどの天然資源の権益を国有化して、ロシア帝国の姿を復活させた。衛星国の締めつけ、中東問題への介入、中南米諸国との関係強化、中国との関係修復を図り、覇権国の地位を回復した。しかし、2018年のクリミア半島併合での欧米との対立、原油価格の低落などから経済的・軍事的な基盤が不安定化している。2020年には大幅な憲法改定を行い、独裁体制と保守化を強化した。

 露国の国土は世界最大の1,700万平方キロ(米・中の1.7-1.8倍、日本の46倍!)で、果てしなく広大である。しかし、人口は1.5億人、GDPは1.6兆ドル(12位)で米国の8%、日本の30%程度である。軍事費は650億ドル(6位)とわが国の1.5倍であるが、米国の8%に過ぎない。この国力で覇権を競うのは、広大な領土を守る気概からである。広大な国土故に、防衛線は長大となり、常に侵略の脅威に晒されている。西には、積年の戦争相手である欧州諸国があり、その後ろには米国が陣取っている。東には、日露戦争での苦杯に報いた日本があり、米国と強固な同盟を結んでいる。南には、食えない中国がいる。愛国的な強いリーダーを待望する所以である。

 露国の国是はロシア民族の団結と広大な国土の担保にある。周辺国の野望には警戒心を抱き、何かと猜疑的にならざるを得ない。この人間不信は、荒々しい自然や粗野で保守的な国民の気質にもよるだろう。しかし、過去の戦歴も凄まじい。モンゴル帝国による制圧は、タタールの軛として記憶に残る。近世には欧州諸国から繰り返し侵略を受けた。ナポレオン戦争と2度の世界大戦では、肉を切らせて骨を切る焦土作戦(撤退の際に都市を焼き払い戦利品を与えず、内地に引き摺り込んで自滅させる戦法)で辛勝した。第二次世界大戦では2500万人の死者を出し(日本は300万人、独国は700万人)、内乱の猜疑心にかられたスターリンは2000万人を粛清したとも言われる。

 露国と付き合うには、この恐怖心と猜疑心を理解する必要がある。但し、中国と違って陰湿な浸透作戦は性に合わないし、米国が覇権を保つ限り露骨な挑発はして来ない。現実主義の露国が欲しいのはお金である。日本のやり方は、経済発展を維持し良い通商関係を築く(お得意さんになる)ことである。手っ取り早いのは、シベリア産の天然ガスの買い付けだろう。注意すべきは、中国と共通する露国の政体の欠点(独裁制)を突かないこと、つまり、この2国から共通の敵とみなされて、共同戦線を張られないことである。独裁制は大陸国家に似合う制度・文化と理解し尊重すべきだろう。

 わが国との関連では、北朝鮮は緩衝地帯として残すし、戦争で獲得した千島列島を返還する気はない。


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