主人公の置かれている状況が自分と似ているかといえば、必ずしもそうではない。だが、自分が同じような境遇になったら、ほぼ間違いなく同じように行動するだろう。いや、すでに今までの人生の中で、同じようなことを言い、同じように人に迷惑をかけ、同じように惨めな目に遭い、同じように打ちひしがれたことはあった。彼と違って僕が現在とりあえず安穏と暮らしているのは、単に運が良かっただけかもしれない。もしくは、彼ほどの行動力――それが歪んだものであっても――がなかっただけかもしれない。
ショーン・ペン演じるサム・ビックは新人セールスマンで、妻や子どもたちとは別居している。正直であることを信念とする彼は、利益を最優先させる社長の方針に反感を持つ。見向きしてくれなくなった妻の気を惹こうと必死になるが、冷たくあしらわれる。事業を興そうと躍起になるものの、役所の手続きが進まない。そうした諸々の不満を彼は次第に社会への怒りへと転化させていく。そして、「社会を腐敗させた象徴」としてのリチャード・ニクソン大統領を暗殺しようと決意するのである。本題から外れるが、その辺りの心理状況が今ひとつ伝わってこないのは脚本の不備だろう。たとえば幸せな結婚生活を送っていた頃の姿を回想シーンで見せれば、現在の彼との対比が鮮明になったのではないだろうか。だがまあ、ここで作品の出来不出来を語る気はない。
この主人公は善人であり不器用であり、正直者ではある。だが、持っている正義感は薄っぺらく、掲げる理想は甘っちょろすぎで現実味がない。彼が怒りの矛先を向ける社長は確かに鼻持ちならない俗物ではあるが、ありふれた中小企業の経営者にすぎないだろう。彼が食ってかかる役所の担当者も、職務を忠実にこなしているだけだ。妻に至っては、子どもたちを養うために脚を大胆に露出した衣装で働いている。立派である。そんな妻に主人公は甘え、時にはなじったりする。彼は理想も正義も自分の中にあるように勘違いしているが、単にワガママなだけなのだ。
いや、そんなことは僕が書くまでもなく、この映画を観た方のほとんどが思ったことだろう。僕が観ていて嫌になったのは、そんな彼の言動がことごとく「自分も言いそうなこと」「自分もやらかしそうなこと」だったからだ。僕自身、客にモノを売りつけることが苦手だった。偉そうに社会の腐敗を嘆き、差別や搾取のない平等な社会の実現を願ったりもした。それ自体は決して悪いことではないだろう。だが、そういう輩のほとんどは、生活能力に欠け、心の奥底では自分を一番大切に思っているものである。僕がそうなんだから、まず間違いない。そう、僕はサム・ビックと九分九厘、同じタイプの人間なのだ。そのことを徹底的に思い知らされた2時間だったから、観ていてシンドくて仕方なかった。妻の身体を触った客に水をかけるシーンでは、思わず目を閉じてしまったほどだ。
チラシには「あまりにも孤独で、あまりにもナイーブなテロリスト」という宣伝惹句が書かれている。おいおい、そんな言葉で甘やかしちゃダメだって。彼は決して孤独ではなかった。別居している妻は彼を心配してくれたし、兄も友人も親身になってくれた。社長だって、それなりに育てようとしてくれた。彼は自ら好んで孤独を選んだのだ。それに「ナイーブ」? 本来の意味はともかく、日本では「純粋な」「傷つきやすい」というような意味合いで使われる。しかし、この映画の主人公は――そして僕も――単なる甘ったれである。チラシの文句は「あまりにも勝手で、あまりにも甘ったれたテロリスト」にするべきだろう。まあ、それじゃあ客は入らないだろうけど。
最後に、ミーハー的観点で一言。ナオミ・ワッツ、すげーキレイ! しかも、あの衣装、いいねぇ。階段を上がるシーンにはドキドキしちゃいました。すんません、結局こんな男なんです。
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