※お気に入り度→★★★★☆
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伊坂幸太郎の小説は3冊ぐらいしか読んでないけど、映画化されたものはほとんど観ている(と書いてからウィキペディアで調べたら、全部観ていた)。で、観るたびに思うのは、「この人、シャレにならない悪事とか、常人が理解できない悪人を描くことが多いなぁ」ってことだ。タイトルや予告編の雰囲気から牧歌的でハートウォーミングな物語かと思っていたら、とんでもなく陰惨で救いようのない出来事が描かれている、ということが多いのである。その典型が、『アヒルと鴨のコインロッカー』。原作を未読なので映画がどれだけ原作に忠実なのかは分からないが、あまりにも後味が悪い内容にゲンナリした気分になったものだ。
さて、この『重力ピエロ』。またもや「シャレにならない悪事」が描かれ、「常人が理解できない悪人」が登場する。ただ、すでに予告編から不穏な雰囲気が漂っていたので、予想の範囲内ではある。
しかし、それでも強烈だ。常識的に考えれば誰でも「許されざる犯罪」と思うようなことをしでかした男は、微塵も反省していないし、後悔の念も皆無だ。それどころか、穏やかな笑顔で過去の悪事を自慢げに語り、自分の正当性を滔々と述べるのだ。まともな人間なら、観ていて胸くそ悪くなるのは当然だろう。
もっとも、こうしたキャラクター造形は最近よく見かけるものでもある。アメリカ映画でも、ここのところやたらと得体の知れない悪人が登場するのだ。その代表は、『ダークナイト』のジョーカーと『ノーカントリー』の殺し屋だろう。かつては、非道な犯罪者を描く時、その「背景」が語られることが多かった。「幼い頃に受けた心の傷によって性格が歪んだ」というヤツである。しかし、最近はそんなことと関係なく、悪人は徹底的な悪人として描かれる。それが良い傾向なのかどうかは分からないが、「理解できない非道な事件を起こす人間を理解するのは不可能」という認識が世界的に広まっているような気はする。おっと、話がヨソに行っちゃいましたね。
この映画には、「常人が理解できない悪人」だけでなく、「ごく一般的な人間の悪意」も描かれている。それがまた、なんとも観客を不快にさせるのだ。実際問題、市井の人々は犯罪被害者に対して、あんなに陰湿な仕打ちをするものだろうか? 善人ぶるつもりはないが、僕だったらああいう噂話の流布には関わらないよう留意するだろう。ただ、たとえば小学生の頃だったら、周りに流されるまま、無邪気に加担していたかもしれない。
悪人の悪意と、ごく一般的な人間の悪意。2種類の悪意に弄ばれて、固い絆で結ばれている家族は追い詰められ、同時に結束を強める。母親という無二の存在を失ってからも、その絆が弱まることはない。そして、兄弟は自分たちの存在を脅かす邪悪な人間を消し去ろうと、それぞれに策を練るのだ。その真相が分かった時、観客は兄弟たちの境遇に同情しつつ共感し、彼らが法によって罰せられることがないように願う(よね?)。そして、その願いは叶えられる。
えっと、でもね、いくらなんでも、あんなに放火しまくっちゃダメでしょ。いや、気持ちは分かるけどさ。それに、弟がやったこと(アートっぽい落書きと、それに込めたメッセージ)、あまりに凝り過ぎ。兄が見抜かなかったら、どうするつもりだったの? と、まあ、そんなこんなでいろいろとツッコミどころも多い映画なのだ。たぶん、原作では、もっと説得力があるんだろうけどね。
それにしても、この映画での吉高由里子は素晴らしい。なんてったって、「全身整形して美人になった」という役柄なのだ(『ゲット スマート』のアン・ハサウェイと同じ)。キャスティングした方も見事だし、それをリアルに演じた吉高由里子もアッパレ。挙動不審な動作には大笑いしちまった。去年の『蛇にピアス』では文字通り身体を張っていたし、若手女優の中でも傑出した存在になっているんじゃないだろうか。
加瀬亮と岡田将生も好演している。まあ、加瀬亮が上手いのは当然として、『天然コケッコー』の時はさほど印象に残らなかった岡田将生が、『ハルフウェイ』『ホノカアボーイ』そして本作と、どんどん存在感を増しているのには感心する。今回は凄みさえ感じさせるもんね。最近の若い役者たちは大したもんですわ。
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