あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

寂しい幸せな余韻

2021-12-07 | 本(文庫本)
伊坂幸太郎さんの『フーガはユーガ』を読みました。
文庫新作。韻を踏んだタイトル。表紙カバーデザインもオシャレで素敵。「力入っているな~、出版社!」っていうのが最初の感想。

仙台市内にあるファミレスで、常盤優我はテレビディレクターの高杉相手に、双子の弟・風我とどんな子ども時代を送ってきたのかを語り始める。父親からの度を過ぎた虐待、何の力にもならず遂には失踪してしまった母親。だから優我と風我はお互いを助け合いながら生きて行くしかなかった。この双子にだけ備わった特別で不思議な能力を武器にして。やがてその「武器」をもって邪悪な存在との闘いに挑む。

この双子が得た「武器」とは、誕生日の10時10分から2時間ごとにお互いの身体が入れ替わる奇妙なテレポーテーションの能力。それで誕生日には災難を逃れたりしてきました。
伊坂さんの作品にはとんでもない「悪」が登場しないものがない、と言い切って良いかもしれませんが、今回のはヤバイです。まったく存在しない架空の悪ではないからです。絶対にどこかにいる悪い人たちだから。自分の「悪」を「悪」だと思うことがない人たち。その「悪」を本来なら守らなければならない弱い存在に向けてしまう卑怯者。そう考えると、時々読むのが辛くなるお話ではありました。
それでも先に希望が見えたのは、ユーガとフーガの心が荒んでいなかったから。多くの子どもたちが味わうはすの幸せな経験をしてこなかった二人なのに、全然荒んでいない。それどころか、自分たちとは違うパターンで幸せではない少年や少女を助けようとするんです。誕生日ごとに可能になる能力を使って。

物語前半に出てくるエピソードが終盤に回収されたり、悪を懲らしめる勧善懲悪な展開はいつもの伊坂作品と同じなのですが、本作のラストはいつもとちょっと違っていました。
幸せな余韻は感じられるのだけど、どこか寂しい。悲しいのではなく寂しい。
ラストシーンが晴天の公園だったことが救いでした。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 連日鍋 | トップ | 出遅れの紅葉 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

本(文庫本)」カテゴリの最新記事