神戸市内で先月16日夜、日本人の男(47)がロシア人女性を刺殺して自殺を図った事件について、同日未明に発生した北海道根室沖のカニ漁船銃撃・拿捕(だほ)事件の「復讐(ふくしゅう)」とする報道が、ロシアの親政府系メディアを中心に相次いでいる。神戸の事件は男女関係のもつれが原因で、北方領土問題もからむ拿捕事件とは全く別の事件。時系列的にも無理のある話で、専門家からは「事実誤認の報道については政府が毅然(きぜん)と抗議すべきだ」との声も上がっている。
先月19日のロシアの人気タブロイド誌「コムサモーリスカヤ・プラウダ」によれば、「日本人は密漁者殺害でわれわれに復讐したのか?」との見出しで、「国際政治には、確かに『目には目を』の原則は存在する。スパイ疑惑の場合の外交官追放の応酬がそうだ。しかし、殺害するのは『国民的』復讐としても行きすぎだ」と報道。
これに先立ち18日の日刊紙「ノーヴィエ・イズベスチャ」は、神戸の事件は「拿捕事件に続き、露日間の外交スキャンダルを刺激」と指摘している。
その後も多くの新聞が神戸で殺害された女性が、子供のころ、プロのバレリーナを目指し、日本で稼いだ金でダンススクールを開くのが夢だったことや実家に仕送りしていたこと、「日本は安全と聞かされていた」と泣き崩れる両親のインタビュー記事などを大きく紹介している。
神戸の事件は先月16日午後11時半ごろ発生。三宮のキャバレーで働くロシア出身のシェリパーナヴァ・アナスターシャさん(22)が、付き合いのあった客の男にサバイバルナイフで刺され死亡した。男はその後、ナイフで腹を刺して、自殺を図ろうとし、病院で治療を受けている。
一方、ロシア国境警備艇がカニ漁船を銃撃し、乗組員が死亡した事件は同日早朝(日本時間)に発生。2つの事件は全く無関係だが、現地のメディアは神戸の事件を「サムライ」「ハラキリ」などの表現を使ってセンセーショナルに取り上げる一方で、拿捕事件についてはほとんど取り上げていないという。
イタル・タス通信のワシーリー・ゴロブニン東京支局長は「神戸事件は、日本ではさほど話題にならなかったが、ショッキングな殺害方法で、ロシアでは非常に大きなニュースになっている。日本人と同じ時期にロシア人も殺されており、露日関係に否定的な影響を与えている」と話している。
◇
≪佐藤優氏≫
■「日本外交の不作為証明」
ロシアの主要メディアでは、2008年春の大統領選挙に向け、カギを握るメディアへの統制強化が色濃く反映し、政権のメディア支配が進んでいる。
今回の報道でも、昨年6月に買収され、独立系メディアから政権傘下の国有メディアに変わったイズベスチヤ紙をはじめ、親政府系メディアを中心に、神戸事件をセンセーショナルに取り上げた。一方で、拿捕事件の報道は、早々に沈静化していた。
この状況について、ロシアのメディアの実態に詳しいロシア人専門家は「親政権派の経営者の手に渡った新聞はいずれも政権批判を抑えている。政府とは独立した視点で批判を展開するメディアは今では数えるほどだ」と指摘している。
起訴休職中の外務事務官、佐藤優さんは、ロシアのメディア報道の傾向について、「ソ連時代から、メディアの方から政権に自発的に迎合してきた」として、今回の神戸事件報道も、「プーチン政権の意向を反映したものだ」と分析する。
さらに、「日本人とロシア人の顔がお互いに見えなくなっている」という昨今の状況も、こうした誤解を生む報道の背景にあるといい、「事実と違った報道がされた場合、モスクワの日本大使館は、報道機関に対して、毅然と抗議しなくてはならない」と指摘。
「『拿捕事件の報復』などという見出しが紙面に躍ること自体、報道を許している日本外交の不作為を証明している。外交官は高いモラルと高い機動力をもって、こうした報道を抑えなくてはならない」と話した。
<産経新聞>
<プーチン露大統領>北方四島の領土問題解決を希望
【モスクワ町田幸彦】ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワ郊外で開かれたロシア研究者・専門家との会合で日露平和条約締結交渉に関連して「(焦点の)領土問題を解決したいと思っている」と述べた。同会合に参加した袴田茂樹・青山学院大学教授が11日、明らかにした。袴田教授によると、大統領は日本の北方四島返還要求に対して「双方の努力と妥協が必要だ」と強調した。
大統領は平和条約問題で「ロシアの姿勢が厳しくなっているとは思わない」と言明。「領土問題は以前、日本で国内の政治ゲームに利用されたが、今の日本は本気でこの問題解決を望んでいると理解している」と語った。また2年前に中露国境画定交渉が妥結したことに言及した。
大統領には小泉政権後をにらんで日露関係に前向きな意思を示す狙いがあったとみられる。
(毎日新聞) - 9月12日8時55分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060912-00000020-mai-pol
北方領土問題 露大統領、退陣前の解決に意欲
【モスクワ=内藤泰朗】ロシアのプーチン大統領が9日、日米欧の有識者をモスクワ郊外の公邸に招いて懇談し、北方領土問題について「双方に受け入れ可能な妥協によって解決したい」と述べ、2008年の退陣前に領土問題を解決し、対日関係を改善したいとの意欲を示した。日本から出席した青山学院大の袴田茂樹教授によると、対アジア政策を質問された大統領は自ら進んで北方領土問題に触れ、「すぐに解決できるとは思っていないが、平和条約締結の道を探す必要がある」と述べた。 さらに、大統領は、2004年に画定した中露間の国境について「歴史的な偉業である」と自画自賛。ロシア側が、1956年の日ソ共同宣言を順守する姿勢を示し、歯舞、色丹の2島引き渡しで日本とも最終決着したい意向を示した。 大統領の発言は、今月末に誕生する日本の次期政権を視野に入れ、政治交渉を促す意図があるものとみられるが、袴田教授は「日本漁船銃撃事件などで日露関係が悪化する兆しをみせる中、意識的にバランスをとろうとしたのだろう」と指摘している。
(09/12 23:37)
http://www.sankei.co.jp/news/060912/kok015.htm
「領土問題は経済発展を妨げてはならない」 JETRO理事長発言が波紋
【モスクワ=内藤泰朗】独立行政法人の日本貿易振興機構(JETRO)の渡辺修理事長を団長とする投資ビジネス代表団がこのほど、ロシアを訪問したが、その際、同理事長が「日露間の領土問題は、両国の経済発展を妨げてはいけない」と述べたことが波紋を広げている。ロシアのメディアは、日本が北方領土問題で譲歩する可能性を示したものと報道。政治と経済両方を同時に発展させるという従来の日本外交の方針と異なる誤ったシグナルを送る結果となった。
JETRO理事長の訪露は1992年の「日本産業見本市」以来のことで、問題の発言は4日、渡辺理事長がモスクワ市内でロシア人記者らを招いて行った会見の席上でのこと。
渡辺氏はその中で、日露間に平和条約が締結されていないことが両国の経済発展に影響があるかとのロシア人記者の質問に、「政治問題が経済に悪影響を及ぼさないように注意しなければならない。それが重要で、政治を司る両国指導者の責任だ」と述べた。
さらに、「もし、両国の経済発展に悪影響が出るなら、両国首脳は、そうならないように政治問題も解決するよう努力しなければならない」と強調した。
渡辺氏は「両国首脳の努力」に言及しているものの、実際に発言を聞いていた限りでは、経済発展のためには、北方領土問題で日本政府が譲歩することもあり得ると受け取られても、仕方がない発言だった。
事実、ロシアの有力日刊紙ガゼータは、渡辺氏の発言として「平和条約がないことは最近、日露の経済発展の障害とはならなくなった」と明確に報道。領土問題を解決し平和条約を締結しなくても日本との協力は進む、という誤解を生みかねない結果となった。
日露の政治関係は、ロシア側から領土問題の存在を否定する発言が相次ぎ、ロシア国境警備艇による日本漁船銃撃事件などで、さらに悪化の兆しを見せる。日本側が経済優先の姿勢を示せば、さらにロシアにつけ込まれるという構図だ。日本は新政権発足を機に、領土問題を含む対露外交の再構築を迫られている。
(09/12 23:57)
http://www.sankei.co.jp/news/060912/kok020.htm
先月19日のロシアの人気タブロイド誌「コムサモーリスカヤ・プラウダ」によれば、「日本人は密漁者殺害でわれわれに復讐したのか?」との見出しで、「国際政治には、確かに『目には目を』の原則は存在する。スパイ疑惑の場合の外交官追放の応酬がそうだ。しかし、殺害するのは『国民的』復讐としても行きすぎだ」と報道。
これに先立ち18日の日刊紙「ノーヴィエ・イズベスチャ」は、神戸の事件は「拿捕事件に続き、露日間の外交スキャンダルを刺激」と指摘している。
その後も多くの新聞が神戸で殺害された女性が、子供のころ、プロのバレリーナを目指し、日本で稼いだ金でダンススクールを開くのが夢だったことや実家に仕送りしていたこと、「日本は安全と聞かされていた」と泣き崩れる両親のインタビュー記事などを大きく紹介している。
神戸の事件は先月16日午後11時半ごろ発生。三宮のキャバレーで働くロシア出身のシェリパーナヴァ・アナスターシャさん(22)が、付き合いのあった客の男にサバイバルナイフで刺され死亡した。男はその後、ナイフで腹を刺して、自殺を図ろうとし、病院で治療を受けている。
一方、ロシア国境警備艇がカニ漁船を銃撃し、乗組員が死亡した事件は同日早朝(日本時間)に発生。2つの事件は全く無関係だが、現地のメディアは神戸の事件を「サムライ」「ハラキリ」などの表現を使ってセンセーショナルに取り上げる一方で、拿捕事件についてはほとんど取り上げていないという。
イタル・タス通信のワシーリー・ゴロブニン東京支局長は「神戸事件は、日本ではさほど話題にならなかったが、ショッキングな殺害方法で、ロシアでは非常に大きなニュースになっている。日本人と同じ時期にロシア人も殺されており、露日関係に否定的な影響を与えている」と話している。
◇
≪佐藤優氏≫
■「日本外交の不作為証明」
ロシアの主要メディアでは、2008年春の大統領選挙に向け、カギを握るメディアへの統制強化が色濃く反映し、政権のメディア支配が進んでいる。
今回の報道でも、昨年6月に買収され、独立系メディアから政権傘下の国有メディアに変わったイズベスチヤ紙をはじめ、親政府系メディアを中心に、神戸事件をセンセーショナルに取り上げた。一方で、拿捕事件の報道は、早々に沈静化していた。
この状況について、ロシアのメディアの実態に詳しいロシア人専門家は「親政権派の経営者の手に渡った新聞はいずれも政権批判を抑えている。政府とは独立した視点で批判を展開するメディアは今では数えるほどだ」と指摘している。
起訴休職中の外務事務官、佐藤優さんは、ロシアのメディア報道の傾向について、「ソ連時代から、メディアの方から政権に自発的に迎合してきた」として、今回の神戸事件報道も、「プーチン政権の意向を反映したものだ」と分析する。
さらに、「日本人とロシア人の顔がお互いに見えなくなっている」という昨今の状況も、こうした誤解を生む報道の背景にあるといい、「事実と違った報道がされた場合、モスクワの日本大使館は、報道機関に対して、毅然と抗議しなくてはならない」と指摘。
「『拿捕事件の報復』などという見出しが紙面に躍ること自体、報道を許している日本外交の不作為を証明している。外交官は高いモラルと高い機動力をもって、こうした報道を抑えなくてはならない」と話した。
<産経新聞>
<プーチン露大統領>北方四島の領土問題解決を希望
【モスクワ町田幸彦】ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワ郊外で開かれたロシア研究者・専門家との会合で日露平和条約締結交渉に関連して「(焦点の)領土問題を解決したいと思っている」と述べた。同会合に参加した袴田茂樹・青山学院大学教授が11日、明らかにした。袴田教授によると、大統領は日本の北方四島返還要求に対して「双方の努力と妥協が必要だ」と強調した。
大統領は平和条約問題で「ロシアの姿勢が厳しくなっているとは思わない」と言明。「領土問題は以前、日本で国内の政治ゲームに利用されたが、今の日本は本気でこの問題解決を望んでいると理解している」と語った。また2年前に中露国境画定交渉が妥結したことに言及した。
大統領には小泉政権後をにらんで日露関係に前向きな意思を示す狙いがあったとみられる。
(毎日新聞) - 9月12日8時55分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060912-00000020-mai-pol
北方領土問題 露大統領、退陣前の解決に意欲
【モスクワ=内藤泰朗】ロシアのプーチン大統領が9日、日米欧の有識者をモスクワ郊外の公邸に招いて懇談し、北方領土問題について「双方に受け入れ可能な妥協によって解決したい」と述べ、2008年の退陣前に領土問題を解決し、対日関係を改善したいとの意欲を示した。日本から出席した青山学院大の袴田茂樹教授によると、対アジア政策を質問された大統領は自ら進んで北方領土問題に触れ、「すぐに解決できるとは思っていないが、平和条約締結の道を探す必要がある」と述べた。 さらに、大統領は、2004年に画定した中露間の国境について「歴史的な偉業である」と自画自賛。ロシア側が、1956年の日ソ共同宣言を順守する姿勢を示し、歯舞、色丹の2島引き渡しで日本とも最終決着したい意向を示した。 大統領の発言は、今月末に誕生する日本の次期政権を視野に入れ、政治交渉を促す意図があるものとみられるが、袴田教授は「日本漁船銃撃事件などで日露関係が悪化する兆しをみせる中、意識的にバランスをとろうとしたのだろう」と指摘している。
(09/12 23:37)
http://www.sankei.co.jp/news/060912/kok015.htm
「領土問題は経済発展を妨げてはならない」 JETRO理事長発言が波紋
【モスクワ=内藤泰朗】独立行政法人の日本貿易振興機構(JETRO)の渡辺修理事長を団長とする投資ビジネス代表団がこのほど、ロシアを訪問したが、その際、同理事長が「日露間の領土問題は、両国の経済発展を妨げてはいけない」と述べたことが波紋を広げている。ロシアのメディアは、日本が北方領土問題で譲歩する可能性を示したものと報道。政治と経済両方を同時に発展させるという従来の日本外交の方針と異なる誤ったシグナルを送る結果となった。
JETRO理事長の訪露は1992年の「日本産業見本市」以来のことで、問題の発言は4日、渡辺理事長がモスクワ市内でロシア人記者らを招いて行った会見の席上でのこと。
渡辺氏はその中で、日露間に平和条約が締結されていないことが両国の経済発展に影響があるかとのロシア人記者の質問に、「政治問題が経済に悪影響を及ぼさないように注意しなければならない。それが重要で、政治を司る両国指導者の責任だ」と述べた。
さらに、「もし、両国の経済発展に悪影響が出るなら、両国首脳は、そうならないように政治問題も解決するよう努力しなければならない」と強調した。
渡辺氏は「両国首脳の努力」に言及しているものの、実際に発言を聞いていた限りでは、経済発展のためには、北方領土問題で日本政府が譲歩することもあり得ると受け取られても、仕方がない発言だった。
事実、ロシアの有力日刊紙ガゼータは、渡辺氏の発言として「平和条約がないことは最近、日露の経済発展の障害とはならなくなった」と明確に報道。領土問題を解決し平和条約を締結しなくても日本との協力は進む、という誤解を生みかねない結果となった。
日露の政治関係は、ロシア側から領土問題の存在を否定する発言が相次ぎ、ロシア国境警備艇による日本漁船銃撃事件などで、さらに悪化の兆しを見せる。日本側が経済優先の姿勢を示せば、さらにロシアにつけ込まれるという構図だ。日本は新政権発足を機に、領土問題を含む対露外交の再構築を迫られている。
(09/12 23:57)
http://www.sankei.co.jp/news/060912/kok020.htm