
『ヌーン街で拾ったもの』
レイモンド・チャンドラー(米:1888-1959)
清水俊二・他訳
1961年・ハヤカワ・ミステリ
俺が何かを発言する時、語尾に
「だヌ~ン」
を付けるようになったのも、元はと言えばチャンドラーの影響だね。
だヌ~ん、に限って言えば、ピエール瀧よりもちょっと早かったと思う。
2007年に早川がチャンドラー短篇全集を新訳で一挙刊行するまで、長らくこのポケミスとか読んでたねー。
古い訳もそれはそれで味があるから、引っ張り出して、こうしてたまに読んじゃうんだけどね。
昔は印刷機の都合で小さい「つ」が印字できなかったみたいで、俺の持ってる1998年の第8刷でも、中身は
「みろ、やつつけたぞ!」
みたいな具合なんで。
まあ、人間すぐに慣れます。
ちなみに、その前の版までは表紙さえ思いっきり
『ヌーン街で拾つたもの』
でした。
■『ヌーン街で拾ったもの』(清水俊二訳)
"Pick-Up On Noon Street"(1936年)。
主人公は麻薬捜査官のピート・アングリッチ。
チャンドラーの短篇の中では、さほど好きな話ではないですね。
車から放り投げられたモノを拾うという不自然すぎる設定に、うまく乗っていけない。
ちなみに、ストーリーの途中で主人公のアングリッチが
”・・・・リノを呼べ”
と書かれた紙片を見つけて、急に
「これで読めた」
と金田一耕助的なことを呟くんですが、何がどう読めたのか、お頭の弱いこっちにはからっきし分かないのだった。
■『殺しに鶏のまねは通用しない』(清水俊二訳)
そんなこと急に言われてもなぁ。
俺、殺しに鶏のまねが通用するなんて、もともと考えたこともなかったよ。
"Smart-Aleck Kill"(1934年)の邦題が、なぜこうなるかはお釈迦様でも分からない。
主人公はジョニー・ダルマス。
この話では、ダルマスが赤毛の運転手ジョーイを手下として使ってるのが特徴的。
2007年の新訳では、ダルマスの台詞が普通に
「角のところで待機していてくれ、ジョーイ」
となるのが、1961年の清水訳では
「角をまがつたところで待つてる方がいいぜ、ジョーイ」
となる。
「待つてる方がいいぜ」って・・・。
無理やりハードボイルドっぽくしようとしてて、なんか可愛い。
■怯じけづいてちゃ商売にならない(清水俊二訳)
タイトルでお説教ですか。
まあ、さっきの「鶏のまね」云々よりは、言ってること、理解できるけどね。
”Trouble Is My Business”(1939年)。
好きな話です。
エンディングも非常に味があるね。
後のチャンドラーの長編を思わせる。
主人公はジョン・ダルマス。
運転手のジョージが印象的。
チャンドラーの小説には、たまにこういうごっついタフな男が出てきますね。
■指さす男(田中融二訳)
”Finger Man”(1934年)。
主人公はフィリップ・マーロウ。
別に、これ以外の3話の主人公だって名前が違うだけで、中身はマーロウ(の原型)なんだけど、この話では完全に、我々の知っているマーロウですね。
何回読んでも面白い。
マーロウが、ドラッグストアでタクシー運転手とやりとりする辺り(194頁)で、ストーリーにドライブがかかる感じ。
あそこで引き込まれる。
そんなわけで、この本の表紙の絵。
これが何なのか、分かる人いたら教えてねっと。
■チャンドラー 自己中心派
(1)長編
・『長いお別れ』 (1976年・ハヤカワ文庫)
・『さらば愛しき女よ』 (1976年・ハヤカワ文庫)
・『湖中の女』 (1986年・ハヤカワ文庫)
・『高い窓』 (1988年・ハヤカワ文庫)
・『リトル・シスター』 (2010年・早川書房)
(2)短篇
・『ヌーン街で拾ったもの』 (1961年・ハヤカワミステリ)
・『赤い風』 (1963年・創元推理文庫)
・『チャンドラー短篇全集』 (2007年・ハヤカワ文庫)
(3)トリビュート/アンソロジー
・『プードル・スプリングス物語』 (1997年・ハヤカワ文庫)
・『フィリップ・マーロウの事件』 (2007年・ハヤカワ文庫)
(4)チャンドラー研究
・『レイモンド・チャンドラー読本』 (1988年・早川書房)
(5)映画でチャンドラー
・『三つ数えろ』 "The Big Sleep"(1946年)
・『ロング・グッドバイ』 "The Long Goodbye"(1973年)
・『さらば愛しき女よ』 "Farewell My Lovely"(1975年)
(6)ドラマでチャンドラー
・『ロング・グッドバイ』 (2013年・NHK・浅野忠信主演)
<Amazon>
ヌーン街で拾ったもの (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 611) | |
清水 俊二 | |
早川書房 |