『高い窓』
レイモンド・チャンドラー(米:1888-1959)
清水俊二訳
"The High Window" by Raymond Chandler(1943)
1988年・ハヤカワ文庫
日常生活の中で、あの台詞は言わないようにしている。
「いつやるの?」
「今でしょ!」
という例のアレだ。
すっかりブームも去ったと思っていたが、女性誌In Red9月号の特集は
「今でしょ!モテるゾ!カジュアル」
ということで、まだしばらく使いまわされるようだ。
(↑どーでもいい情報をよく知ってますね)
こないだ、誰かと話していて、自然な流れでどうしても
「今でしょ!」
を言わざるを得ないシチュエーションになってしまい、慌てて
「す・・・、すぐだろうな」
と、「今でしょ」を避けるあまり、かなり不自然な言い回しになってしまったのだった。
別に予備校講師がスキとかキライじゃなくて、言いたくないもんは言いたくないんジャイ!
言いたくないといえば、夏のこの時期「あの台詞」も、ありがち過ぎて言いたくない。
「高校野球のお兄さん達がもう年下だと気付いたときは、愕然としましたよね」
というヤツだ。
確かにそん時は愕然としたけど、台詞としてはもう黴が生えている。
さて、高校球児など遠に過ぎ去った俺の世代にとって、次の大ショックはフィリップ・マーロウが年下になった時ではないだろうか。
嘘でしょ・・・、あのマーロウが、俺よりも?
という。
いやー、果たして、その時、俺は自分自身の成熟度を許せるだろうか。
マーロウほどの大人の男を、他に知りませんからね。
マーロウのいい男っぷりの最たるものは『長いお別れ』で友人テリー・レノックスをかばい続けてお巡りさんに散々いびられシーンにあると思いますが、
あーいうのって、年をとればとるほど難しさが分かってくるもんです。
あかん、俺には無理やな、と。
マーロウに追いつくのは、まあ、幾つになっても不可能だ。
日々やれる範囲のことを一生懸命やって、自分を磨いていくしかない。
目標として・・・
『長いお別れ』 で、マーロウがレノックスにしてあげることは、多分目指しても目指しきれない。
無理っス。
俺としては、今後、本書『高い窓』でマーロウが秘書マールにしてあげること、あの優しさ辺りを目標にして頑張ることにしたい。
物語の終盤で、マールに隠された真実を伝える時のマーロウ(330ページ)ったら、もう!
マーロウはんの素敵さは、ほんま五臓六腑に染み渡るでぇ。
<おまけ>
そういえば、2008年12月号の『yom yom』で、石田衣良が
『ベスト・ヒット・名探偵』
というのをやっていて、ここでもまず最初にマーロウが挙げられていた。
石田衣良は
「ちなみにぼくが初めて全篇を読み通した英文のペーパーバックは『The High Window』(高い窓)。
感想は、むずかしくてよくわからなかった!」
と書いている。
英文でコレ読みましたか。
日本語で読んでも、まあまあ込み入ってるからね。
それでも、マーロウが事件のからくり(バニヤーの強請りのネタ)に気付くシーン(272頁)はちょっとゾクっとしますね。
珍しく、普通のミステリとして。
■チャンドラー 自己中心派
(1)長編
・『長いお別れ』 (1976年・ハヤカワ文庫)
・『さらば愛しき女よ』 (1976年・ハヤカワ文庫)
・『湖中の女』 (1986年・ハヤカワ文庫)
・『高い窓』 (1988年・ハヤカワ文庫)
・『リトル・シスター』 (2010年・早川書房)
(2)短篇
・『ヌーン街で拾ったもの』 (1961年・ハヤカワミステリ)
・『赤い風』 (1963年・創元推理文庫)
・『チャンドラー短篇全集』 (2007年・ハヤカワ文庫)
(3)トリビュート/アンソロジー
・『プードル・スプリングス物語』 (1997年・ハヤカワ文庫)
・『フィリップ・マーロウの事件』 (2007年・ハヤカワ文庫)
(4)チャンドラー研究
・『レイモンド・チャンドラー読本』 (1988年・早川書房)
(5)映画でチャンドラー
・『三つ数えろ』 "The Big Sleep"(1946年)
・『ロング・グッドバイ』 "The Long Goodbye"(1973年)
・『さらば愛しき女よ』 "Farewell My Lovely"(1975年)
(6)ドラマでチャンドラー
・『ロング・グッドバイ』 (2013年・NHK・浅野忠信主演)
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