『東京奇譚集』村上春樹(日:1949-)2005年・新潮社2007年・新潮文庫++++サチの息子は十九歳のときに、ハナレイ湾で大きな鮫に襲われて死んだ。正確に言えば、食い殺されたわけではない。一人で沖に出てサーフィンをしているときに、鮫に右脚を食いちぎられ、そのショックで溺れ死んだのだ。だから正式な死因は溺死ということになっている。サーフボードもほとんどまっ二つに食いちぎられていた。+ . . . 本文を読む
『苦役列車』西村賢太(日:1967-)2011年・新潮社意外とキライじゃない。普段、カズオ・イシグロとかばっか読んで、眉間にしわ寄せてる俺ですが(ホンマかいな)、わりになんていうか、フィットする感じで。芥川賞受賞時の「そろそろ風俗にでも行こうとしていたら、連絡が来た」は、まあ、若干メディア向けの色づけはしてあるんだろうけど、それでも、西村さんの偽らざる日常ではあるだろう。しかし、ご本人も認めている . . . 本文を読む
『タイムアウト』デイヴィッド・イーリイ(米:1927-)白須清美 訳”Time Out ” by David Ely (1968,1965,1963,1962)2003年・『ヨットクラブ』晶文社ミステリ2010年・河出文庫主に60~70年代に活躍した米異色作家、イーリイの短篇集。インリン(オブ・ジョイトイ)じゃないの。前に晶文社から単行本が出てたのを、30周年の河出文庫が文 . . . 本文を読む
本棚から何回も取り出してきては読んでいる2008年11月のBRUTUSなんだけど、今週も長時間移動があったので、持って行って、熟読した。とにかく、本や雑誌を片っぱしから買うんだけど、一字一句逃さず読まないと読んだ気にならない上に、古ーいのまで出してきて読みはじめるから、いつまで経っても読み終わらないんだよね。ロールプレイング・ゲームとかやると、全部の宝箱を開けてまわるやうな。勇者としては非常にスケ . . . 本文を読む
『羊をめぐる冒険』村上春樹(日:1949-)1982年・講談社1985年・講談社文庫++++「しかしいちばんかわいそうなのは、なんといっても種牡だね。羊のハーレムのことは知ってるかい?」知らない、と我々は言った。「羊を飼う場合、いちばん大事なのは交尾の管理なんだ。だから牝は牝、牡は牡で隔離して、牝の囲いの中に一頭だけ牡を放り込む。まあだいたいいちばん強いナンバー1の牡だよな。つまり立派な種をしこむ . . . 本文を読む
『長い旅の途上』星野道夫(日:1952-1996)1999年・文芸春秋2002年・文春文庫++++まだ一歳にもならぬ息子が、黄葉が散り始めたベランダに座り、九月の秋の風に吹かれている。コガラがスーッと木々の間を飛び抜け、アカリスがトウヒの枝の上で鋭い警戒音を発し、風がシラカバの葉をサラサラと揺らすたび、彼はサッと世界に目を向ける。そんな一瞬の子どもの瞳に、親の存在などと関係なく、一人の人間として生 . . . 本文を読む
『クリスマス・カロル』
ディケンズ(英:1812-1870)
村岡花子 訳
"A Christmas Carol" by Charles John Huffam Dickens (1843)
1952年・新潮文庫
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「あなたも苦しいでしょう――
私たちの今までのことを思い返せば、あなただって苦しいはずだと、せめては考えたくなります―― . . . 本文を読む
『ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅰ』
ポール・オースター編
柴田 元幸 他訳
"I Thought My Father Was God (Vol.1)" Edited and Introduced by Paul Auster (2001)
2009年・新潮文庫
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二人とも巨大な白いビニールの買い物袋を抱えていて、どちらの袋も新品のおもち . . . 本文を読む
『九つの物語』
J・D・サリンジャー (米:1919-2010)
中川 敏 訳
"Nine Stories" by J.D.Salinger (1953)
1977年・集英社文庫
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腹を立てた笑い男は舌で仮面を押しのけて、デュファルジュ父娘に月光に照らされたむき出しの顔を見せた。
デュファルジュ嬢はその顔を見て気絶してしまった。 . . . 本文を読む
『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』村上春樹インタビュー集 1997-2009村上春樹(日:1949-)2010年・文芸春秋 ++++―――そういうアメリカのイメージはもう、変わったんですね。村上当時から、アメリカには二つの側面がありました。権力的な面と、若いカウンターカルチャー的な面と。僕たちはベトナム戦争を判しましたが、それでもジミ・ヘンドリックスやドアーズを聴いていました。当時 . . . 本文を読む
『壇流クッキング』壇 一雄(日:1912-1976)1975年・中公文庫
++++あまりにモツ料理ばかりでは、ホルモン屋と間違えられそうだから、ひとまず打ち切りにしておこう。今回から二回、オカラを中心にした料理をつくってみるが、モツを磨いた時に、オカラを十円買ったはずである。実は十円のオカラというのは、モツ磨きばかりには多過ぎるので、はじめからその半分はとっておき、ほかの料理にふり向 . . . 本文を読む
『自壊する帝国』佐藤優(日・1960―)2006年・新潮社2008年・新潮文庫++++知の型には二つある。一つは、新しいものを創り出す知性だ。これをもっている人は非常に少ない。学歴やアカデミズムでの地位とこの根源的知性は基本的に無関係だ。イエス・キリストなどは当時の知的水準で図るならば中の上くらいだろう。決して高いレベルの学識をもっていたわけではない。しかし、聖書を読めばわかるようにイ . . . 本文を読む
『In The City』2010 Fall Vol.1Summer RainBeamsから発刊。短篇小説4篇ほかを収録。まず、エイドリアン・トミネのジャケットがよい。内容は、あんま印象に残らない。言うたら、片岡義男の北極グマをも凍死させそうな、極北インタビューが一番面白い。ともあれ、街中でサラっと読むことを意図して作られた雑誌なんだろうし、それでいいんでしょ。このサイズで、街に持ち出 . . . 本文を読む
『ジーザス・サン』デニス・ジョンソン(米:1949- )柴田元幸訳"Jesus' Son" by Denis Johnson (1992)2009年・白水社++++「そうそう、お前テキサスに行ってたんだってな」「養蜂場で働いてたんだ」とハーディーは言った。「へぇぇ。蜂って、やっぱり刺すわけ?」「刺すけど、違うんだよ、思ってるのと」とハーディーは言った。「人間は蜂にとって日々の鍛錬の一部になるわけよ . . . 本文を読む
『血液と石鹸』リン・ディン(米・越南:1963-)柴田元幸訳"Blood and Soap" by Linh Dinh (2004)2008年・早川書房++++無気力な市民たちに活力と意欲を吹き込もうと、政府は話し言葉、書き言葉にかかわらず、センテンス一つひとつの終わりに感嘆符を付けることを義務づけようとしている。たとえば「雨になりそうだ!」とか、「眠らないと!」とか。また、今日では、キーワードの . . . 本文を読む