自社株買いでは企業成長せぬ
「現在の企業経営者たちは株式市場からの厳しい評価にさらされ、株主還元を求める声の大きさに萎縮してしまい、新しい事業への投資を滞らせてしまっている」
経済産業省の有識者会議が、株主への利益還元に偏重した過度な自社株買いよりも、利益を成長投資に向ける方が企業価値の向上につながるという提言をまとめました。産業構造審議会の価値創造経営小委員会が5月末にまとめたものです。
■物言う株主の圧力
日本経済は、「失われた30年」といわれるように長期の経済停滞を続けてきました。
大企業が、過去最高益を更新するような大もうけをしても、配当や自社株買いなどの株主への利益還元には大盤振る舞いの一方で、賃金は上がらず設備投資は振るわず、日本の内需が萎縮してきたからです。
“株主至上主義”を求める投資家からの圧力の中、東京証券取引所が2023年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めたことで、配当に加え、株主への分配として自社株買いが急増してきました。
自社株買いをすると、市場の発行済み株式の数が減ります。すると、その企業があげた利益の額が変わらなくても、1株あたりでいくら利益をあげたかという株主資本利益率(ROE)が上昇します。短期的には、株式市場でその企業の株式に対する評価が高まり、株価をつり上げます。
有識者会議の提言は、「この10年間、資本効率向上の意識が浸透し、我が国の企業は、配当を2倍以上、自社株買いを6倍以上に拡大させてきた」と指摘。短期的な利益を追求する「物言う株主」(アクティビスト)の要求に応えることで成長投資よりも自社株買いを優先しているケースもあることをあげ、「会社にとっても、投資家にとっても、自社株買いよりも魅力的な資金の投入先を見つけ出して、社会全体が発展していく経路を切り拓(ひら)くことこそ経営者の役割」と述べています。
■有識者会議も指摘
企業の持続的成長のためには、他に投資機会があるなら配当や自社株買いなどの株主還元を優先すべきではなく、現金をため込むのも適切でないことを取締役会が認識する必要があるともしています。
経産省の有識者会議も自社株買いの弊害を認めざるを得ないのです。
石破茂首相は先の国会で、日本共産党の小池晃議員が大企業の内部留保を投資や賃上げに還元する仕組みを真剣に考えるべきだと追及したのに対し、「ご指摘の通りだ」と述べ、「企業の利益が株主への還元だけで終わってはいけない」「従業員あるいは家族、地域に対して還元していくのは極めて重要」(6月2日、参院予算委員会)と答弁しました。
自社株買いにより、賃金の上昇や新たな設備投資にお金が回らず、本来、企業が持つ価値や将来性を株主が奪い取っています。
アメリカやフランスでは、自社株買いへの課税に踏み切りました。日本でも課税など自社株買いへの規制をするべきです。
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