JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
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アリシア 9

2007-09-19 03:45:41 | ノンジャンル
 氷河は白羊宮の広場から、広がる風景を見つめていた。
 氷河はこの地に降り立てから違和感に包まれていた。
 いや、聖域に向かう飛行機がこの地に近づく程に、その思いは強まる。
 氷河は極寒の海しか知らない。
 氷河の知る海は、常に生きとし生きるものを拒絶していた。
 燦(さん)と陽光の差す青い空と、宝石を溶かしたように煌く海の色を、氷河は知らない。
 だが氷河は、この肌を包み込むような暖かさと、海の色を知っていた。
――聖闘士だからなのか…。
 神話の時代から、地上の愛と平和を司る女神・アテナ。
 そして、そのアテナを護る聖闘士。
 地上に邪悪がはびこるとき、女神アテナは地上に降臨し、地上に降臨した女神の許・星座に導かれた聖闘士が集うという。
 このデジャビュは、氷河の授かった白鳥星座の聖衣の記憶なのか…。
「氷河」
 背後からの声に氷河は振り返った。
「なんだ」
 氷河は星矢と紫龍、そして瞬を等分に見つめた。
 日本を発つときから、氷河は3人の態度に含みを感じ取っていた。
「今からでも、聖域を出る気はない?」
 瞬の言葉に、氷河は眉を顰めた。
「オレにだけ、敵に背を見せろというのか」
 一時は肩を並べて闘った3人と、いつしか溝ができていることを氷河は察していた。
 その溝は、各自が聖闘士としての自覚を深めるごとに広がっているような気がする。
「そうじゃない、だが…聖域はお前にとって危険なんだ」
「聖域に反旗を翻した以上、どこにいてもそれは同じだろう」
 星矢たちは明らかに、自分になにかを隠している。その秘密が、同じ女神の側にたつ青銅聖闘士たちの間に亀裂を生んでいる。
「ちがう、聖域はお前たちにとって…」
 呪いの地だという言葉を、星矢は辛うじて呑み込んだ。
 星矢たちは女神を護るために星の導きで聖闘士になったのかも知れない。だが、氷河と一輝は違う。
 だがそれを言えば、氷河の命が尽きる。
 氷河たちには神話の時代から、呪いをかけられている。
 秘密を明かせば、氷河にかけられている呪いが発動する。
「もういい、星矢」
 紫龍は言葉を選ぶ星矢の肩に手を置いた。
 氷河には神話の地とは関係のない地で、神話とは無縁の生を送ってもらいたかった。
 だが、女神は降臨し、自分たちは聖域に降り立ってしまった。
 もう、時間は巻き戻せない。
 自分たちは聖闘士として、女神の生命を救うため生ある限り闘う。
「すまん氷河、なんでもないんだ」
 紫龍は笑顔を作った。
 ここで万が一、氷河の命が尽きることがあっても、氷河を手にかけるのが一輝でない限り、呪いの輪廻のリングは外れる。
 氷河の魂は輪廻の輪から外れ、自由になれる。
 神話の時代からかけられた呪いの本質に気付いた一輝も、二度と呪いのリングに捕らわれることはない。
 二人の魂は呪いの輪廻から解放されるのだと、紫龍は自身に言い聞かせた。

「続く」
 
 

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