氷河は7時過ぎに屋敷に戻った。
あれほど切望していたカラオケも、氷河が思ったほどには乗り切れなかった。
普段は真面目な友人たちは、カラオケ店に落ち着くとすぐにアルコールをオーダーし、タバコを吸い始める者もあった。
氷河は体調を案じる沙織や身の回りの大人たちから、健康に有害なものからは遠ざけられて育ってきた。
歌の合間に教師や両親の不満をぶつけ合い、不正に録画したDVDの交換の約束などを愉しげに語らい合うクラスメイトたちに、氷河は違和感を禁じえなかった。
聖闘士になるべく各世界から集められた兄弟たちは、学生生活を送ることがなかった。
戦士として生き、闘う日常を歩んできた。
聖戦が終わり氷河は病に斃れ、その後DNAを取り出され培養され、この世に生を受けた氷河は両親の愛の変わりに、逞しい星矢たちと可憐で神々しい沙織たちの愛に包まれながらハイスクールの寮で過ごしていた。
だが以前、病を発病したのと同じ年に理由を知らされないまま氷河は日本に戻ってきた。
日本に戻ってきて間もなく、氷河は人相の悪い男と出会った。
その男は亡霊にでも出会ったような眸を氷河に向け、次いで険悪な表情を向けた。
その視線で見つめられた瞬間、氷河の背に悪寒が走り貫けていた。
初めて向けられる剣呑な視線に、氷河は戸惑いを覚えた。
その男が屋敷に留まることになってから、氷河の平穏な日常に変化が生じた。
満腹時の猛獣と同じ檻に入れられた草食獣のような居心地の悪さに、氷河は息苦しい毎日を送ることになった。
そしてあの日、氷河は企業テロでも営利誘拐犯でもない異能力者たちに襲われた。
ただ純粋にその生命を狙われ、氷河は裡(うち)に秘めていた小宇宙を覚醒させた。
それは全盛期の白鳥星座の聖闘士から比べれば微々たるものに過ぎなかったが、氷河に過去の記憶を鮮明に甦らせるには十分な小宇宙であった。
あの日から氷河の中には、2人の氷河が存在している。
聖闘士であった氷河と、城戸氷河――。
沙織はギリシャに帰還する前に、グラード財産を氷河に託すつもりでいる。
いや、氷河だけにではなく一輝・紫龍・瞬・星矢に、それぞれの部署に強引に携わらせようとしている。
氷河は当時、誰も通うことの適わなかった学校に通い、勉学のみに勤しみ、友と係わり、その年頃の少年としてゆっくり成長している。
だが、ときに氷河の傍らを通り過ぎる人々の日常は、女神や聖闘士たちが己を捨て、命を懸け護った理想とは、相反するものが含まれていると、2つの記憶を持つようになってから氷河は思うようになっていた。
氷河は2次会に行くというクラスメイトたちと別れ、家路についた。
氷河は扉を開いたままの姿勢で凍り付いた。
玄関の中央で腕を組み、仁王立ちしている一輝の姿に氷河は瞼を見開くことしかできなかった。
「続く」
あれほど切望していたカラオケも、氷河が思ったほどには乗り切れなかった。
普段は真面目な友人たちは、カラオケ店に落ち着くとすぐにアルコールをオーダーし、タバコを吸い始める者もあった。
氷河は体調を案じる沙織や身の回りの大人たちから、健康に有害なものからは遠ざけられて育ってきた。
歌の合間に教師や両親の不満をぶつけ合い、不正に録画したDVDの交換の約束などを愉しげに語らい合うクラスメイトたちに、氷河は違和感を禁じえなかった。
聖闘士になるべく各世界から集められた兄弟たちは、学生生活を送ることがなかった。
戦士として生き、闘う日常を歩んできた。
聖戦が終わり氷河は病に斃れ、その後DNAを取り出され培養され、この世に生を受けた氷河は両親の愛の変わりに、逞しい星矢たちと可憐で神々しい沙織たちの愛に包まれながらハイスクールの寮で過ごしていた。
だが以前、病を発病したのと同じ年に理由を知らされないまま氷河は日本に戻ってきた。
日本に戻ってきて間もなく、氷河は人相の悪い男と出会った。
その男は亡霊にでも出会ったような眸を氷河に向け、次いで険悪な表情を向けた。
その視線で見つめられた瞬間、氷河の背に悪寒が走り貫けていた。
初めて向けられる剣呑な視線に、氷河は戸惑いを覚えた。
その男が屋敷に留まることになってから、氷河の平穏な日常に変化が生じた。
満腹時の猛獣と同じ檻に入れられた草食獣のような居心地の悪さに、氷河は息苦しい毎日を送ることになった。
そしてあの日、氷河は企業テロでも営利誘拐犯でもない異能力者たちに襲われた。
ただ純粋にその生命を狙われ、氷河は裡(うち)に秘めていた小宇宙を覚醒させた。
それは全盛期の白鳥星座の聖闘士から比べれば微々たるものに過ぎなかったが、氷河に過去の記憶を鮮明に甦らせるには十分な小宇宙であった。
あの日から氷河の中には、2人の氷河が存在している。
聖闘士であった氷河と、城戸氷河――。
沙織はギリシャに帰還する前に、グラード財産を氷河に託すつもりでいる。
いや、氷河だけにではなく一輝・紫龍・瞬・星矢に、それぞれの部署に強引に携わらせようとしている。
氷河は当時、誰も通うことの適わなかった学校に通い、勉学のみに勤しみ、友と係わり、その年頃の少年としてゆっくり成長している。
だが、ときに氷河の傍らを通り過ぎる人々の日常は、女神や聖闘士たちが己を捨て、命を懸け護った理想とは、相反するものが含まれていると、2つの記憶を持つようになってから氷河は思うようになっていた。
氷河は2次会に行くというクラスメイトたちと別れ、家路についた。
氷河は扉を開いたままの姿勢で凍り付いた。
玄関の中央で腕を組み、仁王立ちしている一輝の姿に氷河は瞼を見開くことしかできなかった。
「続く」
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