借りた本を本棚に戻し終えたとき、小宇宙の片鱗を感じた氷河は背後を振り返った。
そこに、黒い影を見出し、氷河は眉を寄せた。
黒い影は悲鳴を上げる鈴木を小脇に抱え、図書室を出ようとしていた。
黒い影とは一輝であった。
「ま、待てッ」
氷河は階段を駆け上がる一輝を追いながら叫んだ。
学園に編入する青銅聖闘士たちはアテナである城戸沙織に『くれぐれも人間離れした行動は慎むように』といわれていた。
それが、コレであった。
いくら小柄とはいえ、自分とそう年の変わらない少年一人を小脇に抱えたまま階段を駆け上がるとは、常軌を逸した暴挙としかいいようがなかった。
「な、なにを――」
屋上のフェンスに駆け上った一輝の姿に、氷河は瞠目した。
一輝はその腕に、暴れ足掻く鈴木のベルトを掴み、高々と掲げていたからだ。
「た、助けてッーお兄様ッ」
自分を追ってきた氷河の姿を見出し、鈴木は悲鳴を上げた。
「なにが『お兄様』だ、この惰弱者が」
一輝がベルトを持った腕を振った。
「止めろッ一輝、泣いているじゃあないか」
自分に向い腕を伸ばし涙を流す鈴木の姿に、氷河は訴えた。
「美しい兄弟愛、というわけか」
一輝が嗤った。
「なにを、バカな――」
鈴木が氷河を兄と呼んだからといって、本当の兄弟になるわけではない。
氷河は日本へ向かう途中、船舶事故で母を失った。
母を失い、言葉も、習慣も解らない異国の地で、氷河は心細い生活を余儀なくされた。
鈴木もそうだ。
これまで裕福な家庭で、肉親の愛情を一身に受け生活していた鈴木が、慣れない寮生活を強いられ、学園を辞めたいと漏らしていたのを、氷河は知っていた。
その鈴木に『お兄様になって下さい』と請われ、断れる筈がなかった。
■ 続く■
そこに、黒い影を見出し、氷河は眉を寄せた。
黒い影は悲鳴を上げる鈴木を小脇に抱え、図書室を出ようとしていた。
黒い影とは一輝であった。
「ま、待てッ」
氷河は階段を駆け上がる一輝を追いながら叫んだ。
学園に編入する青銅聖闘士たちはアテナである城戸沙織に『くれぐれも人間離れした行動は慎むように』といわれていた。
それが、コレであった。
いくら小柄とはいえ、自分とそう年の変わらない少年一人を小脇に抱えたまま階段を駆け上がるとは、常軌を逸した暴挙としかいいようがなかった。
「な、なにを――」
屋上のフェンスに駆け上った一輝の姿に、氷河は瞠目した。
一輝はその腕に、暴れ足掻く鈴木のベルトを掴み、高々と掲げていたからだ。
「た、助けてッーお兄様ッ」
自分を追ってきた氷河の姿を見出し、鈴木は悲鳴を上げた。
「なにが『お兄様』だ、この惰弱者が」
一輝がベルトを持った腕を振った。
「止めろッ一輝、泣いているじゃあないか」
自分に向い腕を伸ばし涙を流す鈴木の姿に、氷河は訴えた。
「美しい兄弟愛、というわけか」
一輝が嗤った。
「なにを、バカな――」
鈴木が氷河を兄と呼んだからといって、本当の兄弟になるわけではない。
氷河は日本へ向かう途中、船舶事故で母を失った。
母を失い、言葉も、習慣も解らない異国の地で、氷河は心細い生活を余儀なくされた。
鈴木もそうだ。
これまで裕福な家庭で、肉親の愛情を一身に受け生活していた鈴木が、慣れない寮生活を強いられ、学園を辞めたいと漏らしていたのを、氷河は知っていた。
その鈴木に『お兄様になって下さい』と請われ、断れる筈がなかった。
■ 続く■