ポン太よかライフ

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[巨匠たちの迷宮」英国式庭園を生んだクロード・ロランとアートの経済史

2009-12-05 11:39:04 | ブックレビュー
 最近立て続けに絵画の描かれた時代背景を読み解いた本を読みました。「印象派はこうして世界を征服した」「名画の言い分 巨匠たちの迷宮」です。後者は、レンブラントやヴァトーなど多くの画家が取り上げられていて興味深い内容でしたが、特に西洋絵画において風景画の価値を確立し、理想的風景画の大家として規範となる作品を残したクロード・ロランの章に魅かれました。彼は古代ローマ等の古典文学をテーマに、風景のスケッチを再構築し、凝った構図でありのままでない壮大な自然をアルカディア(理想郷楽園)として想像しました。ローマの教皇やヨーロッパのスペイン王に好まれ、聖像崇拝を嫌うプロテスタントにも受け入れやすい題材で、個人の注文も増やしていきました。また、イギリスは植民地政策や、農地改革の成功さらに産業革命などでヨーロッパ屈指の経済大国になって行きますが、17世紀後半からイギリス貴族の子弟の間でグランド・ツアーといわれる大修学旅行が盛んになり、文化的に遅れていた島国の子弟が、家庭教師やお供を連れて数年ヨーロッパ大陸を訪れお土産に絵画を買っていきました。その絵が貴族の領地のカントリーハウスに掛けられ、イタリアやフランスの幾何学式庭園ではなく、独自の文化を求める気風から、ロランの絵のようにはるかかなたまで続いているかのような造園がなされ、彼がモチーフとした廃墟や神殿、ローマ風の橋まで配されたイギリス式庭園が生まれたそうです。また、彼は生前から増えてきた贋作の対策として、35歳以降作品を画帳にスケッチし、裏に購入者の名を記して銅板画の複製を出版しましたが、この「真実の書」も後に風景画のお手本として広く伝わったそうです。
 日本でも、大名の城を飾る絵師の工房が栄え、狩野派の手本帳が作られたり、平和になった江戸時代には経済力を持った町人向けに刀剣の装飾技術が根付けや簪などに生かされて小間物屋が繁盛したり、産業としてのアートは従事者である作家の生計を支えるために時代の要請つまりはマーケットの事情とあゆみを共にします。芸術が一人歩きするのではないので、絵画の流行から時代を読み解くことができるということでしょう。大変興味深いことですね。
 
 ところで、かねてから気になっているのですが、西洋の絵や版画には誰がお金を払って、どんな人が見たのかわからないような不思議な絵や怖い絵があります。ボスやブリューゲルらの絵や版画などは宗教的な意味合いや生活の戒めの寓意と説明されても、その時代にどう存在したのかイメージできないものがあります。
誰が、どのくらいの値で、いかなる目的で、どのような形で売り買いし、どのように飾られ(扱われ)たのか?ご存知の方がいらしたら、教えていただきたいと思っています。



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