「たにぬねの」のブログ

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大陸へのパスポート_(更新3)

2014-01-02 11:08:13 | texto
大陸へのパスポート
 極東の島国は比較的、近い海で深海に囲まれている。漂泊物群による海上の道を突き進んできた瀬戸内龍は大陸棚の海域を抜けると艦長の短い指示を合図に進むのを停止し、龍でいう尾から沈みはじめた。旧大橋から切り離された段階で方向を大陸と反対に向けたときに物理的距離を縮める方向性を決めたとはいえ、これから試みる大掛かりをやめるなら今が最終段階。だから艦長の声を幾らか緊張し、それを己れの未熟さと捉えつつも念押しのつもりで自ずと入ってしまった緊迫から即時に開放されないでいた。現場へ到着するタイムリミットを24時間以内とするか、もっと短時間と設定するか。艦長としての判断は5時間内を最優先事項とし、2-3時間内で到着する手段の選択。そうはいうものの24時間以内には最悪の事態が起こらない保証があれば、これから行う目一杯なパフォーマンスをデビューからすることもない。決して飽和させることなく、費やす時間が増えるほど万端な準備の上乗せを計画できる自信がある艦長にとって ANHUI401に2-3時間で着く手段の選択が冒険ではないという確信が欲しかったのである。そのような確信をまだ得られないことは重々承知していなくてはいけない。唇を噛む。片隅に過ってしまったのは仕様がない。

 龍頭を中心に弧を描くように沈んでいった龍尾が一番深いところに達する。ほぼ鉛直方向に沈んだ龍は長針と短針が一直線な時計の六時を示す格好であるが沈む勢いそのままで頭と尾の半径はやや龍頭が大陸の方向になるだろうが5時55分辺りの一直線にしたところ姿勢を保持する。艦長のシンキングタイムは終わりを迎えた。最も早く駆けつけるための選択、2-3時間でも間に合わない可能性もあるのだ。次の指示をする彼女の姿は他者から見れば、相も変わらず無駄なく迅速な統率を実践している印象を与えているのだろう。
 艦長職以降の承認申請からここまで艦長が誰かに相談した履歴は一切ない。上の判断は仰いだ事柄もyesかnoを尋ねたに過ぎない。結局、yesの回答しか貰っていないがnoの場合の準備も成されていたし、これらの流れは上層部の全員も彼女の意志の意志として承知されているのだ。彼女の最終的な脳の過り。皆が信用してくれている。形式的な信任かもしれないが少なくとも結果的に委ねてくれているのだ。後日、今回の私の判断を野心的であるといわれることがあるかもしれない。少なからず野心があることは自負しているのでそういった評価は甘んじて受ける。ギリギリまで頭を駆け巡るのは現状が野心など秤かけることができないほど深刻な状況に陥ってもおかしくないこと。これこそ野心的な考えの一端であるのかもしれないが、多少のリスクを背負うことになっても深刻故にとてつもない切り札を切ることに迷ってはならないのだ。現実には躊躇する己れがいるのであるが。目を瞑っていたわけでないが躊躇いのせいか周囲の仲間が次の指示を待っている姿が視界に入ってきた。

 これから行う作戦に武者震いしている者もいるくらいで皆が前向きな表情、背中を示す。幸い迷いは悟られなかったようだ。別室にいてスピーカー、ディスプレイを通じて指示を待つ仲間たちが耳や目など感覚器を研ぎ澄まし彼女の指示を待っているのだ。
「多目的救助施設艦瀬戸内龍、垂直浮上直線上に障害物がないことを確認したら直ちに水柱浮上開始。目的高度に達したら速やかに飛行形態に移行せよ」
 艦内のレーダー班、上空を旋回している戦闘機から進路がクリアであるアナウンスがなされる。艦長の指示は要らない。操縦班と機関班が一直線な龍の尾から延長線上に沈水時に取り込んだ海水をレーザーの如く噴射するために操作をする。実際は結構なスピードで龍は海中、海上から空中へ移動しているのであるが 多目的救助施設艦瀬戸内龍の全身が見える程度に離れた場所からの眺望は艦長が感じている時間の流れ同様、それほど早くはない。飛行形態に移るまで並列思考の中にかわいい野心が忍び込む。
 海水を用いた施設艦レベルの巨大構造物の高高度まで及ぶ浮上が実際に行われるのは現人類史上初であろう。艦長はその指揮を執る名誉に浸っている、わけではない。極東島国では20世紀から宇宙エレベーターと称されることが多かった地球エレベーター(彼女自身はもっとローカルや限定的な呼称がなされるべきと活動しているが)の建造の前段階の位置付けである空中空港の即時実現である。空中空港といっても巨大静止衛星、否、静止にこだわる必要はなく、巨大人工衛星による宙に浮かぶ空港の実現である。短期間で空港や発電としての実績を残し、巨大静止衛星による空宙空港から梯子を下ろすか如くエレベーター化まで漕ぎつけてしまおうという野心概ね楽しい想像である。大陸への飛行形態に至まで、彼女が野心野望という名の本心を思い出す時間くらいは許されるだろう。(更新3)

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