ハンカチ王子こと、斉藤佑樹投手が先日、日ハムのドラフト1位として正式に入団した。
ドラフトの競合数などから推察すると、西武ドラフト1位の大石のほうが評価が高いようだが、プロの投手としての成功の可能性はいかがなものなのだろうか?
スポーツの世界で成功するためには、「心」「技」「体」の3要素が必要だと言われているが、ここでは「心」に焦点を当てて探ってみたい。
斉藤佑樹の「心」に注目した理由は、彼が、全く疑いようもないほどの好青年だからだ。この点については誰も異論はあるまい。
同様の「いい人」キャラで思い出すのは、昨年、6球団が競合した菊池雄星(西武ライオンズ)だ。左腕から繰り出す150km/hの速球から、新人王の最有力候補だったが、肩の故障から2010年度の1軍登板はなくて成績が振るわなかっただけでなく、大久保コーチが原因とされる暴力沙汰に巻き込まれるなど、散々な1年となってしまったようだ。
斉藤佑樹と菊池雄星の両者ともに共通しているのは、野球選手引退後の将来に教育者になることを夢見ていることで、菊池雄星にいたっては、現在も合宿所で勉強をするほどの入れ込みようだ。
カネだの名誉だの世俗的な欲ではなく、教育者を志すあたりに時代の流れを感じずにはいられないが、はたして、勝負の世界で「いい人」は通用するのだろうか?
昔気質の投手を熟知する、楽天の元監督・野村克也氏は、大成した投手の性格として、著書『負けに不思議の負けなし』(朝日文庫)のなかで以下のように述べている。
-------------------------------------
・投手には個性派が多い。野手はポジションの関係から、仲間に迷惑をかけまいとする協調路線をとる人間が多い。これに対し、投手はどうしてもお山の大将気分が抜けない。大投手になれば余計にその色は強く出る。
・投手族というのはおおむね自分が一番と思いこんでいる。お山の大将でいるのが普通だ。またそれぐらいでないと相手をのんでかかれない。
-------------------------------------
野村氏は、現役・監督時代をとおして、投手族を扱うのに余程、苦労したのだろうか、著書にこうした記述をよくみかける。
一方、この二人には、こうしたアクの強さは微塵も感じられない。
ところで、スポーツ選手のメンタルの力をなんとか数値化できないものなのだろうか、その答えは、プラグマティックの国、アメリカのスポーツ研究にみることができる。
『一球の心理学』(マイク・スタドラー ダイヤモンド社)の中で、ワシントン大学の心理学教授ローランド・スミスの研究が引用されている。
この研究成果が、実に興味深かったので、以下、紹介したい。
-------------------------------------
スミスは、91年にアストロズ傘下のシングルA、ダブルAの選手104人(投手57人、野手47人)を対象にテストを受けさせ、スポーツにおけるメンタルの要素(心)、身体的スキル要素(技・体)とそのパーフォーマンスとの関連を調べた。
1)身体的スキル(技・体)の測定
身体的スキルは、打者の場合はバットスイングの速さや強さ、投手の場合は球速や変化球の質を監督やコーチによる第三者の目で評価した、OAE(Overall Average Evaluation)と呼ばれる指数で表した。
2)メンタルの要素(心)の測定
メンタルの要素(心)の測定は、ACSI-28(Athletic Coping Skills Inventory-28)という、7つの性格的項目(困難への対応、プレッシャー状態での頑張り、達成動機、集中、感情のコントロール、自信、指導可能性)にそれぞれ4つの質問の計28問の簡単な自己回答型の質問様式を作り、測定した。
ちなみに、自己回答型の質問様式は以下のような簡単なものだ(英文サイトから、28問中の一部を引用・翻訳)
※4段階(0~3)で回答する。
①[困難への対応]
私は、状況が悪くなっても逃げ出したりせず、冷静に対処できます。
②[プレッシャー状態での頑張り]
私は、ゲームがプレッシャーのかかる状況であればあるほど、その状況を楽しめます。
③[達成動機]
私は、練習ごとに目標を設定します。
④[集中]
私は、スポーツをしているとき、他のことに気を散らすことなく集中することができます。
⑤[感情のコントロール]
私は、不利な状況であっても、不安な気持ちに打ち勝つことができます。
⑥[自信]
私は、自分がうまくやれると確信しています。
⑦[指導可能性]
私は、コーチから叱責を受けたとき、反論をせずにそれに従います。
3)選手のパフォーマンス
ACSI-28によりメンタルの強さを、OAEによって身体的スキルを指数化し、そのアウトプットとしての選手のパフォーマンスを選手の成績(打者の場合は打率、投手の場合は防御率)で評価し、その関連を調べた。
【測定結果と考察】
1)バッターの場合:打率のバラツキは、OAE(身体的スキル)によるものが21%、ACSI-28(メンタルスキル)によるものが20%で予測可能。
2)ピッチャーの場合:防御率のバラツキは、OAE(身体的スキル)によるものが3%、ACSI-28(メンタルスキル)によるものが38%で予測可能。
3)このように、野球のパフォーマンスに占めるメンタルスキルの要素は大きく、特に投手においてその傾向は顕著である。
野球選手として必要なメンタルスキルは、
・野手の場合は、自信、達成動機、感情のコントロール
・投手の場合は、自信、達成動機、プレッシャー状態での頑張り
であり、特に投手の場合、野手よりも気力も強く、積極性も少し高いという傾向がみられる。
-------------------------------------
また、別の学者の研究によると、[指導可能性]という一般社会においては、高いほうが望ましいとされる項目ですら、選手として大成するには大して必要ないとしており、また、これが重要なのだが、「性格というものは変えられるものではない」と結んでいる。
スミスらのこうした研究結果は、先述した楽天の元監督・野村克也氏の「大成した投手像」と奇妙に一致はしないだろうか。
つまり、投手として傑出するためには、突出したメンタルの強さ(自信、達成動機、プレッシャー状態での頑張り)が必要となるが、その反面、選手として必要な強烈な個性が日常生活においてアクの強さにつながる・・・・「大投手、好人物にあらず」といった傾向がみられるのだ。
夏の甲子園準決勝、中京大中京戦で、自らの背筋痛を押して途中登板するも打ち込まれ、試合後に号泣した菊池雄星の自己犠牲。早稲田大学野球部第100代主将に就任し、「今日何を持っているかを確信しました…それは仲間です」と言ってのける斉藤佑樹の協調性。
こういった性格は、投手ではなく、内野手のそれではないだろうか。
そういった意味では、菊池雄星と斉藤佑樹の将来性に疑問符をつけざるを得ない。
もっとも、今回紹介した、野村元監督の名投手像にせよ、スミスの研究にせよ、現在から過去を振り返った統計的なものの見方に過ぎない。
はたして、菊池雄星や斉藤佑樹はこれまでの通説どおり、いい人では大成しないのだろうか、あるいは、豊かな時代の「プロ野球人 2.0」としての新たな定説を創り出すのであろうか、興味は尽きない。
ドラフトの競合数などから推察すると、西武ドラフト1位の大石のほうが評価が高いようだが、プロの投手としての成功の可能性はいかがなものなのだろうか?
スポーツの世界で成功するためには、「心」「技」「体」の3要素が必要だと言われているが、ここでは「心」に焦点を当てて探ってみたい。
斉藤佑樹の「心」に注目した理由は、彼が、全く疑いようもないほどの好青年だからだ。この点については誰も異論はあるまい。
同様の「いい人」キャラで思い出すのは、昨年、6球団が競合した菊池雄星(西武ライオンズ)だ。左腕から繰り出す150km/hの速球から、新人王の最有力候補だったが、肩の故障から2010年度の1軍登板はなくて成績が振るわなかっただけでなく、大久保コーチが原因とされる暴力沙汰に巻き込まれるなど、散々な1年となってしまったようだ。
斉藤佑樹と菊池雄星の両者ともに共通しているのは、野球選手引退後の将来に教育者になることを夢見ていることで、菊池雄星にいたっては、現在も合宿所で勉強をするほどの入れ込みようだ。
カネだの名誉だの世俗的な欲ではなく、教育者を志すあたりに時代の流れを感じずにはいられないが、はたして、勝負の世界で「いい人」は通用するのだろうか?
昔気質の投手を熟知する、楽天の元監督・野村克也氏は、大成した投手の性格として、著書『負けに不思議の負けなし』(朝日文庫)のなかで以下のように述べている。
-------------------------------------
・投手には個性派が多い。野手はポジションの関係から、仲間に迷惑をかけまいとする協調路線をとる人間が多い。これに対し、投手はどうしてもお山の大将気分が抜けない。大投手になれば余計にその色は強く出る。
・投手族というのはおおむね自分が一番と思いこんでいる。お山の大将でいるのが普通だ。またそれぐらいでないと相手をのんでかかれない。
-------------------------------------
野村氏は、現役・監督時代をとおして、投手族を扱うのに余程、苦労したのだろうか、著書にこうした記述をよくみかける。
一方、この二人には、こうしたアクの強さは微塵も感じられない。
ところで、スポーツ選手のメンタルの力をなんとか数値化できないものなのだろうか、その答えは、プラグマティックの国、アメリカのスポーツ研究にみることができる。
『一球の心理学』(マイク・スタドラー ダイヤモンド社)の中で、ワシントン大学の心理学教授ローランド・スミスの研究が引用されている。
この研究成果が、実に興味深かったので、以下、紹介したい。
-------------------------------------
スミスは、91年にアストロズ傘下のシングルA、ダブルAの選手104人(投手57人、野手47人)を対象にテストを受けさせ、スポーツにおけるメンタルの要素(心)、身体的スキル要素(技・体)とそのパーフォーマンスとの関連を調べた。
1)身体的スキル(技・体)の測定
身体的スキルは、打者の場合はバットスイングの速さや強さ、投手の場合は球速や変化球の質を監督やコーチによる第三者の目で評価した、OAE(Overall Average Evaluation)と呼ばれる指数で表した。
2)メンタルの要素(心)の測定
メンタルの要素(心)の測定は、ACSI-28(Athletic Coping Skills Inventory-28)という、7つの性格的項目(困難への対応、プレッシャー状態での頑張り、達成動機、集中、感情のコントロール、自信、指導可能性)にそれぞれ4つの質問の計28問の簡単な自己回答型の質問様式を作り、測定した。
ちなみに、自己回答型の質問様式は以下のような簡単なものだ(英文サイトから、28問中の一部を引用・翻訳)
※4段階(0~3)で回答する。
①[困難への対応]
私は、状況が悪くなっても逃げ出したりせず、冷静に対処できます。
②[プレッシャー状態での頑張り]
私は、ゲームがプレッシャーのかかる状況であればあるほど、その状況を楽しめます。
③[達成動機]
私は、練習ごとに目標を設定します。
④[集中]
私は、スポーツをしているとき、他のことに気を散らすことなく集中することができます。
⑤[感情のコントロール]
私は、不利な状況であっても、不安な気持ちに打ち勝つことができます。
⑥[自信]
私は、自分がうまくやれると確信しています。
⑦[指導可能性]
私は、コーチから叱責を受けたとき、反論をせずにそれに従います。
3)選手のパフォーマンス
ACSI-28によりメンタルの強さを、OAEによって身体的スキルを指数化し、そのアウトプットとしての選手のパフォーマンスを選手の成績(打者の場合は打率、投手の場合は防御率)で評価し、その関連を調べた。
【測定結果と考察】
1)バッターの場合:打率のバラツキは、OAE(身体的スキル)によるものが21%、ACSI-28(メンタルスキル)によるものが20%で予測可能。
2)ピッチャーの場合:防御率のバラツキは、OAE(身体的スキル)によるものが3%、ACSI-28(メンタルスキル)によるものが38%で予測可能。
3)このように、野球のパフォーマンスに占めるメンタルスキルの要素は大きく、特に投手においてその傾向は顕著である。
野球選手として必要なメンタルスキルは、
・野手の場合は、自信、達成動機、感情のコントロール
・投手の場合は、自信、達成動機、プレッシャー状態での頑張り
であり、特に投手の場合、野手よりも気力も強く、積極性も少し高いという傾向がみられる。
-------------------------------------
また、別の学者の研究によると、[指導可能性]という一般社会においては、高いほうが望ましいとされる項目ですら、選手として大成するには大して必要ないとしており、また、これが重要なのだが、「性格というものは変えられるものではない」と結んでいる。
スミスらのこうした研究結果は、先述した楽天の元監督・野村克也氏の「大成した投手像」と奇妙に一致はしないだろうか。
つまり、投手として傑出するためには、突出したメンタルの強さ(自信、達成動機、プレッシャー状態での頑張り)が必要となるが、その反面、選手として必要な強烈な個性が日常生活においてアクの強さにつながる・・・・「大投手、好人物にあらず」といった傾向がみられるのだ。
夏の甲子園準決勝、中京大中京戦で、自らの背筋痛を押して途中登板するも打ち込まれ、試合後に号泣した菊池雄星の自己犠牲。早稲田大学野球部第100代主将に就任し、「今日何を持っているかを確信しました…それは仲間です」と言ってのける斉藤佑樹の協調性。
こういった性格は、投手ではなく、内野手のそれではないだろうか。
そういった意味では、菊池雄星と斉藤佑樹の将来性に疑問符をつけざるを得ない。
もっとも、今回紹介した、野村元監督の名投手像にせよ、スミスの研究にせよ、現在から過去を振り返った統計的なものの見方に過ぎない。
はたして、菊池雄星や斉藤佑樹はこれまでの通説どおり、いい人では大成しないのだろうか、あるいは、豊かな時代の「プロ野球人 2.0」としての新たな定説を創り出すのであろうか、興味は尽きない。