タニボンの「なんでもアナリスト」

「野に放たれた数学(確率・統計)」
世の森羅万象を冗談混じりに解析してみました。

ノート・オン・ノート

2010-07-26 00:08:04 | Weblog
最近、書店のビジネス書コーナーを賑わすのが、「ノート術」関連の本だ。

代表的なものには、
①入試、資格試験を目的としたもの ex)『東大合格生のノートはかならず美しい 』
②何かを創造することを目的とした知的生産術 ex)『情報は1冊のノートにまとめなさい』
今後の日本の労働環境を考えれば、「何をどこまでやればよいかはっきりした仕事」である定型の仕事から、「これをやれば絶対OKという基準が明確ではない仕事」である非定型な仕事へとシフトするであろうから、注目されるのは②のほうだろう。

知的生産を目的としたノート術に関しては、『経済セミナー』誌上で経済学者・伊藤元重さんが、経済評論家・勝間和代さんとの対談の中で興味深いことを述べていた。
以下、引用する。

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それから、今、私が勉強方法としてとても大事にしているのは、チャールズ・キンドルバーガーという、もう亡くなってしまった方ですが、彼に教えてもらったことです。
彼は、40歳くらいまで国際経済学を専門にしていましたが、その後突然転換して歴史を学びだし、80代の後半でも厚い本を何冊も書いていました。
スイスの会議でご一緒した際、どうしたらこんな本を書けるのかと聞いたら、彼は「簡単だ」と言うのです。朝から晩まで本を読み、気に入ったところに線を引き、欄外にメモをする。読み終わったらその本を横に置いて、今度は自分が線を引いたところを一生懸命タイプで打ってノートを作る。ノートがある程度たまったら、また自分のノートに線を引いて、欄外に書いてノート・オン・ノートを作る。ノート・オン・ノート・オン・ノートができると本が1冊書ける、と言うのです。
私はそこまではしていないのですが、ときどき、本を読んだときに線を引き、そのあと手帳に自分の手で書くということをしています。手で書いたものはなんとなく頭の中に残りますし、自分の手で書いてみると、難しい本でもスッと理解できることがあります。
勝間さんもそうでしょうけれども、とくにわれわれのようにものを書くのが仕事の一部だとすると、この作業は言わばその準備段階です。人の書いたもので、気に入ったところを実際に書いてみる。それはアナログのほうがいいと思います。これはものを書くのが仕事ではない人でもそうだろうと思います。
『経済セミナー』NO.653 2010 4・5月号 「経済学NEW門」
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伊藤元重さんのこのノート術で思い出したのは、初版は今から24年も前の古典的名著『思考の整理学』(ちくま文庫・外山滋比古 著)で筆者がほとんど同じようなノート術を、「手帳とノート」「メタ・ノート」として紹介していたことだ。
以下、要約を記す。
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1)メモ
手帳を持ち歩き、ヒントの記入に使う。何かを思いついたら、その場ですぐ書き留めておく。※枕元であれば、とりあえず紙と鉛筆を置いておく。
①スペースの都合から、細い字で、要点のみ簡潔に書く。
②一つの項が終わったら、線を引いて区切る。
③参照に便利になるように、頭のところに通し番号、日付を打つ。また、欄外に見出しのようなものをつけておくとなおよい。

2)ノート
メモの段階でアイデアは小休止をし、しばらく寝させておく。
ある程度時間のたったところで、見返してみる。
見返して、つまらないと感じたものについては惜しげもなく捨てる。見返して面白いと感じたものについては、別の場所に移す。
これがノートである。
①一つのテーマには、1ページをあて、頭には見だしと通し番号を書く。
②次にメモにあったことを箇条書きにして書き入れる。
③関連のある新聞や雑誌の切り抜きがあれば、②の下に貼る。
④日付とメモのときの通し番号を最下欄に追記する。

3)メタ・ノート
ノートにある思考をさらにもう一度、他へ移してやる。
こうすることにより、情報のうち、不要なものは捨て、芽のあるものについては、活気づかせることになる。
①一つのテーマには、2ページをあて、頭には見だしと通し番号を書く。タイトルの横にはメタ・ノートに転記した日付を、タイトルも下にはcfとして、ノートの中の参照番号を書く。
②次にノートにあったことを箇条書きにして書き入れる。
③メタ・ノートにする段階で気づいたことは、行間に追記する。
④メタ・ノートにした内容は個人にとっては相当に重要なものであるが、毎日覗いてはいけない。しばらく放置することで発酵する。

ちなみに、著者の外山さんは、以下の分量を書き上げるらしい。
1)メモ(手帳)1年に1冊(1000~1500項目)
2)ノート 20年間で31冊
3)メタ・ノート 20年間で22冊
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時代も空間も異なる二人の賢人が、同じような知的生産術を用いていることが興味深い。

IT技術の発展は、全ての情報をデジタル化してしまうが、個人レベルで日々接する雑多な情報を咀嚼・熟成して記憶の整理をする過程においては、未だ、アナログ的な手書きの「ノート術」が有効であると思う。
ノートをとるという作業は、必要な情報はいつでも引き出すことができる(プル型)の現代の環境においては、単に何かを記録するという脳の外部補助記憶装置としての役割からアイデアを孵化させるインキュベーター(孵卵器)として役割を変えつつあるのだろう。