最近、ベーシック・インカムに関する議論が一部で取り上げられている。
主たる論者は、経済評論家の山崎元さんやライブドア社元社長の堀江貴文さんらである。
ベーシック・インカムとは、「全ての人が生活に必要な所得を無条件で得る権利」ということらしいが、はたしてこのような夢物語が成立するのか?思考遊戯として少し考えてみたい。
まず、ベーシック・インカムとは何か、その定義を明らかにする必要があるだろう。
現時点でベーシック・インカムについて真正面から取り上げた本は数少ない。
ここでは『ベーシック・インカム入門』山森亮著・光文社新書から引用する。
※この本は、引用されている学説等が難解で、浅学・無教養の私には読破するのに骨が折れた・・・
--------------------------
ベーシック・インカムとは、
1)個人に対して、どのような状況におかれているかに関わりなく無条件に給付される。
2)ベーシック・インカム給付は課税されず、それ以外の所得は全て課税される。
3)給付水準は、尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保証することが望ましい。
その特徴として、
1)現物ではなく金銭で給付される。
2)毎月ないし毎週といった定期的な支払いの形をとる。
3)国家または他の政治共同体(地方自治体など)によって支払われる。
4)世帯や世帯主になどではなく、個々人に支払われる。
5)資力調査なしに支払われる。
6)稼働能力調査なしに支払われる。
その魅力として
A)現行制度ほど複雑ではなく単純性が高い。
B)現存の税制や社会保障システムから生じる「貧困の罠」や「失業の罠」が除去される。
C)自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感を感じるという問題がなくなる。
D)家庭内で働いてはいるが個人としての所得がない人々のような、支払い労働に従事していない人を含む全ての人に、独立した所得を与える。
E)(生活保護のような)選別主義的なアプローチは相対的貧困を除去するのに失敗してきた。児童手当やベーシック・インカムのような普遍主義的なアプローチのほうが効果的かもしれない。
--------------------------
ベーシック・インカムの概要をつかむうえでは、以上で十分かと思う。
結論からいうと、私には、ベーシック・インカム論は、特定の条件の国には成立するのかもしれないが、こと日本という国においては、全く実現可能性のない「机上の空論」に思える。
その根拠を列記してみる。
1)財源
ベーシック・インカムが想定する支給額は、一体どれぐらいなのだろうか。
上記の定義によると「給付水準は、尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保証することが望ましい。」ということなので、「その最低限度の生活を保障するとともに自立を助長する」とされている現行の生活保護水準と考えるのが自然だろう。
ちなみに上記の本の中では、以下のように仮定している。
・毎月1日にすべての成人の銀行口座に国から10万、子供には7万。
・この計算でいくと、
①二人の子持ちのシングルマザー
10×1+7×2=24万円/月
②夫婦二人と子供二人のモデルケース
10×2+7×2=34万円/月
・参考までに生活保護の水準は[wikipediaより引用]
①単身世帯 31歳 東京都特別区内在住(1級地の1)
137,400円(月額最大)
②母子世帯(30歳、4歳、2歳) 東京都特別区内在住(1級地の1)
177,900円(月額最大)
これに必要な財源を計算するのは簡単だ。人頭税ならぬ人頭給付金なので、
必要財源(年間)=(15歳以上人口×10万+15歳未満人口×7万円)×12ヶ月実際に計算してみると
15歳未満人口→ 17,147,000人
15歳以上人口→110,467,000人なので [政府統計:平成21年2月1日]
必要財源(年間)=(110,467,000人×10万+17,147,000人×7万円)×12ヶ月
=146.9兆円
この金額だけをみても、ベーシック・インカム論が破綻していることがわかる。
【参考】平成21年一般会計:83兆円
消費税を5%増税することによる追加税収:およそ10兆円
2)労働受給ギャップ(労働供給不足)
今後の日本においての労働市場は、
①高齢化の進展による労働人口の減少
②同じく高齢化により、介護、医療分野において、サービス受益者の増
③産業のサービス業化により、生産性の飛躍的な向上はみられない
などの理由により、労働市場においては、ただでさえ、労働需要>労働供給の労働供給不足が起きるものと想定される。
※実際に介護分野においては、インドネシア人の労働移民が一部においておこなわれている。
さらに、ベーシック・インカムを導入は、労働市場における人手不足に拍車をかける。
最低限の所得のある、ハングリー精神を失った労働者にこれまでと同水準の働きを求めるのは無理があるからだ。
※これは、経済学では「労働市場の後方屈曲性」という言葉で説明されている。
結果として、経済活動において、生産量が制限されたり、必要なサービスが受けられない人がでてくる。
世界中で、ベーシック・インカムという制度が成立する可能性がある国は、「人口の少ない資源国」といったところではないだろうか。
この場合でも、単純労働者は、産油国でみられるように移民で賄うしかないだろう。
結局のところ、「ベーシック・インカム論」というものは、耳目を集めるのを目的としたキテレツな経済政策(ヘリコプター・マネーがこれに近い)に過ぎないと思う。
※ある程度、実現可能性がある政策であれば、もう少し多くの学者がフォロワーとしても存在してもよさそうだ。
むしろ、経済評論家の山崎元さんやホリエモンやらがどうしてこの政策を積極的に推するのか?
その深層のほうに関心がある。
主たる論者は、経済評論家の山崎元さんやライブドア社元社長の堀江貴文さんらである。
ベーシック・インカムとは、「全ての人が生活に必要な所得を無条件で得る権利」ということらしいが、はたしてこのような夢物語が成立するのか?思考遊戯として少し考えてみたい。
まず、ベーシック・インカムとは何か、その定義を明らかにする必要があるだろう。
現時点でベーシック・インカムについて真正面から取り上げた本は数少ない。
ここでは『ベーシック・インカム入門』山森亮著・光文社新書から引用する。
※この本は、引用されている学説等が難解で、浅学・無教養の私には読破するのに骨が折れた・・・
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ベーシック・インカムとは、
1)個人に対して、どのような状況におかれているかに関わりなく無条件に給付される。
2)ベーシック・インカム給付は課税されず、それ以外の所得は全て課税される。
3)給付水準は、尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保証することが望ましい。
その特徴として、
1)現物ではなく金銭で給付される。
2)毎月ないし毎週といった定期的な支払いの形をとる。
3)国家または他の政治共同体(地方自治体など)によって支払われる。
4)世帯や世帯主になどではなく、個々人に支払われる。
5)資力調査なしに支払われる。
6)稼働能力調査なしに支払われる。
その魅力として
A)現行制度ほど複雑ではなく単純性が高い。
B)現存の税制や社会保障システムから生じる「貧困の罠」や「失業の罠」が除去される。
C)自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感を感じるという問題がなくなる。
D)家庭内で働いてはいるが個人としての所得がない人々のような、支払い労働に従事していない人を含む全ての人に、独立した所得を与える。
E)(生活保護のような)選別主義的なアプローチは相対的貧困を除去するのに失敗してきた。児童手当やベーシック・インカムのような普遍主義的なアプローチのほうが効果的かもしれない。
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ベーシック・インカムの概要をつかむうえでは、以上で十分かと思う。
結論からいうと、私には、ベーシック・インカム論は、特定の条件の国には成立するのかもしれないが、こと日本という国においては、全く実現可能性のない「机上の空論」に思える。
その根拠を列記してみる。
1)財源
ベーシック・インカムが想定する支給額は、一体どれぐらいなのだろうか。
上記の定義によると「給付水準は、尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保証することが望ましい。」ということなので、「その最低限度の生活を保障するとともに自立を助長する」とされている現行の生活保護水準と考えるのが自然だろう。
ちなみに上記の本の中では、以下のように仮定している。
・毎月1日にすべての成人の銀行口座に国から10万、子供には7万。
・この計算でいくと、
①二人の子持ちのシングルマザー
10×1+7×2=24万円/月
②夫婦二人と子供二人のモデルケース
10×2+7×2=34万円/月
・参考までに生活保護の水準は[wikipediaより引用]
①単身世帯 31歳 東京都特別区内在住(1級地の1)
137,400円(月額最大)
②母子世帯(30歳、4歳、2歳) 東京都特別区内在住(1級地の1)
177,900円(月額最大)
これに必要な財源を計算するのは簡単だ。人頭税ならぬ人頭給付金なので、
必要財源(年間)=(15歳以上人口×10万+15歳未満人口×7万円)×12ヶ月実際に計算してみると
15歳未満人口→ 17,147,000人
15歳以上人口→110,467,000人なので [政府統計:平成21年2月1日]
必要財源(年間)=(110,467,000人×10万+17,147,000人×7万円)×12ヶ月
=146.9兆円
この金額だけをみても、ベーシック・インカム論が破綻していることがわかる。
【参考】平成21年一般会計:83兆円
消費税を5%増税することによる追加税収:およそ10兆円
2)労働受給ギャップ(労働供給不足)
今後の日本においての労働市場は、
①高齢化の進展による労働人口の減少
②同じく高齢化により、介護、医療分野において、サービス受益者の増
③産業のサービス業化により、生産性の飛躍的な向上はみられない
などの理由により、労働市場においては、ただでさえ、労働需要>労働供給の労働供給不足が起きるものと想定される。
※実際に介護分野においては、インドネシア人の労働移民が一部においておこなわれている。
さらに、ベーシック・インカムを導入は、労働市場における人手不足に拍車をかける。
最低限の所得のある、ハングリー精神を失った労働者にこれまでと同水準の働きを求めるのは無理があるからだ。
※これは、経済学では「労働市場の後方屈曲性」という言葉で説明されている。
結果として、経済活動において、生産量が制限されたり、必要なサービスが受けられない人がでてくる。
世界中で、ベーシック・インカムという制度が成立する可能性がある国は、「人口の少ない資源国」といったところではないだろうか。
この場合でも、単純労働者は、産油国でみられるように移民で賄うしかないだろう。
結局のところ、「ベーシック・インカム論」というものは、耳目を集めるのを目的としたキテレツな経済政策(ヘリコプター・マネーがこれに近い)に過ぎないと思う。
※ある程度、実現可能性がある政策であれば、もう少し多くの学者がフォロワーとしても存在してもよさそうだ。
むしろ、経済評論家の山崎元さんやホリエモンやらがどうしてこの政策を積極的に推するのか?
その深層のほうに関心がある。
ベーシック・インカムの財源については、
・所得税
・消費税
・公共通貨
などが、主なものとして考えられています。
・所得税の場合 (小沢修司先生)
http://bijp.net/studybi/
http://www.jimbunshoin.co.jp/rmj/BIm.htm
・消費税の場合 (ゲッツ・W. ヴェルナー)
ドイツのゲッツ・W・ヴェルナーは、消費税が50パーセントでも、他の所得税や法人税など商品の生産過程にかけられる税を廃止することにより、物価は維持されると述べています。
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-7935.html
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-6db9.html
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-2b6c.html
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-82f3.html
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-c9c5.html
http://blogs.itmedia.co.jp/techneco/2008/11/post-b9e2.html
http://plaza.rakuten.co.jp/epocha/diary/200906030000/
http://plaza.rakuten.co.jp/epocha/diary/200808300000/
・ 公共通貨の場合 (クリフォード・ヒュー・ダグラスの社会信用論 ─ 関曠野さん)
http://bijp.net/sc/article/79
http://bijp.net/sc/article/27
コメントありがとうございます。
早速、ご紹介のWEBをパラパラとみました。
消費税、公共通貨については、抽象的で私の頭ではよく分からないといったところが本音です。
しかし、消費税が50%!!となれば、仮にベーシックインカムという制度が素晴らしいものであったとしても、コンセンサスを得るのは容易ではないでしょう。
・所得税の場合 (小沢修司先生)については、疑問です。
①給付が8万の場合
所得税を45%にするとのことなのですが、これだけの高い税率では、働こうとする気持ちがかなり削がれるのでは。
②給付が5万の場合
上記①で「国民年金や生活保護の支給額に照らしてBIの額を月8万円と仮定して試算した。」としているのに、敢えて「給付が5万の場合」とダンピングして考えるセンスが意味不明だ。これでは、生活はできまい。
「ベーシックインカム・実現を探る会のミーティングが週刊「SPA!」に取材された。」とされていました。
ベーシックインカム論は、週刊「SPA!」を読むようなサラリーマン読者層を対象としているのか、と私自身は妙に合点がいきました。
財源論となると、数字のつじつま合わせのように支給額をいじってるサイトが多すぎます。
まずは生活保護支給額ニアリで試算して実現可能かどうか検証する姿勢が大事ではないかと考えます。
ゆえに、山崎元氏の提唱する5万円とか8万円なぞは論外もいいところなのですが、誰もそこは指摘しないし、本人もうすうす気付いていながら言及はしない。
どこか、おかしいですね。
ちなみに私はBI賛同者なのですが、できる限り現実的でありたいと考える者です。
コメントありがとうございます。
山崎元氏は、自身ブログ内で『核家族という「ぜいたく」』というエントリーで、以下のように述べています。
---------------------
これは、そもそも一人で満足に暮らしたいということが「ぜいたく」なのだ。月5万円でも、4人集まれば、月20万円になる。誰が働くか、家事はどうするか、といった問題はあるが、何人かで暮らすことを考えるべきだ。
---------------------
と、あくまで「一人一月5万円説」を主張しています。
日本国民でいったいどれくらいの人がこの説を支持するというのでしょうか。
紹介して頂いた山崎氏の該当ブログ、読みました。突っ込みどころ満載ですね。
氏は、類推、拡大という思考実験ができないんですかね。
知に関わる者携わる者の使命は、普遍化なはず。
己が発したメッセージが時間・空間を越えて普遍的であろうことを目指す姿勢を持って欲しいもんです。
共同生活は、手段であって目的ではないのです。
BIを持ち出さずとも、今現在の貧困層の自衛手段として共同生活でしのぐ、というのはアリでしょう。
だが、「お前ら共同生活でやってけるから、貧乏人救済施策は必要無いな」とはならんでしょう。
その先の救済施策を果たした結果が、独り暮らしでもなんとかやっていける、ではないでしょうか。
BIに限らず、人々の生活スタイルは人々にゆだねるべきであって、施策が持つベクトルがその方向へ押し進めても、
強制的なチカラとなってはならんのです。仮にBIが実施されたとして、月5万円、年額60万円の給付。
これにより、老齢年金、失業保険、介護保険、生活保護、各種のセーフティネットが廃止された場合、
この状態で年額60万の給付で安心できる世界を教えて欲しいところです。
”共同生活でしのげ”www
貧困問題を無くす、減らす為にいかなる施策があるか、どうすべきか、その先にBIに光明を見いだした人達が
多数いる事を氏は見失っている。彼にBIは語って欲しくない。
BI成立の前提条件は、「給付水準は、尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保証することが望ましい。」のハズです。
山崎さんの主張はこれを無視して論をぶっているため、議論が「砂上の楼閣」となってしまっています。
数学に例えていえば、(私の友人がこう言っていました。)
「前提条件で正の数であるとしながら、解答は負の数で出しているようなもの」になっています。
もっとも、山崎さんが論じるBI論が荒唐無稽だとしても、BIという制度そのものが否定されるものとは限りません。
今回のエントリーでは、BIを「絵空事」としましたが、もう少し議論を見守りたいというのが今、現在の私の気持ちです。
ベーシックインカム7つの長所』
のコメントで、氏の方から私宛に問いかけが来ました。
これを契機に5万BIに関する異議と私の「労働と所得の分離」を
ぶつける下地ができたと思います。
ご一読ヨロシクです。
興味深く議論を見守っています。
BIの支給額は、本エントリーにも書いてあるように「生活保護水準」を基準とすべきだと私は思います。
この支給額が高いというのであれば、現状の生活保護者は贅沢者ということになりますね。
この支給額では財源が成り立たないというのであれば、BIに関する意見は封印すべきでしょう。
まず、「支給額ありき」なのです。
財源との帳尻合わせをするために支給額をダンピングするのであれば、それは本末転倒というものでしょう。
HN入れ忘れたようです。
やっと山崎氏のホンネが出たようです。5万円BIの保証対象とは
>私が考えているのは単なる富の再分配システムです。意味や使い方は利用者が考えればいい。
敢えて言えば、社会的な保険として効用があるということです。<
なんや、なんのポリシーも考えも無いやないかい。定額給付金の恒常的政策に過ぎんじゃあないの。
タニボンさんの
>まず、「支給額ありき」なのです。
財源との帳尻合わせをするために支給額をダンピングするのであれば、それは本末転倒というものでしょう。<
に強く同意します。てか「支給額」からしかBIの理念やら意義やらを導き出せない はずなんです。
山崎さんがなーんも考えなしの5万円だと言う事が分かった以上、そろそろ突っ込みに入ろうかと思います。