先日、旅行先でレンタカーを借りる機会があった。
レンタカーの店舗において精算をする段階で、「免責補償は入りますか?」と店員に聞かれた。
免責補償とは、私にとっては聞き慣れない言葉なので、その内容を聞くと概ね以下の通りであった。
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①レンタカーの通常料金には、対人無制限、対物1000万円といった、およそ通常で考えられるようなリスクをカバーするような保険料も含まれている。
②ただし、この保険は、5万円を超える部分を補償するものであって、それ以下の場合は全額自己負担、それ以上の場合は5万円を上限に保険加入者が負担しなくてはならないような契約となっている。
③免責補償という制度は、万一の事故の際に支払わなくてはならない、この上限5万円を補償するもので、一日当たり1000円(税抜)の費用で加入することができる。
④レンタカーを利用する人の8割程度は加入するとのことである。
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私は、少し考えて、加入しないことにした。
割高だと考えてそうしたのだが、加入しない旨を意思表示したときに軽い不安感を憶えたのは事実だ。
その後、無事、旅行を終え、帰りの機中で再度この判断が正しかったかを反芻してみたが、やはりこの判断は間違ってはいなかったように思う、「免責補償は要らない」と。
以下、その理由を書いてみる。
1)期待値がマイナスの賭けであること
保険というものの商品の性質を考えれば、全ての保険は期待値がマイナスの賭け、つまりは加入すれば、平均的には損をする商品であることは自明である。
自己啓発書の古典的名著『道は開ける』(創元社 デール・カーネギー著)のなかで、著者は保険の性質というものをに皮肉をこめて以下のように書いている。
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世界で最も著名な保険会社-ロンドンのロイド船舶協会-は、まれにしか起こらない出来事を気に病むという人間の性質を利用して莫大な富を築き上げた。ロイド協会は、一般人が心配している災難など起きないであろうという見通しに基づいて賭けをしているわけだ。ところが、彼らはそれを賭けと呼ばずに保険と名づけている。けれども、実は平均値の法則に基づいた賭けなのだ。この巨大な保険会社は二百年にわたって発展を続けてきたが、人間の性質が変わらない限り、さらに五百年は安泰を誇るであろう、靴や船舶や封ロウなどの、一般人が想像するほど多くは起きない災難に対して、平均値の法則によって、保険を引き受けることで。
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平均的には損をする賭けで、トクをする参加者というのは、確信犯的な人物か、事故率が相当に高い危険人物かである。
いづれにせよ、普通の人間には当てはまらない話である。
2)保険の趣旨に合致しないこと
もっとも、保険の期待値がマイナスであるからといって、全ての保険が否定されるものではないだろう。
リスクというものは、リスクの「出現確率」とリスクが出現したときの「ことの重大さ」とで勘案すべきものである。
リスクの「出現確率」は低くとも、ひとたびそれが発生した場合に個人の生活が破綻する「ことの重大さ」がある場合においては、保険の存在意義はある。
レンタカーを利用する上での最悪の事態は、対人事故において数億円の賠償を請求されるようなケースだろうが、この場合においても、通常の保険においてその補償のほとんどがカバーされ、免責補償が補償してくれる金額はたかだか5万円に過ぎない。
個人において、5万円の出費は、確かに「痛い出費」には違いないが、「個人の生活が破綻する」というほどのものではない。
保険業界においては、保険によって交通事故の損害が補償されることにより、加入者の注意が散漫になり、かえって事故の発生確率が高まることが知られている。(モラルハザード)
むしろ、モラルハザードの防止の観点からみても、この程度の「痛み」は残しておく必要があるのではないだろうか。
3)割高であること
ところで、一日当たり1000円の保険料で最大5万円の保障という価格設定はどうなのであろうか。
私たちにとって、日割りの保険というものに馴染みがないため、この価格が高いのか安いのかについて、今ひとつピンとこない。
そこで、やや強引だが、日割りの保険を年間(365日)に置き換えて考えてみよう。
そうすると、36万5千円の保険料で、最大限5万円の保障(1回当たり)となり、相当な割高であることが判る。元を取る?ためには相当な事故数が必要になるだろう。
(※実際は、年間の契約だとリース契約となりこんな金額にはならないが、考え方のヒントにはなるだろう。)
以上、冷静に考えれば考えるほどに不合理に思える免責補償に、レンタカー利用者の80%もの人が加入する、その理由は何であろうか。
かくいう、私自身も加入を断ることにためらいを感じたので、その心理を探ってみれば、
①レンタカーを借りる状況というのは、旅先など、利用者にとって未知の土地であることが多く、心理的に不安な状態であること。
②支払いは、レンタカー代と合算して行われることになり、レンタカー代本体(5千円~1万円/日)に較べると保険料(千円/日)は微々たるものに感じること。
③これに加入すれば、万一の事故が発生した場合にも、追加で1円も払わなくてもいいという安心感。
行動経済学の理論を借用して、これらをみれば、
②については、レンタカー代本体がアンカーとなった「アンカリング」
③については、「確実性効果」
という人間の心理上のバイアス(歪み)を巧みに利用したテクニックが利用されているようにも思えるがどうなのだろうか。
レンタカーの店舗において精算をする段階で、「免責補償は入りますか?」と店員に聞かれた。
免責補償とは、私にとっては聞き慣れない言葉なので、その内容を聞くと概ね以下の通りであった。
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①レンタカーの通常料金には、対人無制限、対物1000万円といった、およそ通常で考えられるようなリスクをカバーするような保険料も含まれている。
②ただし、この保険は、5万円を超える部分を補償するものであって、それ以下の場合は全額自己負担、それ以上の場合は5万円を上限に保険加入者が負担しなくてはならないような契約となっている。
③免責補償という制度は、万一の事故の際に支払わなくてはならない、この上限5万円を補償するもので、一日当たり1000円(税抜)の費用で加入することができる。
④レンタカーを利用する人の8割程度は加入するとのことである。
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私は、少し考えて、加入しないことにした。
割高だと考えてそうしたのだが、加入しない旨を意思表示したときに軽い不安感を憶えたのは事実だ。
その後、無事、旅行を終え、帰りの機中で再度この判断が正しかったかを反芻してみたが、やはりこの判断は間違ってはいなかったように思う、「免責補償は要らない」と。
以下、その理由を書いてみる。
1)期待値がマイナスの賭けであること
保険というものの商品の性質を考えれば、全ての保険は期待値がマイナスの賭け、つまりは加入すれば、平均的には損をする商品であることは自明である。
自己啓発書の古典的名著『道は開ける』(創元社 デール・カーネギー著)のなかで、著者は保険の性質というものをに皮肉をこめて以下のように書いている。
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世界で最も著名な保険会社-ロンドンのロイド船舶協会-は、まれにしか起こらない出来事を気に病むという人間の性質を利用して莫大な富を築き上げた。ロイド協会は、一般人が心配している災難など起きないであろうという見通しに基づいて賭けをしているわけだ。ところが、彼らはそれを賭けと呼ばずに保険と名づけている。けれども、実は平均値の法則に基づいた賭けなのだ。この巨大な保険会社は二百年にわたって発展を続けてきたが、人間の性質が変わらない限り、さらに五百年は安泰を誇るであろう、靴や船舶や封ロウなどの、一般人が想像するほど多くは起きない災難に対して、平均値の法則によって、保険を引き受けることで。
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平均的には損をする賭けで、トクをする参加者というのは、確信犯的な人物か、事故率が相当に高い危険人物かである。
いづれにせよ、普通の人間には当てはまらない話である。
2)保険の趣旨に合致しないこと
もっとも、保険の期待値がマイナスであるからといって、全ての保険が否定されるものではないだろう。
リスクというものは、リスクの「出現確率」とリスクが出現したときの「ことの重大さ」とで勘案すべきものである。
リスクの「出現確率」は低くとも、ひとたびそれが発生した場合に個人の生活が破綻する「ことの重大さ」がある場合においては、保険の存在意義はある。
レンタカーを利用する上での最悪の事態は、対人事故において数億円の賠償を請求されるようなケースだろうが、この場合においても、通常の保険においてその補償のほとんどがカバーされ、免責補償が補償してくれる金額はたかだか5万円に過ぎない。
個人において、5万円の出費は、確かに「痛い出費」には違いないが、「個人の生活が破綻する」というほどのものではない。
保険業界においては、保険によって交通事故の損害が補償されることにより、加入者の注意が散漫になり、かえって事故の発生確率が高まることが知られている。(モラルハザード)
むしろ、モラルハザードの防止の観点からみても、この程度の「痛み」は残しておく必要があるのではないだろうか。
3)割高であること
ところで、一日当たり1000円の保険料で最大5万円の保障という価格設定はどうなのであろうか。
私たちにとって、日割りの保険というものに馴染みがないため、この価格が高いのか安いのかについて、今ひとつピンとこない。
そこで、やや強引だが、日割りの保険を年間(365日)に置き換えて考えてみよう。
そうすると、36万5千円の保険料で、最大限5万円の保障(1回当たり)となり、相当な割高であることが判る。元を取る?ためには相当な事故数が必要になるだろう。
(※実際は、年間の契約だとリース契約となりこんな金額にはならないが、考え方のヒントにはなるだろう。)
以上、冷静に考えれば考えるほどに不合理に思える免責補償に、レンタカー利用者の80%もの人が加入する、その理由は何であろうか。
かくいう、私自身も加入を断ることにためらいを感じたので、その心理を探ってみれば、
①レンタカーを借りる状況というのは、旅先など、利用者にとって未知の土地であることが多く、心理的に不安な状態であること。
②支払いは、レンタカー代と合算して行われることになり、レンタカー代本体(5千円~1万円/日)に較べると保険料(千円/日)は微々たるものに感じること。
③これに加入すれば、万一の事故が発生した場合にも、追加で1円も払わなくてもいいという安心感。
行動経済学の理論を借用して、これらをみれば、
②については、レンタカー代本体がアンカーとなった「アンカリング」
③については、「確実性効果」
という人間の心理上のバイアス(歪み)を巧みに利用したテクニックが利用されているようにも思えるがどうなのだろうか。
結局、免責保障は単にレンタカー屋さんの利益を追加させるだけのものなんじゃないのかなと思ってしまいます。。。
有益なコメントありがとうございます。
仰るとおり、レンタカーにはNOC(ノン・オペレーション・チャージ)というものが存在しますね。
ただ、このNOC、本来は重要事項として店側がレンタカー利用者に事前に説明すべきものなのに、契約書面に書いてあるだけ。
免責補償を積極的に売り込んでくるのに比べて、なんとも対照的です。(あくまで私の経験の範囲ですが)
何かあれば、「ここに書いてあるでしょう」とやられてしまうのでしょう。
日にちで保険料を計算してくれると、とても分かり易いです。
私はこういう記事好きですね。笑
大体80%は入ってますよと言われると、皆入ってるってことはやっぱり加入しておいた方が無難なのかな?と思ってしまう人多いと思います。でも80%ていう数字も適当な気がします。
とにかく、もやもやが解消されて嬉しかったのでコメントしました。
これからも楽しい記事続けてください(^^)