時のつれづれ(北多摩の爺さん)

下り坂を歩き始めたら
上り坂では見えなかったものが見えてきた。
焦らず、慌てず、少し我儘に人生は後半戦が面白い。

昭和史 昭和元年~20年

2023年05月10日 | 書棚の肥やし

多摩爺の「書棚の肥やし(その7)」
昭和史 昭和元年~20年 (半藤一利・平凡社ライブラリー)

この国には神話の時代を文字に起こした・・・ 「古事記」という現存する最古の書物があるが、
学校の歴史教育で、学ぶ機会がほとんどなかった、最も新しい古典を挙げるとすれば、
それは半藤一利さんが残してくれた「昭和史」ではなかろうか?

戦前から戦中、そして敗戦までの、昭和元年から昭和20年を記した546ページの前編と、
戦後の昭和20年から天皇陛下が崩御された、昭和64年を記した612ページの後編からなる、
前後編合わせて1,158ページの、この国の近代史が記されたドキュメンタリーである。

遡ること15年前、54歳から55歳の2年間、片道2時間30分をかけて
北多摩の自宅から、横須賀の職場まで、電車を4本とバスを乗り継いで通っていたとき、
長い長い通勤時間に、毎日毎日付き合ってくれた数冊の文庫本のなかで、
最も長い時間、私の手元にあり、学ばせてもらったのが・・・ 半藤一利さんの「昭和史」だった。

著者の私情もいくらかあることから、全てを鵜呑みにすることはできないが、
近代史(特に昭和史)を深く学んでこなかった世代からしたら、
けっこう読み応えがある名作だと思う。

そんなに数があるわけじゃないが、書棚の肥やしになってる文庫本を読み直してみると、
最初に読んだときとは違った感想が出てくるから、これはちょっと面白い。
おそらく・・・ 年相応に積み上げてきた経験値とともに、柔軟性が増した相乗効果だと思うが、
そういった視点で捉えれば・・・ 加齢もまた、まんざらではないかもしれない。

年が明けて間もないころ、久しぶりに昭和史を読み直そうと思って、デスクの横に置いていたんだが、
文庫本とはいえ、ぶ厚いものが2冊もあると、なかなか手に取ることができないでいて、
読み始めたのは4月に入ってからになり、ゴールデンウィークまでかけて、
やっと前編を読み終えたので、詳細を記すわけにはいかないが、気になったことを記しておきたい。

前編のポイントになる部分は、先の大戦に至るまでの思惑と、敗戦に至った経緯になるが、
裏表紙に記された数行のなかに・・・ そのヒントが要約されていた。

「日本人は、なぜ戦争を繰り返したのか?」
「すべての事件の前には、必ず小事件が起こっている。」の部分を読み解くことができれば、
78年という時を経て尚、この国が戒めとすべき、
本文のなかに秘められた・・・ いくつかの教訓を見つけることができるだろう。

まず、最初に気にとめておきたいことは「国民的熱狂をつくってはいけない。」であり、
「国民的熱狂に、ながされてしまってはいけない。」ではなかろうか?

著者曰く・・・ 熱狂というものは、理性的なものではなく、感情から生まれた産物であって、
マスコミに煽られた熱狂が、権威を持ち始めると、
いつしかその熱狂が、不動のものであるかのように、人々を引っ張って行くとあった。

この教訓を・・・ 現代社会に置き換えてみれば、
メディアの中立性が、確保されているか否かではなかろうか?
切り取り報道や、偏向報道から誘引される・・・ プロパガンダが、まさにそれなんだろう。

さらに著者は「最大の危機において、(当時の)日本人は抽象的な観念論を好み、
理性的な方法論を検討しようとしない(しなかった。)。」と、声高に指摘している。

日本人は、自分にとって望ましい目標を設定し、巧みで壮大な楼閣(設計図)を描くのが得意で、
ものごとは必ず、自らが望むとおりに動き、進むと考えることが多く、
さし迫った危機に遭遇すると・・・ 主観的な判断が優先されてしまい、
客観的な判断ができなくなる(できなかった。)とあった。

その最たるものが・・・ 陸軍大学校卒の優秀で有能な者が集まった参謀本部だけが、
絶対的な権力を握ったことから、他部署からの情報を認め、検討することができず、
組織がタコツボ社会となってしまい、
エリートによる、エリートだけの小集団主義による弊害に至ったと、厳しく指摘している。

そして、とどのつまりは・・・ 「この国では、なにかしらの事件、事故などが起こると、
成果だけを求める、対症療法的な発想に陥ってしまう。」としている。

これでは時間的で、空間的でもある視点で俯瞰するといった、大局観を持たないだけじゃなく、
複眼的なあらゆる思考で、熟慮することを怠ってしまい、
結果的に・・・ 行き当たりばったりで凌ぐことになり、そのまま敗戦に至ったとあった。

私には、そういった視点がなかったので、
文字面では理解していても、現実をどう捉えれば良いのか、苦慮することになったが、
読み終えてから・・・ ふと思ったのは、
「いまロシアで起こってることと、そっくりじゃないか?」だった。

歪んだ理屈を正当化し、プロパガンダで人心を惑わして操り、
侵略戦争を仕掛ける、あまりにも愚か過ぎる思考回路は、
国が変われど、幾星霜の年月を経ようと・・・ なんら変わることがないようである。

そんな国(ロシア)が、この国(日本)について、なんだかんだと物申すことはかってだが、
「君らは歴史に学んだのか、他国を他山の石としたのか、己の良心はどこにあるのか?」などなど、
単純な疑問だが、明解な回答を持ち得ているのか・・・ まずそこからだろう。

ロシアの指導者に、良心というものがあるのであれば、
例えなにがあっても・・・ 無防備な市民に向けてミサイルを撃ち込み、
平気で人を殺めることなんて、できるはずがないと思うが・・・ 如何なものだろうか。

どちらが勝とうと、戦争の後に残るものは・・・ いったい、なんなんだと問えば、
それは勝利の歓喜などではなく、
心も体も傷つき、破壊された国土と、分断を余儀なくされた生活環境などから、
恨むことを覚えてしまった人々の、病んだ心ではなかろうか?

昨日(5月9日)、ナチスドイツとの戦勝記念日で、恥ずかしげもなく壇上に立ち、
惚けたことをほざいたロシアのトップに・・・ あえて物申すとすれば、
あなたは歴史に学んだのか、他国に学んだのか、ロシアの良心とは・・・ なんなんだである。

たまたま、ホントにたまたま・・・ 昭和史を読み終えた日と被ってしまったが、
昨夕のニュース番組で放映されていた、モスクワでの対ドイツ戦勝記念日の式典を見て、
「おまえら、えぇ加減にせぇよ。」と思ったのは、私だけではなかっただろう。

追伸
記した内容は、あくまでも個人的な感想であって、議論するつもりはないのでご理解いただきたい。
なお、昭和史の後編については、これから数ヶ月はちょっと忙しいので、
半年後ぐらいに記すことができればと思っている。


1926年(昭和元年)から1946年(昭和20年)までの、
戦前から戦中、そして敗戦までが記された・・・ 546ページに及ぶ「昭和史」の前編

参考
「昭和史」前編の目次

はじめに 昭和史の根底には「赤い夕日の満州」があった。(日露戦争に勝った意味)
第一章  昭和は「陰謀」と「魔法の杖」で開幕した。(張作霖爆殺と統帥権干犯)
第二章  昭和がダメになったスタートの満州事変 (関東軍の野望、満州国の建国)
第三章  満州国は日本を「栄光ある孤立」に導いた。(五・一五事件から国際連盟脱退)
第四章  軍国主義への道は、かく整備されていく。(陸軍の派閥争い、天皇機関説)
第五章  二・二六事件の眼目は「宮城占拠計画」にあった。(大股で戦争体制へ)

第六章  日中戦争・旗行列、提灯行列の波は続いたが (盧溝橋事件、南京事件)
第七章  政府も軍部も強気一点張り、そしてノモンハン (軍縮脱退、国家総動員法)
第八章  第二次大戦の勃発があらゆる問題を吹き飛ばした。(米英との対立、ドイツへの接近)
第九章  なぜ海軍は三国同盟をイエスといったか。(ひた走る軍事国家への道)
第十章  独ソの政略に振り回されるなか、南進論の大合唱 (ドイツのソ連進攻)

第十一章 四つの御前会議、かくて戦争は決断された。(太平洋戦争開戦前夜)
第十二章 栄光から悲惨へ、その逆転はあまりにも早かった。(つかの間の連勝)
第十三章 大日本帝国にもはや勝機がなくなって (ガダルカナル、インパール、サイパン、特攻隊)
第十四章 日本降伏を前に、駆け引きに狂奔する米国とソ連 (ヤルタ会談、東京大空襲、沖縄決戦)
第十五章 堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ビ難キヲ忍ビ (ポツダム宣言、終戦)
むすび  三百十万の死者が語りかけてくれるものは (昭和20年の教訓)

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2 コメント

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Unknown (wada67miho)
2023-05-10 05:59:57
多摩爺さま

いい本を読まれましたね。僕が半藤さんのようなことを指摘すると、保守派の方々は日本の戦前は間違っていなかった。お前達は自虐史観だと言います。「美しい国」なんて強弁しないで真の歴史を学んで欲しいと僕は思っています。
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Unknown (多摩爺)
2023-05-10 07:11:55
和田さん、おはようございます。

仰るとおりで、歴史に学ぶことはとっても大事だと思います。
最近のことは良く分りませんが、私の学生時代は昭和の真っ只中だったからかもしれませんが、
維新以降から昭和までの授業が、もの凄く駆け足だったと記憶してます。
良書に出会わないと知らないっていうのは、とっても残念なことだと思っています。
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