べんきょうなせん(='ω')

べんきょうは論理で考えるトレーニング
熊本県山鹿市中高大学受験の "あすく" です

理由はひとつではないのココロ(2)|「後ろで爆発音がした」

2014年04月14日 | 私から保護者へ
 現代文で身につける、大切なこと。前回はこちら

理由はひとつとはかぎらない、のココロよ。


 ――それをそのままにしておいて私は、なに喰(く)わぬ顔をして外へ出る。――
 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。
 変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑(ほほえ)ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
 私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉(こっぱ)みじんだろう」

檸檬(れもん)』梶井基次郎(かじい・もとじろう)

 丸善は洋書や専門書のそろう本屋です。入学したては輝いてみえた大学が学問が京都という街(まち)が、退屈に感じてならない。進学しさえすれば、イケてない自分も変わる気がしていたのに…

 あれ?大正時代の小説なのに、わたしにも心当たりがあります。現代特有の感情じゃなかったんだ。あの気持ちってなんだったんだろう?

 およそ百年前、大正にもなると人々の考え方や感じ方もいまと共通点が多くなります。善悪の対決だの価値観の相克(そうこく)だの神が存在するかだの、大きなものがたりはここにはありません。だれにでもあらわれ忘れてしまうような、もっと小さな個人的な感情を表現します。

 大学へ行っただけでイケてない自分が変わるわけではないように、モヤモヤとしたもどかしい気分の理由も、たぶん、ひとつではないのです。


 時間の足りない中高校生へ。

 国語は、後回しにされがちな教科です。やらなくても"わかる"気がするから。結果がすぐには表れにくいから。

 よのなかはルールでできています。すぐに結果が出るルールと、時間のかかるルールがあります。これから七十歳まで仕事をするとして、結果のすぐ出るルール"だけ"では長続きはしないでしょう。

 結果がすぐに表れないのは、暗記ではない、モノの見方や考え方を身につける必要があるからです。面倒ですが、一度身についてしまえばそのチカラは衰(おとろ)えません。すべての教科のそして仕事の土台となる所以(ゆえん)です。

 提案です。現代文は、小説・評論・随想・詩などに分けられます。すべてと欲張らずに、ひとつのテーマやひとつの文にしぼって仕上げてみましょう。授業でノートを取るだけでいい。対比や主項目と副項目…どんな考え方を身につけさせたいのか、意識してつかめばいいのです。

 大切なのは、あなたが書き出すこと。書いてそれから理解することですから。


 中高の国語を通して、自己と他者を意識する表現を学びましょう。

1.解説を読む。知らなかった言葉の確認をし写す。

2.本文に印を入れる。

3.自分の解答と正答を比較する

4.問題文を見直す

5.自分で解き解答を書く


 以下の文を読み答えなさい。

『奎吉(けいきち)』  梶井 基次郎
(主人公の奎吉は高等学校を追われ、両親から改心するまでは小遣いを与えないと言われていた。それでも金の欲しかった奎吉は、ついに弟の荘之助から金を借りることを決心する。)

「おい、荘之助、ちよっと。」
そう云(い)ってしまった時、彼はその声が非常にフキゲンに重々しく響(ひび)いたと思った。
 雜誌に読み耽(ふけ)っていた荘之助は、兄の視線の下で、身体(からだ)を起(おこ)しながらも、その頁(ぺーじ)から眼(め)をはなさず、それでも兄のいらいらしている視線にゆきあたった時、キゲンをとるような作り笑いをして近づいて来た。
 それが何か用事を云いつけるような時だと、そんな笑顏などは恥(は)じて消えてしまうほど、ますますフキゲンな顏をして、ぶっきら棒に「新聞とっといで」とでも云うのであるが、奎吉は荘之助の視線に会うと危(あやう)く目をそらそうとした。奎吉は何だかもやもやしているものの中に閉(と)じ込(こ)められているように思った。しかし努めて顏を無表情に装いながら、彼の弱味を見られまいとした。
 「お前の貯金から少し金を出して来てくれ。急に入用(いりよう)が出来たんだが、お母さんが今使いに行っていないから。」
 彼がやっとそれを云い終えた時には、さきほどの変に歪(ゆが)められた(この樣な事件が今起っているのだな。)という想像の気持(きもち)がまるっきり影(かげ)を消していた。
 荘之助は舞台(ぶたい)の上の人物が傍白(ぼうはく)を云う時のように一度目を横へそらせて「ああ」と云ってうなずいた。奎吉は不幸にもその時の荘之助の顏に浮(うか)んだビショウの影に、奎吉をなぐさめるような柔(やさ)しい感情の表れがあったのを見逃(みのが)せなかった。
 その人間にその申し出が拒絶される時の気不味(きまず)さを気遣(きづか)いながら、恐る恐る金を貸してくれと他人に云う時に奎吉がいつも顏面に感じたあの堪(たま)らなく嫌な顏つきが、奎吉の努力を裏切って、ここへも出たのではあるまいか、そして荘之助は俺(おれ)のその顏から、俺の苦痛をヒューメインにも知って、あんなに柔しい顏つきをしたのではあるまいかと彼は疑った。しかも彼は荘之助のその顏を生意気に思い、いまいましく感じた。
 「お前通帳と認印は自分で蔵(しま)ってるんだね。じゃすぐ行って五円出しておいで、そしてこんなこと知れると少し都合が悪いから、俺が返すまで誰にも云うんじゃないよ。いいかい。その代(かわ)り返す時には六円にして返してやるからな。」

[問い]
文中に「しかも彼は荘之助のその顏を生意気に思い、いまいましく感じた。」とあるが、奎吉がそう感じた理由はなぜか。(塾長)


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