嵐は、怖くなかった
どきどきはした
海岸地区の高台
そんな場所の家は
よく揺れたけど
ごぉ〜ごぉ〜風が唸り
がたがた、みしみし
我が家が、悲鳴を上げる
揺すぶられ、軋んでも
わくわくして、止まらない
とうさんが、風雨の中
雨戸に、はすかいをする
その姿を、かっぱで覗く
そんな時もあったかな
わくわく、どきどき
何が起こるんだろうか
おとなたちは
大変なんだと言う
大変って、どんなだろうか
わくわくが、止まらない
家が、停電する
ますます、わくどき
家族、みんな
居間に集まった
大きな蝋燭を、一本
ごぉ〜ごぉ〜風が唸る
揺れる、蝋燭、炎
どこからか、風
閉め切っても
どこからか、風だ
ちょっと、どきどき
がたがた、みしみし
揺すぶられる、軋んでいる
我が家が、飛ばされるかも
わくわく
おかしいけどね
屋根が、飛ばされるかも
でも、大丈夫
蝋燭の炎は
闇に、揺らめいているけど
食卓の向こうには
にいさん、ねえさんの顔
闇に、うっすら
不安げな顔、顔
どきどき
みんなの真ん中には
とうさんがいる
闇に、うっすら
険しい顔
傍には、かあさんがいる
かあさんの体温
どきどき
でも、大丈夫
いつもよりも、だ
みんな一緒
ごぉ〜ごぉ〜
がたがた、みしみし
闇の中
ぽっかり、蝋燭の炎
揺らめいている
とうさん、かあさん
にいさ、ねえさん
大丈夫だ
温かった
みんな、一緒
だから、どきどきでも
わくわく