先日の休みに映画を観に行った。
ビル・マーレイ主演のドラマ、"ヴィンセントが教えてくれたこと"だ。
原題は"St.Vincent"。
キャッチコピーは、"さあ、人生のホームワークを始めよう。"。
主演のビル・マーレイは、あの不朽の名作、"ゴーストバスターズ”で、
主人公の博士を演じたコメディアン出身の大俳優。
その大俳優が、無名の新人監督の低予算映画に主演した。
セオドア・メルフィ監督、無名と言っても、CMの監督としてその界隈で活躍していたひとらしく、
その監督が映画に初挑戦したのが本作。
なんでも自身が子どもの頃に経験したことを元に、自ら脚本を書き、映画にしたという。
大物俳優を主演に起用したにも関わらず、配給先を獲得できず、
当初 全米でたった4スクリーンでのみ公開だったという。
だが鑑賞した人々から素晴らしい映画だと絶賛され、
公開劇場がじわじわと拡大し、そこここで高評価を受け、
ひと月経った頃には、全米2,500スクリーンにまで拡大していたという。
その大ヒット映画が、満を持して日本での公開となった。
予告編の映像や、映画館に置いてある情報冊子で大まかな内容を読んでいて、
ぜったい観たい!ってほどではなかったが、
機会あれば観たいなって程度でチェックしていた。
ニューヨーク州ブルックリン区。
古くからの街並が残る住宅街の一軒家に、ひとりの老人が住んでいた。
気難しく、人当たりが悪く、素行もすこぶる悪い。
老人の名前はヴィンセント(ビル・マーレイ)。
飼い猫と、売春のために家に来るストリッパーにしか心を開かない。
ある日、ヴィンセントの隣に母子が越してきた。
母親のマギー(メリッサ・マッカーシー)は越してきた挨拶をしようとしたが、
引越業者のトラックがヴィンセントの庭木の枝を折ってしまい、
さらにその大きな枝が、彼のオンボロ愛車のうえに落下してしまい大騒ぎ。
酒とギャンブルに浸り、さらにはストリッパーで女遊び・・・。
家計が破綻状態のヴィンセントは、これ見よがしに引っ越してきたばかりのマギーに弁償金を要求。
新天地の隣人がロクでもないジジイであることに不安を抱くマギー。
その脇には、ひ弱な息子、オリヴァー(ジェイデン・リーベラー)が、
やはり眉をひそめ不安そうに立っていたのだった。
転校初日からいじめに遭ってしまうオリヴァー。
制服も携帯電話も財布も家の鍵も、いじめっ子に隠されてしまう。
体操着のまま、とぼとぼと歩いて帰宅する。
母親のマギーは病院で技師として働いているため、遅くまで帰らない。
携帯電話もないし財布もないため、マギーに連絡することもできない。
鍵もないため家に入ることもできず、玄関前で途方に暮れていると、
隣のロクでもないジジイが帰ってきた。
「電話を貸して下さい。」
おそるおそる、声をかけるオリヴァー。
嫌々ながら家に入れるヴィンセント。
独り暮らしの老人の散らかった部屋。
電話を借りて、マギーに連絡する。
マギーは帰宅が遅くなるため、ヴィンセントに戻るまでオリヴァーを預かって欲しいと頼む。
ヴィンセントはここぞとばかりに、「1時間12ドルだ!」と告げ、それを引き受けることに。
この日から、気難しくロクでもない不良ジジイのヴィンセントと、
ひ弱ないじめられっ子、オリヴァーが午後を共に過ごすようになる。
ヴィンセントは、オリヴァーに対し、対いじめっ子用にケンカのしかたを教える。
そのとおりにしたら、いじめっ子は鼻血を吹きながらのびた!
興奮するオリヴァー!報告を聞いて喜ぶヴィンセント!
ふたりはだんだんと、本当の祖父と孫のようになってくる。
だが、そこはロクでもないヴィンセント、
オリヴァーを連れたまま、平気で競馬場にも行くし、バーにだって行く。
競馬で賭け方を教えたり、バーで注文のしかたを教えたり。
オリヴァーもまた、見たこともない経験したこともない、
母親や学校からは教えてもらえないことに夢中になる。
しまいには、ストリップ劇場で働いている、ストリッパーを紹介するヴィンセント。
妊娠したため劇場を解雇され、ヴィンセントのところへやってきていた、
ロシア出身の奔放なストリッパー、ダカ(ナオミ・ワッツ)だ。
そんなロクでもない嫌われ者のヴィンセントだが、毎週、施設に通っていた。
認知症になった妻が入所している施設だ。
もはや夫である自分のことすら解らなくなっている妻に対し、
医者を装い優しく、愛おしく接するヴィンセント。
そして汚れた洗濯物を回収し、新しい着替えを届ける。
ふだんの彼とは別人のような、心やさしい老人の姿を垣間見るオリヴァー。
ある日のこと。
オリヴァーは学校が終わって門に出たが、
いつもそこで待っているヴィンセントの車が止まっていない。
仕方なくバスで帰る。
ヴィンセントの家に入って見ると・・・苦悶の表情で倒れたヴィンセントの姿が!
脳卒中で倒れていたヴィンセント。
一命を取りとめたものの、体も言葉も不自由になってしまう。
そして、マギーとオリヴァーにもまた災難が訪れていた。
夫がオリヴァーの親権を要求してきて、それをめぐる裁判が始まる。
マギーはきちんとした職に就いており、自立できるそれなりの収入がある。
なによりも別居の原因は夫のたび重なる浮気。
夫は弁護士で専門知識も豊富だが、親権はとられることはない・・・と思っていたものの、
法廷で夫側の弁護士から、オリヴァーが競馬場やバーを出入りしていたことを指摘され・・・。
気難しいろくでなしの老人と、ひ弱だった少年の絆の物語。
二人の絆は、やがて周りの人々にも関わってゆく。
心を閉ざしていた気難しい老人は、次第に心を開き、
自己主張できなかった気弱な少年は、たくましくなってゆく―。
よかった。
ラストにはじんわと泣けてくる。
ろくでなしでも、好き勝手に生きている人も、気丈でたくましい人も、
どんな人にも、人には理解してもらえないことがある。
本人がひた隠す、辛い経験や苦しい悩みがある。
ヴィンセントと、オリヴァーはじめ、それを取り囲む人々のストーリーが、それを教えてくれる。
鑑賞したひとからの高評価で公開スクリーンが拡大したというのが解る。
ヴィンセントを演じた、主演のビル・マーレイ氏。
粗暴なろくでなしだが、実は面倒見がよく愛嬌のあるジジイを、ひょうひょうと演じていた。
かつてゴーストバスターズで主演の博士を演じ、名前も知っている俳優さんではあったが、
ゴーストバスターズを見たのが小学校低学年くらいだったため、ほとんど覚えておらず、
うーん、こんな顔だったけ・・・三人組の真ん中だったんだろうけれど。
一度きりしか観た覚えがないので、記憶がほとんどないや。
ひょろ長い臆病なのが居たのは覚えているんだけどな。
オリヴァー役のジェイデン君。
今、アメリカで天才子役として注目されているらしい。
10歳だったか11歳だったか、ちょっと難しい年頃の子どもを好演していた。
色白でほんとにガリガリだったので、オリヴァー役にぴったりだ。
母子家庭でひ弱でいじめられっ子、だからといって泣き虫でもなく、
いじめっ子に果敢に立ち向かうし、ヴィンセントにだって意見する。
この映画の、健気なもうひとりの主役。
妊婦のストリッパー、ダカ役のナオミ・ワッツさんもよかった。
名前は知っていたけれど、映画に出ているのは初めて見た。
スタイルもよくて美人だけど、ガサツで奔放なストリッパーを演じていた。
劇中、妊娠していて、大きく膨らんだお腹を露わにした状態で、
ダンスやセックスをするシーンがあるのだけど、
着衣だと詰め物で妊婦を表現できるけれど、裸体ではどうやってんだ?
CGっぽくもなかったし、これ特殊メイクだよね? すごいな。
気になったので、この後調べて見たら、
実年齢、よ・・・47歳!?
ええー!!
全然そう見えないわ・・・女優さんて凄いな。
それにしても、この日本人っぽい名前が気になったんだけど、
まだ女優になる前、若い頃に日本に数カ月滞在したことがあったようだが、
直美さんでも尚美さんでも奈緒美さんでもなく、日本は関係ないようだ。
同じく"ナオミ"な、外国人の有名人、ナオミ・キャンベルさんで調べたら、納得した。
音がたまたま、直美さんらと同じだけで、やっぱり日本は関係がなかった。
"ネェオミ"って発音するのが正しいのかな?
イギリスにはそこそこ存在するようだ。
ナオミ・キャンベルで思い出したが、久保田利伸のLA・LA・LA LOVE SONGは名曲。
マギー役の女優、メリッサ・マッカーシーさんもよかった。
凄い恰幅のいい女性で、仕事に育児にがんばりつつ、
息子の学校でのトラブル、親権を狙うひどい夫や、粗暴な隣人のことに頭悩ませ、
色んなことを一人で抱えて踏ん張るたくましい女性を演じていた。
コメディ俳優としての顔が濃いひとらしく、今回マギーのようなシリアスな役は珍しいらしい。
この恰幅でコメディ色の女優さん・・・日本だと渡辺えりさんか?
いや、もうちょっと若いから、山村紅葉ちゃんだ!
9月も下旬になって、上映回数だいぶも減ってきた。
10月上旬には公開終了の劇場も多いようなので、チェックしていたひとは早めに観に行くべし。
観て損はない、感動するけれど、決してお涙ちょうだいなストーリーでもない。
"心が温まる"っていうか、そういう感じの作品だ。
ふだんから他人に本音を話せない、本意で行動できない日本人は、
とくに観ておくべき作品かもしれない。
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