よろず戯言

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カツベン!

2022-01-09 19:44:39 | 映画

 

一昨年の中頃に観た映画。

コロナ禍が始まり、一度目の非常事態宣言が解除されたタイミングだったと思う。

映画館では新作映画の配給がなく、仕方なく過去作を上映していた時期。

コロナ禍の少し前に公開されたばかりだった映画や、

公開時期が重なった作品なども再上映されていた。

このカツベン!もそのなかのひとつ。

 

この時期、見逃してしまった映画が多数あった。

こういった再上映は願ってもないことだったけれど、

けっきょく、非常事態宣言はその後も発令されてしまい、

せっかくのチャンスも活かせぬまま。

その後は、公開が遅れていた新作映画がきちんと上映されだしたので、

このカツベン!のみ再上映で鑑賞できた。

 

Shall we ダンス?,舞妓はレディの周防正行監督の最新作。

同監督の映画オリジナル脚本。

主演は成田凌、その他も豪華キャストのコメディ。

竹中直人に渡辺えり子、徳井優や田口浩正といった、周防作品おなじみのキャストも。

キャッチコピーは、“恋も、笑いも、アクションも、しゃべって観せましょう!”。

 

 

大正時代の関西のとある町。

悪ガキだった俊太郎は活動写真の撮影現場でいたずらをして、

熱血警官に追いかけられる。

俊太郎たちに巻き込まれ、一緒に警官から逃げる女優志望の少女、梅子。

警官に追い詰められた俊太郎と梅子は、成り行きで活動写真に出演してしまうことに。

 

自分たちが出演した作品を鑑賞する、俊太郎と梅子。

ふたりとも映画小屋の入場券など買えるはずもなく、

便所の小窓からこっそり忍び込んで無賃鑑賞。

そのうえ菓子店で万引きしたキャラメルをほおばりながらの鑑賞。

しかし、映画小屋の便所の小窓が塞がれてしまい、

活動写真を観ることができなくなってしまう。

 

当時の映画(活動写真)は無声映画。

音楽も音声もまったくない。

だが、日本では活動弁士なる人たちがいて、無声音楽に音を吹き込んだ。

映画に生演奏で音楽を添える楽士たち。

そして登場人物すべてのセリフや心情、ナレーションに至るまで、

映画を自己流に解釈し、それをしゃべりで表現してゆく活動弁士。

 

梅子は女優に憧れていたが、俊太郎もまた その活動弁士に憧れる。

あのとき出会った、人気の活動弁士、山岡秋聲(しゅうせい)に魅了され、

その“七色の声を持つ”と謳われた語りを暗記して披露する。

映画小屋に入れなくなり、活動写真は観られなくなってしまったけれど、

梅子は俊太郎の披露する山岡秋聲のモノマネを聴くのが大好きだった。

しかし、親の都合でほどなくして梅子は引越ししてしまう。

 

それから10年後―。

俊太郎(成田凌)は憧れの活動弁士になっていた。

・・・。

といっても、詐欺窃盗集団の一員としての偽弁士、山岡秋聲として。

 

映画小屋のない田舎で活動写真を披露する一味。

皆がそれに夢中になっているうちに、留守の家から金品や家財を奪い、

頃合いを見て活動写真を終了。

急いで片付けて、トラックに積んだ盗品とともにトンズラする。

 

テレビもなく写真も一般的でなかった時代。

名前は知ってはいても、その姿を知る者は少なく、

俊太郎が名弁士、山岡秋聲だと偽っても誰も疑わない。

そして幼い頃から山岡秋聲を模倣していた俊太郎の語りは、それくらい上手かった。

その腕前が認められ、この窃盗団の一味に加えられたのだった。

 

まんまと大仕事を成功させ、大金を手に入れる窃盗団。

リーダーの安田(音尾琢真)は、羽振り良くメンバーに分け前を配る。

喜ぶメンバーのなか、ひとりふて腐れ、安田に不満をこぼす俊太郎。

自分がやりたかったのは本当の活動弁士。

こんな窃盗団に属する偽弁士なんて不本意だった。

 

そんな俊太郎に転機が訪れる。

活動写真を観に行っている最中に空き巣被害に遭うというのが多発。

そんな報告を受けていた、活動写真好きの刑事、木村(竹野内豊)が警戒していた。

俊太郎の属する窃盗集団が、いつものように活動写真を披露。

だが、木村によって俊太郎演じる山岡秋聲が偽物だと暴かれ、

例の窃盗集団だと見破られ、一味は追われることに。

 

そのさなか、リーダーの安田は逃げ遅れて警察に捕まってしまう。

トラックは逃げきれるのだが、荷台の俊太郎は振り落とされ、仲間とはぐれてしまう。

手にしていたのは安田のかばん。

中には大金が・・・!

 

 

警察に自首することもできず、さまよう俊太郎。

行きついた先は、最近となり町に新しくできた映画小屋に客を取られ、

人気の弁士を引き抜かれ楽士たちも去ってしまい、

運営の厳しい さびれた映画小屋、青木館。

そこで俊太郎は雑用係として住み込みで雇ってもらうことに。

 

 

映画小屋の客の入りは活動弁士の人気で決まる。

青木館に属する弁士は三人。

スター気取りの勘違い弁士、茂木(高良健吾)、

汗っかきで上映中に着替えが必要、高学歴を鼻にかける内藤(森田甘路)、

そして、かつて名を馳せたが今はただの飲んだくれの山岡秋聲(長瀬正敏)。

今や青木館は茂木だけが頼りの状態。

 

となり町に新しくできた映画小屋、タチバナ館。

そこの娘、琴江(井上真央)は大の活動映画好き。

魅力ある弁士を引き抜いてきては、そこを潰してタチバナ館を大きくしてきた。

琴江の次なるターゲットは青木館に所属する茂木。

館主の橘重蔵(小日向文世)はヤクザのようなゴロツキ集団を率いて、

しぶとく存続する青木館を強引な手段で潰しにかかってくる。

 

融通が利かず、まともに動ける活動弁士の居ない青木館。

ある日、ピンチヒッターとして俊太郎が活動弁士として舞台に立つ。

そのプロ顔負けの実力に息をのむ青木館の館主(竹中直人)と女将さん(渡辺えり)。

客からは拍手喝采。

俊太郎はたちまち人気が出て、青木館の名物弁士として、

ついに本物の活動弁士として念願のデビューを果たす。

 

 

さっそく琴江に気に入られる俊太郎。

さらに出所した安田がタチバナ館で重蔵の部下として働いていた!

自分を見捨て、大金の入ったカバンとともに逃げた俊太郎を恨んでいた。

大金を取り戻し、青木館もろとも俊太郎も消そうと執拗に狙ってくる。

 

偽山岡秋聲として窃盗団に加わっていた俊太郎。

その顔を目に焼き付けていた、執念の刑事・木村も登場!

青木館の頼りない館主とさえない楽士のメンバー、

そこへ、夢を叶え大女優として俊太郎と再会する梅子(黒島結菜)。

梅子は幼い頃から抱いていた俊太郎への想いを秘めて接するものの・・・。

そんな美しい梅子を愛人にしたいと、重蔵が動き・・・。

ひとクセもふたクセもある連中が大騒動を巻き起こす。

 

 

面白かった。

周防監督色の効いた、明朗で快活な映画だった。

コメディ映画は、矢口史靖監督や宮藤官九郎監督作品も面白いけれど、

やっぱり周防監督のものは、純粋なコメディだなあと思った。

誇張し過ぎず、バカバカし過ぎず、観ていて疲れない。

うまく表現できないが、山田洋二監督作品に続く感じがする。

 

 

主演の成田凌。

良かった。

このひと、前にビブリア古書堂の事件手帖という映画で見たが、

そのときは悪役で なんだかパッとしない印象だったが、今作はすごくよかった。

実は本作が映画初主演だという。

童顔で好感の持てる役者さんだ。

宝くじのCMでも、その魅力を発揮している。

 

ヒロイン・梅子役の黒島結菜。

こんなきれいな女優さんいたっけ?

そう思うくらい、可愛くてべっぴんさんだった。

劇中の役柄そのまんま。

そして、よくよく調べてみたら、オケ老人!に出演していた。

ああ・・・あの時は主演の杏ちゃんばかりに気を取られていたが、

なるほど確かに居たなあ・・・と思い出す。

 

竹中直人&渡辺えり。

Shall we ダンス?と舞妓はレディでもコンビ組んでいたが、

もうこの二人は鉄板コンビ。

このひとたち台本なんてなくって、

もう監督に一任されて、ふたりして夫婦漫才でもやっているような演技。

どこか気弱で情けない亭主と強気なかかあ、間違いない。

 

井上真央も美しかった。

大正ロマンの貴婦人といった感じで、

あの頃の雑誌挿絵というか、そういったものをそのまま実写化したような美しさ。

最初は井上真央だと気付かなかった。

ずっと菅野美穂だと思っていた・・・。

艶めかしいディープキスのシーンは必見。

 

ヤクザのボス、重蔵役の小日向文世。

見た目おだやかなのに、裏では血も涙もない冷酷な役。

あの強面で武闘派の安田も彼には頭が上がらない。

気弱な役と冷酷な悪役、両方のイメージを抱けて、それを見事に演じ分けられる役者さん。

香川照之とこのひとはその二大役者だと思う。

 

その他も色濃い役者さんばかりで見応えあった。

高良健吾は相変わらず胡散臭くてキザな役。

音尾琢真はドスの効いた根っからの悪役。

竹野内豊は真面目でクールな熱血漢。

永瀬正敏はぐうたらダメダメ酒びたり親父。

 

徳井優&田口浩正のいつものコンビにプラス、正名僕蔵の冴えないトリオ。

青木館の映写技師の浜本役に熱い俳優さん、

誰かと思えば、脳内ポイズンベリーで見た成河(そんは)。

役柄のせいもあろうが、あのときと印象がまったく違って見えた。

舞妓はレディで主演していた上白石萌音もカメオ出演。

 

豪華キャストだけで おなか一杯になれる作品。

もちろん作品自体も楽しめる。

映画が日本に定着し始めた頃の文化を学ぶこともできる。

活動弁士という職業が居たから、日本には無声映画の時代はなかったという。

確かに、初期のチャップリンの映画なんか観ていたら、音楽のみでセリフはない。

そこへ、勝手に吹き替えして自己流にストーリーを創り脚色して語っていた活動弁士。

 

歌舞伎の出語りや人形浄瑠璃などの文化があった日本だからこそ

生まれた職業なのかもしれない。

映画に音声が入るようになり、活動弁士は職を失う。

多くが講談師や漫談家,紙芝居屋,ラジオの司会者などへと転身し、

今度はそれらの文化が活性化していったという。

映画をとおして、こういった文化の歴史を知れるのもまた面白い。

 

 



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