ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

072. ルドンドの紙祭りは涼風に吹かれて

2018-12-31 | エッセイ

7月、8月は夏祭りの季節。

アレンテージョ地方では8月の第一週に恒例の「ルドンドの紙祭り」がある。
アレンテージョ地方の夏といえば、猛暑!
日中は40度を越える焼け付くような日差し、燃え上がるような空気。
無意識に身体は陰を求めて移動する。
町の人びとは窓のシャッターをきっちりと閉め、家の中に籠って昼寝中。
道を歩いているのは外人観光客だけで、それもちらほらと少ない…というのが、いつもの夏祭りだった。

ところが今年の8月は異様に涼しい。
このぶんでは内陸のルドンドも過しやすいに違いない~と出かけた。
途中のエヴォラも熱風の代りに涼風が吹き、ルドンドに着くと、これまた涼しい、快適だ!

平日のせいか、公園に特設された食堂もお客が少ない。
食券売り場で、仮設小屋の板塀に切り込まれた小さな窓に首を突っ込むように注文する。
いつものようにフランゴ(チキン)の炭火焼、ソッパ、サラダ、飲み物、パン、デザートはメロン。

別の窓口に行って紙のテーブルクロスとナイフ、フォークと取り皿をもらい、自分でテーブルセットをするのがここのオキテ。
それから列に並んで、食券と引き換えに飲み物と料理をもらって、自分で運ぶ。
そしてようやく食事ができる。
まるで昔の共産圏のようなシステムだけれど、なにしろ祭りの特設食堂で、たぶん農協などがみんなでやっている素人経営だから、しかたがない。
お客も協力しなくっちゃ。

 



大きな鉢に入った「ソッパ・デ・ペイシェ」

ところで受け取ったソッパがびっくりするほど大鉢だ。
ソッパ・デ・トマト(トマトスープ)を注文したつもりが、ソッパ・デ・ペイシェ(魚のスープ)が出てきた。
それもふた鉢も~。
そのうえ2センチ角に切ったパンが山盛りになった別皿も出て、「ソッパの中に入れて食べたら美味しい~」という。
これはもう完全に「ソッパ・デ・ペイシェ」
魚のぶつ切りが入ったトマト味のソッパ。
どうりで料金がちょっと高かった訳だ。

「ソッパ・デ・ペイシェ」はだいぶ前に、別の町で食べたことがある。
そのときは大鍋にどっさりの魚のぶつ切りとスライスした田舎パンも最初から一緒に入っていた。
スープの味をたっぷりと吸い込んでふにゃふにゃになった古いパンはまるで麩のようで美味。
「ソッパ・デ・ペイシェ」という名前だがふつうのスープのイメージではなく、立派なメイン料理として出されたのだ。

さてフランゴも焼き上がり、大鉢にたっぷり入ったソッパと並べると、食べきれるかな~と心配だったが、ひとくちソッパを食べると、スプーンを持つ手が止まらなくなった。
この美味さはどこからくるのだろう…。
ニンニクと玉ねぎとジャガイモ、トマト、ハーヴ、オリーヴ油、そして魚のぶつ切りから出た旨み。
それに、なんといっても決め手は大鍋で大量に作ること…ではないだろうか。
家でなんとか美味しいソッパを作ろうと挑戦するけれど、いつも満足できないのは、量にも問題がありそう。
田舎のレストランに入ると、料理を作っているのは近所のおばさんたちだから、もしその店で煮込みなどのメニューがあったなら、その地方の家庭料理が味わえる。
田舎の煮込み料理は美味しい!

昼食のあと、紙の祭りを見て歩いた。
通りや路地でそれぞれテーマを決めて飾りつけをしている。
毎年異なったいくつものテーマで作ってあるので、見るのが楽しいし、しかも去年のと同じものはひとつもなく、すべて一から新しく手作り。
今年のテーマは「熱帯の海」「アフリカ」「恐竜」「昆虫」「アルファベット」「子供の世界」そして「闘牛」など。
それ以外にもまだまだある。

ルドンドは民芸陶器の窯元がいくつかある。
今年はやっと紙祭りのテーマに取り上げて「陶器つくりの通り」ができていた。
土をこねるところから、足でロクロを蹴っているところ、窯で焼いているところ、
そして出来上がった製品を飾っているところ…など。
すべて紙を使って表現してある。
今まで知らなかった古い絵付けの陶器がたくさん再現されて、素朴だとばかり思っていたルドンドの陶器を改めて見直した。
実物をぜひ見たいものだ。

他にも各地の民族衣装を紙で表現した通りも見応えがあった。
地方によって伝統衣装が様々に異なるものだ。
それを布地から刺繍糸まですべて紙で再現してあるのは驚き。

ルドンドの紙の祭りはとにかく紙を使って、微にいり細にいり表現することにこだわっている。
この情熱と根性には、毎年あっけにとられてしまう!

 

各通りはテーマが決められ、入り口にはゲートが作られる。ここは「熱帯の海」

 

 「熱帯の海」の通り。天井の紙細工が涼しい陰を作り、風にゆれてしゃらしゃらと音を鳴らす。

 

ルドンドは民芸陶器の町。この通りは陶器作りがテーマ。テーブルも壷も皿も人形も全て紙。足で蹴ってロクロを回す様子。

 

窯で陶器を焼く様子。左の穴には紙で作った壷などが入っている。この焚き木だけが本物の枯れ枝。

 

ロバの背中に陶器をつんで売り歩く。犬をお供に連れて。

 

猛暑の中を売り歩く絵皿を紙で再現

 

紙製のお皿に絵を描き、紙製の棚に飾っている。

 

ウサギ狩りの絵皿を紙で再現

 

紙製のお皿に絵を描き、紙製の棚に飾っている。絵柄が楽しい。

 

ルドンドの城門前の広場。中央の井戸も街灯もすべて紙。

 

トーロス(闘牛)がテーマの通り。本物のトーロスと同じようにわざわざ道に砂を敷いてある。

 

紙で作られた牛の尻尾を引っ張ってはしゃぐスペイン人観光客

 

アルファベットがテーマの通り。ROSA(バラ)の絵が全て紙で刺繍、額縁も紙。

 

伝統民族衣装の通り

 

全国各地方の伝統衣装を飾った通り。全て紙で作ってある。

 

紙でできた生地に紙でできた刺繍糸で細かな刺繍をして伝統衣装をみごとに再現

MUZ
2009/08/28

 

©2009,Mutsuko Takemoto
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(この文は2009年9月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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