Life in Oslo.

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クリスマス

2012年12月13日 | 生活
12月も半ばとなり、ノルウェーはJule(ユール。ノルウェー語で"クリスマス"の意)で浮かれています。ノルウェーは一応キリスト教国(プロテスタント・ルーテル派)ですが、信仰が厚いわけではなく、個人的には日本に近い印象を持っています。クリスマスの商業色が強い点も日本と似ていますが、クリスマス・イブ&クリスマスは日本でいう大晦日&元旦のような位置づけで、一年で最も大切なイベントの1つです。クリスマス・イブの16時以降はスーパーやコンビニを含むほぼ全ての商業施設が閉まり、市内全域の全ての公共交通機関がストップします。ほぼ全ての人が家族や恋人と過ごすので、単身者は為す術がなく、同僚曰く「ホームレス向けの炊き出しに参加する」くらいしかないようです。単身者への厳しさは日本の比ではありません。
 僕の職場も例外なく浮かれており、11月最後の金曜は「クリスマス・ワークショップ」と称して、大学院生も教授もみんなでクリスマスツリーの飾りを作ります。

廊下の電球を色紙で覆い、勝手にイルミネーションをつけます。電球を紙で覆うと危ないのでは?と心配したものの、「火事になるかもね~」と笑って済まされました。絶対に真似しないでください。

そして、イルミネーションにオーナメントをくっつけます。地引き網に引っかかったゴミのようですが、半分くらいは僕が折り紙で作ったものです。余談ですが、折り紙ができると外国生活で重宝します。「きちんと角を合わせてピシッと折る」というのは、少なくとも多くのノルウェー人には非常に難しいようです。

 さて、ノルウェーのクリスマスにはいくつか欠かせないものがあります。まずはpepperkakeとgløgg。pepperkakeは薄焼きのジンジャークッキーで、日本人の口にも合います。ノルウェーではクリスマスにpepperkakeを含めた7種類のクッキーを焼くそうですが、このジンジャークッキーが最もポピュラーで、どこのスーパーでも売っています。

一方、gløggはホットワインの一種で、ドイツのグリューワインなどと同じものだと思います。スパイスを煮詰めたgløggの素(赤)を、温めた赤ワインで割ります。gløggの素(赤)はウガイ薬のような臭いがしますが、ワインで割って飲むと甘くて意外に美味しいです。ミックスナッツやレーズンを入れて飲むのが一般的です。また、最近はgløgg(白)も登場し、シナモンスティックなどを入れて飲むようです。

同じくjulebrus(ユール・ブルス。ノルウェー語で"クリスマス・ソーダ"の意)も、子ども達には欠かせません。julebrusは日本のシャンメリーのようなもので、後述のクリスマス・ビールが飲めない子ども達のために各ビールメーカーが作っているソーダ飲料です。バニラ味やベリー味など色々な味や色があります。もちろんノンアルコールです。

ちなみに各ボトルに描かれているサンタクロース風の顔が濃い奴は、julenisse(ユール・ニッセ)と呼ばれる妖精です。意外かもしれませんが、北欧のクリスマスのシンボルはサンタクロースではなく、このユールニッセです。

 ジンジャークッキーやクリスマスソーダといった子ども向けのものだけでなく、もちろん大人向けのものもあります。その代表がjuleøl(ユーレ・ウル。ノルウェー語で"クリスマス・ビール"の意)です。ノルウェーに限らずヨーロッパでは"クリスマス・ビール"と称して、スパイスを加えた期間限定のダークビールを醸造します。毎年、各メーカーが競って新しいクリスマス・ビールを世に送り出すのですが、ノルウェーでは方向性がおかしなものが多々あります。web上にクリスマス・ビールの品評サイトがいくつも立ち上げられ、各ビールの色や香り、味の説明や人気ランキングを見ることができます。以下の「」内の説明は品評サイトからの抜粋です。おかしな記述は誤訳ではありません。

まずはビンの4本を右端から順にご紹介します。


・Munkholm (ムンクホルム)
ノルウェーで最も有名なノンアルコールビール"Munkholm"のクリスマス・ビール味。通常バージョンは美味しく、安いのでお勧め。クリスマスバージョンは「金色に似た茶色で、甘いモルトと軽い金属臭。角のとれた甘みと控えめな苦みが特徴」。個人的には少し甘すぎましたが、悪くはないです。

・Santa Clausthaler
ノンアルコール。「淡い金色のような茶色で、泡は少ない。豊かな麦芽の中、ほのかな灰皿の香り。モルトとホップの軽い味わいに、何かしらの金属の味がするが、見事に調和している」。個人的にはMunkholmの方がお勧め。

・Aass Juleøl(オオス)
オスロ近郊のAassのクリスマス・ビール。「透き通った赤銅色。泡は少ない。ホップ、カラメル、レーズン、コカインのフルーティな香り。ほのかなコーヒー味と塩味」

・Ringnes Juleøl(リングネス)
オスロを代表するRingnesのクリスマス・ビール。Ringnesはオスロでは最もポピュラーで、さっぱりとして飲みやすい。日本でいうとアサヒ。クリスマス・ビールは「赤銅色で、軽くて甘い味わい。レーズンとカラメルシロップの香り。水っぽい」


次に、缶の5本を左端から順にご紹介します。


・Frydenlund Juleøl(フリーデンルンド)
同じくオスロを代表する"Frydenlund"のクリスマス・ビール。FrydenlundはオスロではRingnesに次いでポピュラーで、Ringnesよりややしっかりした香り。日本でいうとキリン。クリスマス・ビールは「透き通った赤銅色。焦げたシロップとコーヒーの中に、ほのかにホップが香る。ややアンバランス」。残念ながら、品評サイトでは低評価。

・Hansa Juleøl(ハンザ)
ノルウェー西部の都市・ベルゲンを代表する"Hansa"のクリスマス・ビール。Hansaの高級ライン"Hansa Premium"は、スーパーで買えるビール(アルコール5%未満)の中では最も評価の高いビールの1つ。クリスマス・ビールは「赤っぽい茶色で、ホップ、そしてわずかに土の香り。とても甘く、ほのかなカルダモン味の後にわずかな苦み。とにかく甘い」

・Hansa Julebrygg(ハンザ)
"Hansa"のもう1つのクリスマス・ビール。「透明な赤銅色で、バターボールとハチミツ、フルーツアイスの香り。カラメルとブロス(肉や野菜のスープ)を連想させる味。少し苦いが、やたら甘い」

・Borg Juleøl(ボルグ)
味はそこそこなのに何故か他のビールよりも少し安いBorgのクリスマス・ビール。「カラメル、イチジク、缶詰コーンとバターの香り。ラクリス(甘草)と砂糖、ラズベリードロップの味が短時間続き、後味にほのかな苦みとアニスの香り」。品評サイトではすこぶる不評。

・Dahls Julebrygg(ダルス)
ノルウェー第三の都市・トロンハイムの醸造所"Dahls"のクリスマス・ビール。「甘くフルーティな中に、ほのかなペンキの香り。甘いカラメルとレモンピールの味に、ほのかな苦みが短く続く」


いかがでしょうか。美味しそうなクリスマス・ビールはありましたか?ありませんね。以上のビールは全て、スーパーで買えるアルコール分5%未満のものです。上位クラスとして、国営酒屋Vinmonopoletでしか買えないアルコール分5%以上のクリスマス・ビールもたくさんあり、より独特の香りや味が楽しめます。僕が参加した品評会では「チョコレート、コーヒー、石けんと古い灰皿の混合物の味」「ポークハムとチョコレートとメロンの香りが調和」など、非常に個性的なものがたくさんありました。しかし「これは美味しい!」と思えるビールには未だ出会えていません。


 さて、クリスマス・ビールと共に欠かせないアルコールがaquavit(アクアビット)。「命の水」を意味するこの蒸留酒は、ハーブを加えたジンを樽で熟成させたものです。

一見するとただの熟成されたジンですが、最も有名なアクアビット"LINIE"の熟成方法を知れば、どこがノルウェーらしいのか分かります。19世紀初め、ノルウェーからジンを積んだ船がインドネシアに向かいましたが、ジンは売れず、仕方なくノルウェーに持ち帰りました。ノルウェーに戻った彼らが売れ残ったジンを飲んだところ、驚くほど美味しくなっていることに気づき、たどった航路(波の具合や赤道を二回横切ったことなど)がジンの熟成に最適だったと結論づけました。以来、彼らはジンを積んでノルウェー→アメリカ→オーストラリア→日本→アメリカ→ノルウェーという途方もない船旅を、ただジンを熟成させるためだけに続けています。このストーリーを日本人に話す度に「そんなバカな」と笑われますが、公式webサイトできちんと解説されています。アルコールにかける酔狂なほどの情熱は、いかにもノルウェー人らしいエピソードです。また、このアクアビットはハーブをふんだんに使っているため、消化を助ける働きがあるそうです。ノルウェーではクリスマスにラムやポークなどの肉類を食べるので、クリスマスのディナーにはアクアビットが欠かせないようです。この"LINIE"はミニボトルがあり、オスロ空港の免税店で手に入ります(国営酒屋Vinmonopoletでも買えますが、価格は免税店の倍以上します)。日持ちのする手頃な名産品が少ないノルウェーにおいては貴重な土産物です。