2006年12月02日付 神戸新聞社説
中国残留孤児/「神戸判決」高く評価する
平均年齢六十五歳の人々を、いまもって「孤児」と呼び、また自らもそう名乗らざるを得ない状況が、果たしてまともな国の姿といえるのだろうか。
この問いかけに対し、きのう神戸地裁の判決は、明確な答えを示した。
兵庫県内などの中国残留日本人孤児六十五人が起こした裁判で、早期の帰国措置を取らなかったことや、帰国後の自立支援を怠ったのは国の責任として国家賠償を求めた訴えに対し、判決はいずれも国が義務を怠ったと認めた。原告側のほぼ全面勝訴といえる画期的な判断を高く評価したい。
帰国の遅れについて、判決はいう。「国は残留孤児の消息を確かめ、自国民救済の観点から早期帰国の実現する責任を負っていた」が、「身元保証書の提出がない限り入国を認めないなど、帰国を制限する違法な行政行為をした」。
自立支援についても、「永住帰国後五年間は、生活の心配をしないで日本語習得などの支援を行う義務があったのに怠った」とし、北朝鮮による拉致被害への支援と比べて「きわめて貧弱」といい切った。
中国残留日本人孤児で、永住帰国した人は約二千五百人いる。このうち九割近い二千二百一人が、全国十六の裁判所で同じ訴えを起こしている。なぜなのか。
敗戦時の混乱で肉親と別れ、旧満州(中国東北部)に取り残された子どもたち(おおむね十三歳未満)は、やっと帰国を果たした段階で多くは既に中年に達していた。帰国直後の半年で日本語を覚え、生活習慣になじむのはきびしい。言葉の壁は厚く、暮らしを支えるだけの仕事がない。
公営住宅の優先入居や国民年金の三分の一程度を支給する特例措置が徐々に整備されたが、七割もの人が生活保護を頼りにしているのが実態だ。
その生活保護すらも、養父母の墓参りや見舞いに中国を訪れれば、滞在期間分を差し引かれる。「祖国で、日本人として人間らしく生きたい」という願いが、全国にまたがる集団訴訟の背景である。
「国民が等しく受忍しなければならない戦争被害」が国の主張で、最初の判決となった大阪地裁の判断はこれを認めたが、二例目の神戸地裁判決は「日中国交正常化後の政府の違法行為による損害」とした。後に続く裁判に影響を与える判決の持つ意味はきわめて大きい。
国会では、議員立法で新たな支援策を目指す動きもある。神戸判決を機に、政府は「もう孤児と呼ばせない」支援策に向けて踏み出すべきだ。