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2006-12-02 土 「社説--比べて読めば面白い」 中国残留孤児判決

2006-12-02 06:41:52 | 「保存している記事」から

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2006年12月02日付 神戸新聞社説

中国残留孤児/「神戸判決」高く評価する

 平均年齢六十五歳の人々を、いまもって「孤児」と呼び、また自らもそう名乗らざるを得ない状況が、果たしてまともな国の姿といえるのだろうか。

 この問いかけに対し、きのう神戸地裁の判決は、明確な答えを示した。

 兵庫県内などの中国残留日本人孤児六十五人が起こした裁判で、早期の帰国措置を取らなかったことや、帰国後の自立支援を怠ったのは国の責任として国家賠償を求めた訴えに対し、判決はいずれも国が義務を怠ったと認めた。原告側のほぼ全面勝訴といえる画期的な判断を高く評価したい。

 帰国の遅れについて、判決はいう。「国は残留孤児の消息を確かめ、自国民救済の観点から早期帰国の実現する責任を負っていた」が、「身元保証書の提出がない限り入国を認めないなど、帰国を制限する違法な行政行為をした」。

 自立支援についても、「永住帰国後五年間は、生活の心配をしないで日本語習得などの支援を行う義務があったのに怠った」とし、北朝鮮による拉致被害への支援と比べて「きわめて貧弱」といい切った。

 中国残留日本人孤児で、永住帰国した人は約二千五百人いる。このうち九割近い二千二百一人が、全国十六の裁判所で同じ訴えを起こしている。なぜなのか。

 敗戦時の混乱で肉親と別れ、旧満州(中国東北部)に取り残された子どもたち(おおむね十三歳未満)は、やっと帰国を果たした段階で多くは既に中年に達していた。帰国直後の半年で日本語を覚え、生活習慣になじむのはきびしい。言葉の壁は厚く、暮らしを支えるだけの仕事がない。

 公営住宅の優先入居や国民年金の三分の一程度を支給する特例措置が徐々に整備されたが、七割もの人が生活保護を頼りにしているのが実態だ。

 その生活保護すらも、養父母の墓参りや見舞いに中国を訪れれば、滞在期間分を差し引かれる。「祖国で、日本人として人間らしく生きたい」という願いが、全国にまたがる集団訴訟の背景である。

 「国民が等しく受忍しなければならない戦争被害」が国の主張で、最初の判決となった大阪地裁の判断はこれを認めたが、二例目の神戸地裁判決は「日中国交正常化後の政府の違法行為による損害」とした。後に続く裁判に影響を与える判決の持つ意味はきわめて大きい。

 国会では、議員立法で新たな支援策を目指す動きもある。神戸判決を機に、政府は「もう孤児と呼ばせない」支援策に向けて踏み出すべきだ。

 


2006-12-02 土 「社説--比べて読めば面白い」 中国残留孤児判決

2006-12-02 06:15:04 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 東京 北海道 神戸 中国 西日本

2006年12月02日付 北海道新聞社説

残留孤児判決*政府は全面救済を急げ

 中国残留孤児にとって、涙なしには聞けない判決だっただろう。

 判決理由の中には、旧満州における政府の無慈悲な政策、関東軍の非道ぶりを指弾する言葉が並んだ。

 兵庫県などの中国残留孤児六十五人が起こした国家賠償請求訴訟の判決が神戸地裁であった。裁判長は六十一人について請求を認め、総額四億六千万円余を支払うよう国に命じた。

 全国十五地裁に提訴された集団訴訟の一つで、国の責任を初めて認めた。

 判決は、国が孤児の早期帰国を妨げる違法な措置を講じたと指摘した。同時に、帰国した孤児の自立生活を支援する義務も怠ったと認定している。

 国の無策ぶりを一つ一つきちんと検証し、在留日本人の戦後補償のあり方を示した画期的な判決と言える。

 国は自らの責任を認め、控訴を断念すべきだ。そのうえで、集団訴訟の原告だけでなく、同じ境遇の孤児すべてを救済する必要がある。

 昨年七月の大阪地裁判決は、孤児を早期帰還させる国の義務を認めたが、戦争損害は国民が等しく受忍せねばならないとして原告の請求を棄却し、国の賠償責任を否定した。

 一般に、戦争による犠牲者に対して政府は補償の責任を負わないとの考えに立った判断だ。

 神戸地裁の判決が認定したのは、日中国交正常化後、孤児の入国に当たって留守家族の身元保証を求めた措置など、政府の違法な職務行為で帰国を妨げられたことによる損害である。

 もう一つは、帰国後の自立支援義務を国が怠ったことによる損害だ。

 判決は参考例として、北朝鮮拉致被害者は帰国から五年間、国の給付金によって所得が保障され、余裕をもって生活できることを挙げた。

 そのうえで、拉致被害者に比べて政府の落ち度の度合いが強い残留孤児への支援策が貧弱ではいけない、と踏み込んで指摘している。

 永住帰国した中国残留孤児は全国に二千五百人いて、集団訴訟に二千百五十人余りが参加している。

 札幌地裁には八十五人が提訴しており、来年一月に結審する見通しだ。

 原告のほとんどは六十歳を超え、高齢化が進んでいる。帰国後の日本語教育や就労支援は十分と言えず、七割以上が生活保護を受けている。

 経済的自立を後押しするのは犠牲を強いてきた国として当然の責務だ。

 自立支援制度を創設し、年金や給付金を支給するといった救済策を早急に講じてほしい。

 中国大陸には帰国がかなわない孤児がまだ残っており、訪日調査が続く。集団訴訟の弁護団は「人間性を取り戻す訴訟」と位置づけている。

 孤児たちは中国と祖国日本で二度捨てられた。これ以上放置できない。

 


2006-12-02 土 「社説--比べて読めば面白い」 中国残留孤児判決

2006-12-02 06:08:52 | 「保存している記事」から

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2006年12月02日付 東京新聞社説

残留孤児勝訴 戦後の『空白』に差す光

 長い長い「不遇」に光があたった。中国残留孤児たちが国家賠償を求めた裁判で、神戸地裁は「孤児勝訴」の判決を出した。戦後日本がおろそかにした問題が、徐々に埋まっている。

 全国十五の裁判所で、計約二千二百人もの中国残留孤児が起こしている集団訴訟である。

 神戸地裁が孤児たちの言い分を認めて、損害賠償金を支払うよう国に命じたことは、今後各地の裁判に大いに影響を与えるだろう。戦後六十年を過ぎても残されていた問題に、希望的解決を与えたといえる。

 原告が問うたのは、まず自分たちが「残留孤児」となったのは、国策による旧満州(中国東北部)への入植に起因しているということだ。

 だから、戦後は迅速に日本に帰還させる義務があったのに、国は長くこの問題を放置した。帰国後の自立支援策も怠ったと主張した。

 いわば、憲法が保障する、日本人として、人間らしく生きる権利を侵害されたと訴えたわけだ。

 昨年七月の大阪地裁判決は、孤児の被った不利益を認めつつも、行政・立法の裁量権を広く認めて、請求を退けた。今年二月に東京地裁であった残留婦人の裁判でも、国家賠償を認めるまでには「いま一歩足りない」とやはり訴えを退けた。

 神戸地裁がそれらの判断とは違った結論を導き出した論理には、北朝鮮の拉致被害者に対する国の対応との“落差”がある。

 拉致被害者は五年を限度として、生活保護よりかなり高い水準の給付金を受けている。しかも、社会適応指導やきめ細かな就労支援を受けることができる。

 その点、残留孤児は高齢での帰国者が多いのに、国の施策による日本語の習得期間も短い。十分な会話ができないため、仕事をしたくとも、ままならない不遇をかこった。

 だから、多くの孤児が生活保護を受ける結果となる。その場合、原則として、少額でも預金や生命保険の加入が認められない。アルバイトをしても、その収入は保護費から差し引かれる。

 数々の難問を抱えているのが実情だ。国はせめて老後くらいは安らかに暮らせる仕組みを考えるべきだ。

 ドミニカ共和国移民に対して、東京地裁は今年六月、政府の対応を「違法」とした。それを受け、特別一時金支給法が成立した。残留孤児に対しても、知恵は出せるはずだ。

 この国の国民として生まれてよかったという施策が望まれる。各地の裁判所で今後、「勝訴」の“ドミノ”が起こる兆しかもしれない。

 


2006-12-02 土 「社説--比べて読めば面白い」 中国残留孤児判決

2006-12-02 06:02:03 | 「保存している記事」から

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2006年12月02日付 毎日新聞社説

残留孤児判決--生活支援は国の責任だ

 「日本人として、人間らしく生きる権利を」。第二次世界大戦後中国に取り残され、帰国後も苦しい生活を送る残留孤児の、心からの訴えが、やっと光を浴びた。

 神戸地裁は1日、国の政策で残留孤児の早期帰国が妨げられ、帰国後の自立支援義務も怠ったと認定して、国に賠償を求めた原告65人のうち61人に総額約4億7000万円の支払いを命じた。

 帰国した残留孤児の約8割が原告となった集団訴訟で初の勝訴判決である。国は判決を踏まえて、残留孤児に対する法的制度や支援の内容を見直すべきだ。

 残留孤児の親たちは戦前、国策によって中国東北部の危険な地域に入植した。戦争末期のソ連軍侵攻に当たって、健康な男性は根こそぎ軍に動員され、残った家族は国の保護のないまま戦闘に巻き込まれたり、集団自決を遂げるなどで離散し、幼い子供たちが中国人に引き取られた。

 判決はこれらの点を「自国民の生命を軽視した無慈悲な政策であった。戦後の政府はその政策によって発生した残留孤児を救済する政治的責任を負う」と指弾した。歴史をきちんと振り返れば、当然の結論である。

 残留孤児は72年の日中国交正常化後、永住帰国の道が開かれた。だが、国はあくまで外国人として扱い、帰国には日本の親族の身元保証を求めるなどの制限措置を取った。これによって帰国の実現が遅れたことを、判決は「根拠のない違法な行政行為」と断じた。

 残留孤児たちは、帰国後の自立支援が極めて不備であったと訴えた。判決はあえて、北朝鮮拉致被害者に対する給付金や社会適応訓練と比較して「政府の落ち度は少なくない。拉致被害者への支援より貧弱でよかったわけがない」とし、これと同程度の支援が必要との基準を示した。国民の多くが納得できる判断だろう。

 残留孤児の多くは言葉や習慣の壁で社会になじめず、就労の機会も乏しい。原告の約7割が生活保護を受け、国民年金も通常の3分の1しかない。

 中国残留婦人らが敗訴した今年2月の東京地裁判決も、帰国者が収入を得る道を失っている事実を指摘している。今回は民法の除斥期間で早期帰国者の賠償が認められなかった。もれなく救済するには特別立法などで対応することが不可欠だ。

 戦後六十余年を経て、残留孤児の高齢化も進む。身元確認のための集団訪日調査は今年で37回になったが、判明率は年々低下し、昨年はついにゼロになった。

 「日本人として認められ、人並みに暮らしたい」というささやかな願いに、社会全体が無関心であってはならない。救済拡充のために、国民の注目と認識を高めることも国の責務である。

 国はこういった現実を十分に把握し、過去の反省に立って、安心して生活していけるような制度を整え、日本語教育、職業訓練などの支援システムも再構築しなければならない。

毎日新聞 2006年12月2日 0時07分


2006年12月02日付【余録】

 「在留邦人はこのまま放置せば大部分流民化し、冬ともなれば死者続出すること明白なり」。こう述べて女性や子供、病人をはじめ帰国を要する者約80万人の内地送還を東京に懇請したのは終戦直後の駐満州国大使である▲だが東京の方針は終戦の際に外相の訓令ですでに決まっていたのだ。「居留民は出来うる限り(現地)定着の方針をとる」。悪名高い「現地定着方針」である。引き揚げ事業は翌年5月まで行われず、その間におびただしい数の一家離散の悲劇が日本人を襲ったのはいうまでもない▲いま平均68歳の中国残留孤児は、この時7歳だ。どんな意味でも自らの境遇に責任などあろうはずがない。国はその子たちを帰国させないとの方針を示し、その結果現に帰れなくなった。孤児らがいう国による「3度の棄民」のそもそもの始まりだ▲2度目は59年の特別立法で多数の孤児を死者扱いし、帰国事業を打ち切ったことだ。そして3度目が永住帰国に道が開かれた後の理不尽な帰国制限や、不十分な生活自立支援策である。日本語をよく話せぬために就労もできず年金も乏しい状況で、生活保護を受ける孤児は7割になる▲その孤児らが国を相手取って起こした国家賠償訴訟の判決で神戸地裁は、孤児の帰国を遅らせた国の責任をはっきり認め、孤児への自立支援策が北朝鮮拉致被害者に対するものより貧弱でよいわけがないと断じた。原告の一人は「やっと日本人として認められた気がする」ともらした▲国の犯す過ちはしばしば歴史に巨大な裂け目を生み出し個人の運命をのみ込む。そこから聞こえるうめきやなげきに聞こえないふりをする国と、その声をしっかり聞き届けてよりよい明日に生かす国がある。どちらが「美しい国」だろうか。

毎日新聞 2006年12月2日 0時02分

 


2006-12-02 土 「社説--比べて読めば面白い」 中国残留孤児判決

2006-12-02 05:58:34 | 「保存している記事」から

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2006年12月02日付 朝日新聞社説

残留孤児、勝訴 祖国への思いに応えよ

 中国残留孤児と呼ばれる人たちの望みは、祖国で人間らしく生きることだった。

 しかし、日本政府の理不尽な対応で帰国は大幅に遅れ、自立するための支援もお粗末きわまりないものでしかなかった。

 孤児らが起こした集団訴訟で、神戸地裁はそうした事情を認め、国に総額約4億6千万円の支払いを命じた。全国15カ所で起きている集団訴訟のなかで原告が勝訴したのは、これが初めてだ。

 孤児たちの高齢化は進み、老後に大きな不安を抱いている。国は控訴することなく、判決を受け入れるべきだ。

 孤児たちは旧満州(中国東北部)に取り残され、中国人の手で育てられた。81年になって、日本政府はようやく本人を日本に招いて身元の調査を始め、祖国に戻る道が開けた。

 裁判のなかで、原告は国民を守る責務を果たしてこなかった国を厳しく批判してきた。神戸地裁の判決は、この訴えに正面から応えるものとなった。

 旧満州の開拓民は戦況をまったく知らされず、無防備なまま敗戦の混乱に放り出された。無慈悲な政策が生んだ残留孤児に対して、戦後の政府は救済すべき政治的な責任を負う――。

 判決はそう述べ、本来なら72年の日中国交正常化を機に、救済の手を差しのべることができたと指摘した。だが、国は日本人と認めようとせず、外国人の扱いで親族の身元保証などを求めた。そのために永住帰国が遅れてしまった。

 神戸地裁は、帰国を制限したことを違法と断じ、帰国が遅れた期間について、1カ月当たり10万円の賠償を命じた。さらに、帰国後の支援についても、北朝鮮の拉致による被害者への支援策に比べて貧弱なことなどを根拠に1人600万円の慰謝料を認めた。

 約2500人が永住帰国をしているが、そのうち2200人ほどが一連の集団訴訟に加わった。乏しい支援しか受けられなかったことで日本語は十分に話せず、就ける職も限られる。8割を超える人が裁判にまで訴えたのは、生活の苦しさの裏返しである。

 いま生活保護を受ける人が、全体の7割近くを占めている。国民年金は一部を受給できるようになったが、月額わずか2万円余にとどまるうえ、その分は生活保護費から差し引かれてしまう。

 生活を支えるために、判決は生活保護とは別の給付金や年金の制度が必要だとも指摘している。まったく同感だ。

 与党の国会議員がプロジェクトチームを発足させ、給付金制度を検討しているが、作業は進んでいない。新たな制度のための立法を急いでもらいたい。

 敗戦時に、そして帰国した後にも、国から棄(す)てられたと感じている孤児にとって、この裁判は人間の尊厳を取り戻す闘いだった。

 「やっと、日本人に生まれ変わりました」。晴れやかに話す孤児の思いを踏みにじってはいけない。


2006年12月02日付 【天声人語】

 日本の敗戦の混乱の中で、中国に残された子供たちを「中国残留日本人孤児」と呼ぶことが多い。作家の井出孫六さんは、言葉の厳密さを著しく欠くと書いている。「自らの意思で『残り留まった』ひとなどいるわけはなく、さまざまな事情で『置き去』られた人びとであった」(『終わりなき旅』岩波書店)。

 置き去られた事情は個々に違っても、置き去られた状況は日本の敗戦によるものだった以上、置き去った主体は国家といってよいと続く。「『残留』ということばからは、主体の姿も消し去られているといえぬだろうか」

 その「主体」の責任を厳しく問う判決を、神戸地裁が言い渡した。孤児の帰国の妨げとなる違法な措置を講じたうえ、帰国後も自立を支援する義務を怠ったとして、国に賠償を命じた。孤児を日本人と認めず、外国人として扱う方針を貫いたとも指摘した。

 「私は、子供を捨てて逃げた日本人のことを、冷酷だとは思いません……捨てなければ、まちがいなく皆、死んでいたでしょう。捨てたからこそ、子供は生きられたのです」。孤児を育てた中国の養父母の一人の言葉だ(浅野慎一・〓(にんべんに冬)岩『異国の父母』岩波書店)。

 確かに「捨てたからこそ」かも知れない。しかし、この人のように、国籍を問わず育ててくれた人たちが居たからこそ生きられたのだろう。

 「落葉帰根」。いつかは日本という根に帰りたいとの思いを込めて、孤児たちが口にする言葉だという。中国で置き去りにされた人たちを、帰り来た木の根元で再び置き去りにしてはなるまい。

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 15:27:35 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 読売 産経 東京 北海道 神戸 中国 沖縄タイムス 琉球新報

2006年12月01日付 琉球新報社説

防衛庁が「省」へ・「文民統制」に不安が残る

 来年1月にも防衛庁が内閣府の外局から「防衛省」に昇格する。現在は形式上、主管大臣の首相を経ている法案提出や防衛出動の承認を得る閣議の要求が直接できるようになる。

 これは防衛庁の「省」昇格関連法案が30日の衆院安全保障委員会で自民、公明、民主党などの賛成多数で可決され、引き続き開かれた衆院本会議でも可決され、参院に送付、今国会での成立が確実になったためだ。

 このところ集団的自衛権、非核三原則など安全保障をめぐり、政府、自民党内で論議の足並みが乱れ、こうもばらばらではシビリアンコントロール(文民統制)は「大丈夫か」と不安にかられる。7月には現職閣僚から「敵基地攻撃」論が飛び出しただけに不安は募るばかりだ。

 民主党は、文民統制の徹底などを盛り込んだ付帯決議が採択されたことで賛成に回ったが、それでもまだ不安が残る。

 法案では、これまでの自衛隊法で「付随的任務」とされてきた国際緊急援助活動、国連平和維持活動(PKO)、周辺事態法に基づく後方地域支援などを「本来任務」と位置付けた。

 「現状のままでも国際協力活動は可能。自衛隊は専守防衛に徹するべきだ」との批判には、「付随的任務のままではしっかりした体制整備ができない」「海外活動が任務の付け足しでいいのか」などと反論しているが、自衛隊の海外派遣が随時可能となる「恒久法」制定を検討しているともいわれるだけに、不安もついて回る。

 不安を解消するためにも、省昇格が防衛政策のなし崩し的な変更、ましてや「専守防衛」の逸脱につながることがあってはならない。

 また、近隣諸国にあらぬ警戒心、不安を与えることにもなりかねないことを懸念する。省昇格が専守防衛の変更でないことを中国、韓国をはじめ各国に丁寧に説明することが重要だ。

 そして、安倍首相をはじめ閣僚、与党の要職にある者は発言にも十分配慮してもらいたい。

 それにしても気掛かりなのは、スタートのときから防衛省ではなく、なぜ防衛庁だったのだろうか。警察予備隊から自衛隊に衣替えしたが、なぜ「軍」にはしなかったのか。そこには去る大戦や戦前の反省を踏まえたものがあったのだろうが、その反省をもう乗り越えたのだろうか。

 戦争を体験した県民の中には、まだわだかまりを持つ人も多いだろう。

 戦後60年を過ぎた現在でも基地が集中、基地被害に苦しんでいる沖縄。省昇格で、米軍と自衛隊との連携が強化され、基地の重圧がさらに強くならないのか不安は尽きない。

(12/1 9:48)

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 15:16:04 | 「保存している記事」から

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2006年12月01日付 沖縄タイムス社説

防衛「省」法案 なぜ「庁」ではだめなのか

 防衛庁を「省」に格上げする法案が衆院で自民、公明、民主などの賛成多数で可決され参院に送付された。

 政府、与党は今国会で成立させる方針だが、それにしてもなぜ「庁」から「省」への転換を急ぐのか。

 安保委での審議時間はわずか十四時間余でしかない。これだけの時間で戦後の日本が軍隊を持たず、海外派兵もしない、という平和主義の理念を踏まえた論議があったとは到底思えない。

 同法の関連法案では、自衛隊法で「付随的任務」とされた(1)国際緊急援助活動(2)国連平和維持活動(PKO)(3)周辺事態法に基づく後方地域支援―などを「本来任務」に位置付けている。

 テロ対策特別措置法やイラク復興支援特別措置法に基づく活動を、本来の専守防衛任務と同じ「本来任務」にし、海外派兵を可能にする狙いがある。

 日米同盟強化の中で米軍の軍事活動を後方で支援し、米軍と一体化した軍事行動にも道を開く動きと言っていいはずだ。であれば、憲法で認められていない集団的自衛権の問題とも無縁とは言えまい。

 「防衛政策は変えない」と強調しても、状況によっては憲法の平和主義に抵触する恐れは否定できないからだ。

 自民党の場合、「省」への改編昇格は憲法改正とともに党是に近い。これはまた、安倍晋三首相の「戦後レジームからの脱却」にも連動する。

 野党の民主党も「シビリアンコントロール(文民統制)の徹底」以外は自民党に重なる部分が多い。

 だが「平和の党」を標榜してきた公明党はどうか。与党だから賛成に回ったというのでは説明になりえまい。

 銃火器装備の「軍隊」を海外派兵できる法案と党の理念と、どう整合性をつけていくか。きちんと説明する責任があろう。

 共産、社民両党は明確に反対している。が、それにしても国家体制に影響するこの問題が、なぜこうも簡単に衆院を通過したのだろうか。

 政府は、国際テロリズムの激化や大規模災害などに対応する自衛隊の国際平和協力業務に「国民の理解が深まってきている」としている。

 だがこの場合の理解は、災害時に発揮される自衛隊の活躍であり、銃火器を手に海外に出向く姿ではあるまい。

 そう考えれば会期の少ない今国会でなぜ成立を目指すのか疑問が残る。

 教育基本法改正の先には憲法改正への意図がある。加えて今回の防衛省法案だ。なぜ「庁」ではだめなのか。詰めの論議が必要なのは当然だが、納得のいく論議がない「省」格上げにはあらためて疑問を呈しておきたい。

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 15:14:08 | 「保存している記事」から

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2006年12月01日付 中国新聞社説

「防衛省」昇格 歯止め緩む恐れないか

 防衛庁を「省」に昇格させる。合わせて自衛隊の海外活動も「本来任務」に格上げする。そうした一連の法改正案が衆院本会議で可決された。

 参院でも可決の見通しで今国会での成立は確実な状況になった。しかし法案には大きな違和感を覚える。

 政府・与党は、省への格上げによって(1)各国の「省」と対等に交渉できる(2)大臣が重要問題について閣議開催を求めることができる―などのメリットをあげる。

 自衛隊の海外活動については、今では国際平和維持活動(PKO)などが大きな柱になっていることから、雑則による付随任務でなく本来任務として扱うべきだ、と説明する。

 しかしこれが法改正を急ぐ理由になるだろうか。むしろその背後に感じるのは、自衛隊を国家機構の中で認知し、存在感を高めようとする自民党の狙いだ。

 一九五〇年に警察予備隊として誕生した自衛隊は、憲法九条の制約のもとで「日陰者」の時代が長かった。しかし政府・自民党は、憲法の拡大解釈によって実質的な軍備の増強を続けてきた。

 今では世界でも有数の装備を持ち、米国の求めで事実上の戦地、イラクにも派遣されるほど。そうした既成事実に合わせて国の仕組みを変えようとしている。違和感はその強引さに根ざす。

 もう一つ見逃せないのが、本来任務の拡大だ。単なる「仕分けの変更」ではあるまい。

 現行の自衛隊法では、本来任務は「直接・間接の侵略からのわが国の防衛」に限られている。海外までも正式な守備範囲と認めれば、自衛権を超える海外「派兵」に道を開くことにならないだろうか。そうなればもちろん憲法違反である。

 政府側はこれまでの「文民統制」「専守防衛」「海外派兵せず」などの原則は変わらないとする。しかし衆院特別委員会に参考人で招かれた軍事評論家の前田哲男さんは「法改正によるミニ改憲」となる恐れを訴え「なぜもっと論議を尽くさないのか」と問うた。

 今国会での法案審議はわずか六日という短さだった。民主党の抵抗が少なかったこともあって、国民の目には見えず、教育基本法改正の陰に隠れたかのようにするすると衆院を通過した印象がある。

 参院では、問題をきちんと掘り下げ、自衛隊をコントロールする歯止めを考える必要がある。

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 15:12:08 | 「保存している記事」から

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2006年12月01日付 北海道新聞社説

「防衛省」法案*そして、次には改憲か

 防衛庁を省に昇格させる関連法案が、衆院を通過した。今国会で成立する見込みで、内閣府の外局が来年一月から独立した防衛省になる。

 これは単なる組織の名称変更ではない。その危うさを考えれば、やはり承服できない。

 大きな問題点は二つある。

 第一に、自衛隊法で付随的任務とされている自衛隊の海外活動を本来任務に格上げすることだ。

 カンボジアでの国連平和維持活動(PKO)、いまも続くインド洋やイラクへの派遣など、自衛隊は着々と海外で実績を重ねてきた。すでに国民から一定の理解と評価を得ていることは否定しない。

 しかし、その都度、強い反対の声があったことも忘れてはいけない。

 武器を手に他国の軍隊と行動を共にすることは、憲法が禁じる集団的自衛権の行使につながりかねないからだ。憲法の専守防衛の原則からはみだすとの指摘もある。

 政府はこうした反対論を押さえ込んで、なし崩しに海外活動を拡大してきた。既成事実を積み上げて、それを当たり前のものにする。自衛隊法の改正が目指すのはそういうことだろう。

 安倍晋三政権は引き続き、海外派遣の恒久法制定や海外での武器使用基準の緩和も目指している。自衛隊を名実共に一人前の軍隊にしようという意図があらわではないか。

 二つ目の問題は、シビリアンコントロール(文民統制)が崩れる恐れがあることだ。

 確かに、自衛隊の最高指揮官が首相であることは変わらない。政府は「国会の歯止めが利いている。旧日本軍のようなことにはならない」ともいう。

 一方で、安倍首相自ら集団的自衛権の解釈見直しを口にし、自民党の幹部や閣僚は核保有論議が必要だと物騒なことを言い出す。

 そんな政府のもとで、どれほどの歯止めが期待できるのだろう。

 防衛予算が膨張していくことはないのか。アジア諸国をはじめとする国際社会が、日本の軍事大国化への警戒を強めはしないか。防衛省への懸念はいくらでも出てくる。

 憲法九条の見直し論議が勢いづくことも心配だ。防衛省の誕生を改憲への踏み台にする。法案には、政府・自民党のそんな思惑が見え隠れする。

 衆院安保委での法案審議はわずか十四時間余しか行われなかった。

 民主党も結局は賛成に回った。もともと法案にあまり抵抗がないのだから、本気で阻止するつもりもなかった。

 平和国家たる決意を世界に示してきた戦後体制の大転換につながる法案が、かくもおざなりな議論で成立してしまう。これも怖いことだ。審議に入る参院の責任はきわめて重い。

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 15:02:41 | 「保存している記事」から

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2006年12月01日付 東京新聞社説

防衛『省』法案 疑問と懸念がまだ残る

 防衛庁を「省」に昇格させる法案が衆院を通過した。自衛隊の海外活動を本来任務に格上げすることも含む重要な法案だ。まだ疑問も懸念もたくさん残っている。参院での慎重な議論を期待する。

 十四時間二十分。衆院通過までの委員会審議の時間だ。教育基本法改正案をめぐる与野党攻防の陰に隠れていたとはいえ、百時間を超えた改正案に比べ、いかにも短い。日本の安全保障政策の転換にもなりかねない法律なのに。

 防衛庁は現在、内閣府の外局と位置付けられている。首相を通さなければ、重要案件を閣議にかけたり、予算を要求することはできない。防衛庁は迅速に行動するには省昇格が必要だと説明してきた。

 しかし、緊急事態が起きた場合、まず首相に報告すべきだ。それを後回しにした閣議は考えられない。結局は組織としてのメンツや隊員の士気のためではないのか。

 疑問はまだある。安倍政権は日本版の国家安全保障会議(NSC)をつくり、首相官邸を外交・安保政策の司令塔にしようとしている。官邸から防衛庁に権限を移す省昇格とは矛盾しないのか。

 そもそも省昇格構想は以前からあったが、なかなか日の目を見なかった。背景には戦前、戦中の軍部独走への反省もあった。

 だとすれば、なぜ今はいいのか。きちんと説明できなければ、北朝鮮の核問題による国民の危機意識に便乗したとか、公明党が来年の参院選に影響しないよう年内成立にこだわったと批判されても仕方あるまい。

 省昇格より懸念されるのが自衛隊の海外活動を「付随的任務」から「本来任務」に格上げすることだ。

 特別措置法をつくってインド洋やイラクまで広げた自衛隊の海外活動に“お墨付き”を与え、既成事実化するものだ。賛成の条件としてイラク派遣を本来任務から外すよう求めた民主党が簡単にこの条件を取り下げたのは納得いかない。

 海外活動の本来任務化によって随時派遣を可能にする「恒久法」制定に弾みをつけ、活動範囲の拡大を狙っているとの見方もある。海外での武力行使につながる領域に踏み込めば、「専守防衛」が揺らぐどころか憲法に反する。

 久間章生防衛庁長官は「専守防衛、軍事大国とはならない、非核三原則、文民統制の確保といった防衛政策の基本は変更しない」と強調している。法案の可決に併せて採択された付帯決議にも文民統制の徹底が盛り込まれた。「約束」が反古(ほご)にされぬよう、しっかりとくぎを刺す参院審議であるべきだ。

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 14:58:14 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 読売 産経 東京 北海道 神戸 中国 沖縄タイムス 琉球新報

2006年12月01日付 産経新聞主張

防衛省昇格 超党派の合意を評価する

 防衛庁の省昇格関連法案が自民、公明、民主党などの賛成多数で衆院を通過し、参院に送付された。

 民主党は防衛施設庁談合事件の再発防止などを盛り込んだ付帯決議が採択されたことで賛成に回った。

 国の根幹である安全保障政策に関し、党派を超えた合意が形成されたことを高く評価したい。国会での圧倒的支持は、国民の幅広い合意を意味し、日本の抑止力を高める。防衛省にとっても国民の支持は不可欠だ。今国会での早期成立を求めたい。

 省昇格は、防衛庁が昭和29年に発足して以来、53年にわたる課題だ。

 現在の防衛庁は、内閣府の外局でしかなく、主任大臣は内閣府の長である首相が務める。このため、法案提出や不審船に対処する際の海上警備行動などは、内閣府を通じて閣議開催を求める手続きを取らなければならない。省への昇格で、手続きが簡素化され、危機に迅速に対応できる。

 これに加え、国民の安全保障への認識が高まることが大きい。昇格を機会に、国の安全の大切さが議論され、国民が関心を持つ。国防や安全保障の位置づけも明確になる。国の守りをどうするかを国民自らが考えることがなによりも重要なのである。

 一方で防衛庁・自衛隊に求めたいのは、看板を変えるだけの省昇格であってはならないことだ。

 かねて防衛庁は「自衛隊管理庁」と揶揄(やゆ)されてきた。防衛庁内局の背広組は陸海空自衛隊の制服組を統制することに終始してきたきらいがあったからだ。国家安全保障を名実ともに担える組織にしなくてはなるまい。

 猛省を促したいのは不祥事の続発だ。ファイル交換ソフト「ウィニー」による情報流出が問題となり、防衛庁は内部資料の持ち出しなどを禁止する対策を取った。だが、今回、空自那覇基地の2等空尉の私物パソコンから、イラクに展開する米軍の輸送情報などが同様な形で流出した。情報管理のお粗末さにはあきれるしかない。

 これ以外にも海自の機関砲誤射、陸自の小銃紛失など枚挙にいとまがない。モラルの低下がないだろうか。

 自浄努力を尽くし、信頼を取り戻すことの重みを隊員一人ひとりがかみしめ、国民の期待に応えてほしい。

(2006/12/01 05:08)

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 14:56:49 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 読売 産経 東京 北海道 神戸 中国 沖縄タイムス 琉球新報

2006年12月01日付 読売新聞社説

防衛省法案 『対立』するのがおかしかった

 防衛庁の省昇格関連法案が、衆院を通過した。今国会中に成立し、来年1月には防衛省に移行する。

 野党第一党の民主党も含め、衆院の9割以上の圧倒的な多数が賛成した。国の安全保障にかかわる重要法案で、これまで対立してきたのがおかしな話だった。

 防衛庁の省昇格法案は、池田内閣時代の1964年に閣議決定されたことがある。それが実現せず、自衛隊発足以来、「庁」にとどまったのは、冷戦時代の保革対決の下で、旧社会党など左派勢力が、「非武装中立」を掲げ、自衛隊違憲を主張するなど、国民の安全を守る防衛を不当に軽視してきたからだ。

 だが、冷戦終焉(しゅうえん)後、日本の安全保障環境は様変わりした。自衛隊は、国際平和活動に参加し、海外で多くの実績を積み重ねている。

 現実を直視し、防衛庁と自衛隊を時代に合う組織と位置づけるべきだとする立場に立てば、「省」とするのは当然だ。民主党が法案に賛成したのは、責任政党としての自覚によるものだろう。

 その民主党もなお課題を抱えている。旧社会党系議員が本会議を欠席し、リーダー格の横路孝弘副議長は反対した。

 省昇格と並ぶ法案の柱である「国際平和協力活動の本来任務化」について民主党が「イラクでの自衛隊の活動は、『本来任務』とせず、『付随的任務』として行う」よう求めたのも、こうした議員グループへの配慮があったのだろう。

 だが、自衛隊の国際平和協力活動を土木工事の受託や運動競技会への協力と同じ「付随的な任務」としたままで、今後、ますます重要になる国際社会の平和への責任を果たせるはずがない。

 日本の安全保障をめぐっては北朝鮮の核武装への対応や、沖縄の米普天間飛行場の移設問題をはじめとする在日米軍再編など難題が山積している。民主党も建設的な議論を提起する責任を負う。

 省昇格によって、「防衛省」と自衛隊の責任はますます重くなる。それに疑念を抱かせる事態が生じているのは、どうしたことか。

 省昇格関連法案の衆院通過の日の朝、航空自衛隊那覇基地の警備訓練に関するデータが、隊員の私物パソコンからネット上に流出したことが明らかになった。今年2月には、護衛艦の秘密情報を含む情報の流出が発覚し、再発防止策を講じたばかりである。

 「防衛省」と自衛隊自身が、情報管理をはじめ、国民や同盟国の揺るぎない信頼を得る体制の構築に一層、努めなければならない。

(2006年12月1日1時57分  読売新聞)

 


2006-12-01 金 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-12-01 14:55:13 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 読売 産経 東京 北海道 神戸 中国 沖縄タイムス 琉球新報

2006年12月01日付 毎日新聞社説

防衛省昇格 責任の重さをかみしめよ

 防衛庁を「省」に昇格させる防衛庁設置法改正案と国際平和協力活動などを自衛隊の主任務とする自衛隊法改正案が30日、衆院本会議で可決された。

 参院の審議は残るが、民主党も賛成したため今国会で成立する見通しになった。

 防衛庁は昇格を目指す理由としてこんな趣旨の説明をしている。

 防衛庁は内閣府の外局で、防衛庁長官は防衛政策や高級幹部の人事など、内閣府の長である首相を通じなければ閣議に諮ることができない。昇格によって外相など「省」の大臣と同様に、直接、閣議に諮り、予算要求なども財務相に求めることができる。

 他国の組織は「省」で、「庁」は下に見られることがある。交渉でも、実態は「省」と変わらないと説明しなければならない。昇格は隊員の士気高揚にもつながる。

 また、PKO協力法や周辺事態法などの制定過程では、米国の意向などに配慮する外務省が主導してきた。実際に派遣されるのは自衛隊で、防衛庁は武器使用などをめぐって外務省と対立する場面もあった。政策官庁として、国内調整の上でも外務省と同格になりたいという思いもあったようだ。

 しかし「庁」であった重い理由を忘れてはならない。防衛政策は防衛庁長官と首相という二重のチェックを受けてきた。戦前、軍部の独走を許した教訓から、戦後の平和憲法を踏まえて、厳格にシビリアンコントロールを担保しようとする精神だ。

 そこには、外国に対する平和国家としてのメッセージもあった。

 昇格は、国民の自衛隊に対するアレルギーが薄れ、理解が進んだこともあっただろう。野党第1党も賛成して可決されたことは、その表れだとも言える。

 北朝鮮の核実験など安全保障の重要性も増している。国際社会からの自衛隊の活動に対する要請も増え、その評価も高まっている時だけに、私たちも省昇格は時代の流れだと考える。

 一方、自衛隊の主任務では自衛隊法3条第1項の「わが国の防衛」に、2項として周辺事態やPKO、テロ対策特別措置法などの海外活動も加えられた。それらは今まで同法の雑則で定められ、国防の余裕のある時に実施される「余技」という位置付けだった。

 久間章生防衛庁長官は、さっそく国会審議で、海外での事態に即応できる部隊や教育組織の必要性に触れた。

 自民党内には、これを機に海外派遣の恒久法を求める声もある。案件ごとによる特別措置法制定は時間がかかり、国際平和協力を大義にすぐに部隊を派遣できる仕組みを作るというものだ。

 だが派遣先によって状況は違い、一くくりにするのは難しい。今回の法改正と恒久法の議論は全く別ものだと確認しておきたい。

 省昇格には国民の信頼が不可欠で、防衛庁には一層の責任が求められる。談合事件や情報漏れなど不祥事が続くが、国民の厳しい目が光ることを自覚し、再発防止に万全を期してほしい。

毎日新聞 2006年12月1日 0時24分

 


2006-11-30 木 「社説--比べて読めば面白い」 防衛省昇格法案

2006-11-30 18:05:39 | 「保存している記事」から

朝日 毎日 読売 産経 東京 北海道 神戸 中国 沖縄タイムス 琉球新報

2006年12月01日付 神戸新聞社説

防衛「省」法案/「専守」は揺るがないのか

 防衛庁を「省」に昇格させる法案が、きょうにも衆議院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。

 防衛「省」になったら、何がどう変わるのか。

 防衛庁は内閣府の外局であるため、内閣府の主任大臣である首相を通じなければ、防衛に関する法案、人事を閣議にかけることができないし、財務相に予算要求することもできない。昇格にすることで、防衛庁長官は防衛大臣になり、安全保障や危機管理にスピーディーに取り組める。これが政府・与党の主張だ。

 「省」への昇格は、防衛庁発足以来の悲願でもある。庁だと、国の組織の中で一段低い印象があるし、外国の付き合いでも肩身が狭い。「普通の国の軍隊」としての位置づけをして、士気を高めたい。そういう狙いも込められている。

 それだけのことなら、目くじらを立てるほどのことでもない、と考える人もいるだろう。しかし、この法案は単に手続きのスピードアップや名称変更を求めているものではない。

 第一は、これまで自衛隊法の雑則で「付随任務」としてきた国連平和維持活動(PKO)、周辺事態法に基づく後方支援、国際緊急救助活動などを、「本来任務」に格上げする自衛隊法の改正案とセットになっている点だ。

 自衛隊の海外活動は、本来任務の「専守防衛」に支障が生じない範囲で認めてきたが、格上げによって「随時派遣」が可能になる恒久法に弾みがつく可能性がある。活動の拡大や武器使用基準の緩和も視野に入ってくるだろう。

 自民党は、昨年発表した憲法改正草案で自衛「軍」の保持を打ち出し、「国際社会の平和および安全の確保」のために、海外での武力行使に道を開いている。さらに、在日米軍再編は、日米の軍事一体化が加速する内容になっている。この法案が、そうした動きの露払いになるのではないか、という心配がつきまとう。

 第二に、なぜ半世紀もの間、「庁」だったか、という点だ。自衛隊は既に世界有数の装備を持つ軍事組織だが、「専守防衛」を掲げ、軍事を前面に押し出さない自制を働かせてきた。だからこそ、国民も認め、国際社会の信頼も得てきた。名は体を表していた、というべきだろう。

 防衛政策の基本の変更につながらないのか。最も大事な点で議論が深まったとは思えない。参院で仕切り直し、与野党とも正面から向かい合わなければならない。

 


2006-11-26 日 今日の琉球新報から

2006-11-26 06:56:17 | 「保存している記事」から

2006年11月26日(日曜日)付 【琉球新報社説】

「核」通過容認・あくまで「三原則」堅持だ

 またしても非核三原則を否定するような発言である。今度は安全保障政策の要である防衛庁の最高責任者の口から飛び出した。

 しかもテレビ番組や遊説先の講演会ではなく、国会が舞台だ。内閣や自民党の要職にある政治家らが、「核」容認としか受け取れない発言をなぜこうも繰り返すのか。非核三原則をないがしろにするものだ。

 久間章生防衛庁長官は24日の衆院安全保障委員会で、核搭載艦艇の領海内通過について「緊急事態の場合はやむを得ない」と述べ、緊急時には例外的に容認する考えを示した。

 長官は、自然災害や海底火山の爆発時などを引き合いにし、事前協議の対象についても言及。「すぐ逃げなければいけない時に、事前協議をするかしないかは、緊急事態の場合はやむを得ない。その後に、実はこういう事情だったから事前協議ができなかったという報告が日米間だからきちんとあると思う」と述べた。

 日本が他国の攻撃を防ぐためには、米軍のプレゼンス(存在)による方法しかない。米軍は日本の領海近くで絶えずアンテナをめぐらせている。「核の傘」に頼っている以上、核搭載艦艇でも緊急時なら仕方ない。

 長官はこんなふうに考えているのではないか。その認識は、中川昭一自民党政調会長らの先の核論議にも通底していよう。

 しかし国是は、核の持ち込みを明確に拒絶している。過去の国会答弁でも政府は「核の持ち込みは寄港であろうが、領海通過であろうが事前協議の対象となる」としている。

 事前協議では、領海通過は無条件に認めないのが政策だ。久間長官には三原則の重みをかみしめてもらいたい。

 政治家の不要な発言は、アジア諸国をはじめ世界に誤ったメッセージを発することになる。

 それよりも核の脅威が現実化しつつあるいまこそ、核拡散防止に向けた日本の役割は強まっていることを再認識すべきだ。三原則を空文化させてはならない。

(11/26 11:05)