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200610/06 1198号 (転送紹介歓迎)
[JCJふらっしゅ]
世界の平和にかかわる最新ニュース、マスメディアのニュースの検証など、市民とジ
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□■自民党安倍政権誕生 世論調査にみるその「人気」の実像(5)
9月26日の首相指名を前に、ロイター通信は、全国の個人投資家に安倍新政権に
対する見方を訊いている。
調査は、9月16日から20日までに、ロイターが個人投資家向け金融専門サイト
「マルテックス・インベスター」の会員(約15万人)を対象に実施(有効回答数
2032人、回答者は9割が男性、年齢層は40歳代から60歳代が70%を占めた)。
それによると株式市場に「プラス」とする回答が64%、「マイナス」が36%だ
った。
プラスと回答した理由は、「小泉内閣の構造改革を継承する」との予想や、「外国
人投資家に小泉氏の後継者として好感されそうだ」との見方が多かった。マイナス要
因としては、同氏の経済政策のあいまいさや中国・韓国に対する外交姿勢を懸念する
声があった。
このプラス要素は回答者のご祝儀ないしは、関連筋のプロパガンダに追随したもの
でしかなかった。その結果は、即座に出た。塩崎恭久官房長官は9月27日の株高を
受けて、「(安倍内閣で)改革が進むと評価したのではないか」と口にしたが、あち
こちで笑いものになった。
新内閣への期待で株価が上がるでのあれば、新首相誕生の26日からというのが当
然で、27、28日の平均株価の上昇は「NY株高を好感しただけ」と、ゲンダイは
「安倍内閣とはまるで無関係」(外資系証券)と冷ややかにみていることを紹介して
いる(→ゲンダイネット)。
またこのロイター通信の調査で、安倍新政権の支持・不支持を訊ねたところ、「支
持する」36%、「支持しない」38%だった。また、来年夏の参院選についての見
通しについての質問では、与党が過半数を「維持できる」と予想する回答は29%、
与党は過半数を「維持できない」とする回答は42%にのぼった。「分からない」は
29%だった。
安倍政権がいつまで続くかという問いには、44%が「2007年中」と回答して
いる。理由としては「参院選で自公が過半数割れして引責辞任」を選んだ回答者が
773人と最も多かった。
政策については、安倍氏が掲げた「美しい国、日本」というスローガンについて
「支持する」が56%を占めたが、これはいかようにも転がりうる中身のない言葉な
ので、ほとんど否定的な回答をするのもはばかれるので適当に受け流したとうけとめ
ることもできよう。
また安倍氏の首相としての資質を問う質問に対しては、構造改革への取り組みの姿
勢について「期待できる」51%、「期待できない」49%と拮抗。首相としてのリ
ーダーシップについては「期待できる」38%、「期待できない」62%だった。外
交手腕についても「期待できる」38%、「期待できない」62%だった。
各論に関しては、とるべき財政再建の手法については「歳出カットを優先し、増税
は避けるべき」と答えた人が77%、「増税はやむを得ない」23%を大きく凌駕し
た。「アジア外交」については、「対立は避けるべき」66%、「譲歩すべきではな
い」は34%だった。また、靖国神社への参拝については「参拝すべきでない」71
%、「参拝すべき」29%だった。
来夏の参院選で何を争点とするべきかについては、「社会保障」54%、「消費税
引き上げ」39%、「アジア外交」37%、「地方の再生」36%などだった。
調査対象の「マルテックス・インベスター」(URL:http://www.investor.reuters.co.jp)は、
ロイターの個人向け金融専門サイトで、会員は年収500─799万円が32%、
1千万円以上が26%を占める。金融資産残高(除く不動産)は500万円未満が
44%、3000万円以上は12%という構成だという(ちなみにここの会員が株式
投資をする頻度は、1カ月に1回が32%と最も多く、1週間に1回が22%となっ
ている)。
この調査は、首相指名以前に行われたものであるが、これまでに紹介してきたその
後の各種サイトのアンケート調査と非常に似通った結果を示していた。安倍政権の誕
生に対して「否定的」な傾向をはっきりと示していたので、私としては強く印象に残
っていたが、新政権誕生をうけての各メディアの世論調査の結果は、政権支持が6割
―7割と、あまりに食い違ったものであった。
回答者が個人投資家たちであるため、安倍氏の経済政策や外交姿勢を懸念する声の
なか、厳しい内容となったと想像することもできるが、経済専門誌である日本経済新
聞の調査では、政権支持が71%という非常に高い数値として公表された。読売新聞
の結果も70%強だった。
自民党の総裁選で「7割」支持は固いとしてい陣営の思惑は見事に崩れたが、その
後の新首相誕生で「70%」の数字を実現してみせたことになる。そこにメディア内
部で何らかの力が働いたのではないか―私は即座にそう感じてメディアの世論調査に
ついて見直す必要を感じたわけである。
ロイター個人投資家調査:安倍政権誕生、株式市場にプラスが64%
http://news.goo.ne.jp/news/reuters/keizai/20060922/JAPAN-229386.html?C=S
ゲンダイネット 塩崎官房長官が「笑いもの」になっている
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__2519361/detail
■日経世論調査 支持71%の数字の高さ、新首相の靖国参拝、賛否拮抗の怪
(調査方法)日本経済新聞社は26日から27日に緊急の全国世論調査(電話)を行
った。調査は日経リサーチが全国成人を対象に乱数番号(RDD)方式により電話で
実施。有権者のいる1306世帯から720件の回答を得た。有効回答率は55・1
%だった。男女比率は男性41%、女性59%。女性比率は前回調査より5ポイント
高く、支持率をやや押し上げている。
☆筆者のコメント:調査方法に関する説明は詳細だが、ネット上の記事にはそれがな
かった。女性比率が若干高かった理由は「内閣発足後に緊急に調査したため」とした。
そのせいで「支持率をやや押し上げている」と説明を付した。親切な説明である。回
答数は720件。読売新聞の有効回答は946件、回答率56.9%。朝日新聞の有
効回答は996人、回答率は57%。やはり全国世論調査というわりに、いずれの社
もサンプルの規模が少ない気がしてならない。それでも、マスメディアの世論調査で
は、有効回答数や回答率については知らせるべきである。
内閣支持率・日経世論調査
http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt22/20060927AT3S2702727092006.html
(1)安倍内閣の支持率 71%
=政権発足時としては小泉政権が発足した2001年4月の80%に次ぐ歴代第
2位の高水準を記録した。すべての世代で65%以上だった。男性は68%、女性は
73%。自民支持層では91%に達し、連立を組む公明支持層は76%。民主支持層
でも52%が支持(日本経済新聞の解説、以下同)。
☆筆者のコメント:やはり世論調査の公表のしかたとして、「歴代第2位の高水準を
記録」のように「後光」を付与してものものしく出すことに抵抗を感じる。前に述べ
たとおり、調査員を介した世論調査の場合の回答者の側に生じる「壁」や、あるいは
調査員に与えられた「判断」の余地などを想像すると、この規模の調査で「支持率
71%」=すごい! と印象付ける必要があるかどうか、そこまでの根拠を有するか
どうか、見直すべきではないだろうか。
まして国民投票で選出されたわけでもなく、また自民党の総裁選の延長で発足した内
閣であり、判断材料が少なすぎる。にもかかわらず「支持・不支持」を問うわけであ
り、そこから出てきた数値の高さを、持ち上げて報じることの意味、作用、影響につ
いて考えるべきではないだろうか。新聞社が自社の世論調査に権威をもたせようとす
る姿勢はわからないわけではないが、日経が「支持率をやや押し上げている」と断わ
りをいれたように、もっと世論調査そのものの「あいまいさ」を伝えたほうが、信頼
度は高まるのではないだろうか。
(2)支持理由
「人柄が信頼できる」 51%
「清潔である」 24%
「自民党の内閣だから」19%
(3)安倍内閣に優先して処理してほしい政策課題
社会保障 58%
教育改革 29%
景気対策 26%
財政再建 21%
雇用対策 21%
治安・犯罪対策 21%
外交・安全保障 20%
税制改革 19%
環境問題 16%
地方経済活性化 15%
いわゆる三位一体改革 13%
政治改革 9%
憲法問題 8%
行革・規制緩和 7%
=首相の持論である外交・安全保障や憲法問題は必ずしも関心が高いとはいえず、
優先順位を巡り意識のズレが生じている(同)。
☆筆者のコメント:上記の解説にもあるとおり、安倍氏と有権者の望む政策課題との
深刻なミスマッチをどのように理解すべきなのか。支持率と政策課題への期待の乖離
をどのように埋めるのか、日経だけでなく、新聞の世論調査全般について、読者にわ
かりやすく説明するか、それに代わる手法を開発するか。非常に重要な問題になって
いると思う。矛盾を矛盾のまま出すのはよいが、そこに問題が潜んでいないかどうか
チェックするのは当然のことである。多様な世論調査が可能となっている現在、ちょ
うちんやご祝儀の要素が無責任に放置され、結果に内包された世論調査の存在価値は、
今後厳しく問われる傾向が強まるものと思われる。
(4)首相の靖国参拝
賛成 40%
反対 41%
☆筆者のコメント:首相の靖国参拝について「反対」が「賛成」を1ポイントしか上
回っていない。ここにサンプルの問題ないしは調査員の調査方法などの課題が存在し
ていると感じる人は多いのではないだろうか。小泉首相の参拝はよいが、次の首相は
の参拝はだめという傾向が出ていた中での調査であり、まして同紙は昭和天皇メモを
スクープした新聞である。同紙の調査に同紙の読者が比較的積極的に応じたはずとい
うことを考え合わせると、あまりすっきりしない。新聞の行う世論調査で、日頃とっ
ている新聞を訊ねようとすると、世論調査ではなく勧誘の一環と勘違いされる可能性
もあって難しいかも知れないが、日頃読んでいる新聞と回答の関係なども知りたいと
ころではある。
冒頭に挙げた調査結果では「参拝すべきでない」71%、「参拝すべき」29%だ
ったことを考えると、この賛成40%、反対41%という数字はいったどんな背景の
違い、回答者の違いから出てくるのか目を疑う内容であった。世論調査の数値とは、
これほどまでに流動的で、あいまいなものである。それを既存の新聞メディアが、「
本紙が責任と自信をもって公表いたします」と新聞のブランド価値を基盤に、信用を
付与してみせる理由がどこにあるのだろうか。
また、メディアが打ち揃って安倍新首相には60%-70%の「支持」があるのだ
と世間に刷り込む結果となったことを、私たちはどう考えたらよいのだろうか。メデ
ィアが紙面や番組で伝えてくる「世間」の状況と、市民が実生活で感じている「世間」
との見事なまでの乖離。それはいったいなぜ、どのような理由で生まれているのか。
私たちはいま、そのことと真剣に取り組まねばならない状況に直面しているのである。