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2007年01月08日(月曜日)付
高成田 享 (タカナリタ・トオル) 経済部記者、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て、論説委員。
07年はどんな年?
のんびりとした正月を過ごしつつ、07年がどんな年になるのか考えてみた。といっても占師になろうというわけではない。いろいろ起きるであろう事象をみるときに、こういう視座で考えてみたいという心構えを記してみようということだ。
「視座」などと言うと、おおげさだが、冷戦後の米国の「一極支配」が政治的にも経済的にも崩れるなかで、新しい「レジーム」をさぐる動きが出てくると思う。それをしっかりと見極めるというのが視座ということになる。昨年来、NYタイムズのコラムニストであるトーマス・フリードマンがたびたび「ポスト冷戦後」という言葉を使っているが、まさに、このことだと思う。
その視座からすると、まず気になるのがイラク戦争の失敗に米国がどう落とし前をつけるか、それによって世界はどう変化するか、ということだ。
ブッシュ政権は、イラクへの増派を考えている。現在の14万の兵力のうえに数万規模の増員をすれば、それなりに効果をあげるかもしれない。しかし、その狙いはイラクの制圧(不可能な指令!)ではなく、一定の安定をつくったうえでの撤退、あるいはイラクの安定のために最大の努力をしたうえでの撤退、つまり「名誉ある撤退」のためのステップだ。
08年の大統領選が本格化する来春以降は、イラク問題が大きな争点にならないように、ブッシュ政権も実質的な撤退に踏み切るだろう。問題は、厭戦気分が強まる中で、米国がどこまで世界にコミットメントするかということだ。
米国の引きこもり状態になれば、中東の動乱は拡大し、イランや北朝鮮がますます挑発行為を繰り返し、南米の「反米政権」や「左派政権」は勢いづき、そして、混乱する世界秩序の調整役として、中国やロシアがさらに台頭してくるだろう。
エネルギー大国のロシアは世界が波乱含みのほうが経済的な利益になるが、「和平台頭」の中国は世界が安定したほうが経済的な利益につながる。そう考えると、米国が後退したあとの世界のシナリオ作りに中国がいっそうかかわってくるのは間違いがない。そこには覇権国家の本性も出てくるだろうから、アジアだけを見ても、「パクス・チャイナ」とはならないだろう。
まず米中の文脈で何が起きているかをとらえ、それから日本やロシアなどの諸国を支脈として見る。そういう癖をつけて、北朝鮮問題などを考えたほうがいいのではないか。
米国の外交政策の次に気になるのはドルの動きだ。米国の政治的な引きこもりは、経済的にはドルの下落として表現されるだろう。いつそれが本格化するかは、市場に聞くしかないが、ドルの下落を予測して、それに対抗する手立てをする動きは確実に強まる。
具体的には、ドルにほぼ連動した通貨体制をとる中国、香港などと、変動相場制で独自の動きをする日本や韓国などとの調整の必要性がさらに強まる。そうなると、「アジア共通通貨」(ACU)を模索する動きも強まるだろう。もちろん、政治体制も経済力も異なる国々が多いアジアで、すぐにACUが実現するはずはないが、ドルの衰退という歴史的な流れがはっきりすれば、政治体制を棚上げしたうえで、ACUの導入を考えるしかなくなるだろう。
また、アジア各国が金融危機に備えた資金を拠出するアジア通貨基金(AMF)などの動きも本格化するだろうし、そうなると、IMF(国際通貨基金)におけるSDRのように、ACUが使われる可能性もある。「ドルの下落への影響を最小限にとどめる」という米国には言えない狙いを秘めながら、ACUやらAMFやらの動きが出てくるだろう。
日米の資本市場でのM&Aの動き、自動車やエレクトロニクスなど産業界での動きなども、「内向きの米国」を背景にして、広まっていくかもしれない。
政治と経済の両輪で、米国あるいはドルの衰退という歴史的な流れが強まること。それが07年以降に着目しなければならない動きであり、それを見落とさないようにすることが私の課題ということになる。