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2007年01月21日(日曜日)付 京都新聞社説
教育再生報告 現場無視では混乱招く
政府の教育再生会議が第一次報告案をまとめた。近く安倍晋三首相に提出する。
短期間にあれもこれも盛り込んだ、言いっぱなしの提言が並ぶ。議論をもっと詰め、制度や対策の整合性を高めないと、現場が困るだけだ。
野依良治・理化学研究所理事長を座長とする同会議では文部科学省出身者中心の事務局が先月、今回報告の骨子案を示した。だが会議の議論が反映されていないとの反発が強く了承されなかった。
今回は満足感を示す委員が多い。言いたいことが盛り込まれたようだ。だが逆に言えば、多岐にわたる議論が生煮えのまま提示された印象が強い。
報告案は四つの緊急対応と七つの提言からなる。緊急対応は▽体罰の範囲見直し▽教員免許更新制導入▽地方教育委員会制度の抜本改革▽学習指導要領改定-で速やかな法改正などを訴える。
緊急対応の基となる七つの提言は、最初の「『ゆとり教育』を見直し、学力を向上する」提言だけでも、授業時間の10%増や学校選択性の導入など、六項目を含む…といった具合だ。「体罰」見直しや授業時間増でも明らかなように、慎重な検討が欠かせないことばかりだ。
今回報告の背景には、教育法案を通常国会の目玉にし、参院選対策にも使いたい安倍政権の意向が透ける。実際、年明け以来、官邸が積極的に会議に加わり、議論をリードしたという。
一方で教育改革の実務は、文科省が中教審などの諮問を受けながら推進している。今回の緊急提言なども実際の法案化作業は文科省担当となる。だが中教審の議論と再生会議の議論は、重ならない点も多そうだ。
自らも再生会議に加わる伊吹文明文科相の歯切れが悪いのも当然だろう。小規模市町村教委の統廃合を求める再生会議報告案に「中教審にもう一度お尋ねするのが筋」と慎重なのもうなずける。
日本の教育や学校が、さまざまな問題を抱えていることは確かだ。いじめ問題などは、早急に取り組まねばならない。一方、ゆとり教育の見直しや授業時間の10%増などは、学校の役割や、家庭や社会の現状に対するしっかりした調査と分析の上でなされるべき問題だ。
授業時間を一割増やせ、と言うのは簡単かもしれないが、学力向上と単純に結びつけるのは乱暴だし、週五日制や総合的学習の時間の問題も関連する。
ゆとり教育の採用は、生きる力をはぐくむ狙いがあった。見直すのなら、その点の対応策も当然必要だ。土曜休みがもたらした効果と欠点の分析も要る。公教育の公平さが教育バウチャー制度などで守られるかも大いに疑問だ。
こうした点が、再生会議できちんと論議され意見集約されたとは思えない。それなのに安倍政権は、通常国会に関連法案の提出を急いでいる。
拙速な改変は揺れ動く教育行政に振り回されている現場の混乱を増すだけだ。
[京都新聞 2007年01月21日掲載]