言葉のない階段絵本ができるまで2
ストーリーのある絵を描き続けていく工程でストーリーの中の回想シーンとして階段の絵が生まれた。
この世ともう一つの世界を行ったり来たりするようかのように静かにゆっくりと階段の世界が複雑な物語の世界観をまとめはじめていた。
まるで現実社会に生きる中で心のどこかに持ついくつかの世界があることを絵を通して改めて知る感じになった。
絵本の絵と言葉を仕上げる日が近づき、階段の絵が気になるようになっていた。
導かれるように物語からこの階段のみの絵本に方向転換したいと思った。
入稿日数日前に編集者さんに階段だけの絵本にしたいと伝えた。この思いは取り憑かれたような強い気持ちに支配されていた。
編集者さんに納得して頂き、出版日を延ばしてもらうことになった。
それから階段と少女の絵を無心に描き続けた。
階段の世界に入る感覚に近づくために新たな体感を見つけながら描き続けた。
原高史という小さな存在での制作には限界があり、自己をなるべく捨て、ただ何かを受け入れる存在になることで
何かを見つけ出す存在になりたいと思った。
この階段の作品は今までにない自分のものではない離れたところにある感覚の絵になっていった。
同時期にギャラリーでの壁画制作中でもあった。全く違う感覚で作品に取り組むための切り替えが必要だった。
感覚的には壁画制作は向こうから引っ張ってくるための魂の戦い、階段制作は静かに入って行き、そっと引き寄せるような感覚、
どちらもタイミングを掴めるかどうかが大切だった。
考えを置いて感覚の進む方向に進み、自然に高まる集中からその世界に入り込むためのタイミングを作り出し掴み取る。
雲のように変化する流れの中に潜む`何か`は時々現れてくる。
掴むタイミングを逃してしまえば同じ形では決して現れなくなり、流れていってしまう
世の中は単純ではなく、いろんな感情や与えられ持った内面も含め、世と混ざり合わさることでぐちゃぐちゃになっている。
本来の厳しく残酷な世界で生きるためにルールや共存バランス、なるべくわかりやすくシンプルにしなければいけないという
形式や枠の必要性を人はいつも持たされるようになった。
世のズレを知り、感じ持った美学を持ちながら社会でバランスを保ちながら生きていかなければならない。
身につけられた考えと感覚を少しずつ削っていくことは大変なことだが、絵を描くこと今までとは違った`どこか気持ちいい`
という新たな感覚を実感することができてきた。
*言葉のない階段絵本ができるまで3に続く