Poem&Poem

詩作品

見失う

2016年02月28日 15時59分20秒 | My poem




星を捜していたのに
小雪が音もなく落ちてくる
夜の無音の落下に立ち止まり
両の掌をささげる
重さのない冬の結晶は
掌の微熱に溶けてゆく

その掌から
幻の凍蝶が天にのぼる
天の蝶は懐かしい人の声を
微かに微かに届けてくる

聞き取れなかった父母の最後の言葉を聞かせて下さい

一九四六年九月
葫芦島からの引揚船のなかで
死にかけた幼子が
母の薄い乳を吸い尽くし
父の温もりに抱かれて
水葬から辛うじて免れ
ここまで生きてきました

そうして 五十数年後には
父母の死の傍らに
健やかな私が立ち会うことができました。

私の死に立ち会う者は誰か?
と問えば
饒舌な舌を持つ
大きな黒い影が
立ち塞がるだけだ

天の蝶よ 父よ 母よ
この風景をふたたび見てはいけません

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