K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

デイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』

2017年03月01日 | 映画
こんばんは。アカデミー賞の授賞式が終わりましたね。まさかの『ラ・ラ・ランド』が作品賞を逃すという波乱の結果に終わりました。
前哨戦は『ムーンライト』と賞を二分していましたが、アカデミー賞では『ムーンライト』に軍配が上がったようです。早く日本でも公開されてほしいですね〜。

ということで、今回はその話題となっているデイミアン・チャゼル監督『ラ・ラ・ランド』の鑑賞録です。
去年から待望にしていたアカデミー賞最多ノミネート作品。前評判に違わぬクオリティで大満足!




<Story>
夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。彼の名はセブ(セバスチャン)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功したことから、二人の心はすれ違いはじめる……。(「映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト」より)


夢追い人のカップルが道を違えて夢を掴む話と考えば若干ポジティブではありますが、必ずしも愛する者と結ばれるわけではないというエンドは切なすぎる(と感じるのは人間として未熟だからかも?笑)結末です。夢を捨てて愛を取るのか、愛を捨てて夢を取るのか、本作はそうした残酷な問いを投げかけています。
長回しのワンカット(特に冒頭!)やマジックアワーの使い方(以下に貼ります)などの撮り方も、視線の交錯(ラスト!)や座ったキスシーン(天文台でのファーストキスと最後の空想でのキス!)の構図などの演出もすべて含めていい作品でした。





まずは冒頭、高速道路でいきなり始まる壮大なワンカットのミュージカルは、世界中のあらゆる人が夢追い人であること(本作のストーリーの普遍性)を暗示させます。本筋とは関係のない女性から始まる憎い演出です。
そして、流れるようにミアとセブの物語へ。ここまでワンカット、いきなり度肝を抜かれます。


冒頭のミュージカルのきっかけとなる女性



なんと言っても魅力的なのは登場人物。アカデミー賞主演女優賞を受賞したエマ・ストーンは当然ながら、ライアン・ゴズリングもその魅力的な演技と演奏でノミネートされています。
女優を目指すミア(エマ・ストーン)は、なかなかオーディションに通らず、夢の追い方がわからずに苦悩している女性。
カラフルな衣装を身に纏い、大衆の描かれた壁の前を歩くシーンは、観客に見られる女優としての自分が幻想(=ハリボテ)であることを暗示する印象深い描写です。



そして、ジャズの復興を夢見るセブ(ライアン・ゴズリング)。彼は店で雇われピアニストとして演奏曲を指定されるも、途中でオリジナル作品を披露し解雇されてしまう。生活と夢の両立に行き詰まったピアニストでした。



二人が夢に行き詰まった頃に、ミアとセブの出会いが訪れます。演奏に聞き惚れたミアが、解雇された直後のセブに言い寄るシーン。
予告編では突然のキスシーンになりますが、本編最初のシーンでは、解雇されたセブはミアに肩をぶつけ外へ出て行きます。実は出会いのシーンは初の「すれ違い」のシーンでもあったのです。



そして、再びハリウッドのパーティーで再会した二人は、自然と惹かれ合い恋人同士に。



夢を追うも単身では敗れ続けていた二人が、付き合ってから着実に夢へと歩んでゆく構成はハッピーエンドを予感させますが、その後訪れる様々なすれ違い(セブが望まないバンドの誘いに乗ったり、ミアの独演舞台に間に合わなかったりなど)が二人を引き離してしまいます。

別れてから5年後、最終的に二人とも夢を叶えた(ミアは大女優となり、セブは自身のジャズバーを所有する)ものの、会わない間にミアは知らない男と結ばれ一児の母になっていたのでした。店名のネオンサインをミアが嘗てデザインした"Seb's"として構え、(ミアを待ちつつ?)夢をただ追い続けていたセブにとっては切なすぎるエンドです。
腐りかけていたミアに、脚本の才能を褒めて舞台をやろうと奮い立たせたのがセブであり、田舎に引っ込んでしまったミアを連れ戻したのもセブでした。つまり、セブはミアの夢のためには必要不可欠な存在だったわけです。しかも、すれ違いのひとつである、セブの望まないバンドへの加入は、ミアとの将来を見据えたがゆえでもあり、恋愛未熟者からするとセブへの切ない想いがフツフツと湧き上がります……。

二人の再会は皮肉にも"Seb's"にて。セブは夫を連れたミアに驚くも、声をかけることなく静かに二人の思い出の曲を披露します。
その瞬間に始まるミアの「もうひとつの夢」こそ、最も感動的なシーンです。ミアの求めていたものは「女優になること」であると同時に、「セブとの幸せな未来」でもありました。その「もうひとつの夢」がカラフルな画面とともに繰り広げられるのです。
空想の中では、出会いのシーンで肩をぶつけられずにキスをされ、望まないバンドの誘いもスマートに断り、自身の初独演舞台にもスタンディングオベーションで応えてくれる。そして、細かいけれど「意味のない窓」に意味を与えてくれる存在、それがミアにとっての理想の(あらゆる「すれ違い」のなかった)セブだったのです。



お互いに独り身だった際には交錯しなかった瞳が、ミアが人妻となってしまったラストに交錯する瞬間。視線の交錯が関係性の成立だとすれば、ミアとセブの関係性は結ばれないことが是だったのかもしれません。
アプローチは違えど、キャロルに通じる素晴らしい終わり方でした。


ラストシーン、人妻となったミアに静かに笑いかけるセブ


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